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五章 ― 菫 ―
五章-10
しおりを挟むしばらくして、何事もなかったかのように、勅使、斎院の列がやってきた。
飾りを付けた馬に乗って先頭を行くのは、乗尻と呼ばれる騎手。続けて、行列の警備を担当する検非違使、山城の国を治める山城使。
行列は続き、その中で一際目を惹くのは、藤の花を飾り付けた御所車。帝の遣いである勅使が登場すると、観客から歓声が上がる。その後に命婦や女嬬が続き、輿に乗った斎院がやってくる予定だ。
菫子と俊元、紫檀と紫苑は、車の中から列を眺めている。菫子と俊元の傷は応急措置だけして、ここに残ることにした。せっかくだから、行列を見て行こうとなったのだ。
一つの車の中に四人は、少し手狭なのだが、すぐ近くに皆がいることが実感出来て、菫子は嫌じゃなかった。
「わー! すごいじゃない! あっ、あの馬に乗った人なかなかいいじゃない」
「綺麗。かっこいい……」
紫檀と紫苑が楽しそうに列に目を輝かせている。四百年も生きていたら、見たことがありそうなものだが。
「二人とも、行列を見るのは初めて?」
「そう。こういう人が多いところには、なかなか来れなくてね。勘の鋭い人とか、陰陽道に通じてる人がいたりするから。こういう車の中に入れればいいけど、持ってるわけないし」
「だから、すごく、嬉しい。ありがとう」
紫檀と紫苑は、楽しそうに笑顔を浮かべると、また列の鑑賞に戻った。乗り出し過ぎて、落ちそうになって、ひやひやしたが、それすらも楽しそう。
菫子にとっても、葵祭の行列を見るのは初めて。念誦堂からほとんど出たことがなかったし、出ることもないと思っていた。
「藤小町も、楽しめている?」
「はい。祭がこんなにも美しいものだとは、知りませんでした」
俊元は、ずっと菫子の手を握ってくれている。温かさに、安心出来る日が来るなんて。
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