魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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クラインが淡々と言うとスレイは小さな声で耳打ちをする。

「ガルアがメルトの病に効くかもしれない薬の調合書を開発したらしいんだ。今のところは飼っているに試薬の投与をしているってよ。」

実験用モルモットの言葉を聞いてクラインは露骨に嫌そうな素振りを見せる。

スレイの言った実験用モルモットとはヒトによって奴隷として売られた商品、捕縛したならず者、ならず者が攫ってきた女性、メルトたち背信者を敵として攻め込んできた国の生け捕りにした兵士を含めたガルアとゼシアが実験用に管理しているヒト達の事だ。

スレイ、ガルア、ゼシアの3人は彼らをヒトと思っていない傾向が強い。

ガルアは短い樺色かばいろの髪に緋色の目の狼人おおかみびとの女性。
ゼシアは長い白群びゃくぐんの髪の濃紅こいくれないの右眼に大きな怪我の痕で開けなくなった左目に白い眼帯をつけている人間ヒューマンの女性だ。

ガルアの助手として、ゼシアも薬の研究の手伝いをしている。

スレイは元々魔族だったのもあり、人間をヒトと考えていない側面が強かった。
もちろん、それは仲間である背信者たちは除いての話だが…

いずれも共通するのは過去に心を完全に閉ざしてしまう程の仕打ちを受けた事とメルトによって助けられたという事だ。

クラインとガルアは性格が真反対の為、仲が悪いのだが、どちらもメルトに忠誠を誓っている事は共通していた。

ただし、ゼシアは新薬を作る事にのみ命を懸けている。

クラインが心優しい騎士だとすれば、ガルアは狂気のマッドサイエンティストと言ったところだ。

だが、2人ともその行動理念はメルトの平穏のためを思っての行動なので、否定したくても否定しきれないのが現状だ。

「メルトのためだと理解はしてても、相変わらず非人道的な研究ばかりしているのね…」

「まあ、仕方がない部分はあるからな。実験に適した生物が居なかったり、ガルアより薬に詳しいやつが居ないからな。」

ガルアは右脚の紋章さえなければ、天才薬学者として名を知らしめて居ただろうと思われるほど薬に関しては詳しかった。

ゼシアは背中に紋章があり、ガルアほどでは無いが、かなり頭の回るタチである。

クラインは右手の甲に紋章があり、メルトを護る生真面目な騎士のような性格でとても仲間想いだ。

「クライン、メルト様は居る?」

額に紋章があり、それを隠すような鵇鼠ときねずの綺麗な長い髪、紅紫べにむらさきの左眼と藍鉄あいてつの右眼の精霊人せいれいびとの少女が言う。

「ルチェルか…メルトなら、さっきキリエと例の場所に行ったわよ。」

「あ、そうなの?」

ルチェルはどこかすっとぼけたようにも聞こえる喋り方で言う。

「それはそうとメルトに何か用があったのだろう?」

クラインが聞くとルチェルは言う。

「そうそう。勤勉が現れたみたいでさ…ルーさんでは、手も足も出ないから助けてもらおうと思ってきたんだよ。なんでもルーさん達、大罪を討伐しようと目論んでるみたいでさ…感謝と忍耐もいるから偵察に行ってるセリスも手が出せないんだよ。オマケに例の場所付近で節制が現れたみたいだし、危険だからしばらく行かないようにしてもらいたかったんだけど…」

「なら、スレイが出てやろうか?スレイなら、黄の力も使えるし、節制が能力を発動する前に殺せると思うし…」

スレイが言うとルチェルは小さく首を振る。

「それは辞めた方がいいわ。どういうわけか、あいつらは常に能力を発動しているのよ。だから、隙をついて殺す事もままならないわ。」

「そんな馬鹿な…通常の能力と違って、大罪も美徳も能力の常時発動は出来ないはずでは?」

クラインが「ありえない」と完全に否定する。

「それがありえてるから、ルーさんも困っているのよ…どういうわけか、謙虚は他の美徳とは敵対してて、純潔は中立を貫いているみたいだけど、謙虚はともかく、純潔はいつこちらに牙を剥くかわからないわ。願わくば、美徳とは対立してくれる事を願うばかりなのだけれど…」

ルチェルがそう言っていると白く長い髪の赤い眼の兎人うさぎびとの女性がやってくる。

「メルトさんは…いらっしゃられないですかね?」

兎人の特有の特徴的な白く長い耳を揺らしながら、女性は言う。

(種族の特性として性が強調されているその身体はキリエにとってはまさに理想の身体と言えるだろう…え?なに?分かりにくいって?
体が細くて胸がデカいんだよい!ボンキュッボンなんだよい!
あ、でも、尻はそこまでプリっとしてないか…
それにキリエも太っては無いよ。断崖絶壁だけど。)

「って、ルーさんは何を考えてんだ…」とルチェルは心の中で自身にツッコミを入れてるとクラインが言う。

「えぇ、先程、出かけたわよ…その直後にルチェルから美徳の動きに関する情報を聞いて焦っているのだけれど…」

「あ~…だからですか…」

セリスが意味ありげに言うとあちこちがはねててまるで翼のようになってる白群の長い髪の女性が小さな少年と少女を連れてくる。

「メルトー!居るかー?」

「…ゼシア、今、メルトは出かけてますよ。」

「そうか。んじゃ、クライン、このガキどもの面倒は頼んだ!」

ゼシアはそう言って2人の子供をクラインに押しつけて帰ろうとする。

「いやいやいや、待ちなさいよ!この子たちの詳細なんも聞いてないんだけど?!それにアンタがヒトを持ってくるなんて絶対におかしいわ!この子たちのこと全部喋るまで帰さないわよ!」

クラインが掴みかかりそうな勢いでゼシアに言う。

「んな、デケェ声出すんじゃねぇ!オレも知らねぇんだよ!ただよくわかんねぇけど、女の方のガキが「」って、言ってたから連れてきてやっただけだ。マジでこれ以外の他の事はなんも知らねぇぞ。」

ゼシアはイライラしている様子でぶっきらぼうにそう言う。

「えぇ、アンタが嘘つく様なやつでは無いのは知ってるわ。アンタみたいなのが、それだけの理由でここに連れてくるとは思えなかっただけよ。」

クラインが睨みながら言う。

「まあまあ、喧嘩しないの。君たちが犬猿の仲なのは知ってるけど、今喧嘩してても意味が無いでしょ?」

ルチェルが優しげな雰囲気を出しながら言うとクラインも睨むのを止める。

「そうだな。ホントになんでそのガキ2匹はモルモットに加えようと思わないのか、自分でも不思議だぜ。ま、とりあえず、そのガキどもとメルトを会わせりゃ、なんかわかるかと思ってな。」

ゼシアはそう言うと来た道を引き返す。

「あ、そうそう。」

ゼシアは思い出した様に手をポンと叩いて言う。

「謙虚の野郎がメルトを探してるらしいぜ。野郎が何を考えてんのか知らねぇが、戻ってきたら気をつけるように言っときな。」

ゼシアはそのまま森の中の工房へと帰って行く。

少し経って、メルトとキリエが戻ってくる。

「ただいま~」

メルトが疲れた様子で言う。

「メルトさん、おかえりなさいませ!」

セリスが言うとメルトは嬉しそうに言う。

「その声はセリスだね!それにあの三人以外の皆が居るわね。」

メルトが言うとキリエがクラインの目の前にいる男の子と女の子に気がつく。

「あら?どこの拾い子なんです?」

キリエがクラインに言う。

「ゼシアが連れて来たのよ。なんでも純潔がこの2人を私たちの元へ行くように仕向けたとの事よ。それと、ゼシアがこの2人はモルモットにしたがらなかったわ。」

クラインが淡々とそう言うとキリエが驚いた表情をする。

それもそのはずだ。

キリエもゼシアがどんな性格かは十分に知っていた。

それは残忍極まりなく、恐ろしい程に無慈悲でヒトをヒトと思う事など天地がひっくり返ろうとありえないと誰もが口を揃えて言う様なやつなのだ。

キリエが驚きで言葉を失っているとメルトが言う。

「あらあら…この子達は面白い力を宿しているみたいね…」

メルトが2人の子供の目の前に移動し、目線を合わせるように腰を屈める。

「まずはあなた、名前を教えてちょうだいな。」

メルトが男の子を指さす。

「えっと…ぼ、ぼくは…」

男の子が困った様に女の子とクラインを見る。

「メルト、この2人には名前が無いそうよ。不思議な事に白い光に包まれたと思ったら、謙虚を名乗る女の人の前にいたとの事よ。それからは純潔に引き渡されて、純潔から私たちのところに行くように言われたみたい。」

クラインがメルトに言う。

「そういう事ね。にしても、アンカ・ネイトがを寄越すなんて面白いわね…」

メルトが転移者ポーターと言ったことでセリスが驚いた様子で言う。

「メルトさん、今、転移者って言いませんでしたか?!」

「えぇ、そうよ。きっと、転移ポネルを別世界に繋げたのね。でも、不完全だったから、この子たちの名前を置いてきてしまったみたい。なるほど…アンカ・ネイト…純潔が私の元に来れば居場所をもらえると考えたのも納得だわ。」

メルトは淡々と喋りながら、後半は楽しげに話す。

「ねぇ、あなたたちの好きな物を教えて。」

メルトは男の子と女の子を指さして言う。

「ぼくは体を鍛えるのが好き!冒険者として迷宮めいきゅう攻略を生業にしてて、ぼくの得意な物理攻撃が全く効かない特級クラスの魔物まもの珠裸胃霧スライムとか、逆に魔法まほうが全く効かない一級クラスの魔物の魔死司岩マジシャンとか、そんな強い相手とばかり戦って来たんだ!」

男の子が楽しそうに話す。

「私も体を鍛えるのは好きかな。お母さんとお父さんが武術の達人でお母さんからは合気道、お父さんからは空手道を教えてもらってて、全国2位まで行ったこともあるの!」

女の子も楽しそうに話す。

メルトが二人の姿を見ているかのような仕草をする。

「なるほどね…あなたたち、二人は異なる世界から来てるのね…の世界は私たちのこの世界と似ているみたいね。の世界には魔生成物モンスターこそいないものの、鍛え上げられた体なのは間違いないわね。」

メルトがそれぞれに指をさしながら名をつけると二人の身体に新たな力が宿ったように感じ、二人の姿が変わり、種族も変わったようだった。

「キリエ、鑑定しなさい。」

メルトがキリエに言うとキリエは鑑定をする。



名前:ティルレ(男性)
種族:|森人もりびと
適合属性:紫、黄
固有能力:空間制御ディザァホーズン絶対切断リファインメンタ・ブレイド
能力:転移ポネル無制限拡張術式インフィニット・マジカライズ魔力増強プリマバースト

名前:イリア(女性)
種族:女天使エンジェラ
適合属性:赤、青
固有能力:時限操作フェイタルオーダー
特殊能力:絶対防御ロヴィール防御無視ニーエテーション
能力:拳聖けんせい無属性魔法ニエンタ・マジック無制限打法インフィニカ・フォルティシッア



鑑定結果をキリエは淡々と告げる。

「もしかしなくても、めっちゃ力使ってたりするよね?」

クラインがメルトに言うとメルトは小さく首を振る。

「あなたが思ってるよりは使ってないわ。この世界に適合する様にこの子たちの望んだ姿に生まれ変わらせただけよ。キリエに鑑定してもらったのは能力を失ってないか確認するためよ。」



女の子…もとい、イリアは背中に烏のような真っ黒な鳥の翼があり、綺麗に整えられた紫水晶むらさきすいしょうの長い髪、天鵞絨びろうどの瞳、胸部の膨らみは大きく、背丈はキリエとほとんど変わらないほど低い。
見た目が幼い事もあり、合法ロリ巨乳ってやつだろうか?
知らんけど。

ティルレは森人族特有の長い耳、短めの消炭色けしずみいろの短い髪、蠟色ろういろの眼、体格は細マッチョ体格で背はゼシアとほぼ同じ。
ナイスバルクッ!大胸筋が踊っているよ!
…そこまでではないか。ゴリマッチョではないし…

ちなみにキリエは罪の名を冠するものたちの中で一番背が低く138cm程しか無いため、よく幼い子に間違われる。
合法ロリ、略してロリ。

逆に一番背が高いクラインは218cmと背が高く、二番目に大きなゼシアよりも30cm以上背が高い。
ちなみに龍人族の中では背が低い方らしい。
龍人族って、凄いね。

ゼシアは176cmと背が高い。
今の小学生ってさ、皆巨人かよってくらいでかいよね。
あ、別にゼシアは小学生じゃないよ。
て言うか、この世界に小学校ねぇじゃん。

…ちょっと長ったるいのでふざけました。
すんません。(By作…謎の観測者さん)
あ、凄い今更ですけど、色については和色大辞典ってサイトを参考にしてます(それこそ茶番ネタにしろよ!)

