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龍人の姫レッカ

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※⚠️初めに⚠️
今回はクレアの過去編なのですが、少しだけヒト同士の丸呑み表現があったりしますので、苦手な方は今回は飛ばして頂いた方がいいかもしれません。※


ある日のとある種族の家にて…

「コラー!レッカ!待ちなさい!」

赤く短い髪の少女がトカゲの様な姿の子供の龍…子龍こりゅうを追いかけながら叫ぶ。

「へっへーん!捕まえれるもんなら捕まえてみろー!」

子龍はその全身を覆う鱗と同じ真っ赤な翼をパタパタとはためかせて凄い速さで飛んで行く。

「誰かそこの子龍を止めて~!」

少女がそう言うと子龍の目の前にいたメイド達が子龍を捕まえようとするが…

「おっと!よっ…ほっ!」

子龍の小さくて軽やかな体を捕らえることは叶わず、床に倒れる事で逆に少女の足止めになっていた。

「チョロいチョロい!どいつもこいつも体がデカいだけで役立たずね!」

子龍はそう言いながら窓から外に飛びさ…「ドゴォ!」

「ギャアアアアー!」
「レッカ様ー!」

突如、横から飛んできた岩石によって子龍の小さな体が吹っ飛び、それを見た少女とメイドが絶叫していた。





「うーん…」

子龍は目を覚ます。

「ここは…どこだろ?」

頭がズキズキして、全身が痛い。

「とにかく…帰る場所を見つけないと…」

頭も体も痛むが子供とは言え、龍族のプライドがじっとしている事を許さなかった。

「私だって、一人で帰れるもん…」

そうして、しばらく森をさまよっていた。



「うぅ…もうダメ~…」

私はその場で足を伸ばして倒れる。

「グゥゥゥゥゥゥゥゥ…」とお腹がなる。

「お腹が空いて力が出ないよう…」

私がそうして力なく地面に寝そべって居ると…

「くんくん…なんだか、この辺りから変な匂いがするね。」

白く大きな「」が私が居る茂み越しに見える。

「わたあめだー!」

「きゃあああああ!」

私は咄嗟にその「わたあめ」に飛びかかり、パクリと一口で食べてしまう。

「うーん?わたあめにしては甘くない…て言うか、なんかもしょもしょするし、思ってたより重さがあったね…」

そう思ったのも束の間、急にお腹に痛みを感じて、私はその場に蹲る。

「痛い!なんなの?!グッ…また痛い…」

私は何が何だかわからなかった。

「痛い!お腹がなんか変だし…身体は熱いし…グッ…なんなの…」

私はさっき食べたものが何か悪いものだったのかもと思って魔力でそれを包んで吐き出す。

「はぁ…はぁ…く、苦しかった…」

私は吐き出したものを見る。

「これは…猫族?」

私が「わたあめ」だと思って食べたものは直感的に自分と同じくらいの大きさの白く長い髪ですっごい薄着の猫族の小さな女の子だった。


※この時、を食べた事がきっかけになって、レッカは子龍から龍人に種族が変化しており、身体もそれに合わせて変化していた。

他にもきっかけがあれば龍人に変化する事があるが、レッカの場合はヒト(猫族の女の子)を食べた事がきっかけとなっている。※


「…猫族なんて食べたっけ?」

私は女の子を見る。

「けほっけほっ…」

女の子が少しだけ咳をして目を開ける。

深紅に輝くその瞳にはがいた。

「あ、気がついた?」

私は女の子に言う。

「うぅ…ん?う~ん?」

女の子は何故か自分がヨダレでベトベトのまま森の中で寝ていた事に首を傾げていた。

「キミは…?」

女の子が私を指さす。

「私はレッカ!こう見えても龍族なんだよ!」

私は堂々と胸を張る。

「龍族…?今のキミはどっからどう見ても龍人族じゃないかしら?」


※龍の一種である龍人はヒトの分類法に則ると龍人族になるが、龍人も龍である為、龍族でも間違えではないが、今のリリスはそれを知らないのだ。※


女の子がそう言うので私は体を見回してみる。

「あれ?ほんとだ!里の人みたいになってる!」

私が驚いていると女の子が首を傾げる。

「…?変なの。」

女の子はそう言うとフラフラと立ち上がる。

「私はリリス。旅をしてるの。」

「そうなのだな!私は迷子なのだ!」

「そう…」

リリスはそう言うと体がベトベトなのを気にしながら言う。

「とりあえず、近くに川があるし、そこで体を洗おうかな…」

「私もリリスに着いて行くのだ!なんと言っても私は迷子だからな!それに1人より2人の方が安心だからな!」

レッカはその相手が先程食べて吐き出したばかりの相手である事なんかすっかり忘れていた。

「…勝手にするといいわ。」

リリスは興味無さげにそう言うとレッカの事を気にする素振りもなく、歩き始める。


※この時、この龍人が先程自分を食べた子龍から変化したものなのでは?とリリスは考えていたが、確証がないのでそれを見極めようとしていた。

もしまた食べられそうになっても、今のリリスになら対応が可能であった。

先程は驚いた隙をつかれて背後から一瞬で呑み込まれた為、抵抗する間もなく食べられたが、リリスは既にA級冒険者程度の実力があるのだ。

そのうえ、現時点では強力で圧倒的な量の魔力を駆使して、知識が少ないながらも独自の魔法を扱って戦う事が出来る為、まだ幼い少女が一人で旅をするなんて荒業もこなせているのだ。※


