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3章 トルゴード編
2. 今後の方針
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トルゴードに入って最初の宿泊は、そこの領主のお屋敷だった。
理沙がパーティーが面倒だと言う話をしたのを伝えてくれたのか、領主は一言歓迎の挨拶をしただけでいなくなった。
ここまでの移動で疲れているだろうからと、明日は1日ここで休みにしてくれる。
理沙はやはりクインス王国を出るまでは緊張していたのか、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
ターシャちゃんに会えたのも、気が抜けた理由かもしれない。
この世界に理解者がいる。それがこんなにも心強いことだとは思わなかった。
「ターシャさんと少し話したいんだけど、今からお部屋に伺うのは非常識かしら」
「お待ちください」
そう言って女性騎士の一人が部屋を出て行ったと思ったら、ターシャちゃんが部屋に来てくれた。
トルゴードが理沙の護衛につけてくれているのは、ちゃんとした女性騎士だ。そういうところにも、トルゴードの本気が見て取れる。
「ちょっとだけお話できるかしら?」
「理沙さんは」
「ぐっすりよ」
理沙のために、理沙がいないところで話しておきたいことがある。でもその前に。
「ありがとうございました。貴女が宿に来て、何かあったら頼ってくれていいと言ってくれたから、こうしてこの国に来ることが出来たわ」
「私は、何故日本の記憶を持っているんだろうとずっと考えていました。もしかして、理沙さんのためにこの世界に生まれたのかもしれません」
「え?」
「とても不思議な縁で祖国から離れたトルゴードに来たのですが、そう思うと辻褄が合います。まあ正解はだれにも分かりませんが」
聖女と乳母が黒目黒髪だと聞いてから、理由もなく、どうしても会いに行かなければならないと感じたそうだ。
公爵家の若奥様が旅行など、いくら女性が活躍するこの国でもやはり普通ではないらしい。実は見えないところに護衛がたくさんいたそうだが、無事に帰れて本当によかった。
「旦那さんは日本のこと知っているの?」
「言っていません。ただでさえ変わり者と思われていますし、言っても信じてもらえると思えません」
「でも夫婦で隠し事をすると後が大変よ?」
「経験者の言葉には重みがありますね」
ターシャちゃんは前世では結婚していなかったようだし、あまり男性にいい思い出がないのかしら。あの騎士様は、優しそうな方に見えたけど。
「理沙は、私を巻き込んでしまったことをとても後悔しているの。だから、私は私で何か生計を立てて行けるようになりたいの。私の歳でもできる仕事ってあるかしら?」
「私もトルゴードにはまだそこまで詳しくありませんので、義母に相談してみます。何もなければ、私の家で働いてください」
「ありがとう」
とりあえず私の仕事は何とかなりそうで良かった。
プライバシーのことを言ったからか、女性騎士は私たちから離れた部屋の隅にいてくれる。
こういう気遣いを見せられると、トルゴードは信用しても大丈夫そうな気がしてくる。信用と言うのは本当に小さなことの積み重ねなのだな。
私もぐっすり眠って、すっきりとした朝を迎えた。
ゆっくりと朝食をいただいて、理沙とぼーっと庭を眺めていたら、ターシャちゃんが旦那さんと一緒に訪ねてきた。
「おはようございます。聖女様。改めましてトルゴード国内の魔物の討伐を担当する第二騎士団団長のジェンシャン・ウィロウです。マサコ殿は、どうお呼びすればいいでしょうか」
「マサコでも、マーサでも、お好きな呼び方で。冒険者にはマーちゃんと呼ばれていたわ」
「聖女様のお母様として振る舞われる場ではマサコ様、街ではマーサと使い分けられたほうがいいと思います」
ターシャちゃんが提案してくれた通りに使い分けたほうが、トラブルも少ないだろう。理沙も、聖女様とリーザだ。
