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大罪覚醒

71話

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私たちはあれからずっと森の中を走っていた。

「はぁ…はぁ…」

隣には肩で息をしながら走る少女がいる。

「ここまで来たら大丈夫じゃねぇか?」

男がそう言うと少女が言う。

「少し…疲れた…」

私は感知を使いながら、辺りを見回す。

「一応、来て無いみたいだし、少し休憩しようか。」

「賛成…」
「おうさ。」

私は異空間収納から、肉焼きセットを取り出す。

「よいしょっと…」

私は準備をして、異空間収納から2人分のそこそこ大きな骨付き肉を取り出す。

「二人とも食べるでしょ?」

「おおー!アリス様が焼いてくれるとはな!」

ブレイサが嬉しそうに笑う。

「うん…」

ヴァティアは疲れたと言いたげに近くの木にもたれかかって言う。

私は手際よく肉を焼く。

「はい。ブレイサの分」

「おう!サンキューな!」

私が肉を手渡すとブレイサが嬉しそうに受け取る。

「ヴァティアの分には疲れによく効くものも入れたよ。」

「ありがとう…」

ヴァティアも嬉しそうに受け取り、ゆっくりと食べ始める。

「さてと…」

私は2つしか骨付き肉を持ってなかったので、自分の分は我慢して肉焼きセットを片ずける。

「あれ?アリス様は食べねぇのか?」

ブレイサが不思議そうに私の様子を見る。

ヴァティアも途中で食べるのをやめて私を見る。

「私の事は気にしないで。今はあんまりお腹すいてないし…」

「キュウウゥゥゥ…」とタイミングよくお腹が鳴る。

「アリス様、俺の分を食ってくれ。」

「アリス…私の…あげる…」

二人が肉を差し出して言う。

「い、いや、大丈夫!大丈夫だからっ!今のは…ほら、ギャグだよ!」

「グウウゥゥゥゥ…」とお腹が鳴る。

「アリス様、俺たちに気を使ってくれるのはすげぇありがたいけど、そこまではされたくないぞ。」

「アリス…倒れたら…大変…」

二人が圧をかける。

「わ、わかったから!半分こにしよ?ね?」

私はこっそり二人の分は多くなる様に切り分ける。

二人が満足そうに食べ始めるのを見て私も食べる。



「美味かったぜ。」

ブレイサが骨を齧りながら言う。

「ごちそうさま…」

ヴァティアは木の根っこ付近に骨を埋めていた。

「うん。我ながら、上手く出来ていたわね!」

私もそんな事を言いながら片づける。

「んで?これからどうするよ。一先ずはあの宿の所まで戻った方が良いのか?」

ブレイサがやけに真面目な顔をして言う。

「そうね…まずは仲間の皆と合流する事を優先したいし、その方がありがたいかも。」

私が言うといつの間にか顔を猫のように変化させていたヴァティアが「クンクン」と鼻を動かして言う。

「あっち…多分…パリス…居る…」

「じゃあ、案内してくれよ。アリス様もそれで良いだろ?」

「そうね。私からもお願いするわ。」

「うん…こっち…」

ヴァティアはそう言うとかなりの速さで10時の方向に走り出す。

私達もすぐにヴァティアを追いかける。

「そういえばよ。キメラの奴らは追ってきてねぇのか?」

ブレイサがヴァティアに言う。