…にゃん。



「そう言えば、なんでこの子たちは召喚されたんでしょうか?わざわざ異世界から呼ぶ必要があったのかわからないんですけど…」

キリエがそう言うとメルトが言う。

「実験のようなものじゃないかしら?不完全とは言え、召喚に成功したのは興味深いわね。」

メルトはそう言うと突然背後の木に向かって魔力弾を飛ばす。

「メルトさん?!」

メルトは魔力弾で消し飛んだ木があった方を向いて言う。

「出てきなさい。隠れても無駄よ。」

メルトがそう言うと茜色あかねいろの長い髪と同じ色の目の少女が消し飛んだ木の隣の木の後ろから現れる。

「その紋章は…!」

クラインとキリエが戦闘態勢をとる。

「キリエ、クライン、この子は大丈夫よ。」

メルトがそう言うと少女が言う。

「初めまして、罪なる者たちよ。私は…純潔の美徳、アンカ・ネイトよ。」

アンカはそう言うとメルトに歩み寄る。

クラインがほんの少し身構えたが、メルトによって止められる。

「アンタは中立の立場じゃないのかしら?」

「ちょいと事情が変わってね。メルトに加担した方が良いかもと思ったのよ。」

「…そう。」

メルトが静かに言うとアンカが言う。

「もう既に気がついてると思うけど、美徳側はアンタたちを殺そうと軍を率いてるわ。今回は偵察に来ただけの様よ。」

アンカは全員が聞いているのを確認するかのように見る。

「次は本格的に殲滅にかかると言っていたわ。謙虚はこれに猛反対、私もわざわざ罪を犯していないアンタたちを殺そうとは思わないわ。だから、私は謙虚が着いたアンタたちの方に着くことにしたの。幸いにもあいつらは私を仲間だと思い込んでいるわ。ただの中立なのにね。」

アンカはそう言うとメルトを見る。

「問題ないわ。私が居るもの…しかし、美徳の能力を常に発動されるのは厄介ね。」

メルトがそう言うとアンカは一つの指輪をメルトに渡す。

「今、メルトに渡したのは美徳側が開発した能力拡張スキルブーストの指輪よ。特殊なラピスラズリを使った魔道具よ。」

「魔道具の開発…ねぇ…」

「通常、能力は常に発動する事は不可能とされているわ。だけど、それを使えば、それが可能になる。これはそういった類いの能力拡張を持っているわ。他にも魔法や能力の効力を高めるタイプの能力拡張も開発済みみたいね。」

アンカがそう言うとメルトは小さく首を振って言う。

「今はまだ私の力があるから良いけど、私が死んだら一気に壊滅するのは目に見えているわね…そのうえで私が居なければ、おそらく戦いにならないでしょうね。」

メルトがそう言うとキリエも同意する様に続ける。

「私とメルトさんの前に現れた節制もメルトさんの力が無ければ、私は確実に殺されていました。それほど、あちらは強いです。まるでかのようでしたね。」

「え~…それって、悪食が相手って事よね?でも、節制があちらについてんなら、それはありえないはずよ…」

キリエが禁忌を犯したと言うのを否定する様にクラインが言う。

「いいえ、禁忌を犯して、なおかつ節制があちらに着く方法があるわ。」

メルトは淡々とそう言う。

「でも、それって、悪食を犯したって事よね?だとすると、矛盾だらけよ。」

クラインが言うとメルトは頷いて言う。

「そうね。だから、私はこう考えたわ。奴らは悪食以外の禁忌…おそらくは献身亡き信仰ノーヴォリー良心亡き快楽アグラドゥールを犯した。これにより謙虚は敵対、純潔のアンカ・ネイトも敵対となる事になるわ。本来、正義は善であると言われるもの。しかし、それも度が過ぎれば悪となる。善と悪は切っても切れない、光があるから闇があり、闇があるから光があるの…禁忌と大罪が闇なら、美徳は光で無ければならない。それが世の理。」

メルトはまるで呪文を唱えるように感情の無い声で言う。

「悪食の様に全てを喰らう禁忌もあれば、献身亡き信仰や良心亡き快楽の様に人の社会で禁忌とされる禁忌もあるわ。今回は後者の人の社会での禁忌が原因よ。これにより、大罪が強くなり、相対効果として美徳も強くなったの。私たちが初めに課した縛りと似た仕組みよ。」

メルトはどことなく真剣な雰囲気を出す。

「キリエ、ガルアとゼシアに事を伝えなさい。ティルレとイリアを同行させる事も許可するわ。」

メルトはそう言うとティルレとイリアを見る。

「安心しなさい。貴方たちの力があれば大丈夫よ。私が与えた名を持っているんだもの…絶対に負けないわ。」

メルトの落ち着いて信頼の籠った言葉はティルレとイリアに勇気を与えた。

「ぼく、メルトさんのために頑張るよ!」

「私だって、頑張るよ!ティルレよりうんと活躍してみせるよ!」

「イリアには負けるわけにはいかないね!」

「当然よ!私だって、ティルレに負けられないからね!」

言い合う二人にキリエが言う。

「お二人とも、私語はそこまでにしましょう。これ以上はメルトさんを困らせる結果になりかねませんからね。」

キリエはそう言うと二人を連れながら言う。

「では、セリス、メルトさんを頼みましたよ。」

「はい!キリエさんもお気をつけて!」

セリスが言うとキリエたちは森の奥へと走って行く。

「クライン、貴方はルチェルとスレイとセリスとともにここを護りなさい。私はアンカ・ネイトを連れて節制を捕縛するわ。今のところ、節制に関しては単独である事。大罪武具が使えるキリエが動きやすくなれば、作戦もたてやすくなるわ。」

メルトがそう言うとアンカはメルトに言う。

「節制が単独なら、逆にそちらに人員を割いた方が良くないかしら?」

「確かにアンカ・ネイトの言う通り、人員を割くべきはこちらでしょう。しかし、逆にそれを狙っているとしたら?」

「…なるほどね。それなら、こっちの方が準備が出来てる分、強く出られるわね。」

「そういうことよ。それになんだか嫌な予感がするし、この辺りは私たちの拠点もあるから、かなり厳重に護らないと危ないのよ。」

メルトは転移の魔法陣を使って、アンカ・ネイトとともにある場所に行く。

「着いたわよ。」

メルトはそう言って、カバンから表面が輝いている黒い水晶のような物を取り出す。

「…ジャミング。」

メルトはそう言うと妨害ジャミングを発動させる。

黒い水晶の様なものは「ピキッ」と音を立てて粉々になる。

「アンカ・ネイト…いや、謙虚、私の目は誤魔化せないわよ。今なら、殺さずに捕縛だけで済ませてあげられるわ。」

メルトがそう言うとアンカは小さく笑って右手で服の左肩を掴むとそれを放り投げるように後ろに投げ飛ばす。

そして、そこには幼い子供の姿の薄紅うすべにの左眼に勿忘草色わすれなぐさいろの右眼の少女が居た。

「はーい。こうさん、こうさーん!わたしのまけでーす!」

少女はそう言うと両手を挙げて手を振る。

「正直、あんたが禁忌を犯した側に着くとは思わなかったわよ。」

メルトはそう言って黒の魔力で少女が敵対行動を行えない様にする。

「いやぁ…はじめはほんとにあいつらがきらいでさぁ…ていうか、いまもきらいなんだけど…」

少女はメルトに一枚の紙を渡す。

そこにはアンカ・ネイトが捕らえられている絵が描かれていた。

「それはあいつらにじゅんけつがとらえられたしゃしんよ。わたしとじゅんけつがうらでてをくんでいたのが、バレてじゅんけつがつかまったの。じゅんけつをたすけたくば、われわれのいうことをきけっておどしもんくつきでね。わたしはじゅんけつをたすけるためにきょうりょくするフリをしていたわ。」

少女は静かに頭を下げる。

「ともだちをたすけるためとはいえ、だましてごめんなさい。」

少女はそう言うと5つの武具を異空間から取り出してメルトに渡す。

「それはわたしがこっそりあいつらからうばったきょうりょくなちからをひめたぶき…」

少女がそう言うとメルトは少女に対する黒の魔力の縛りを解放し、それらを受け取って表情を変えることも無く異空間にしまう。



龍殺しの魔剣、神剣バルムンク。

破壊不可の特殊なサファイアと黄金で出来た刀身が青白く光る意志を持った剣であり、所有者に対する精神汚染を防ぐ力がある。


断罪の炎剣、魔剣レーバテイン。

赤いオリハルコンで出来た刀身に緋色の炎を纏う剣であり、所有者の魂に対する状態異常を無効化する力がある。


神殺しの双弓、神弓フェイルノート。

白い指輪と黒い指輪の2つの指輪であり、それぞれが白属性と黒属性の力の矢を発射する力があり、共通して敵対者を塗り潰す事でその能力を無力化する力があり、弓を引く動作をすると威力が跳ね上がる。