レッカは置いて行かれないように歩くので精一杯だったが、目的地の川に辿り着く頃にはちゃんとヒトのように二足歩行で歩ける様になっていた。

「やっと着いたわ…」

リリスはそう言うと服を全部脱いで裸になって川で体を洗い始める。

「…私も体を洗ってみようかな。」

私もリリスの真似をして服を脱ごうと思ったが、元々裸のままだったので、そのまま川に入ってリリスの真似をする。

「龍人も体を洗うのね。」

体を洗い終えたリリスが服を洗いながら言う。

「リリスがやってたのを真似してみたんだ!なかなかやるだろう?」

私は自分でもハッキリとわかるくらい胸を張ってドヤ顔する。

「そうね…」

リリスは短くそう返すと近くにあった良い感じの木に洗った服をかけていた。

「よいしょっと…着替えはあったかしら…」

リリスはそう言うと空間収納から服を2着取り出す。

「はい。レッカさんの分。」

レッカは首を傾げていた。

「君だって女の子なんだから、服を着るべきよ。」

リリスは呆れた様に言う。

「う~ん…そう言うものなの?」

「そういうものよ。」

「ふむ…」

レッカはリリスが体を拭いて服を着るのを見て真似をする。

「リリスよ。見るが良い!私も服を着れたぞ!」

ドヤ顔で誇らしげに胸を張るレッカだが…

「こっちに来なさい。逆よ。」

「ぬぅ…」

リリスが淡々と言うとレッカはガックリと肩を落としながらリリスの元に行く。

「…ほら。出来たわよ。」

リリスが直すとレッカは見違えるように可愛い少女になった。

「おおー!リリスのおかげですっごい可愛くなった!」

レッカが大喜びでリリスに言う。

「当然よ。私が選んだ服ですもの…」

リリスは照れ隠しをするかの様に顔を逸らしながら淡々と言う。

「リリス…1つ頼んでも良いか?」

レッカが真剣な声で言う。

「私に出来る事なら良いわよ。」

リリスが木にかけていた服を空間収納にしまいながら言う。

「いつか、私も大人になったら、お主の様にヒトとして暮らしたいと思っておる。その時に…その…お主とともに暮らしたいと思ってる。」

リリスは静かに目を瞑る。

「私は…」

そう呟いて目を開けると真剣な表情でレッカを見る。

「私は世界で一番強い冒険者になるの。だから、また会えるかはわからないわ。」

リリスはそう言うと移動する準備をして優しげに微笑んで言う。

「だから、また会えたら考えておくわ。」

リリスはそう言って歩き始める。

「ま、待ってくれよ!」

レッカは慌ててついて行く。



数日後の昼頃…

「あれって…」

リリスの目線の先には龍人族の群れが居た。

「多分、私を探して出て来た奴らじゃな。」

レッカがそう言うとリリスは「ふ~ん…」と興味無さげに言う。

「じゃあ、迷子さん…じゃなくて、レッカさんとはここでお別れね。」

そう言ってリリスはレッカを魔法で龍人族の傍に出す。

「リリス?!」

レッカが驚いて叫ぶ事で龍人族たちの視線が集まる。

「む?その赤い翼は…レッカ様?!」

「お前たち!レッカ様が見つかったぞー!」

龍人族がレッカの周りに続々と集まるのを見てリリスは気づかれる前に何処かへと去っていった。

「待って!私を置いて行かないで!リリス!」

レッカがリリスの名を叫んだ事で龍人族達はレッカが向いている方向を向くが、既にリリスは遠くへと移動していたようで姿が見えなかった。