「何かご不便なことや、ご希望はございますか?」
「今回クインスの出国に関わった人たちが罰せられないようにしたいんだけど、何かできるかしら」
「でしたら、トルゴードから聖女様の感謝のお言葉を送りましょう。そうすればクインス王国も無下にはできません。王都に帰り次第手配します」
ターシャちゃんの旦那様のジェン君は仕事ができる人らしい。
「それなんですが、ここは魔物が出る森の討伐の拠点になる街だと聞きました」
「そうですね」
「だったら、今浄化しちゃったらダメですか?」
私たちは今王都に向かっているけれど、いずれ浄化のためにまたこの街に来る。だったら、浄化を済ませて王都に行くほうが効率が良いのだから、先にやりたいと理沙が言っている。
「理沙、先にこの国と条件の交渉をしてからのほうがいいんじゃない?」
「でも、何度も行き来するのは面倒だし、馬車は揺れるから」
理沙の話をよくよく聞くと、クインスでは、慣れてからは近くの街を一度に周って済ませたいと言ったにもかかわらず、体調に考慮してとか行く先の都合とかで、一つの街だけで王都に帰ることが多かったらしい。
馬車の乗り心地が良くないので、どうせなら近くの街はまとめて行きたいと、ジェン君に訴えている。
「それはおそらく、浄化の期間を引き延ばすためでしょう」
「浄化が終わったら自由にしていいと約束をしていたからね。ちゃんと期限を切っておくべきだったわ。理沙、ごめんね」
トルゴードではそういうことがないように交渉の条件に入れようと、理沙がメモを取っている。
本当に今回は自分で交渉するつもりのようで、馬車の中でターシャちゃんと話したことも、昨日寝る前にメモしていた。
お母さんとしては、理沙の成長が嬉しいような、寂しいような。もうちょっと頼ってくれてもいいんだけど。
ところで、感謝状を書こうとして発覚したのだけど、私たちはこの世界の文字が書けなかった。
自動的に翻訳されているから読めるけれど書けない。しゃべれるのに何で書けないの。
筆写の仕事ができるかと考えたこともあったけど、無理だった。今から新しい言語を覚えるなんて無理なお年頃なのだ。残念過ぎるわ。
理沙がパーティーが面倒だと言う話をしたのを伝えてくれたのか、領主は一言歓迎の挨拶をしただけでいなくなった。
ここまでの移動で疲れているだろうからと、明日は1日ここで休みにしてくれる。
理沙はやはりクインス王国を出るまでは緊張していたのか、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
ターシャちゃんに会えたのも、気が抜けた理由かもしれない。
この世界に理解者がいる。それがこんなにも心強いことだとは思わなかった。
「ターシャさんと少し話したいんだけど、今からお部屋に伺うのは非常識かしら」
「お待ちください」
そう言って女性騎士の一人が部屋を出て行ったと思ったら、ターシャちゃんが部屋に来てくれた。
トルゴードが理沙の護衛につけてくれているのは、ちゃんとした女性騎士だ。そういうところにも、トルゴードの本気が見て取れる。
「ちょっとだけお話できるかしら?」
「理沙さんは」
「ぐっすりよ」
理沙のために、理沙がいないところで話しておきたいことがある。でもその前に。
「ありがとうございました。貴女が宿に来て、何かあったら頼ってくれていいと言ってくれたから、こうしてこの国に来ることが出来たわ」
「私は、何故日本の記憶を持っているんだろうとずっと考えていました。もしかして、理沙さんのためにこの世界に生まれたのかもしれません」
「え?」
「とても不思議な縁で祖国から離れたトルゴードに来たのですが、そう思うと辻褄が合います。まあ正解はだれにも分かりませんが」
聖女と乳母が黒目黒髪だと聞いてから、理由もなく、どうしても会いに行かなければならないと感じたそうだ。
公爵家の若奥様が旅行など、いくら女性が活躍するこの国でもやはり普通ではないらしい。実は見えないところに護衛がたくさんいたそうだが、無事に帰れて本当によかった。
