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壊れた歯車

???

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「ただいま」

「おかえり」

私が屋敷に帰ってくるとたまたま玄関の近くにいた侍っぽい少女が言う。

「マリアさん、そっちの様子はどうなってます?一応、私のところは大丈夫ですけど…」

「こっちも茉莉さんのところと同じかな…でも、最近、襲撃が多いから嫌になっちゃいそう。」

マリアはとても疲れた様子で言う。

「まあ、仕方ないですよ。国防騎士隊含めた国王軍の方々も被害が大きいですし、私たちの様に力のあるパーティじゃないと歯が立たない所の話じゃないですからね…」

「わかってるよう…でも、あまりにも多過ぎじゃないか!モンスターの襲撃ならよくあるけど、魔物が襲撃してくるなんて、そう有り得た事じゃないって話だったでしょ!」

「そのはずなんですけどね…私もこんなに多いと言う事例は初めてですよ。」

そんな事を二人で話していると…

『緊急事態発生!緊急事態発生!西門付近で大量の魔物の発生が確認されました!至急、援護を頼みます!現在時点での規模は70程度です。迅速な対応をお願いします。』

リリーフィルの波魔法による招集がかかると同時にマリアが立ち上がる。

「茉莉さんはここにいてよ。マリアも行くし、ここの守りも必要だし、茉莉さんも力を回復しないとダメでしょ?」

「そうですね…すみませんが、よろしくお願いしますね。」

私はマリアに軽く強化魔法をかける。

「ありがと!じゃ、行ってくるね!」

マリアはそう言って先程より力強く走って行く。

「ほんとにどうしてしまったのでしょう…」

私はため息をつきながら、3日ぶりにメイドの女性が用意してくれたご飯を食べる。

「茉莉様もお疲れのようですね…私としてはメイド稼業に勤しめる嬉しさはありますが、皆さんのお疲れになられた顔を見てると己の力の無さを悔やんでしまいそうです。」

そう言いながら、メイドの女性の特製ドリンクが置かれる。

「アルさん、ありがとうございます。私もそうですけど、アルさんたちがこうしていてくださるだけでもかなり助かっていますよ。私たちは戦う事しか出来ませんから、こうして癒しの一時を提供していただけるのはほんとに助かるのです。」

私はアルの特製ドリンクを一気に飲み干す。

このアルの特製ドリンクには魔力や体力などの力の回復や疲労軽減などの様々な効果があり、今は無くてはならない必需品となっている。

「茉莉さんにそう言っていただけると肩の荷が少し軽くなったように感じます。ですが、あまりご無理をなされないでくださいね。」

アルはそう言いながらテキパキと片づけを始める。

気がつけば、茉莉は椅子に座ったままで気絶する様に眠っていた。



「ふわぁ…」

茉莉は大きな欠伸をしながら身体を伸ばす。

どのくらい寝たのだろうか…

気がつけば6時間も時間が経っていた。

「はぁ…もうそんな時間ですか…」

私はまだ重い身体を立ち上がらせると後ろに毛布が落ちる。

「アルさん…ありがとうございます。」

私は今は屋敷に居ないアルに感謝しながら、毛布を片づけて、玄関まで行くと誰かが帰ってきた瞬間だった。

「フィリアさん、おかえりなさい。」

「ただいま…って、アンタ凄いクマ出来てるわよ?!」

フィリアは驚いた様に目を丸くさせて言う。

「そうなんですか?6時間も寝たんですけど…」

私がそう言うとフィリアは「いやいや」と手を顔の前で振りながら言う。

「アンタは頑張りすぎなのよ。この間も5日くらいずっと起きてたじゃない!アンタはもうちょっと自分を労るべきだわ。」

「確かにフィリアさんの言う通りなのかもしれません。ですが、私が居なければ戦力は落ちますし、何より北門に回れるのが私しか居ませんからね。アリスさんたちが帰ってくるまでは私に休んでる暇など無いんですよ。」

