新米神様とバイト巫女は、こいねがう

鈴木しぐれ

文字の大きさ
12 / 16
後編

5

しおりを挟む
 作業の順としては、まず茉莉花の名前を探す。そして、その時期に同じく神社を訪れている女の子らしき名前を探す、というものだった。膨大な名簿の中から、目当ての茉莉花の名前を探すだけでも、気の遠くなるものだ

「見つからなーい!」

 あれから毎日、応接室に名簿を運び込んで、優月と茉莉花の二人がかりで名前を探しているが、成果はなかった。茉莉花が長い手足を投げ出してそう言うのも分かる。

「気分転換に、少し外に出ようか。せっかくビラも作ったことだし」
「ビラ配り、頑張ります!」

 十年前に木登りをしていた女の子を助けてくれた人を探しています、と書いたビラを作成した。神社の近くで配っていたら、何か手がかりになるかと思ったのだが、こちらも今のところ成果なし。

「おおー、優月ちゃん。こんにちは」
「あ、三丁目のおばあちゃん、こんにちは」

 よく神社に参拝に来ている、三丁目で酒屋をやっているおばあちゃんが声をかけてくれた。散歩の道を曜日ごとに変えていて、神社に来るのは金曜日だ。

「何のチラシを持っているんだい?」
「これは、人を探しているビラです。おばあちゃん、心当たりないですか」
「うーん……」
 おばあちゃんは、ビラに書かれた文字を細目で端から端まで追い、記憶を手繰り寄せるように空を見上げた。

「十年くらい前だと、神社でよく遊んでいた女の子がいたねえ。小学生くらいかな。近頃は子どもが遊んでなくて寂しいなあと思っていてねえ」
「!」
「ほんとに!?」

 有力な手掛かりだ。確かに、小学生の女の子は神社に来ていた。茉莉花の恩人の女の子に違いない。一応、ビラを神社の石段の下の塀に貼っておくことにした。優月が巫女バイトのチラシを見つけた場所だ。目に付く位置ではある。

 社務所に戻ると、叶が疲れた様子で廊下を歩いていた。茉莉花には聞こえないように、叶にそっと声をかけた。

「叶、休んでていいよ。名前探しは私とジャスミンでするから」
「むっ、神が心配されるとはな」
「神様でも疲れることはあるでしょう」
「まあ。そうだな、少し奥で休んでくる。優月も無理はするなよ」

 叶はさらりと優月のことも気遣ってから、社務所の奥にある自室に向かったようだ。叶の自室には優月も入ったことはない。

「お姉さん、どうかしたんですか?」

 茉莉花が応接室からひょこっと顔を出していた。なかなか戻らないから心配をかけてしまったようだ。優月は笑顔で茉莉花の元に戻った。

「ううん、何でもないよ。よし、頑張ろう!」
「おー!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

竜華族の愛に囚われて

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。 五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。 これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。 赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。 新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。 そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。 ※某サイトの短編コン用に書いたやつ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...