破壊の魔槌、魔槌ワールドクラッシュ。

破壊不可の特殊な黒い鉄で出来ており、所有者の攻撃に如何なる耐性や防御能力も無視する完全防御貫通を付与する力があり、これは所有者の魔法にも適応される。



「これは…超古代文明武具ロスト・ウェポン…世界樹が鍛えたとも言われる伝説の武具ね…」

「おやおや…勝手な真似は困りますよ。」

メルトの背後の茂みから紋章のある男性が出てくる。

「せっせい!?」

少女が驚いたように言う事で節制と呼ばれた男性は胡散臭い笑みを崩さずに言う。

メルトはゆっくりと振り返る。

「初めまして、罪の王プシュマキア。僕は節制の美徳、アレイスと申します。冥土の土産に覚えていってくださいな。」

アレイスはそう言うと胡散臭い笑みを浮かべたままお辞儀をする。

「ご丁寧にどうも。私が原罪のメルトよ。」

メルトは感情を感じさせない声で言う。

「せぶるす…きをつけて。あいつは、じゅんけつよりつよい…」

アレイスは胡散臭い笑みのまま見下した様な冷徹な視線を少女にぶつける。

「何を言っているのです?お前も原罪を殺すのですよ。お友達がどうなっても良いんですか?」

メルトはアレイスの視線を遮る様に少女の前に立つ。

「その前にアンタを倒すから大丈夫よ。」

メルトは右手を突き出し、4本指を立てる。

「4分だ。」

アレイスは意味がわからないと言いたげに首を傾げる。

「4分でアンタは私に負ける。安心したまえ、殺しはしない。」

メルトが淡々とそう言うとアレイスの表情が胡散臭い笑みから怒りの表情に変わっていく。

「良いでしょう。ならば、完膚なきまでにぶっ殺してやりますよ。そのうえで、そこの愚かな裏切り者にも罪を償ってもらいますよ!」

アレイスがそう言うと不可視の鞘に収められていた神剣エクスカリバーを取り出して、メルトに斬りかかる。

しかし、メルトは足元に落ちていた木の棒を拾うとその一撃を止める。

「遅過ぎるわ…眠ってても良いかしら?」

軽く強化魔法を施されただけの何の変哲もない木の棒に己の攻撃を完全に受け止められたアレイスが言う。

「…舐められたものですね。だが、これで終わりです!」

アレイスが距離を取って、そう言うとエクスカリバーが輝き始める。

「せぶるす!」

少女が叫ぶ。

「エクスカリバー、我が声に応えて、その力を解放せよ!」

とてつもない魔力がエクスカリバーに集まる。

「なるほどね…これがエクスカリバーの力か…魔力の流れがどうなっているのかしっかり調べたいね。回路の解析も出来るかしら?」

メルトはそんな事など気にもとめてない様子で興味深そうにエクスカリバーを見ている。

「エクス…カリバー!」

アレイスがエクスカリバーを振るうとそこからとてつもない魔力量と熱量を備えた光の束が発射される。

「なるほど…これが神剣エクスカリバーの魔術回路か…今の魔術回路の改善点が見つかったね。しかし、これを再現するには…」

メルトのすぐ目の前まで光の束が迫る。

少女が両腕で顔を覆い隠す。

そして、とてつもない爆発とともに天に光の束が立ち上る。

「ふははは!原罪ともあろうものが、この程度だったとはな!やはり、大罪の名を冠する者など、俺一人で十分殺せたでは無いか!口だけ達者な弱き者などおそるるに足らんな!」

アレイスは勝ち誇っていた。

だが、彼は知らない。

メルトはその程度ではかすり傷一つつくことは無いと…

少女は驚きの表情で砂埃の中にいる影を見ていた。

砂埃が晴れるとともにアレイスの顔が驚愕へと変わる。

「な…」

メルトの周囲には魔力の壁が形成されており、それがエクスカリバーの光を完全に無力化した事を示唆していた。

「なぜ生きている!いや、そもそもかすり傷すらついていないのはおかしい!」

メルトは明らかに動揺したアレイスの質問に答える様に言う。

「何故?見て分からないのかしら?魔力で防御したからよ。」

メルトの周囲の魔力の壁が消える。

「ふわぁ~…さて…残り1分もあるけど、どうする?」

メルトが気だるげにそう言うとアレイスは紋章を光らせる。

「人の形をした化け物め!こうなったら、本気で殺してやるよ!俺に能力を使わせた事を後悔しな!節制の万象テンプレンス・オルフェンス!」

10秒、アレイスがメルトに無数の剣撃を加え、メルトは木の棒で全て受け止める。

20秒、アレイスがエクスカリバーの魔力を高めながら徐々に勢いを増す。

30秒、さらにアレイスの勢いが増し、エクスカリバーの魔力が高まる。

40秒、アレイスの勢いが最高点に到達し、エクスカリバーの魔力が高まる。

50秒、アレイスのエクスカリバーが煌めく。

55秒、エクスカリバーの魔力が最大になる。

「残念、時間切れ。」

メルトはそう言うと一瞬でアレイスの身体に左の拳をぶつける。

「ガッ!?」

60秒、アレイスが倒れ、エクスカリバーの魔力が拡散されて消失する。

「4分ピッタリね。」

メルトがそう言って、不可視の鞘とエクスカリバーを回収すると背後に転移の魔法陣が現れ、そこからセリスが現れる。

「メルトさん、キリエさんたちがアンカさんの救出に成功したようです。それとクラインさんとスレイさんが感謝を捕縛した様です。」

セリスの報告を聞いたメルトは「当然だ」と言いたげな雰囲気を出しながら言う。

「えぇ…わかっているわ…」

メルトはセリスの方へ向くと言う。

「セリス、貴方にはまだ別の選択肢が残されているわ…」

メルトは右手の指を3本立てて言う。

「1、私たち罪を裏切り、美徳に加勢する。2、私たちとともに世界を滅ぼす。3、ここで私を殺して、英雄になる。」

セリスはそれを聞くと一瞬とても驚いた表情をしたが、すぐに真剣な表情で言う。

「当然、2しかありえませんよ。私の命を救ってくれたメルトさんを裏切る事など出来るわけが無いでしょう!それに…」

セリスは「フッ」と笑って言う。

「私、メルトさんの事が大好きですから!愛してると言っても過言では無いほどにね♪」

メルトはほんの少しだけ驚いた表情をする。

「そんなに好かれる事をした記憶は無いのだけどね…でも、とても嬉しいわ。」

メルトの柔らかな微笑みと体の感触がセリスを包み込む。

「えっと…おめでとう?」

完全に空気と化していた少女が首を傾げて言う。

「おっと、あんたも居るのを忘れていたわ。」

メルトは少女に向き合うと優しげな声で言う。

「謙虚、あんたの名前を教えなさい。」

少女は真っ直ぐにメルトを見つめて言う。

「わたしはクレア!クレア・アルフェノーツよ!」

クレアは胸を張って言う。

しかし、胸が無いため、ただただその幼い身体が強調されるだけとなった。

「クレア…とても良い名をもらったのね。」

メルトが微笑むとクレアは今までの緊張した様子から安心した雰囲気に変わる。

その直後、クレアはヘナヘナとその場に座り込んで泣き始める。

メルトが落ち着くまでクレアを抱きしめる。

しばらくして、クレアは落ち着きを取り戻して言う。

「ごめんなさい…あんしんしたら、がまんしてたものがあふれちゃったみたい。」

「良いのよ。あんたはまだまだ幼い子供だしね。」

メルトが優しく頭を撫でるとクレアは嬉しそうに頬を緩ませていた。

「さ、帰るわよ。クレアも着いてくると良いわ。」

メルトがそう言うとメルトが捕らえたアレイスをセリスが魔力で浮かばせて魔法陣に運び、メルトとクレアが魔法陣に入ったのを見て転移を発動する。

そして、浮遊感の後、視界には見慣れた景色が広がった。

「おかえりなさい。」

キリエがそう言って微笑む。

「その声はキリエかしら?戻ったわよ。」

メルトがキリエの声に反応すると茜色あかねいろの長い髪と同じ色の目の少女がメルトに飛びつく。

「メルト!」

「おっとと…アンカ、私は目が見えないのだから、いきなり飛びつくなと言っているだろう?」

ギュッとメルトを抱きしめる少女は純潔の美徳、アンカ・ネイトだ。

そのスラリと伸びた白い右脚には彼女が美徳である事を示す紋章があった。

アンカは眼に涙を浮かべながら言う。

「だって!メルトが美徳と戦うって!」

「それなら、メルトさんがいちげきでたおしたよ。」

「クレ…謙虚?!」

アンカが驚きの表情でクレアを見る。

「大丈夫よ。クレアも私たちの仲間になったわ。」

「わたしもじゅん…アンカとおなじ…」

「そっか…アンカちゃんが感謝に捕らえられてたから、てっきりそのまま戦ったのだと思ってたよ…でも、クレアも無事で仲間になるなら百人力だね!」

アンカは大喜びでクレアに言う。

「ん~…そうともいってられないかもしれないよ…だって、あいつら、アンカのすきるをつかえなくしてきたでしょ?」

「能力を使えなく…?」

メルトが興味深そうに首を傾げていた。

「そうなんだよ!確か能力封印スキルロストとか言ってた気がするけど、その魔法が唱えられた瞬間、純潔の能力が使えなくなってさ。それ以外にも魔法とかも使えなくなってたから、か弱いアンカちゃんでは手も足も出なかったのよ。なんて言うか、魔術回路の一部を破壊されたような感じだったわ。」

アンカがそう言うとメルトは納得した様子で言う。

「おそらく、それは私が妨害ジャミングと呼んでいるものね。私の場合は感覚も奪う事が出来るけど、その能力封印は能力を使えなくする事に特化させたものになるはずよ。」

メルトはそう言うとクラインとスレイが捕らえた鉄黒てつぐろの短い髪に緋色ひいろの目で睨む青年…感謝の頭に右手を置いて言う。

「アンタに2つ、選択肢をあげるわ。」

メルトは感謝の目線に合うように屈んで、空いてる左手を突き出す。

「1、これから私の問に自分から正確に答えて苦しまずに死ぬ。2、私の魔法で強制的に記憶を読み取られて地獄の苦しみを味わいながら死ぬ。好きな方を選べ。」

メルトから発せられた圧倒的な殺気に感謝の瞳にはほんの僅かに涙が溜まる。

「し、死にたくない…」

メルトは恐怖に震える感謝の青年に微笑みかける。

「ならば、素直に答えてもらおう。それで私の気が良ければ殺さないであげるわ。」

メルトが冷たく言い放つと青年の目から光が失われた。

絶望に沈んだその瞳からは生気を感じない。

「問おう。貴様らの目的は何だ。」

青年は感情の無い声で言う。

「解。それは背信者の殲滅、そして原罪の殺害。」

ここまではメルトも予想していた通りの事だ。

「では、さらに問おう。貴様は何故、クラインを狙った。」

青年は感情の無い声で言う。

「解。それは私が感謝の人徳であり、嫉妬を屠るべきと考えた王による指示。」

クラインが驚いた表情をしていた。

「では、最後だ。貴様らの王の名を言え。」

そこで初めて、青年が狂ったような表情をする。

「ア…ガ…カイ…カイ…カイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカカカカカカカカカカ…」

青年の様子がおかしくなった事を理解したメルトが青年と自身以外の背信者との間に魔障壁を展開し、様にする。

青年が沈黙する。

しばらくの静寂の後に青年は感情の無い声で言う。

「解…混沌の仮面ニャルラト…外界より舞い降りし、知恵の支配者…お前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちのお前たちの…」

再び青年が狂った様に同じ言葉を繰り返す。

そして、しばらくの静寂の後に青年は再び感情の無い声で言う。

「お前たちの世界を破壊し、我が王に献上する。にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!にゃる・しゅたん!にゃる・がしゃんな!我が魂を献上せよ。暗黒のファラオ万歳!ニャルラトテップ万歳!くとぅるふ・ふたぐん…にゃるらとてっぷ・つがー…しゃめっしゅ!しゃめっしゅ 
!にゃるらとてっぷ・つがー!くとぅるふ・ふたぐん!豺キ豐後?遏・諱オ縺ョ邇九h…謌代r蝟ー繧峨>、謌代i縺悟、ァ邇九∈縺ョ遉弱→縺帙h!
「えっと…その…」

少女が戸惑った様子で言う。

「貴方、名前は?」

メルトが優しげに言う。

「し、シエラ…です…」

シエラと名乗った少女がとても緊張した表情で言う。

「そう…シエラ…良い名前ね…」

メルトは静かに微笑んで言う。

「私はメルトよ。見ての通り、背信者の一人よ。」

メルトは胸の紋章を指さして言う。

「えっ…」

シエラの表情が固まる。

「あらあら…シエラには刺激が強かったかしら?」

メルトが楽しげに微笑む。

「ルチェル」

メルトはルチェルに呼びかける。

「ん~?」

ルチェルが気の抜けた様な声で言う。

「シエラのお世話は貴方に任せるわ。同じ森人エルフの貴方なら、彼女の事もよくわかるでしょう?」



この時代ではまだ森人族エルフ精霊族ロリフの区別が無く、精霊族の事は特殊な血を持つ森人族だと思われていた。

森人族の血には特にこれと言った力は無いが、生きている状態の精霊族の血を飲めば若返りの効果がある。
その為、度々幼い外見の森人が狙われる事があるのだ。
そして、その血の影響で精霊族はある一定まで育つと途端に身体の成長が急激に遅くなり、ほとんど成長しなくなるのだ。