「わかる限りでは…多分…大丈夫…頭悪そうだったし…」

ヴァティアが淡々とそういう。

「キメラ?キマイラじゃなくて?」


稀にA級モンスターのキマイラの事をキメラと呼ぶ人がいる事をあり、アリスもそれを知っているので、それの事だろうと思っていた。


「いや、あれはどっからどう見ても人間と魔物をくっつけたキメラだったぜ。思い出すだけでも吐き気がする…」

レグレスも属している邪神教団は悪魔であるブレイサにここまで言わせる様なものも作っていたようだ。

ちなみに私は全くキメラの姿を見てないどころか、キメラのキの字も無いくらいだった。

ヴァティアは何も感じてないかのような素振りは見せていたが、ほんの少しだけ嫌そうな雰囲気が出ていた。

「そう…辛い思いをさせてしまったわね…」

「いいんだ。アリス様は悪くねぇしよ。それにあのクソッタレから逃げるのに手一杯だったしな。」

ブレイサがそんな事を言っていると突然ヴァティアが止まる。

「おわっと!?」

危うく、ブレイサが激突しそうになる。

「なにか…来る…」

ヴァティアがそう言うと同時に私は探知を使って辺りを見回す。

「クンクン…この匂いは…」

ヴァティアが鼻を動かしていると…

目の前の茂みから「いってぇ…」と言いながら、見覚えのあるボサボサの銀髪の狼族ウルフェンと思われる人狼が飛んでくる。

「ウルカ?」

「あん?」

ウルカが私の顔を見て目を丸くする。

「お前…アリスじゃねぇか!」

ウルカがそう言うと同時にウルカの飛んできた方向から、私もよく知る二人も来る。

「…!アリスなのじゃ!」

そう言って真っ白な龍の鱗を纏った龍人が飛びついてくる。

「痛い痛い…クレア、力強過ぎだって…」

私がそう言うとクレアは私の胸に顔をくっつけたまま言う。

「うるさいのじゃ!何も言わずに急におらんくなりおって!どれだけ心配したと思うておるのじゃ…全く!」

涙声になりながら、クレアが言うとブレイサが少し申し訳なさそうに頭を掻いて言う。

「あー…それについては、俺がアリス様を連れて行くのに人質を取ってたからな。許してやってくれ。」

ブレイサが言い終わると同時にクレアがもの凄い剣幕で言う。

「お前が犯人じゃな?すぐに焼き殺してやるから、ちょっとこっち来るのじゃ。」

「ストップ!ストーップ!ブレイサにも事情があったんだよ!」

私が慌ててクレアを止めるとそれまでただ見ている側だった透き通る様な水色の龍の鱗を纏った龍人の様な猫族キャルスが落ち着いた声で言う。

「今はアリスも無事だったんだから、まずは話を聞くべき…どうするかはその後よ…」

「むう…それもそうじゃな。」

クレアはそう言うとブレイサから離れる。

「ところでよ…その悪魔っぽいやつと猫人ねこびとは仲間…で良いんだよな?」

ウルカがそう言うとブレイサが自信満々に言う。

「それでいいぜ。今の俺はアリス様の忠実な下僕しもべだからな。」

ヴァティアは小さく頷いて肯定する。

「こっちの私と同じ猫族キャルスのヴァティアは元々私たちのパーティの一員よ。こっちの悪魔は私のお母様の部下で幼い頃にたくさん遊んでくれたブレイサね。」

ヴァティアは特に何も考えてない様な雰囲気を出して空を見ていた。

「そういうわけだから、よろしくな!」

ブレイサはそう言うとウルカに握手を求めて右手を差し出す。

