魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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壊れた歯車

74話

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「遅くなってすみません。」

アリスは扉を開けると7人の王がいる謁見の間に入室して頭を下げる。

「ふむ?私が呼んだのはフィレスタの英雄なのだが…」

とても長い髭の男がアリスを見て呆れたように言う。

「彼女こそが我が国が誇る大英雄のアリスじゃ。こう見て、あのヘブンズゲートですら秒殺する実力者じゃよ。」

ラグレアがそう言ってアリスを紹介すると筋骨隆々の白い髪の男が言う。

「ラグレア、冗談は顔だけにしな!こんなヒョロヒョロでチビの女がヘブンズゲートを倒せるわけがねぇだろ!」

筋骨隆々の男の言葉にこの場にいるパリスとアスティアとラグレア以外の全員が同意する。

パリスは明らかにムカついたと言う目をしていた。

「なら、戦ってみればよいのじゃ。そやつが強い事は我もよく知っておるが、納得出来ぬと言うなら戦って勝ってみせよ。」

アスティアがフォローした事で何人かは「あの魔王に強いと言わせるだと?!」などと言って目を丸くしていた。

筋骨隆々の白い髪と髭の男は納得がいかないと言いたげにアリスに言う。

「ならば、今ここでワシと戦ってみせろ。ワシに勝てたら、お前を認めてやる。」

アリスは少し考える様に顎に手を当てて言う。

「ラグレア王、私が鑑定した限りでは、かなり能力が低いと思うのですが、私が戦ってもよろしいでしょうか?」

「あ~…まあ、良いんじゃないか?脳筋にはちょうどいい躾になるじゃろうて…」

ラグレアは呆れた様子で言う。

「かしこまりました。」

アリスは冷たい目で男を見ながら、右手を前に出してクイクイっと手を動かして挑発して言う。

「どこからでもどうぞ。どこかの王様さん。」

「ならば、望み通りくたばるがよい!」

筋骨隆々の男の拳をアリスが突き出したままの右手で受け止める。

アリスの背後には全く衝撃が発生していなかったが、周囲はかなりの衝撃が資料を吹き飛ばしていた。

「やはり、私の見立て通りですね。いや、それ以下かもしれません。」

「ワシの拳を…こうもあっさりと…」

アリスはそのまま手を離す。

「もうわかったでしょう?私を女だと思って手加減しない方が良いですよ。」

アリスが淡々と感情を感じさせ無い声で言うと筋骨隆々の男が自身の身体能力を強化する。

「後悔しても知らんぞ?」

男が先程よりも勢いよくアリスにパンチを繰り出すが、アリスはそれをまたもや軽々と右手で受け止めてアリスの背後以外の周囲に衝撃が発生する。

「…」

アリスは表情を変えることなく、ただ受け止めた拳を見ていた。

「ワシの…拳が…通じないのか…」

アリスは凍りつくような冷たい目で男を見ながら淡々と言う。

「ラグレア王、彼に反撃をしても良いですか?」

「いいんじゃないか?アリスなら、加減も完璧に出来るじゃろう?」

「えぇ、完璧に…」

アリスはそう言うと軽く筋骨隆々の男の腹を殴る。

「ぐはっ!?」

男の身体が少しだけ後ろに飛んで、情けない姿勢で地面に落ちる。

「このワシが…一撃でやられるなど…」

男が立とうとするのをアリスは冷徹な目で見下しながら言う。

「これ以上戦うのは貴方の身体の為にも王としての威厳の為にも辞めた方がよろしいですよ。まあ、戦う前に名を名乗る事すら出来ない様な最低限の礼儀も持たない者に私が負けるわけが無いですが。」