これが精霊族が他種族のヒトでは考えられないくらいの寿命の長さに繋がる。

実際に森人族と精霊族が別種である事がわかるのはメルトたちが存在したのが、忘れ去られるほどに遠い昔の時代になる頃だ。

ちなみにルチェルもシエラと同じ精霊族なので、同じ種族ではあるのだ。



「え~…ルーさんより、キリエとかの方が良くない?ルーさん、ずぼらだし、めんどくさがりだし…」

「あらあら…そんなに喜んで快諾してくれるなんて嬉しいわ~」

「いや、ルーさんは快諾してないし…なんて言ったところで聞き入れてはもらえないか…」

ルチェルが面倒くさそうに諦めた様子で言う。

「心外ね。私だって、無理な相手に言う事は無いわよ?」

メルトが不満げに頬を膨らませて言うとそれを肯定する様にセリスが頷きながら言う。

「メルトさんの言う通りですよ。なんたって、ルチェルさんはあのクラインとゼシアの喧嘩を止められる唯一の人ですからね。そこに1人や2人増えた程度ではルチェルさんにとっては変わらないでしょう?」

「いや、それならセリスだって、ガルアのお世話してたし、適性は高いと思うんだけど…」

「いいえ、不可能ですよ。私には目が見えないメルトさんのお世話がありますからね。」

「いやいやいやいや…メルトは魔力感知出来るし、そもそも右眼はまだ見えるじゃないか…」

「フッ…」と微笑みながら言うセリスにルチェルは反論する。

そんな2人の様子を見たシエラが言う。

「すみません…邪魔ですよね…こんな、なんの力も無いボクなんて…ご迷惑をおかけしてすみませんでした…さっさと消えるので、どうかお許しください…」

シエラはそんな事を言ってダッシュで来た道を引き返そうとする。

「待ちなさいよ!」

ルチェルが大声で呼び止める。

シエラが驚いて立ち止まるとそのままルチェルはシエラの後ろまで歩いて行き、両手で肩を掴んで自身の方へ身体を向かせる。

「す、すみません!」

シエラが謝る。

「何でアンタが謝ってんのよ!アンタはむしろ怒る側でしょうが!」

何故かルチェルがブチギレた様子で言う。

「えっ…」

シエラが驚いて目を丸くしていた。

と言うか、セリスも驚いた様に目を丸くしていた。

「アンタが力が無い?アンタ、そんな馬鹿げた魔力持ってる癖に何言ってんのよ!それにアンタは諦めが早すぎ!せめて、私を説得しようとくらいしなさいよ!そんなんだと生きていけないわよ!ついでに言うけどね!アンタは…」

もっと栄養価の高い食事をしろとか、もっと身体に肉をつけろとか、まるで実家のオカンみたいな説教をコンコンと続ける。

ルチェルが普段の穏やかな彼女からは考えられないほど怒っているのにはわけがあった。

それはメルトのみが知る事だが、目が見えないメルトにはルチェルが大声を出している事しか分からなかったし、わざわざ言う事も無いと思っていた。

小一時間ほど、ルチェルはシエラに怒っていた。

「はぁ…はぁ…とにかく…アンタは…ルーさんが…育てるから!覚悟しなさいよね!」

ルチェルは肩で息をしていた。

「わ、わかりました」

シエラが戸惑った様子を見せながらも了解する。



それから2年が経った頃…

「メルトさん、ボクです!シエラです!」

シエラの目線の先には杖の代わりの棒切れで身体を支えるメルトが居た。

「すまないねぇ…もう足もほとんど動かせなくなってしまってねぇ…」

メルトが申し訳なさそうにしながらもシエラに言う。

「いえ、お気になさらないでください。それよりもお身体の方は大丈夫ですか?」

シエラは心配そうな表情で言う。

それもそのはずだ。



今から1年と半年前、メルトの病状が急激に悪化したのだ。

その為、半年はセリスとキリエで陽が出る頃と月が出る頃で交代して看病していたが、その半年後にキリエが突然行方不明になった事でセリスが一人で看病する事になっていた。

シエラも手伝おうとしたが、セリスが言うに適切な処置をしなければならないとの事でシエラは黙って見てるしか出来なかったのだ。

以前は時折、手料理を振る舞っていたルチェルもずっとメルトの病気の進行を遅らせる薬を作るのに時間をかけていて、昼間はほとんど寝ている事が多くなっていた。

こんな時にガルアとゼシアが居ればと思うが、彼女らは2年前にキリエが捜索した時に見つからず行方不明となっていた。

それが今まで続いている為、ルチェルしかメルトの薬を作る事が出来なくなってしまったのだ。

ルチェルは元々森人の国の出身の為、薬草には詳しく、ガルアの手伝いもしていたので、薬の調合にはかなり詳しかった。



「それに関してはセリスのおかげで調子は良いわ。」

「そうですか…」

メルトは明らかに2年前にシエラが会った時よりも痩せており、以前より細くなった身体に少し小さくはなったが、大きな胸が重々しく感じる。

「シエラ、今日あなたをここに呼んだのは他でもない。私の罪の王プシュマキアの力を継承してもらう為よ。」

シエラはそれを聞いて驚いた様に目を見開く。

「メルトさん、それって…」

メルトはシエラの口を人差し指で閉じさせる。

「あなたは何も知らないわ。良いわね?」

シエラはメルトの言葉に静かに頷くしかなかった。

衰えた姿になろうとメルトの力は自分を遥かに上回ると理解する。

同時にメルトはしている事も理解する。

「よろしい。」

メルトはそう微笑むとシエラに魔法陣の上に乗るように指示する。

シエラが魔法陣の上に乗るとメルトが言う。

「形略、ヌル。これは王の継承…」

メルトが魔力を魔法陣に流し始める。

第一元素の黒が浮かび上がる。

「形略、アン。新たな時代への宣言…」

メルトがさらに魔力を流す。

第二元素の白が浮かび上がる。

「形略、ドゥ。我が罪の王冠は彼の者の名に宿る…」

第三元素の赤が浮かび上がる。

「形略、ドラ。我が円環の理を紡ぎし者…」

第四元素の青が浮かび上がる。

「形略、フィ。輪廻に宿りし力…」

第五元素の黄が浮かび上がる。

「形略、フユ。新たなる王…」

第六元素の緑が浮かび上がる。

「形略、シス。目覚めの時…」

第七元素の紫が浮かび上がる。

「形略、ズイ。その名を告げよ…」

第八元素の金が浮かび上がる。

メルトが静かに右眼の包帯を解き、シエラを見つめる。

「新たなる王よ…その名を紡ぐが良い…」

シエラは本能的にそれが何を意味するかを理解した。

そして、静かに目を閉じて言う。

「契約、アハト。我が名はシエラ…シエラ・ティ・アルフェノック・アルディアンセ!罪の王を継ぎし者!」

全ての元素がシエラの頭上に集まり、冠の様な形になる。

「ようこそ。新たなる罪の王プシュマキア…」

メルトがそう言うと「カーン!」と何かを打ち上げるようで落ちたような不思議な感覚の音とともに冠がシエラの頭に装着され、まるで浸透して行くかのようにシエラの身体に入っていく。

そして、シエラの右脚に罪の名を刻む紋章が現れる。

メルトの紋章は力を失って消えた。

それと同時にメルトの右眼の力もメルトから失われ、シエラに継承された事を理解する。

「ようやく…最後の仕事が出来るわね…」

メルトはそう言うと魔力で自身の身体を浮かせて移動させる。

「シエラ、アナタはこれからの未来をその目で見なさい。そして、ヒトに間違いがないように導きなさい。それがあなたの役目よ…」

メルトはそう言ってセリスを呼ぶ。

「メルトさん…」

セリスが心配そうに見る。

「大丈夫よ。あなたのおかげで調子がいいもの…」

メルトは優しく微笑んで、セリスの頭を撫でる。

そして、セリスに指示をする。

「セリス、紫の国ヴァイオレッタに向かうわよ。」

セリスはその言葉を聞いて理解する。

「メルトさん…了解です…」

セリスは転移の魔法陣を展開してシエラに言う。

「シエラさん、後は任せましたよ。」

メルトがそんな様子のセリスに言う。

「あら、あなたも未来を紡ぐ一人なのだけれど…」

「私にはメルトさんが居ない世界など不要です。言ったでしょう?私はメルトさんの事を愛してると言っても過言ではないほどに愛しい存在なのだと…それはメルトさんが一番ご存知のはずですよ。」

「…そうね。あなたはそういう娘だったわね…」

メルトは残りわずかな命をかけて最後の侵略に臨む。

「メルトさん、お気をつけて…」

シエラがそう言うとメルトは小さく手を挙げて応える。

「それじゃ、

そして、二人が転移したのを見届けたシエラは言う。

「さようなら…メルトさん…」

少女の足元に雫が落ちる。

「…タイミングが悪かったみたいね。」

小さな森人が少女に言う。

「ルチェルさん…私…」

ルチェルはシエラを優しく抱きしめる。

「人間の時間は速い…本当に…そう思うよ…」



浮遊感が無くなり、視界がハッキリとする。

「メルトさん、着きましたよ。」

メルトはセリスからそれを聞くと真っ先にキリエが捕らえられている牢に向かう。

邪魔者を吹き飛ばしながら、メルトはキリエのところまで辿り着く。

「メルトさん?!」

全身痣や怪我だらけでやせ細ってしまったキリエが鎖に繋がれて檻に閉じ込められていた。

キリエは一瞬驚いた様子で声を出して、光が失われていた瞳に光が戻ってくる。



キリエは単独で1年前に緑の国ヴェルードゥイを跡形もなく崩壊させたが、力を消耗した隙を狙われて、紫の国ヴァイオレッタの軍とともに行動していた忍耐によって捕縛されて、牢に入れられていた。



「キリエ…遅くなってごめんね…あなたを連れ戻すのに一年もかかってしまったわ…」

メルトがキリエを解放し、回復させる。

「メルトさん…その…私は…」

キリエが言おうとしているのは3人の罪の名を背負う者たちの事だ。



3人は2年前の時点で行方不明となってしまっていた。

それから何ヶ月も探していたが、既に死亡したと言う結論が出るほどにありとあらゆる痕跡が無くなっていた。

後にこの判断が力の在り方を大きく変える事になる事を知るのは、その時代まで生きる二人以外は誰も居なかったと言う。



メルトはキリエが何かを言う前に言う。

「キリエ、あなたは今すぐ王の元に帰りなさい。私は王が平和に暮らせる世界を作りに行くわ。」

「そんなっ!私も連れて行ってください!私だって、あなたのお役に…」

キリエはそこまで言って突然止まる。

「メルト…さん…」

メルトは泣きそうなキリエに言う。

「良い?あなたには未来を見る義務があるわ。私の創った未来を…ね…だから、王の元に戻るのよ。王と共に未来を見なさい。そして、私に報告なさい。それがあなたのこれからの役目よ。」

キリエは静かに下を見て言う。

「わかりました…ご武運を…」

キリエはそう言うと転移する。

「逃げられてしまったなぁ…」

メルトの背後に陽に照らされて煌めく月白げっぱくの長い髪、秘色色ひそくいろの眼で背が高く、胸部も大きく分厚く、細く長い鬼の様な角が生えた人型…鬼人おにひとの女性が立つ。