「…それもそうね。今はアンタくらいしかまともにアイツらとやりあえるのはいないわね。」

「はぁ…」とフィリアは大きなため息をつく。

「私としてはアンタにはもっと休んでもらいたいけど、アンタしか頼れる人が居ないし、頑張んなさいよ。」

「はい。頑張ってきますね!」

私は小さく手を振るフィリアに大きく手を振りながら、北門に向かう。

「急ぎませんと…」

私が北門に着くと一人の兵士が私の顔を見て言う。

「わわっ!茉莉さん!凄い顔になってますけど、大丈夫ですか?!」

「大丈夫ですよ。それよりも6時間以上も持ち場を離れてごめんなさいね。」

「そんなごめんなさいだなんてとんでもない!茉莉さんのおかげで国内への被害が食い止められていると言っても過言ではありませんし、感謝こそすれど責めることは出来ませんよ。」

兵士がそう言っていると一人の冒険者らしき女性が兵士に何かを耳打ちしていた。

「わかりました。では、メイヴィスさんは引き続き持ち場の警戒をよろしくお願いします。」

私は北門を出て自分の持ち場に行く。

「茉莉さん、凄い顔ですけど大丈夫ですか?」

そう言って白い服を着た腰あたりまでの長く青い髪の女性がその綺麗な青い瞳をうるませながら言う。

「ルフェーネさんの方こそ大丈夫ですか?凄くおつかれのようですけど…」

「い、いえ、私は大丈夫です。私なんて茉莉さんに比べれば何もしてないも同然ですし、まだまだ働けますよ!」

ルフェーネはそう言いながら元気よく両手を振る。

「あ、茉莉さん、帰ってきてたのね!」

そう言って魔力で浮かべた水の中に黄色っぽい鱗に覆われた魚の尾びれのような下半身の赤く短い髪の紫の瞳の女性がやってくる。

「ミェイさん、ただいまです。調子はどうですか?」

「ミェイの方は大丈夫だよ。とは言っても、ミェイは海歌族セイレーンだから、水が無いと動けないし、定期的に水を補給しないといけないけど…」

ミェイがそう言うと同時にミェイのパーティの深海を思わせるような暗い青の長い髪の明るい黄色い目の海歌族がミェイに言う。

「ミェイ、A級モンスターの赤いドラウンが現れたんだけど、小瓶とか無い?」


A級モンスターに分類されるドラウンはその体色によって扱う属性が変わると言う不思議なトカゲ型のモンスターなのだ。

時折、記録にある如何なる属性とも違う属性を持つ個体も現れる為、それなりには危険な相手なのだ。


「あいにくだけど、予備の小瓶が無いわねぇ…魔力増強剤ならあるんだけど…」

「ミェイさん、これを使ってください。」

私が魔力を込めた小さな玉を渡すとミェイは驚いた様に目を見開きながら受け取る。

「悪いね。今度何かで埋め合わせをさせておくれ。」

「いえいえ、困った時はお互い様が冒険者でしょう?」

そんな事を茉莉は言うが、目に見えて消耗しているのが分かる。

「茉莉さん、貴方のおかげで私たちは戦えています。あまりご無理はなされないようお願いします。では…」

ミェイから玉を受け取った海歌族はぶっきらぼうにそう言うと持ち場へと戻って行く。

「ミェルも素直じゃないなぁ…素直に心配ですって言えばいいのに…」

そんな事を言いながら、ミェイは魔法で大気中の水を集めて、自分の水に足していく。

「うっし!十分サボったし、ミェイも頑張るかね。」

ミェイはそう言うと水の中の尾びれを動かしながら移動して持ち場に向かう。

「さてと…見回りでもしときますか…」

私は森の中へと歩みを進める。

「アリスさん、早く帰ってきてくださいね…」

そんな言葉を残しながら、茉莉は歩いていくのであった。
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