男は諦めた様子で立ち上がって頭を下げる。

「アリスよ、先程は無礼な態度を取ってすまなかった。ワシは武術国家のアラクゥレ帝国の王、ディエゴ・アラクゥレじゃ。」

ディエゴがそう言うとアリスは即座に気品溢れる態度になり、丁寧に頭を下げて言う。

「こちらこそ無礼な対応をしてしまい、すみませんでした。改めまして、私はアリス・アルフェノーツともうします。こちらの兎族はパリスでございます。」

アリスが頭を上げてパリスを見ると一斉に集まった視線に驚いたパリスは一瞬ビクッと身体を震わせて言う。

「あ、えっと…ぱ、パリスと…も、もうしみゃす…」

パリスは緊張しているのかガッチガチでぎこちない動きで言う。

「あはは!パリスちゃんも可愛いわね!アタシは兎族の国、ラヴィルティア国の王女のルナ・ティエラ・アラヴィス・ラヴィルティアよ。」

パリスと同じ兎族の真っ赤な長い髪の赤い目の女性が楽しそうに笑いながら自己紹介すると各国王が順番に自己紹介を始める。

「こうしてみるとアリスには我ら王族に通じる気品を感じるな。我は魚人族の国、ヴォルスン国の王、ネーティル・ヴォルスンだ。」

長くモサモサの青い髪と長い髭に身体には大きな魚の背びれが着いた筋骨隆々の海魚族シーフィスの男性が自己紹介する。

「アリスと言ったな…私は龍人族の王、ヴォルディア・ヴレイザードじゃ。」

オレンジ色の髪のクレアに似た顔の女性の龍人族が堂々と平らな胸を張って自己紹介する。

「可愛いお二人さん、僕は妖精族フェアリルの国のフェアル国の妖精王、ティアラ・フェアルだよ~!」

シルフに似たフワフワとした雰囲気の翠色の長い髪とコバルトブルーの青い目の少年(?)が自己紹介する。

続いて、護衛の人たちの自己紹介があって、本題に移る。

「いやぁ…ラグレア王があまりに褒め称えるから気になってさ~!アタシたちの中で1番強いラグレア王より強いとなれば気になるでしょ?」

ルナがかなり砕けた口調で話し始める。

「え…そんな理由で呼ばれたのですか…」

アリスが唖然とした表情で言う。

「うむ。状況はアスティア殿から聞いておるのじゃ。そんな強き者が太刀打ち出来ない相手ともなれば、我ら王族だけではどうにもならんからのう。」

ヴォルディアは真剣な顔で言う。

「それで我らはこの会議で各国の強者の力を借りて、この脅威に立ち向かう必要があると結論づけたのだ。」

ネーティルが苦虫を噛み潰したように目を閉じて言う。

「そういうわけなのじゃ。本来ならギルドを通して依頼したかったのじゃが、今は手続きをする時間も惜しいんじゃ…どうか引き受けてくれぬかのぅ?」

ラグレアがそう言うとそれぞれの国の王たちもアリスの答えを待つ。

「…正直に言うと私では足手まといになるかもしれません。」

アリスは淡々とそう言って続ける。

「ですが、それはこの脅威から逃げる理由にはならないと思ってます。もしここから逃げたとしても問題を先延ばしにしただけに過ぎませんし、これ以上相手に力をつけられるのは避けるべきです。」

アリスは耳をピコピコと動かす。

「この依頼に猫の手もお貸ししましょう。」

「快く引き受けてくれて感謝する。」

ネーティルが言うと同時にアリスの前に移動し、アリスの手が届く様に屈み、その大きな手で握手を求める。

アリスは掴めないほど大きなその手に手を出す。

「よろしくお願いしますね。」

「ああ、こちらこそよろしくな。アリス。」

こうして、各国からそれぞれ4人が選出され、総勢28名のパーティで邪神教団と異形を討伐するメンバーが選ばれる事となった。

「…今回はこれで決定で良いかの?」

ラグレアがそう言うと全員が黙って頷く。

「では、解散!」

ラグレアがそう言うと皆が外に出て、それぞれで連絡を取りあっていた。

「ねぇねぇ、アリスちゃん!」

親しげに話しかけるルナとその後ろにはヴォルディアがいた。

「な、なんでしょう?」

アリスが少しだけ戸惑った様子で言うとルナは楽しそうに言う。

「アタシたちとご飯でも食べに行かない?もちろん、お代はヴォルちゃんが全部出してくれるよ!」

ルナの言葉を聞いたヴォルディアが驚いた様に目を見開いていた。

「ルナ!お主が払うと言ったから、我も着いてきたのじゃが?!我が払うのは聞いてないのじゃが!?」

「アッハハ!ヴォルちゃんはやっぱからかいがいがあるな~!」

「んなっ!?貴様!謀ったな!」

「ごめんごめん!ま、そんなわけでさ…さっそく行こっか!もちろん、癒し枠のパリスちゃんにも着いてきてもらうわよ!」

ルナはそう言うと強引にパリスを抱き抱えてダッシュする。

「すまんが、あやつに付き合ってやってくれな。あやつはあれでもお主らと仲良くなりたいと言っておったからのう。」

「そうなんですか。」

みるみるうちに遠くなるルナの背中を見ながらヴォルディアが言う。

「さてと…さっさと行かねば、あやつを見失ってしまうな。」

「そうですね…私たちも急ぎましょうか。」

アリスとヴォルディアは駆け抜けるルナを追いかける。



しばらくして、何もなさそうな路地裏の壁でルナが立ち止まっていた。

アリスとヴォルディアが追いつくとルナが言う。

「着いたわよ!」
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