鬼人はアリスたちの時代では鬼族オーガだと言われている。

鬼族には、ヒトに非常に近い種で緑色の肌のゴブリンの一種だが、人の様に知性を持って社会生活を行う緑鬼りょくきや同じくヒトに非常に近い種で赤色の肌の緋鬼ひおにの様な身体の色が違う種も存在しており、様々な体色や身体能力があるが、それぞれに共通する事は変わらなかった。

ただし、その角にも大小様々な大きさがあるのだが、それはまた別の時に紹介するとしよう。



高低差がある為、メルトを見下ろす形になっており、セリスは死角にいたため見えていない。

メルトは振り返ること無く言う。

「逃がしたの間違いでしょう?」

女性が「ガッハッハッ!」と豪快に笑う。

「俺がそんな甘ちゃんに見えるかよ!」

メルトはゆっくりと振り返り見上げる。

「そうね。そこから降りて来ないほどには…ね…」

メルトがそう言うと女性が飛び降りて、地面が割れる。

「これで満足かい?」

「上出来よ。」

女性が拳を構えると同時にメルトが足に魔力を纏う。

セリスが出ようとするのを止める。

「ほう?そのひょろひょろの身体だけで俺に勝てると?」

女性が鬼の力を解放して突風を放ちながら言う。

「ハンデをあげたのよ。全盛期の私だと力の差があり過ぎてお話にならないからね。」

メルトは魔力強化により、自由に動かせる様になった足を使って身を低くする事で女性の右ストレートを回避する。

「せいっ!」

「おわっと!」

メルトの右腕から繰り出された手刀に右脚を持っていかれて、女性がバランスを崩すが、一度地面を転がって即座に体制を立て直す。

「ハッ!テメェのそれがハッタリではねぇ事は認めてやるよ。」

女性がニヤリと笑って言う。

「俺の名はガレスだ。覚えときな!」

ガレスがそう言って力強い構えを取ると同時にメルトが言う。

「そう。私はメルトよ。今はただの反逆者よ。」

「おもしれぇ!ぶち殺してやるよ!」

ガレスが右の拳を突き出すと同時にとてつもない威力の衝撃波が発生し、メルトの身体を破壊しようと迫る。

「あら、私は遠距離の方が得意なのよ?」

メルトはそう言いながら、風の魔法で衝撃波を完全に無力化する。

「そんな事、想定済みだぜ!」

魔法を使った隙を狙ってメルトの懐に潜り込んだガレスが拳を突き上げようとしていた。

「リファインド!」

メルトは魔力を纏った洗礼された動きで紙一重で回避し、そのままバク転で距離を取る。

「今のを避けるとはな…ますます全盛期のテメェと殺り合え無いのが悔やまれるなぁ!」

ガレスはとても楽しそうに笑う。

「そうねぇ…私も後5年早く、アンタたちの国の存在を知っていれば3日のうちに滅ぼせたのにねぇ…」

メルトは目が見えなくなって高度な技術を要する魔法を扱えなくなった3年前の時点でも国の一つや二つは軽々と滅亡させられるほどの実力者だった。

それが病により急速に衰えたとしてもメルトの寿命が尽きるまでに彼女に敵う相手は居ないと言われるほどにメルトは強かった。

その為、誰もがメルトを恐れると共にこの世界に力を与えた存在を信仰していた。

その存在こそが破滅の魔王…「罪の王プシュマキア:メルト」だったなんて誰が想像した事だろうか…

「3日で俺たちの国を全て滅ぼすだ?んな馬鹿げた事、出来るわけねぇだろ。せいぜい落とせて1つじゃねぇのかよ。」

ガレスは驚いた様子で言う。

「失礼します。メルトさんはあなた方が思っているより、本当にお強いお方ですよ。災厄の黒龍でさえもメルトさんからすれば可愛いトカゲちゃんだと言ってましたし、実際にそれほどに黒龍を圧倒していましたからね。」

セリスが淡々とガレスに告げるとガレスは引き笑いをしながら言う。

「あの黒龍が可愛いトカゲちゃんだと?!そんな馬鹿げた力があったなら、今の衰えたはずのコイツでさえ、馬鹿みたいな力を持ってるのも頷けるってわけかよ…」

ガレスは目の前の風が吹けば簡単に倒れそうなほどに細い身体のメルトを見る。

「今の私でも倒せなくは無いけど、かなり消耗は激しいでしょうね。しかし、ヒトの国を滅ぼすには十分過ぎる力が残ってるわ。」

メルトはそう言うと左手で「パチン」と指を鳴らす。

するとこの国に入国する為の審査待ちの列の最後尾を末端とした半径数kmほどの大結界が瞬時に構築される。

「んなっ!?」

ガレスが驚いた様子で周囲を見渡す。

「その魔眼にしっかりと焼きつけるが良いわ…これが罪の王プシュマキアだった者の力よ。そして、この国は私の手で消す。残りの2つの国も…全て違う方法で消す。跡形もなく木っ端微塵すら優しく思えるほどに…ね。」

メルトの威圧感に怯んだガレスをメルトが左足で繰り出した足払いで倒す。

「…これが…罪の王…プシュマキアの力…!」

ガレスは目を見開く。

その眼の前には光を纏った拳が迫っていた。

「ほい。」

「ズドーン!」と背後の壁が木っ端微塵になるのをガレスは感じた。

ガレスは自身の顔に当たる寸前で止まった拳を見る。

「…」

ガレスはその拳の元で愉快な笑みを浮かべる者を見た。

「ガレス、お前に2つ、選択肢をやろう。
 1、このまま私の拳に顔を吹き飛ばされる。
 2、お前も罪の名を背負って罪の王プシュマキアに従う。
さあ…好きな方を選びなさい。」

メルトの失われた左眼が黒い包帯の下から青く輝く。

「…3、罪の名を背負わずにプシュマキアに従う…だ。俺にその力を持つ資格はねぇ。」

ガレスは静かに目を閉じる。

「ガレス、お前は何か勘違いをしていないか?」

メルトがそう言うとガレスは目を開ける。

「私は選択肢は2つだと言ったはずだ。私が何故お前を選んだのだよ。直接拳を交えた私が…だ。」

メルトはガレスの目の前の拳をピースの形に変えて言う。

「改めて聞くぞ?1と2、どちらかを選べ。」

ガレスは静かに立ち上がって言う。

「俺は…お前の期待通りの奴じゃねぇかもしれねぇ…だけど…」

ガレスはメルトの目をしっかりと見て言う。

「俺は全力を尽くす。それが例えこの世界の国に仇なす行為だとしても!」

そしてガレスは声高らかに宣言する。

「俺は罪の名を背負い、プシュマキアに仕える事を宣言する!大罪よ…俺の元に来い!」

その様子を見たメルトがニヤリと笑って言う。

「良かろう…汝に新たなる力を刻もう!」

ガレスの胸に罪の名を背負う者の紋章が現れる。

「これは…」

ガレスが不思議そうに見る。

「それは憤怒イラ…サタンの紋章…破壊と創造をもたらす赤き怒りの力…」

メルトが静かに言う。

「そうか…俺にピッタリな力じゃねぇか…」

ガレスがニヤリと笑う。

「失われた罪の名は本来ならば、私が決める事は許されていない。だけど、今はまだ私に権限がある。私がこの世界から消えて初めて権限が継承される。それほどに私はこの力を使い過ぎた。世界をより強く、より生きやすくする為に…」

メルトが放ったその言葉はメルトの死の運命を現していた。

セリスもこうなる事は薄々気がついていたが、あえて黙っていたのだ。

「さて…新たなる憤怒よ…」

メルトが呼びかけるとそれに呼応する様にガレスの力が溢れる。

「汝に命ずる。この国を焼き払え。」

ガレスは溢れる炎を解放しながら、街を融解させながら焼き尽くしていく。

そして、メルトとセリスはこの混乱に乗じて城の内部に潜入し、紫の王の目の前まで移動する。

「貴様…!何者だ!」

紫の王のキリエとは正反対のバストサイズの白く長い髪と緋色ひいろに輝く瞳の猫族の女性がメルトを見て言う。

「あら?見てわからないかしら?お前たちが今まで忌み嫌って来た存在の親玉よ。」

メルトが挑発する様に笑いながら言う。

「メルトさん、こいつはセリスが相手しても良いですか?」

「その紋章…背信者か!」

紫の王がセリスの紋章を睨みつけて言う。

「はい。私は強欲アバリアのセリスです。あなたの娘…キリエの友人です。」

セリスが淡々と言う。

「黙れ!私の子にそんな名を持つものは居ない!」

紫の王が怒りの表情で爪を伸ばして言う。

「おや。それは失礼しました。では、貴様の名前を教えていただけますでしょうか?」

セリスが感情を感じさせない淡々とした声で言うと紫の王が全身を猫のようにしなやかな身体に変化させて言う。

わらわはこの国の王、ティア!冥土の土産に覚えておくが良い!」

そのまま、ティアが獲物に飛びかかる百獣の王を思わせる勢いで左手の爪を突き出しながら凄まじい速さで突っ込んでくる。

「遅いですね。」

セリスの右手から繰り出された目にも留まらぬ速さの手刀がティアの突き出した爪を木っ端微塵に砕く。

「んな?!」

ティアが驚いて怯んだ隙を狙ってもう片方の右手の爪も木っ端微塵に粉砕する。

「爪が…!」

ティアが自身の砕かれた爪を見て言う。

「手入れが行き届いておりませんね。その程度の汚くスカスカな爪なら使わない方が身のためでしょう。それにキリエの方がもっと綺麗で丈夫な爪を持ってますし…」

セリスが淡々と言うと同時にティアがみるみるうちに怒りで顔を赤くし、無理やり左手の爪を再生させながら言う。

「妾があの出来損ないよりも汚い…?」

ティアが一瞬でセリスの腹を目掛けて爪を突き出しながら言う。

「妾を侮辱した事を地獄で後悔するが良い!」

しかし、その爪がセリスの身体を傷つける事はなく、セリスの腹に当たると同時に粉砕する。

そして、最後に柔らかい肉球の手がセリスの腹に当たるが、衝撃を吸収する為の肉球ではセリスにダメージを与えるどころか、セリスにとってマッサージにもならないほど「ぷにぷに」した感触がしただけであった。

「予想通りですね。お話にもならないです。」

セリスはゆっくりと自身の腹につけられたティアの左腕を握り締める。

「パキッ」と言う音と共にティアの表情が苦痛に歪む。

「メルトさん、コレはさすがにキリエさんにやらせた方が良いですよね?」

セリスは必死に抵抗しようとするティアの腕を動こうとする度に握る力を強める事で抵抗する力を徐々に奪っていく。

「別に好きにすれば良いんじゃないかしら?」

「了解です。」

セリスはそのままティアの左腕の骨をティアの左腕の肉ごと握り潰す。

「グチャリ」と嫌な感触と音がすると同時にティアが苦痛に顔を歪め、目に涙を溜めながら声にならない叫びをあげる。

「ああああああああぁぁぁ!腕が…腕がぁ!」

うるさく叫び声をあげるティアの様子を見ながら言う。

「うるさいですね。引きちぎりますよ?」

そう言って、一瞬でティアの左肩から先を勢いだけで引っこ抜く。

ティアには一瞬で左肩から先が無くなり、それに気がついた瞬間に遅れて襲い来る激痛に抗う術は無かった。

「ああああああああぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…痛い!この妾が…こんな…こんな…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い…」