「レッカ様、帰りますよ。」

レッカは龍人族に捕まって、そのまま連れて行かれる。

レッカは最後までリリスの名を叫び続けていたが、リリスが彼女の元に戻る事はなかった。



それから数年ほど経ったある日…

「ここもダメじゃったか…」

私はあの日からずっとリリスを探しては見張りに捕まって連れ戻されるを繰り返していた。

「レッカ様!またこんなところまで…貴方は龍王様の跡継ぎ様なのですから、もっと安全なところに…」

「あーはいはい。わかったのじゃ。」

見張りの龍人族に見つかって私はうんざりしながら里に連れ戻される。

「レッカ、お前はまた里の外に出ておったそうじゃな?全く…少しは姫としての自覚を持った行動をだな…」

「姫としての自覚ねぇ…」

私は目の前に居る小さな龍人族…私の母であり、里の王でもある龍王ヴォルディアが尊大な態度で居るその者に聞こえない様に言ったつもりだったが…

「何だ?言いたい事があるなら、聞くぞ?」

地獄耳で聞こえていたヴォルディアが威圧する様な雰囲気さえ感じる声で言う。

「…どうせ母上には聞く気などないじゃろう。じゃから、絶対に言わん。」

(この女はいつもそうだ。私がどれだけリリスに会わせてくれと言っても「他種族なぞ、何処にでもある食料にすぎぬ。」とか「いつまでもリリスとやらに執着するな。」とか「もう何年も見つかってないのなら諦めろ。」とかそんなことしか言わないに決まってる。こいつはいつもそうだった。何があっても自分が一番正しくて、自分は間違えないと思ってる。)

「はぁ…良いか、レッカよ。他種族の事を思う事に良いことなんか何一つない。あいつらは我々、龍人族にとってはただの食料にすぎんのだ。お前も龍人族ならわかるだろう?」

呆れた様にヴォルディアが溜息をついて言う。

「母上こそ、私はその考えはわからんし、わかる気も無いといつも言っておる事くらい、そのちっさな頭でも理解出来るはずだろう?」

私も負けじとヴォルディアに反論する。

「我に似て頑固な娘じゃ…じゃが、お前も時期に自分が間違っていると理解出来るはずだ。」

ヴォルディアはレッカの言う事に全く聞く耳を持たず、側近の龍人族に指示を出して、レッカの目の前にボサボサの白く短い髪、特徴的な長い耳を持つ兎族の全裸の幼い少女が連れてこられる。

「ヒェッ…」

少女が小さな悲鳴をあげる。

ヴォルディアはそんな少女には目もくれずにレッカに言う。

「今日はお前の15の誕生日だ。里の掟に則り、お前の成人の儀を行う。レッカ、それを食え。」

ヴォルディアは顎で少女をさして言う。

「…この娘を…か?」

レッカが怒りの眼差しをヴォルディアに向ける。

「そうだ。これにより、お前は完全に大人となる。わかったら、さっさと食え。」

ヴォルディアは淡々と少女を食べるように繰り返す。

私は今この場で抵抗すれば、この幼い少女を守るには危険過ぎると感じた。

「…わかった。」

私は少女の耳元で誰にも聞こえない声で囁く。

「すまんな…出来るだけ痛くないようにしてやるからな…」

少女の瞳が絶望に染まる。

「い…や…」

私は少女の両足を口に入れる。

「助けて…エレナお姉ちゃん…ママ…」

ゆっくりと呑み込まれて行く少女をヴォルディアはただただ見下した目で見ていた。

(すまぬ…今はこうするしか、お前を助けられぬ…)

