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番外編 ある日の
ある日の宵子
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斎宮女御への呪詛事件が解決し、無事に大晦日を迎えることが出来る。大晦日には、追儺が行なわれる。
追儺とは、悪鬼を祓う儀式のことで、役人である舎人が方相氏という鬼を追う役をした。黒衣に朱の裳を身に纏い、金の絵の具で描かれた四ツ目の面を付け、右手に戈と左手に盾を持つ、といういで立ちだ。
「宵子は、追儺を見たいのかい」
彰胤に少し不思議そうな顔をしながらそう言われた。仲子によると、鬼を追う側のはずの方相氏の見た目が恐ろしいため、宮中の女性はあまり見たがらないらしい。
「見たことがないので、見てみたいのでございます。だめでしょうか」
「いいや。それで梨壺に来たんだろう。ここからの方がよく見えるからね」
自然な流れで、隣に座る彰胤の手が、宵子の頭を撫でる。今は二人きりなので、宵子は座ったまま少し進み出て、彰胤の肩にもたれかかった。大事な人の体温をすぐに感じられるところにいる、それがとても安心する。
「おや、甘やかしていいのかい」
彰胤はそう問いながらも、宵子の答えを聞く前に、両腕でぎゅっと抱きしめた。宵子は抱きしめ返したかったが、彰胤の袍に邪魔されて上手く腕が出ない。体をひねってどうにか、と動いたら小さく笑う彰胤の声が耳元で聞こえた。
唐突に、外から大きな声が響いた。
「儺やらう! 儺やらう!」
それが方相氏の声だというのは、すぐに分かった。宵子と彰胤は、一旦体を離して、すすっと庭の近くに近寄った。
方相氏を筆頭に役人たちが鬼役を追いかけている。聞いた通り、桃の弓と葦の矢が放たれている。方相氏の見た目は、確かに恐ろしげだ。宮中を練り歩いてから、彼らは町へと繰り出していく。
「わあ……」
宵子は、御簾にぎりぎりまで近付いて、その様子を見ている。
「楽しいかい?」
「はい。老師から、恐ろしい見た目の者が鬼を追いかける、と冊子を見せられたのですが、こんなに恐ろしいのなら、鬼の役では、と。老師にからかわれているのかと思っていたのですけれど、本当でございました」
「僧都が、言った通りじゃろう、と得意げなのが目に浮かぶよ」
「わたしもです」
宵子と彰胤は、顔を見合わせて微笑み合う。数か月前まで、離れから一歩を出ないような生活をしていたのに。こんなに穏やかで幸せな年末を過ごすことが出来るなんて、あの頃は思ってもいなかった。
「実は、俺も追儺をまじまじと見たことはないんだよね」
「そうなのですか」
「大祓で忙しかったからね」
同じく大晦日に行なわれる大祓、一年の厄を落として、新年を迎えるための重要な儀式だ。追儺の前にすでに行なわれていた。
いつもは準備や後片付けで忙しくしているらしいのだが、宗征や仲子が、今年は女御様とゆっくり過ごしてくださいませ! と仕事を引き受けていったのだ。荷物運び役に、と巴も鷹の姿で連れていかれていた。
「学士殿たちに感謝でございますね」
「そうだね。年が明けたら、宮中は行事で忙しくなる。でも、宵子が見たことがないもの、これからもたくさん見られると思うよ」
「楽しみでございます」
わざわざ言葉にせずとも、新しいものを見る時には、彰胤が、仲子が、宗征が、巴が、傍にいてくれると分かる。
未来が、楽しみだ。
追儺とは、悪鬼を祓う儀式のことで、役人である舎人が方相氏という鬼を追う役をした。黒衣に朱の裳を身に纏い、金の絵の具で描かれた四ツ目の面を付け、右手に戈と左手に盾を持つ、といういで立ちだ。
「宵子は、追儺を見たいのかい」
彰胤に少し不思議そうな顔をしながらそう言われた。仲子によると、鬼を追う側のはずの方相氏の見た目が恐ろしいため、宮中の女性はあまり見たがらないらしい。
「見たことがないので、見てみたいのでございます。だめでしょうか」
「いいや。それで梨壺に来たんだろう。ここからの方がよく見えるからね」
自然な流れで、隣に座る彰胤の手が、宵子の頭を撫でる。今は二人きりなので、宵子は座ったまま少し進み出て、彰胤の肩にもたれかかった。大事な人の体温をすぐに感じられるところにいる、それがとても安心する。
「おや、甘やかしていいのかい」
彰胤はそう問いながらも、宵子の答えを聞く前に、両腕でぎゅっと抱きしめた。宵子は抱きしめ返したかったが、彰胤の袍に邪魔されて上手く腕が出ない。体をひねってどうにか、と動いたら小さく笑う彰胤の声が耳元で聞こえた。
唐突に、外から大きな声が響いた。
「儺やらう! 儺やらう!」
それが方相氏の声だというのは、すぐに分かった。宵子と彰胤は、一旦体を離して、すすっと庭の近くに近寄った。
方相氏を筆頭に役人たちが鬼役を追いかけている。聞いた通り、桃の弓と葦の矢が放たれている。方相氏の見た目は、確かに恐ろしげだ。宮中を練り歩いてから、彼らは町へと繰り出していく。
「わあ……」
宵子は、御簾にぎりぎりまで近付いて、その様子を見ている。
「楽しいかい?」
「はい。老師から、恐ろしい見た目の者が鬼を追いかける、と冊子を見せられたのですが、こんなに恐ろしいのなら、鬼の役では、と。老師にからかわれているのかと思っていたのですけれど、本当でございました」
「僧都が、言った通りじゃろう、と得意げなのが目に浮かぶよ」
「わたしもです」
宵子と彰胤は、顔を見合わせて微笑み合う。数か月前まで、離れから一歩を出ないような生活をしていたのに。こんなに穏やかで幸せな年末を過ごすことが出来るなんて、あの頃は思ってもいなかった。
「実は、俺も追儺をまじまじと見たことはないんだよね」
「そうなのですか」
「大祓で忙しかったからね」
同じく大晦日に行なわれる大祓、一年の厄を落として、新年を迎えるための重要な儀式だ。追儺の前にすでに行なわれていた。
いつもは準備や後片付けで忙しくしているらしいのだが、宗征や仲子が、今年は女御様とゆっくり過ごしてくださいませ! と仕事を引き受けていったのだ。荷物運び役に、と巴も鷹の姿で連れていかれていた。
「学士殿たちに感謝でございますね」
「そうだね。年が明けたら、宮中は行事で忙しくなる。でも、宵子が見たことがないもの、これからもたくさん見られると思うよ」
「楽しみでございます」
わざわざ言葉にせずとも、新しいものを見る時には、彰胤が、仲子が、宗征が、巴が、傍にいてくれると分かる。
未来が、楽しみだ。
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はじめまして。
感想ありがとうございます!
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