セリスは失血死する前にティアの傷口を焼いて止血する。

「おのれおのれおのれぇ!この妾にこんな事をするなんて、絶対に…絶対に許さんぞ!」

セリスは右手でティアの頭を鷲掴みにして、そのままティアの腹に左ストレートをぶち込む。

「…ぶはっ!」

ティアの口から大量の血が出る。

「はぁ…はぁ…こんな…はぁ…はぁ…はずじゃ…はぁ…はぁ…」

全身から力が抜けたティアの頭を鷲掴みにしたままセリスが言う。

「メルトさん、こいつを封印してください。セリスが理性を保てるうちにお願いします。」

セリスはまだ辛うじて息をしているティアを鷲掴みにしたままメルトの前まで移動する。

「セリス、やり過ぎよ。もう少し優しく痛めつけなさい。死んでしまうでしょう?」

メルトが淡々と言うとセリスは鷲掴みにしていた手を離して、力なく地面に叩きつけられるティアを蔑む様に見ながら言う。

「それは無理ですね。こいつのせいでキリエさんが酷い目にあったのですから…これでもかなり抑えて手を抜いた方ですよ。」

そして、セリスはこの城以外の全てが焼き尽くされて溶けた大地を見て言う。

「このガラス細工の様に美しいものだけがあればいいのに…」

メルトがティアを封石に封印すると封石が紫色になる。

この城にも全てを消滅させる炎が迫ってくる。

「さ、次へ行きましょうか。」

「了解です。」

セリスがメルトとともに転移すると同時に王室も凄まじい高温で熱せられ、ガラスのように綺麗な鏡面を生成していた。



視界が元に戻ると同時に金の国ドレシィードの王室に侵入した事を理解する。

「この我の部屋に無断で入ってくる愚か者が居たとはな…」

金色の曲がった角、闇夜に輝く留紺とめこんの長い髪、魔力を帯びて光を放つ竜胆色りんどういろの左眼に梅紫うめむらさきの右眼の背中にコウモリのような翼がある胸の大きな女性が椅子に座ったまま見下す様に現れたメルトとセリスを見る。

「メルトさん、ここは少し危険なのでは?妙な感覚がします。」

「大丈夫よ。それはアレの魔力が纏わりついてるだけだからね。」

そう言ってメルトが指を指した先の女性が言う。

「ふん。少しは出来るようだな。発言を許可する。」

「あらあら…随分と身の程知らずな王様ですこと…まあ、今の私には多くの力が無いから不思議ではないか。」

メルトが淡々と言った事に女性が僅かに顔を顰める。

「私はメルトよ。この国を消滅させる為に来たの。」

「この我の前でそのような妄言を喚くとはな…」

女性がゆっくりと立ち上がって威圧を込めた低い声で言う。

「頭を垂れて蹲え。雑種。」

同時に重力魔法がメルトたちを包み込んで、動きを封じようとする。

しかし、メルトの結界魔法の前には無力だった。

同時にこの国の境界を覆う結界を構築する。

「そんなちゃちな結界など、潰してくれる!」

さらに重力魔法が強くなるが、メルトの結界はビクともしていなかった。

「ふわぁ~…」

メルトが大きな欠伸をすると女性がさらに魔力を強めて重力魔法の効力を上げる。

「この程度で私を殺せると思ってるのかしら?退屈しのぎにもならないわね。」

「ならば、これもくらうがよい!フォール・クリムゾン!」

全てを焼き尽くし、灰へと変える真っ赤な炎が女性から放たれ、メルトの結界を焼く。

「コンスリフレイション」

メルトがそう言うとメルトの結界が崩壊し、メルトたちが跡形もなく焼き尽くされる。

「ふん。他愛も無い。」

女性がそう言って玉座に振り返った瞬間、背後から銀の剣が突き刺さり、その胸を切り裂いて飛び出る。

「ぐはっ」

女性は吐血すると同時に背後の存在を吹き飛ばすが、背中から突き刺された銀の剣は抜けなかった。

この銀の剣は聖魔法がかかっているようで魔族である女性では触れることが出来なかった。

「おのれぇ!この我にこんなものを突き刺しおってぇ!絶対に許さんぞ!」

しかし、振り返った女性の視線の先には無傷で立っているセリスしかいなかった。

直後、背後に現れたメルトが銀の剣の持ち手を握った状態で現れて言う。

「動くな。」

メルトの短い言葉は女性が状況を理解するには容易かった。

「クッ…この我が…こんな死に損ないに…」

女性が憎しみを込めて言う。

「頭を垂れて蹲え。雑種。」

「貴様…!」

女性と全く同じ言葉、全く同じ口調でメルトが命令すると女性は怒りを露わにする。

「なんだ?言葉がわからないのか?さっさとしろ。」

メルトの剣を握る力が強まったのを理解した女性がゆっくりとメルトの言う通りにする。

「グッ…」

銀の剣が女性の背中の傷が開き、剣が女性の身体を圧迫する。

「さて、今からお前には選択肢をやろう。」

メルトが封石を背中に押し当てる。

「…!この感覚…封石か!」

「そうよ。私の言いたい事はもうわかったでしょう?」

メルトが言うと女性は血が出るほど強く拳を握りしめる。

「こんなものに封印されるくらいなら、死を選ぶ方がマシじゃ…」

「ふ~ん?」

メルトはニヤリと笑う。

「お前の身体を貫いたこの銀の剣がなんなのかを知らないのか?死などお前には過ぎたる贅沢だ!」

メルトが銀の剣を引き抜くと女性は自身の身体に何が起きたかを理解する。

「グボアッ!」

女性が大量に吐血し、苦しそうな表情になる。

「この剣は不死の剣。斬ったモノに不死を与える剣よ。そして、お前たち魔族は聖属性によって意識を奪うほどの激痛とともに精神が浄化される。お前たち魔族にとって、それは完全なる死を意味するが、不死であるが故に死ぬ事は許されない。お前に初めから死ぬと言う選択肢は無いのだよ。」

女性は銀の剣が抜けてポッカリと開いた胸の空洞からも血を流すがメルトの言った通りに不死となっているので死ぬ事は無い。

「グッ…この…悪魔…いや、邪神め…」

女性が痛みに耐えながら恨みを込めた口調で言う。

「ははっ!悪魔であるお前にそこまで言ってもらえるとはね!準備したかいもあるってもんだ!」

メルトがポッカリと開いた胸の空洞に聖属性の石を嵌め込むと女性は苦痛に身体を動かそうとするが、メルトの魔力によって身動き1つ取れなくなっていた。

「ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…痛い!」

メルトが女性の口の中に聖属性の石を入れて女性の声を消す。

「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙!」

さらなる苦痛が女性の脳を埋め尽くす。

そして、女性の目から光が失われた。

女性の目にはもう絶望以外の何も映らなかった。

「さてと。アンタを消さないとこの国も消えないのよね。」

メルトが封石の力を使うと女性が聖属性の石と一緒に吸い込まれ、封石が金色に輝く。

それと同時に金の国全域に聖属性の魔力を解き放つ。

城の外では阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れていた。

「さてと…もうここに用は無いわね。」

メルトがセリスの元に行く。

「セリス、最後の仕事よ…」

メルトがそう言うとセリスの表情が強ばる。

「メルトさん…」

「セリス…私、あなたと出会えてとても良かったわ…もちろん、キリエや他の子達も出会えて良かったけど、あなたは最期のその一瞬まで愛をくれた。愛を知り、裏切られ、悲しみに包まれて空虚になった心を満たしてくれた…初めのきっかけこそ、キリエの甘いお菓子だったけど、あなたはそれ以上に私の心を満たした。だから、出来る事なら私を置いて生きてほしい…私にとって、あなたは何よりも愛おしく、何よりも大切な存在だから…」

メルトがセリスを抱きしめる。

細くなった身体が弱々しく感じて、今にも消えてしまうかもしれないと思うとセリスはとても寂しさを感じていた。

そして、セリスの頬を雫が伝う。

「メルトさん…私…」

セリスはそこまで言って首を振る。

「いえ、なんでもありません…行きましょう…これが最後です…」

セリスが言うとメルトが静かにセリスの涙を拭うと同時にセリスが転移を使う。

そして…最後の国…白の国ブランシェールの王の前に転移する。

メルトは浮遊感が無くなると同時にセリスから少し離れる。

「貴方は…!」

森人の女王が言う。

若菜色わかないろの長い髪が女王が歩くとともに大地を撫でる。

そして、これまでの王とは違い、どこか優しげな目線を送る彼女の瞳は翡翠色ひすいいろに輝いており、背が高く、胸の膨らみもほどよくあり、神々しささえ感じるような美しい王だ。

「私はメルトよ。最後の王…」

「私は強欲アバリアのセリスです。」

メルトとセリスが自己紹介すると女王は言う。

「私はこの国の王のアリッシアです。2年前、父が病によって他界した為、今の王は私となっています。」

アリッシアは丁寧にお辞儀すると同時に2人の男性と女性の兵士が入室する。

「アリッシア様!ご無事ですか!」

黄金おうごんに輝く腰あたりまでの長い髪、天色あまいろの瞳の女性が言う。

女性は背が低く、胸も平らで子供のような姿であったが、特徴的な耳の形から森人だと理解する。

「ソラ、私は大丈夫ですよ。貴方たちもお客様に自己紹介しなさいな。」

アリッシアが言うとソラと呼ばれた女性が自己紹介する。

「ハッ!私はアリッシア様の護衛の一人、勤勉のソラノと申します。」

次に同じく黄金の短い髪、天色の瞳の背が低く、華奢な男性が言う。

「俺もソラノと同じ、アリッシア様の護衛の一人、忍耐のレグラだぜ!」

2人の紹介が終わるとアリッシアが嬉しそうに微笑みながら言う。

「メルトさん、私は貴方をずっと探していたのですよ。お会い出来て本当に嬉しいです。あまりにも手がかりが無くてもう死んでしまったのかもしれないとか考えちゃって凄く不安だったんですよ。」

アリッシアはそう言いながら、メルトの手を取る。

「あら、それは嬉しいのだけれど、貴方たちにとって罪の王である私は忌み嫌う者の王であり、殺すべき対象では無いのかしら?」

メルトが言うとアリッシアは首を横に振りながら言う。

「とんでもないです!貴方のおかげで私たちは力を手に出来たのです!感謝こそすれど、恨んだり忌み嫌う事などあってはなりませんよ!父も他の王もそれをわかってないのがダメなのです!私はまだ自身が姫であった頃から、貴方を探していました。どうか、父を倒してくれとお願いしたかったのもありますが、貴方にとって理想の世界を創りたかったんです。私たちの世界に力を授けてくださった、まさに神様のような存在ですからね!」

アリッシアは真剣な眼差しでありながら、とても嬉しそうに言う。

「そ、そう…私としてはこの国も滅ぼそうと考えていたから、ちょっと申し訳ないわね。」

メルトがそう言うとアリッシアは当然だと言いたげに頷く。

「そうですよね。今まで私たちは貴方がたを虐げ過ぎましたし、私も姉のルチェルを追って、真実を知るまでは彼らと同じでしたから…」

そう、アリッシアとルチェルは姉妹だったのだ。

見た目も性格も違うこの2人はそれはそれは仲の良い姉妹だったのだそう。

アリッシアにとって、姉のルチェルは良き友であり、尊敬出来る姉であり、愛する家族だった。

しかし、ある時、ルチェルに罪の紋章が現れた事をきっかけに父である当時の王がルチェルを追放した。

当時のアリッシアには何も知らされないまま、ルチェルが追放された為、アリッシアはとても悲しんだが、そこで留まらないのが彼女だった。

それから何年も姉の手がかりを探し続け、姉が追放された理由と罪の王プシュマキアの情報を手に入れる。

アリッシアは罪の王の名がメルトだと言うところまで突き止め、さらにはメルトが単独で暗黒の国を消し去った事を知り、メルトなら王を倒してくれるかもしれないと考えた。

それからのアリッシアは大好きな姉に会うためと王を倒してくれるメルトを探していたのだそう。

その話を聞いてメルトは静かに目を閉じる。

「アリッシア、私は貴方のことは信じても良いと思うわ。でもね、ほかは信じられないの…それは貴方も十分理解してると思うわ。だから、貴方の口から聞かせてほしいの…」

メルトはゆっくりと目を開けて言う。

「今後、絶対に背信者と呼ばれた罪の名を冠するたちを不幸にしないと誓ってくれるかしら?」

アリッシアはゆっくりと頷いて言う。

「はい。私、アリッシアはします!例え、どれだけ時間がかかっても、どれだけこの命を使おうとも、絶対に罪の名を冠する事を理由に不幸な人が出ない世界にすると約束します!」