少女は恐怖で震えて身体が動かない様子だった。

「タス…ケ…テ…」

少女の感覚がした。

「良くやった。これにてお前の成人の義は終了とする。」

ヴォルディアがほんの少しだけ嬉しそうに私を見る。

「…」

私は湧き上がる怒りの感情を無理矢理抑えつけて、黙ってその場を後にする。

レッカが少女に言った言葉を聞いていたヴォルディアは言う。

「お前たち、レッカがあの兎を吐き出さないか監視しておけ。」

「はっ!」

ヴォルディアの指示により、龍人族全員がレッカの成人の儀を無事に終わらせる為に目を光らせる。



「おや?レッカ様、どこへ行かれるのですか?」

門番の龍人族が私に声をかける。

「ちょっと腹ごなしに運動してくるのじゃ。」

私は出来る限り自然体で振る舞う。

「かしこまりました。お気をつけて…」

私はあっさりと門番が通した事に少しだけ違和感を感じながら、森の中を進む。

私の胃の中で少女の身体が動くのを感じる。

「すまんな…もう少し耐えてくれ…あいつらに見つからないように吐き出さないとダメなのじゃ。」

私は自身を追う複数の気配を感じていた。

「…そんなことだろうと思ってたわ。」

私はそんな事を呟きながら森の中を駆ける速さを上げる。

気配もそれに合わせて速度を上げていた。

(くっ…早くこやつを出してやらねばならぬと言うのに…!)

私はさらに速度を上げる。

気配の数は少し減ったが、まだまだ複数の気配を感じていた。

「もっと早く…もっと先へ!」

私は悲鳴をあげる身体に鞭を打ちながら、速度を上げる。

次第に気配も減っていき、最後の一人になった。

「くっ…もう限界じゃ…」

私の胃の中で少女が弱々しく動くのを感じる。

「お前も限界が近いのか…」

私は最後の一人に追いつかれる前に少女を吐き出す事を決意する。

「ここなら…なんとか兎族の里の者に見つけてもらえるじゃろう…」

私は少女を吐き出す。

「良かった…かなり弱っておるが、まだ息はある。私の魔力で見つかるまでの応急処置をしてやろう。」

私は追っ手がすぐ傍まで来ているのを感知しながらも少女の失われた体力を魔力で補う。

「そろそろか…」

ついに追手の最後の一人が私の背後に現れる。

「レッカ様、何をなされてるのですか。」

青く長い髪の深海の様な色の瞳の龍人族の女性がレッカに言う。

「見てわかるじゃろう?弱った女子おなごの手当をしておるのじゃ。」

私は当然の事のように返す。

「レッカ様、成人の儀はその兎を食べて消化しなければ意味が無いのです。そんな無駄な事など今すぐやめて、その兎を食べてしまいましょう。ヴォルディア様に知られる前に…ね?」