「ああ、よろしくな。」

そう言ってウルカがブレイサの右手に左手で触れた瞬間だった。

「パチーン!」と音を立ててウルカの手に何かが叩きつけられた。

「いってぇ?!」

ウルカが驚いて手を引っ込めるとそこにはイタズラ用の玩具のガムがウルカの薬指を挟んでいた。

「ガッハッハッ!イタズラ大成功だぜ!」

ブレイサが腹を抱えて笑って言うとウルカが当然のように怒って言う。

「テメェ…!ふざけんなよ!」

「まあまあ、落ち着いて…ブレイサも初対面で突然イタズラしないの。」

私が軽く叱るとブレイサは「わりぃわりぃ」と笑って、また同じように右手を出してウルカに握手を求める。

その手を睨むウルカにブレイサが言う。

「安心しな。今度こそちゃんと握手するぜ。」

「はん。どうだか。」

ウルカは警戒しながらも握手に応じる。

「な?言った通りだろ?悪魔は嘘はつかねぇ…ってか、嘘をつけねぇからな!」

「…そうだな。」

どことなく納得がいかない様子でウルカは言う。

「そうだ!今度、屋敷に帰ったら皆で歓迎パーティーしよっか!」

「良いですね!パリスもお手伝いしますよ!」

そんな事を皆で話しながら、魔王都市プレスティースの東門まで戻る。



しばらくするとヴェルドール以外の全員が戻ってくる。

そして、全員の自己紹介が終わった頃、4が楽しげに話しながら戻ってくる。

「ねぇねぇ、ご主人!ヒトがたくさんいるよ!」

「強そうなやつがたくさんいるな!」

「皆…こっち…見てる…です?」

龍人の3人が楽しげに「めんどくさい」を前面に出した少女に話しかける。

「…?ああ、アリス様とその他もろもろですか。」

少女が私の顔を見て一瞬だけ驚いた表情をして言う。

「おい!俺たちの扱い雑過ぎんだろ!」
「初対面でその他もろもろ扱いとはいい度胸だな!」

ウルカとブレイサの二人がさっそく食いついていた。

私はチラッとクレアを見る。

「龍人は私とソルだけで十分じゃろ…十分じゃろ…」

クレアは珍しく頭を抱えて唸っていた。

その隣ではソルが少し驚いた表情でクレアを見ていた。

「改めてですけど、アリスさんがご無事で良かったです。」

パリスが嬉しそうに微笑みながら私の左手を握る。

「アリス…」

リリアはギュッと私の後ろから抱きつく。

そして、私の目の前ではボーッと空を眺めてるヴァティアが居る。

そして、その先にはどことなくアネラーゼっぽい女性が黒いフードの女性と親しげに話していた。

その様子を見ているとピッタリスーツの黒いフードの女性がこちらに歩いてくる。

「アリス様、久しぶりだね!」

女性はフードを脱ぎながら、笑顔で私に手を振る。

「ウェン!?どうして、貴方がここに?!」

私が驚いているとウェンは腹を抱えて楽しそうに笑う。

「アッハハハ!アリス様、豆鉄砲くらったハトみたいな顔してる~」

涙が出るまで笑ったウェンは「はぁ~」と楽しそうにため息をついて、私の耳元まで顔を寄せると言う。

「アリス様、アルフェノーツ現当主のアルガレットが帰ってこいとの事です。」

ウェンは少し後ろに下がると嫌そうに小さく首を振りながら言う。

「今の私はあの家のメイドでは無いから詳しい事はわかんないけど、アリス様が居た時の当主のマルレクレール様が亡くなった後で当主になったのが、その弟のアルガレットみたいよ。」