アリッシアが真っ直ぐにメルトの目を見る。

しばらく、そのまま見つめ合うとメルトが言う。

「わかったわ…最後に…その覚悟を見せてちょうだい。」

メルトはそう言うと王室を結界で覆い、神剣ジークフリートを取り出す。

「わかりました!では、全力で行きます!」

アリッシアが杖を構えると護衛の2人も剣を構え、セリスも左手の白い指輪…白神弓フェイルノートの力を解放する。

「楽しい勝負にしましょう!」

メルトがそう言って地を蹴るとともに上段に振り上げた剣でアリッシアに斬りかかり、アリッシアが杖で防御すると同時にセリスと2人の戦いも始まる。

「今度はこちらの番です!スチールランス!」

メルトは瞬時に後ろに飛び退くと先程までメルトが居たところから鉄の槍が突き出す。

「なかなかやるじゃない!」

メルトが言うとアリッシアは真剣な眼差しは変わらないまま言う。

「ありがとうございます。ですが、まだまだこれからですよ!」

そう言うとアリッシアの周囲に無数の白い魔法陣が展開される。

「無限の光よ…我が声に応えよ!スターライトディザスター!」

降り注ぐ無限の光がメルトを焼き尽くそうと迫る。

「黒の力を見せてあげるわ…」

メルトの周囲を黒い魔力が渦巻く。

「ヴォテックス…ゲイル…我がノワールはその力となる…」

メルトが黒い魔法陣を展開する。

「ノワール・ダゥンプア=リバーション!」

激しい雨粒のように突き上げる黒い球が光を破壊し、巨大化する。

「んな…!」

アリッシアが驚きの表情で見る。

「我が声に応え…」

黒い球が徐々に形を変える。

「その名の元に顕現せよ…」

黒い球が龍の形になる。

それはかつて世界を支配したと言う伝説のだ。

「ノワール!」

『グオオオオオオオー!』

巨大な龍の咆哮が衝撃を発生させ、並の人間なら形を保つ事すら許されないほどの圧力が解き放たれる。

「伝説の黒龍…ノワール…!」

アリッシアは目の前に確かに存在する古の黒龍と対峙する。

「おっと、メルトさんの邪魔はさせませんよ!」

セリスが2人の美徳がメルトたちの元に向かうのを阻止する。

「白の王、アリッシア…罪の王はあなたに更なる試練を与えましょう!」

メルトがそう言うと今度は白い龍が現れる。

「ブラン!」

『キュオオオオオー!』

黒龍の対の白龍が咆哮を放つと同時に衝撃波が発生する。

「クッ…伝説の白龍はくりゅうブランまで…!」

2体の龍は共に反する性質を持つ龍だが、互いに互いが存在しなければ真の力を発揮出来ないと言われる不思議な性質を持った龍なのだ。

「破壊のノワールは創造のブランと共に世界に変化をもたらす…二つの反する性質があって、初めて世界に時空シルバが生まれる。」

2体の龍が融合する。

「時空龍、シルバ!その力を存分に振るいなさい!」

メルトの声に呼応して発現した小さな龍神が言う。

『我が盟友、メルトの声に応え、破壊と創造の力を見せてやろう!』

シルバは銀色の龍の翼を大きくはためかせて、宙に浮くと魔力を高める。

「なんて力なの…黒龍と白龍の状態でも凄まじい力を放っていたと言うのに、それが霞んでしまうほどの力ですね…」

アリッシアはそう言いながらもしっかりとシルバを見る。

「ですが、私は負けません!勝って、メルト様に認めていただくのです!」

アリッシアの身体に凄まじい勢いで魔力が集まる。

本来の肉体の限界を超えて、力が収束する。

『クハハ!我に勝つ気でいるのか!面白い!』

シルバはそう言うと凄まじい量の魔力を纏ってアリッシアに突撃する。

『くらうがよい!クロスシルヴァー!』

シルバは白銀に輝く弾丸となる。

その瞬間、アリッシアの右肩に紋章が浮かび上がる。

「あれは…!」

メルトが目を見開く。

それはメルトが知る絶対的な力と非常に告示していた、

「世界樹が…力を貸している?」

アリッシアの身体を白い光が包み込む。

「限りなく輝く世界の白よ!我が身に迫る脅威を排除せよ!」

アリッシアから絶対的な力が発せられる。

運命の木の解放フェイトツリー・リバシオン!」

発せられた力が銀を白く塗りつぶす!

銀もまた白に抗うが、徐々に白くなっていく。

運命フェイトを従えし者…我が求めた力を持つ者…!』

シルバは徐々に白くなりながら、その元凶の少女を見る。

『世界樹が認めた娘!その存在、我は生涯忘れる事は無い!この身体、消え失せようともな!』

シルバが一際強く銀色に輝くとアリッシアの心臓に銀の弾丸を放つ。

アリッシアが咄嗟に杖で防御するが、銀の弾丸はアリッシアの右腕ごと杖を粉砕して、シルバの身体と共に消滅する。

「グッ…右腕が…」

アリッシアが苦しそうに顔を歪める。

辛うじて破壊を免れた身体は限界を超えた魔力の大半を消費していた。

「でも…まだです…」

アリッシアはしっかりとメルトを見る。

「まだ私には力があります!貴方を倒し、世界を変える力があります!」

アリッシアは美徳の紋章を輝かせる。

慈善の紋章がアリッシアの失われた右腕を修復し、アリッシアの能力を引き出す。

「これが私の全力です!」

アリッシアの右腕に魔力の剣が握られて突き上げられる。

メルトはニヤリと笑って、ジークフリートの剣先を下に構える。

願いの聖剣ウィッシュ=エクスカリバー…その力を解放せよ!」

アリッシアが剣を振り下ろしながら叫ぶ!

「勝利の…願いを!エクスカリバー!」

振り下ろされた剣の軌跡から、虹色の光線が発射される。

「向かい撃て!ジークフリート!」

メルトがそう言ってジークフリートを振り上げ、その剣先が軌跡を描き、青い光線を放つ。

二つの光線は激しくぶつかり合い、魔力を撒き散らす。

「いっけぇ!」

アリッシアが一際強く魔力を注ぐと虹色の光線が青い光線を徐々に押し込む。

「押し返しなさい!」

メルトも膨大な魔力を注ぐと今度は青い光線が虹色の光線を押し込む。

「負け…ないっ!絶対に!負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

アリッシアが空間に歪みが発生するほど強く魔力を一気に注ぐ。

青を排除した虹色が一瞬でメルトの身体を包み込む。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

アリッシアが片膝を着き、魔力の剣を地面に突き立てて身体の支えにしながら、肩で息をする。

そして…

「まさか…私が負けるなんてね…」

メルトは傷こそついていなかったが、疲れた様子で言う。

「そんな…無傷だなんて…」

アリッシアが驚愕の表情でメルトを見る。

「当然よ。私は文字通りの無限の存在だもの…」

セリスの側はセリスが勝利した様だ。

「メルトさん、そちらの王様の事はどうしますか?」

セリスは自分が残っているので、アリッシアと戦うかをメルトに問う。

「私の負けよ。セリス。勝敗はついたわ。」

「了解しました。」

メルトは結界を解くとアリッシアと2人の身体を戦う前まで回復させる。

「すごい…あれだけやったのに…」

アリッシアか驚いたように言う。

「これが私が無限の存在である理由よ。私は魔力が尽きない限りは回復魔法が常にかかっているし、能力スキルを使えるって事はそこに魔力があるって事よ。魔力が無ければ、成り立たない世界で私が死ぬ事はもちろん、傷つくことすら無いわ。」

メルトはそう言うと左眼の包帯を取る。

そこにはもう何年も失われていたはずの緋色の瞳があった。

「メルトさん…!その眼は!」

セリスが驚いた様に言う。

この時、誰も気がついていなかったが、メルトの身体も以前の健康的な体形に戻っていた。

「あの病気は、正確には呪いだったのよ。解呪に今までかかってしまったわ。」

メルトはそう言うと魔法陣を展開する。

「アリッシアさん」

「は、はい!」

「私はずっと見てるわよ…この世界を…人の世の流れを…」

「…ッ!!はいっ!」

「いい返事ね。」

メルトはそう言うと魔法陣の上に立つ。

セリスもメルトの元に行く。

「じゃあね」

メルトが魔法陣を起動してどこかへと転移する。





浮遊感が消えて、とある場所に辿り着く。

「ここは…」

セリスの視線の先には一面の花畑が広がっていた。

「私の産まれた場所よ…そして、裏切られた私が最初に消した場所でもあるわ。」

メルトはそう言うと封石を取り出す。

「セリス、私をh…「嫌です!」」

メルトが言い終わる前にセリスが言う。

「セリス…私の身体はもう要らないの。だから…」

「だとしても!私は嫌です!愛する貴方を閉じ込めたくないです!」

セリスが泣きそうな声で言うとメルトは困ったように笑う。

「お願いよ…セリス、これは貴方の為でもあるの…もちろん、私の為でもあるわ。」

セリスがわけがわからないと言いたげに見る。

「私は死ねないわ。いえ…正しくはこの身体は死ねないの。この先、貴方が死んで愛する貴方を失ったとしても死ねないまま生きなければならないの…この身体は呪われているの。」