私は女性の言葉を無視して治療を続ける。

「レッカ様…」

女性が私の肩に手を置いて声音を低くして圧をかけるように言う。

「レッカ、さっさとそいつを食い殺せ。さもなくば、ここで無理矢理にでも食わせる。」

私は怒りと同時に目に力が湧き上がるのを感じる。

「下民の小娘風情が姫たる私に気安く触れるな。」

私の龍の目が女性を捉える。

女性はレッカから手を離して、数歩後ろに下がると身体の動きが止まり、自らの意思では動かせないかのような挙動をする。

「ぐっ…この出来損ないの小娘ごときに…」

私はさらに龍の目の力を強める。

「黙れ。我は炎姫えんきレッカぞ。下民の小娘風情が姫たる我にその様な口ぶりをするなど無礼にもほどがある。頭が高い。装束を脱いで頭を垂れよ。」

レッカが威圧的な目線を女性に送る。

「ぐっ…」

女性はレッカが命令した通りに服を全て脱いで、頭を下げる。

まるでそれは何かに強制されたかのような動きだった。

「レッカ…お前、こんな事してタダで済むと思っているのか?」

「黙れと言ったのが聞こえなかったのか?それとも下民の小娘風情の頭では理解が出来なかったか?」

私は龍の目の力だけでなく、さらに圧をかける。

「ぐっ…こんな…小娘相手に何も出来ぬとは…」

私は女性の肩に手を置いて、憎々しく睨みつける顔を見る。

「お前のその行いは万死に値する。」

そして、レッカはニヤリと不気味に笑う。

「そんなお前だが、最後に姫への最高の奉仕をさせてやろう。」

私は口を大きく開けて、女性を頭から一気に呑み込む。

「お前のその身体が私の血肉となる事でな…お前の様な者にとっては喜ばしい事だろう?」

私は効率良く消化する為に胃壁が女性の身体に密着する様に魔力で調節し、女性が身動き取れないように魔力で動きを固める。

胃の中で女性が抵抗しようとするのを感じるが今度は少女の時とは違って完全に殺す為に身動き出来ないように魔力で動きを固めている為、消化されるのも時間の問題だった。

「ほう?お前は抵抗しようとするのだな?他者にその結末を強要しておきながら、自分が対象となると随分と偉そうな事をするもんだ。」

私がそう言うと女性の身体がビクッと反応した様な感覚を感じ、動こうとする意思が無くなったように感じた。

「…これで脅威は去ったな。」

私はもう動く気配のない女性の身体の動きを固める魔力を消去する、後は勝手に消化されるのを待つだけだろう。

「…これで成人の儀も終わるはずだ。私は炎龍族だが、あやつは氷龍族…成人の儀の他種族を消化すると言う条件は満たしたはずだし、この少女を吐き出した事はバレないだろう。」

私は「ふぅ…」とため息をつく。

「…いくら敵意を向けられたとは言え、自分たちと同じ様な姿をしたモノを呑み込むのは気分がいいものでは無いな。」

私は徐々に小さくなるお腹を見てそう言った後、呼吸が安定し始めた兎族の少女をみる。

「さて…この娘を助ける事は出来たし、私も今は家に帰るかのぅ…この真実を知るものは私しか居ないし、バレようが無いしな。願わくば、この娘が幸せに暮らせる事を祈るばかりだ。」

私は少女に女性が着ていた服を着せた後、少女の場所を分かりにくくする為にかなり迂回しながら里の近くまで戻る。

「ようやく帰って来れたのじゃ…」

私がそんな事を言っていると周囲に気配を感じる。

「ふん。今更来たって遅いのじゃ…」

私はそんな事を小さく呟いて里の門に向かう。

「レッカ様、おかえりなさいませ。ご無事で何よりです。」

門番がさり気なく私のお腹を見て安心した様子で言う。

「ただの運動に危険なぞ無いに決まっておるだろう…」

私はわざとらしく呆れた振りをして里の自宅に戻る。

「よくぞ戻ってきたな、レッカ。」

ヴォルディアが私のお腹を見て満足そうに頷きながら言う。

「…」

私は敢えて何も反応せずに自室に籠る。

(…ほんとに胸糞悪いやつらなのじゃ。)

私はこの里を出たいと思うようになった。

(里の龍人が居ないどこか遠い土地で暮らしたい。)

私は完全に元の大きさに戻ったお腹を見ながら考える。

(あやつも悪習に踊らされた哀れな龍人だったな…まあ、私もあやつを食った時点で同罪だが…)

私はベッドの上で横になる。

(明日、ここを出よう…どうせもう大人になったんじゃから、止められる事も無いじゃろう。)

私はそのまま目を閉じる。

(もうこんな里のやつらと暮らすのはうんざりじゃ…それにあの娘を吐き出してる事がバレるのも厄介だし…)

私は次の日に備えて眠りにつく。



(ここは…どこだ?)