ウェンが言い終わると同時にアネラーゼっぽい女性がにこやかに微笑んで言う。

「アリスさん、この姿でははじめましてですねぇ。アネラーゼですぅ。」

「なんとなく雰囲気が似てるな~って思ってたんだけど、アネラーゼさんなのね!」

「そうですよぉ!でも、この姿だと喋り方も変わるので気がつかない人も多いんですぅ…」

そんな事を言いながら、アネラーゼが笑っていると…

「よーし!俺とお前どっちが強いか勝負だ!」

「お?良いぜ!俺もソルに鍛えて貰ったからな!」

龍人の男の子とウルカが楽しそうに拳を構える。

めんどくさそうにしてる少女と共にどことなく男の子と似ている顔つきの龍人の少女が1人こちらに歩いてくる。

「イヴ、この人が私の言ってたアリス様よ。」

少女にイヴと呼ばれた龍人の少女がそれを聞いて楽しげに言う。

「アリスお姉さん、初めまして!私はイヴだよ!」

「イヴちゃん、初めまして!ヴェルドールから聞いての通り、私がアリスだよ。」

イヴと私は互いに簡単に自己紹介をして、イヴが私にくっついてる2人とアネラーゼとウェンにも自己紹介する。

「ヴェルドール、前と雰囲気変わったね!なんて言うか、大人っぽくなった感じがする!」

ヴェルドールはほんの少しだけ嬉しそうに微笑んで言う。

「まあ、私も成長してますからね。それに子供ガキのお世話も増えましたし…」

そんな事を言いながら、ウルカと戦っている男の子の方を見る。

「これでどうだ!」

「ぶっ飛ばすぜ!」

2人の右ストレートが互いの顔に直撃する。

「うおっとと…」

「やるじゃねぇか…」

男の子が少しよろけて言うと同時にウルカが「ペッ」と血を吐いて言う。

「お姉ちゃん、かっこいい!」

「フフン!龍人たるもの、これくらいは出来て当然なのじゃ!」

鳥の羽のような羽毛が生えた龍人の少女と龍の鱗を纏ったクレアが楽しげに話していた。



しばらくして、アスティアと一緒にアリスのよく知っている青年が戻ってくると皆も集合する。

「アッリスちゃーん!愛しのお兄様が会いに来ましたよ~!」

そんな事を言いながら、満面の笑みで青年が私に飛びつこうとする。

「何してんだテメェ!」

私が止めるより先にめっちゃキレたリリアに左フックで顔面をぶん殴られて阻止される。

「Oh…顔が無くなったかと思いました…」

青年がそんな事を言いながら、泣いているフリをする。

「のう?アリスよ。お主の兄とやらはあんな間抜けなやつなのか?」

アスティアが引き気味に…と言うか、めちゃくちゃドン引きして言う。

「いえ、私のお兄様はもっとかっこよくてビシッとした人ですので、あれは知らない人ですね。」

私が真顔で言うと青年がわざとらしく大声で言う。

「酷いっ!僕はただアリスちゃんに会えなくてお兄様は寂しかっただけなのにっ!だから…ね?お兄様の胸に飛び込んd…グエッ!」

フィルアールが言い終わる前に再びリリアの左フックがフィルアールの顔面に叩き込まれ、フィルアールは情けない声を出していた。

クレアは何故か嬉しそうに頷いていた。

ヴァティアは普段の眠そうな表情では無くて、ヤバいものを見たと言わんがばかりの表情をしていた。

ちなみにソルは黙々とヴァティアの髪を三つ編みにしていた。

「…と、茶番はこのくらいにしておいて」

フィルアールがリリアに殴られた事による鼻血を垂れ流したまま真面目な顔をして言う。

「アリスちゃんが居なくなってから、フィレスタ王国にかなりの頻度で魔物の襲撃が行われており、回数を重ねる毎に規模も強さも上がってきてて、国王軍もかなり疲弊しており、そろそろ戻らないと危ない事態になっているんです。」

「あれ?残ってるパーティの皆はどうなってるの?」

焦りが顔に出ていたのか、フィルアールが私の頭に右手を乗せながら言う。

「アイフェット姉様もいるおかげで全員無事ですよ。アリスちゃんのパーティは皆さんそれなりに強いですし、連携もバッチリですからね。」

「それなら少し安心したよ…」

「今はフィレスタ王国のみが魔物の襲撃にあっているとは言え、フィレスタ王国もいつ崩壊するかわからない状態になってますし、フィレスタ王国が滅びてしまったら周囲の村や小さな王国も滅ぼされてしまう可能性が高いのは変わりないですね。」

フィルアールは目を閉じて少し辛そうに言う。

「そっか…元々、セガールにも伝えないといけない事があったんだけど、思っていたよりも深刻な被害をうけていそうだね。」

私がそう言うと同時にアスティアが言う。

「ならば、フィレスタに戻るのじゃな!」

「それなら、既に転移魔法の手配をしておりますよぉ」

そう言いながら、アネラーゼは配下の蜘蛛を使って何処かに連絡を取る。
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