メルトは小さくため息をついて言う。

「私は見送る側になるのはごめんよ。それと同時に見送られる側になるのも嫌なの…ふふっ…こんなにもわがままな願いを持ってしまったのも貴方と出会ってしまったせいね…」

最後の方には少し嬉しそうに微笑みながら言う。

「…わかりました。」

セリスは静かに言う。

「それじゃ、セリス…また後で…」

「私はいつまでも待ちますよ。とは言っても、メルトさんがすぐに戻ってくる事はわかってますけど。」

「ふふっ…物分りが良いねぇ…」

「子供扱いはやめてください。なんて、言っても貴方は聞いてはくれないでしょうけど…」

「そうね…私もそうだと思うわ。」

メルトはそう言うとセリスに透明な封石を手渡す。

「さっさと終わらせて、次に行くわよ!」

「まだ私を使うつもりなんですか…全く…」

セリスは呆れた様子で言いながらもどことなく嬉しそうな表情をしてメルトに封石を押し当てる。

「ふぅ…それじゃ、いきます!」

セリスが魔力を使うとメルトの身体が吸い込まれ、半分が白くもう半分が黒くなる。

「メルトさん、私、待ってますよ…なんて…言ってみたりしてね…」

すぐにメルトの身体があったはずの場所にメルトによく似た少女が現れる。

「あら?思ってたようにはならなかったわね。」

少女はそんなことを言いながら笑う。

「どうせ、メルトさんも私も相手は居ないのだから、良いんじゃないですか?」

「あはは!それもそうね!」

メルトは子供っぽい笑顔で笑う。

「それじゃ、セリス。行こうか!」

「はいはい。どこまでもお供しますよ。」

メルトの魔法で少女メルトと同じくらいの年齢になったセリスがヤレヤレと言いたげに転移魔法を使う。

「行き先は楽しいところ!」

こうして、少女メルトと少女セリスの2人旅が始まるのであった。

「あ、そうだ!セリス、せっかく新しい身体になったんだから、互いに新しい名前をつけてみない?」

「これまた珍妙な事を…しかし、私もそれには賛成です。」

2人の少女は同時に言う。

「君はアリア!」「貴方はアスラ」

メルト改め、アスラとセリス改め、アリアが笑う。

「あっはは!1秒の狂いもなく同じタイミングじゃん!」

「やれやれ…息ピッタリ過ぎて困ったものですね。」

2人の少女の笑い声だけが残ったこの土地に龍人族と狼族と人間の少女が現れる。

「…行っちまったな」

魔族が言う。

「凄く楽しそうだったぜ。」

狼族が言う。

「じゃ、俺たちもお役御免ってわけだ。」

人間が言う。

「だったらさ、死ぬ前にアレ、完成させてみないか?」

「あはは!おもしれぇ!さすが俺の弟子だな!」

狼族が笑うと魔族に言う。

「お前はこれからどうすんだ?」

魔族は少しだけ考えるようにして言う。

「ス…レーヴァテインはしばらくは一人で旅をするわ。もう紋章も無いし、メルトもいないからね。」

魔族はそう言うと少しだけ悪魔の翼で浮いて、そのまま空高くに飛び上がるとどこかへと飛び去ってしまう。

傷つける魔の杖レーヴァテイン…ねぇ…」

意味ありげに狼族が笑う。

「ははっ!俺たちも二度目の人生、歩んでやるか!」

人間がそう言うと狼族はめんどくさそうに頭を掻きながら言う。

「めんどうだが、その方が良いだろうな。」

狼族と人間がそんな話をする。

「んじゃ、俺はガシアって名乗ろうかな。」

「ガル…ガシアにしては良い名前じゃん?じゃあ、俺はゼルアでいっかな。」

「お前もな。ゼシ…ゼルア。」

2人がその場を後にすると龍人族と1人の人間が現れる。

「皆さん、第二の人生を進み始めたみたいですね。」

龍人が言うと幼い姿の人間が言う。

「私たちも新しく生まれ変わってみる?姿は変わったし、あいつらもそうしたみたいにさ。」

龍人は首を振る。

「私は生き残ったクレアさんを探します。クラインとしての役目はその後で決めるつもりです。」

「あはは!クラインらしいや!」

人間が笑って言うとクラインが言う。

「貴方はどうするんですか?」

人間は一瞬だけ考える素振りを見せるが、すぐに答えを出す。

「レナちゃんはクラインに着いていこうかな!どうせ何もやる事無いしね!」

「あら?アンカさんの役目はもう無いのですか?」

「うん。裏切りの魔女クヴィスリング:アンカ・ネイトはもういないよ。私は…ううん。レナは…レナちゃんはクラインのお友達!とても愉快なお友達よ!クライン!」

レナはそう言って楽しげに小躍りしながら、心地よい風を発生させる。

「ふふっ…あははは!本当に…愉快な人ですね。あの頃のメルトさんが気に入ったのも頷けます。」

クラインはお腹を抱えながら笑うとレナと共にどこかへと飛んで行く。

「あれ?私、寝てたはずなんだけどなぁ…」

「僕もそれは確認していたはずですけど…」

2人の森人が現れて言う。

「ま、いっか!なんか、別の人生も歩めるみたいだし?私はクロノって名前にしよっと!」

「僕はシエラのままで良いかな…まだ何も成し遂げてないってのもあるけど、メルトさんから託されたこの力を大事にしたいし!」

「シエラは真面目だなぁ~」

「クロノさんが適当過ぎるだけです。」

「あはは!容赦無いねぇ…」

「それがシエラと言うヒトですから…」

「それを自分で言っちゃうところ、嫌いじゃないよ。」

そんな事を話しながら、2人の少女も魔法陣を展開して、何処かへと行ってしまう。

そして、それぞれの思いが宿ったこの地はやがて思い出が集まる場所となる事は誰も知らないのであった。












~あとがきんt…きんとうん~

ンジャメナ

「いや、開口一番でンジャメナは初めて聞いたよ。」

あ、セレナちゃん、こんにちわ~!

「セレナって誰よ!?僕は清く正しい大和撫子の生き字引、エレナちゃんだよ!」

清く正しい…?大和撫子…?
…これペナ?

「変な略し方すんな!しかも、撫子のパズドラのコラボのやつじゃん!」

これペナでわかるとは…
さすがですね。
何がさすがなんか知らんけど。

「いや、知らんのかーい!って、僕をツッコミに使うのやめてくれない?」

たまには良いでしょ?
私は疲れたぬぉん!

「働け。」

7連勤→6連勤→7連勤→8連勤やりましたが?

「働け。」

8連勤やりましたが?

「働け。」

えぇ…

「でさ、今回はタイトルについてどうでもいい情報流すんじゃ無かったっけ?」

突然、話を戻されて困惑しちゃったよね。
まあ、どうでもいい情報で何気に前回のが適当に良い感じのそれっぽい単語を選んで来たくらいしか無いんですけどね。

「えっと…フェイトなんとかってやつだったよね?」

フェイト・ギフテッド=トゥインタですね。
フェイトは運命、ギフテッドは英語で贈り物を意味するギフトを文字ったもの、トゥインタはなんだっけなぁ…

ちなみに現代ドイツ語ではギフトはほぼ毒を意味するそうですので、わざわざ英語でと補足しているわけですね。

トゥインタもなんかを文字ったのは記憶にあるんだけど…

「どうせアンタの事だから、ウィッシュ辺りでもいじったんじゃないの?ちょうど今回の題名の願いに当てはまるしさ。」

ん~…ウィッシュでは無いのは確かなんですよね。
そもそもこれも元々はなんかすごい長くしてましたから…

「ペイン・エクリプス=なんとかって感じのやつだよね?」

そうそう。
メルトちゃんの復讐劇をメルトちゃんの心の傷(ペイン)に蝕まれた良心(エクリプス)って感じで考えてたんですよ。
でも、なんか違うよなぁ…って思って『願い』に変えたんですよね。
単純に前回からの続きでウィッシュでも良かったんですけど、なんとなく短くしたいなと思いまして…

「で、前々回に3話くらいと言ってしまったがばかりに後編がこんなに長くなったと…」

実は前半自体は細かい修正を除けば、ほぼハロウィンの前には完成してたんですけどね。
意外と後半を書いてて投稿忘れって言うよりは辻褄が合わなくなった部分を修正してみたりしてたんですよね。
まあ、今更ですけど。

「ほんとそれな。初めにプロットでも書いて大まかにでも設定を決めてれば良かったのに、結局色々ぶち込んでわかりにくくなってるもんね。」

そうなんですよねぇ…
その時にハマったモノを取り入れたい!って思っちゃうとなりふり構わずぶちこむ傾向があるので、直そうとはした時期もあるにはあるんですよ。
まあ、結果はこれですけど笑い

「笑っとる場合かっ!エレナちゃんとパリスちゃんの大事ないちゃラブ世界ザ・ワールドやぞっ!」

私、ジョジョはよく知らないんでパスで。
あ、でも、一応ありえない事はしてないはずですよ。
アリスちゃんがなろう系なのは否めないんですけど…
ついでに元々は悪魔も妖精も天使も神も出さない予定ではあったんですよね。
開始3話くらいで神出てきましたけど。

「ジョジョはいいぞぉ…!作者も画風で毛嫌いせずに見てみなよ…っと、話を戻して、僕と言う公式なろう系設定も出しちゃったもんね。まあ、二年目キャラだけど。」

いや、メタいメタいw
でも、過去の突然追加した設定に対する過去編での補いとか、説明文での補いはしてるつもりですよ。

「じゃあ、アリスちゃんのまだ明かされてない能力も…?」

そうですねぇ…
またネタバレリーナ=エレナちゃんにバラされそうですけど、あまりにも都合良く話が進む、不自然なほど危ない状況がない…みたいにあれ?って感じる部分はありますよね。

「最近、レベル5から妖怪ウォッチの続編らしきPVが出たからってネタバレリーナ扱いすんなし!…そう言えば、メルトって子も同じ能力があるんだよね?」

そうですね。
厳密には少し違うのですが、似た能力はメルトちゃんも持ってますよ。
もっとも、メルトちゃんの方はそこまで触れる気は無いんですけどね。

「いや、触れろし」

いやぁ…あと一話はアリスちゃんのやつ書きたいし…

「別に3話『くらい』だから、いいんじゃない?そもそも、ここの作者が有言実行した試しが無いのは周知の事実でしょ」

えぇ…私、そんなにしなかった事は無いはずなんですけど…
そもそも出来ないことは言わない主義ですし…

「てなわけで、作者のどうでもいい情報を引き出したところで次回はメルトの旅路を書くってよ!」

勝手に決めないで…
て言うか、そこは書くつもり無いですからね?!
そこも触れてたら、10話くらい増えちゃいますし!

「じゃあ、次回は僕とパリスのイチャラブ過去編って事で手を打とう。」

いや…う~ん…個人的にはあまり深堀する予定はないと言うか…
結末が確定した事を書くしかないと言うか…

「あ~…あのレッカとか言うクソトカゲに呑み込まれるやつね。」

一応、エレナちゃんと同じ仲間サイドの子にクソトカゲとか言わないでくださいよ。

「うるせぇ!僕のパリスちゃんを返せー!」

そう言えば、今回もアリスちゃんを理由に断られてましたね。この人。

「そうそう。だから、作者をパリスちゃんに似せて作り替えて見たんだけど…」

あ~…前々回くらいでやったアレですか…
おかげでうつぶせで寝ると胸の肉が息の根を止めに来るようになってしまったので、非常に困っているのですが…

「喜んでもらえて何よりです笑。」

困ってる言うてんのに笑っとる場合かっ!
と言うか、私はロリコンなので、どちらかと言えば、シエラちゃんみたいな体型にだな…

「作者は代用品だって言っただろい!後、僕は巨乳派なので、作者の意見は受け入れません。僕のパリスちゃんを返してくれるなら話は変わるけどね。」

百歩譲って私を代用品扱いするのは良いとして、パリスちゃんはエレナちゃんのものじゃないし、パリスちゃんがアリスちゃんを選んでるんだって本人からも聞いただろうぃ!

「そこは作者権限でだな…」

じゃあ、逆に聞くけど、エレナちゃんはなろう系主人公設定があるんだから、なろう系主人公権限で選ばれる側になってもいいはずだよね?

「いやぁ…まあ…そうだけど…本人の意思を尊重しないといけないって言うか…」

それと同じですよ。
私もむやみやたらに権限を使うわけにはいかないですからね。
…今のこの姿見ればわかるでしょ?

「あ~…うん…そうだね。作者のくせに正論言ってて腹立つけど。」

おい。ボソッと言っても聞こえてんぞ♥

「聞かせてるんだよ。」

うわぁ…畜生かよ…

「てか、終わる終わる詐欺してて草」

あ、草食動物だから、草生やしてるんですね。

「はっ倒すぞ」

私はマゾヒストでは無いので遠慮しますね。

「ドMを略さず言う人初めて見たよ僕は。」

私も初めて見ましたよ笑

「いや、お前だよっ!」

てなわけで、長々とうえええいって感じですが、今回はここまでです。

「また次回も楽しみにしててね!」

それじゃ…

「「まったね~!」」

…あれ?私のセリフに「」がついてる…?

「同時に言ったからしゃーないやろ。」

なんで関西弁なんだ…



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