私は身体を起こす。

視界の隅がボヤけており、目眩がしそうになる。

(この身体は…私なのか?)

私は自身の身体があの女性の体つきにそっくりな事に気がつく。

(何かがおかしい…私は…いや…)

私は鏡を見る。

お前は誰だ?」

鏡で見た限り、体つき以外は全てがレッカと一致していたが、目の色が明らかに違い、深海の様な色の目だった。

私は目の前の鏡の中の龍人に言う。

「もう一度聞く。お前は誰だ!」

鏡の中の龍人が小さくニヤリと不気味に笑う。

お前お前お前お前もわからぬものよ…」

私と同じ声では答える。

「ふん。だと?ふざけるな!私は私だ!レッカは私一人で良い!」

私がそう強く言うとソレは鏡の中から出てくる。

「違う…正しき解。私もお前、お前も私なのだ…反転。お前の中にあるお前だ。絶対的敵対者。ゆめうつつまぼろしまことお前の中にあるお前だ。絶対的否定者。だが、お前は私を…いや、私の言葉を理解してはならぬ。」


※訳:違う。お前はそれを否定しなければならない。正確には私とお前は同一の存在であるが、互いに互いを否定しなければならず、絶対に敵対していないといけない。それが私とお前が同時に存在する為の条件なのだ。、これは反転させてはならない。ある種の縛りの様なものだが、これを否定し続けなければならない。
もしも、理解し、受け入れてしまったら、お前は自分自身に食われ、私と入れ替わり、狭間の世界で無限の時を彷徨う事になる。だから、私の事は絶対に否定し、理解を示す事は許されない。その関係は厳守するのだ。※


「…意味がわからぬ。」

私がそう言うとソレは不快な表情をしながら、とても嬉しそうに言う。

「それで良い…それがお前を繋ぎ留める鎖になる。」

ソレは私の身体に手を触れる。

「お前は今、夢と現実の狭間にいる…拒絶。本来は…いや、今のお前にはまだ早いか…」

ソレが私の身体を

同時に視界がボヤけていたのが元通りになる。

「元の姿に戻った…のか?」

ソレはあの女性の様な姿でボヤけた姿で光の無い虚ろな目をして頷く。

「お前はに生きるべき存在…私はお前の中にあるだ。理解不能。お前がは私になり、私がはお前になるのだ。理解不要。故にお前は私、私はお前。表裏分裂。それがグラの魂を持つ者の宿命…悪食。お前が堕ちる時…暴食。私はまたお前の前に現れるだろう…罪を否定せよ。レッカ…お前を拒むモノとして…な…」


※訳:お前は現実に生きなければならない。私はお前の見る夢の果てであり、本来の姿はお前の姿と同じである。だが、それを理解してはならない。故に私はこの事に対して直接言及する事は出来ないのだ。
そして、胃空間収納に収納されたモノはお前が自由に扱える。これについて、お前は深く考えてはいけない。
この能力はお前の胃の中のモノか胃に入った事があるモノに対しては生死や生物非生物を問わずに適応出来る。能力を剥奪するも良し、能力を与えるも良し、全てがお前の思うがままとなる。このやり取りにはお前が受け入れたり、否定する事でのみ成立する。
食べる度にお前の力は強くなり、喰らう者グラの力でどんなモノでも食べる事が出来る様になり、食べたモノのステータスを含めた全ての能力が継承される。それが悪食グラトニーの力。暴食ベルゼブートとは別の罪なるモノの力だ。
そして、お前が私の事を受け入れそうになった時、私はお前の否定者となってお前の前に現れるだろう。私がお前を…お前が私を正しく否定出来る様にな。※