「旦那さんは日本のこと知っているの?」
「言っていません。ただでさえ変わり者と思われていますし、言っても信じてもらえると思えません」
「でも夫婦で隠し事をすると後が大変よ?」
「経験者の言葉には重みがありますね」
ターシャちゃんは前世では結婚していなかったようだし、あまり男性にいい思い出がないのかしら。あの騎士様は、優しそうな方に見えたけど。
「理沙は、私を巻き込んでしまったことをとても後悔しているの。だから、私は私で何か生計を立てて行けるようになりたいの。私の歳でもできる仕事ってあるかしら?」
「私もトルゴードにはまだそこまで詳しくありませんので、義母に相談してみます。何もなければ、私の家で働いてください」
「ありがとう」
とりあえず私の仕事は何とかなりそうで良かった。
プライバシーのことを言ったからか、女性騎士は私たちから離れた部屋の隅にいてくれる。
こういう気遣いを見せられると、トルゴードは信用しても大丈夫そうな気がしてくる。信用と言うのは本当に小さなことの積み重ねなのだな。
私もぐっすり眠って、すっきりとした朝を迎えた。
ゆっくりと朝食をいただいて、理沙とぼーっと庭を眺めていたら、ターシャちゃんが旦那さんと一緒に訪ねてきた。
「おはようございます。聖女様。改めましてトルゴード国内の魔物の討伐を担当する第二騎士団団長のジェンシャン・ウィロウです。マサコ殿は、どうお呼びすればいいでしょうか」
「マサコでも、マーサでも、お好きな呼び方で。冒険者にはマーちゃんと呼ばれていたわ」
「聖女様のお母様として振る舞われる場ではマサコ様、街ではマーサと使い分けられたほうがいいと思います」
ターシャちゃんが提案してくれた通りに使い分けたほうが、トラブルも少ないだろう。理沙も、聖女様とリーザだ。
「何かご不便なことや、ご希望はございますか?」
「今回クインスの出国に関わった人たちが罰せられないようにしたいんだけど、何かできるかしら」
「でしたら、トルゴードから聖女様の感謝のお言葉を送りましょう。そうすればクインス王国も無下にはできません。王都に帰り次第手配します」
ターシャちゃんの旦那様のジェン君は仕事ができる人らしい。
「それなんですが、ここは魔物が出る森の討伐の拠点になる街だと聞きました」
「そうですね」
「だったら、今浄化しちゃったらダメですか?」
私たちは今王都に向かっているけれど、いずれ浄化のためにまたこの街に来る。だったら、浄化を済ませて王都に行くほうが効率が良いのだから、先にやりたいと理沙が言っている。
「理沙、先にこの国と条件の交渉をしてからのほうがいいんじゃない?」
「でも、何度も行き来するのは面倒だし、馬車は揺れるから」
理沙の話をよくよく聞くと、クインスでは、慣れてからは近くの街を一度に周って済ませたいと言ったにもかかわらず、体調に考慮してとか行く先の都合とかで、一つの街だけで王都に帰ることが多かったらしい。
馬車の乗り心地が良くないので、どうせなら近くの街はまとめて行きたいと、ジェン君に訴えている。
「それはおそらく、浄化の期間を引き延ばすためでしょう」
「浄化が終わったら自由にしていいと約束をしていたからね。ちゃんと期限を切っておくべきだったわ。理沙、ごめんね」
トルゴードではそういうことがないように交渉の条件に入れようと、理沙がメモを取っている。
本当に今回は自分で交渉するつもりのようで、馬車の中でターシャちゃんと話したことも、昨日寝る前にメモしていた。
お母さんとしては、理沙の成長が嬉しいような、寂しいような。もうちょっと頼ってくれてもいいんだけど。
ところで、感謝状を書こうとして発覚したのだけど、私たちはこの世界の文字が書けなかった。
自動的に翻訳されているから読めるけれど書けない。しゃべれるのに何で書けないの。
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