ボヤけた姿が徐々に薄れて消えると同時に私の意識も途切れる。



「…はっ!」

私は飛び起きた。

外はまだ暗く、部屋の中には月明かりが射し込んでいた。

私はベッドの傍の鏡を見る。

そこに映ったのは驚いた顔をしたいつもの私だった。

「夢…だったのか…?」

私は身体からが出る様な感覚がした。

しかし、それが何を意味するのかは理解していなかった。

「罪悪感ゆえの夢じゃったのじゃろうか…それとも別に理由があったのじゃろうか…」

私は思考する。

しかし、何か具体的な答えが出る事もなく、気がつけば再び眠りについていた。



夜明け前…

「くあ~…ちょっと眠いのじゃ…」

私は身体を起こす。

「まだこの時期は暗いのぅ…」

私はの部屋に向かう。

「ふぅ…ちょっと緊張するな。」

私は扉の前で深呼吸する。

「コンコン」とノックをして私は言う。

「母上、大事な話があるので、失礼します。」

私がそう言って扉を開けると龍王はベッドの上で不機嫌そうな表情で座って言う。

「何時じゃと思うておるのじゃ…全く…お前じゃなければ、殺しておったぞ?」

私は龍王の威圧を跳ね除けるように言う。

「母上…いや、龍王様…私、レッカは里を出て旅に出ます。」

私が堂々と目を見てそういうと龍王は驚いた様に目を見開く。

「…お前、自分が何を言っておるのか、わかっているのか?」

龍王は今までに聞いた事がないくらい低く恐ろしいものを感じさせる声で言う。

「全て承知の上です。」

私は龍王の目を見る。

「…」

少しでも動けば死が待っているかのような緊張感が2人から発せられていた。

そして、龍王は静かに言う。

「お前の覚悟…見せてもらうぞ。」

龍王は静かに立ち上がると私の正面に移動し、真っ向から対峙する。

「…参ります!」

私の右の拳が龍王の腹に直撃する。

「その程度か?」

ヴォルディアが余裕たっぷりの声で言う。

「これからだ!」

レッカはそういうと軽く後ろに飛び退いて全身に龍の鱗を纏わせる。

「来るが良い」

「言われなくともっ!」

レッカは先程より桁違いに強化された燃え盛る右の拳を勢いよくヴォルディアの腹にぶち込む。

周囲に激しい熱風が吹き荒れ、一部のものは燃え上がっていた。

「拳とはこう振るうもんじゃ!」

ヴォルディアがレッカの腹に軽く右の拳を叩きつける。

「カハッ…!」

レッカの肺から全ての空気が抜けると共にレッカの身体が吹き飛んで、後ろの扉を破壊する。

「もう終わりか?」

ヴォルディアはゆっくりとレッカに歩み寄る。

「はぁ…はぁ…」

全身から血を流し、肩で息をしながらレッカはフラフラと立ち上がる。

「他愛もない…」

ヴォルディアが再びレッカの腹に拳を叩きつけ…

「舐めんじゃねぇ!」

レッカはそのままヴォルディアの右の拳を受け切ると同時にカウンターの右ストレートをヴォルディアの腹に突きつける。

「ドゴォ!」と凄まじい音と衝撃が周囲を吹き飛ばし、ヴォルディアの身体がほんの少し揺らぎ、レッカの身体もほんの少しだけ吹き飛ばされる。

「良い拳だ。」

音を聞きつけた使用人やメイドが集まってくる。

「ヴォルディア様!レッカ様!こんな時間に何をなさっているのです!」

一人のメイドが2人の間に割って入ろうとする。

「動くな!」

ヴォルディアの大声に身体が竦んだメイドがずっこける。

「邪魔をすれば、命がないと思え。」

ヴォルディアが威圧感たっぷりに言葉を出す。

その威圧感には誰もが逆らえなかった。

「レッカよ。お前の覚悟、この龍王がしかと受けとった。お前が旅に出る事を許そう。」

ヴォルディアはそういうとレッカの肩に手を置く。

それと同時にレッカの身体が元の鱗の無い状態に戻る。

「お前が旅の果てに何を見るか…リリスとやらに合って何を見るのか…その行く末を見せてみよ。」

ヴォルディアは少しだけ期待の交じった諦めの感情を感じながら言うとレッカから離れて風呂場に向かう。

「ありがとうございます!」

レッカはヴォルディアの事は少しだけ、他の龍人とは違うかもしれないと思っていた。


後日、レッカが旅立った後にヴォルディアの元にとある夫婦が訪問した事により、ヴォルディアを含めた里の龍人たちの考えが大きく変わる事となるが、それはレッカには知る由もない話であった。


レッカは自分の部屋に戻り、時間停止と無限収納の能力があるカバンに部屋にある数枚の金貨を全て入れる。

「これで出る準備は出来たのじゃ!」

私は窓越しに朝焼けの空を眺める。

「…これからはこうして見る事もないだろうな…」

私はあの時の少女の事を思い出す。

「リリス…お前に会えるまで、私の旅は終わらぬ。お前の傍で共に生きる…それが私のだ。」

私はそう呟いて、まだ誰も起きていない里を出る。

「まずはどこへ行こうかのう?楽しみじゃ!」

そんな楽しそうな少女の声を後に上り始めた太陽が少女の旅路を祝福するかのように少女が去った大地を照らしていた。

















~あとがキッス♡~

どうもー♡皆の素敵な隣人の謎の観測者さんでーす♡チュッ♡

おいそこ♡エチケット袋用意すんな~♡

さて、こんなクソ茶番は置いといてですね…

実は今回から少しだけ書き方を変えてみようと思いまして…

…と言うのもですね。

説明的な箇所には今までは始まりと終わりに改行を2行入れて、説明みたいな感じにしてたんですけど、ちょっとわかりにくいかな?と思いましたので、2行改行入れるのは今まで通りなんですけど、始まりと終わりに「※」をつけてみることにしたんですね。

良かったら、何か良い案があれば教えて読者さん!ですわ~!

いや、シンプルに感想もらえるとありがたいかなぁ…とか…言ってみたり…(チラッチラッ)

まあ、また気まぐれで書き方を変えたりするかもしれないんですけど、少しでも読みやすくなればいいなと試行錯誤を試みてみたり…
てか、この世界を書き始めて3年目でようやくこの結論って…
作者氏さぁ…もっと読者の事考えようぜー?
ついでに投稿頻度も増やせよな!

…なんてね♪

まあ、そんな感じでこれからもじっくり気ままに書いていきますよっと…

では!サラバダー!

観測者さんの次回作にハッピー…ハロウィン!
…いや、ハロウィンは来月やんけ!



「作者のどうでもいい情報、実は丸呑み性癖がある。」

待って!?エレナちゃん、なんでまた来てるんですか!?
しかも、勝手に人の性癖をバラさないでください!私が異常者みたいじゃないですかっ!

「なろう系主人公なので、勝手にやってきたんだけど、文句ある?もっと作者の性癖バラしても良いんだよ?」

あれ…これって、前回の紹介の仕方がダメだったパティーン?
てか、これ以上はショタコン、ロリコン、腹フェチくらいしか無いですよ?

「イケおじとか百合とかも好きなの、エレナ知ってるんだからねっ!」

いや、なんで知ってるんですか…

「さらに作者の情報開示するとリョナは苦手なんだけど、理由はグロ耐性が無いからなんだって!」

そうなんですよね…だから、バイオハザードみたいなやつはマジで苦手です。流血表現、マジ痛い…

「…まあ、アリスちゃんたちがチート無双してるのもそれが理由だったりしますもんね。」

エレナちゃん?!それは秘密にしといてって、お兄さん言ったでしょ?!

「残念だが、18歳から見ると25歳はもうおじさんなんだよ。」

ヒェッ…若いって恐ろしい…てか、なんで私の年齢バレてんの…

「Twitter(X)見てたから…」

いや、そこはなろう系主人公だからって言ってほしかった…と言うか、Twitterやってたんですか?!

「見る専だけどね。」

防ぎようが無くて笑っちまったよ。

「てなわけで、次回の過去編もお楽しみにっ!」

またセリフ盗られたよ…もう君が宣伝隊長でいいよ…

「あ、遠い目してる。」
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