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3章 トルゴード編
12. 未来のために
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ターシャちゃん経由で、理沙がクインスとベイロールに浄化に行くという意思は伝えてもらったが、その最終確認に宰相さんが部屋までやってきた。
本当に大丈夫ですか、と念を押されても、理沙は行くとはっきりと答えた。なので、私から少し条件をつけさせてもらおう。
「あくまで浄化に行くので、王族や貴族との面会はすべて断ります。王都ではできれば私が始めた宿に泊まりたいですが、警備の問題で無理なら、以前使わせてもらっていたお城の部屋は避けてください」
「畏まりました」
「それから、私が始めた宿を引き継いでいるミュラに会いたいと思っています」
クインス脱出のバタバタに宿を巻き込んでしまったと理沙が気にしていたから、繁盛しているという宿を見れば安心するだろう。
愉快な冒険者のみんなにも会いたいけど、理沙は彼らとは会ったことがないから、お願いするのはやめておこう。ローズとレイ君はどうせ会うだろうから言わなくていいだろう。
それよりもひとつ謝っておきたいことがある。
宰相さんはジェン君のお父さん、つまりターシャちゃんのお義父さんだ。さすがジェン君のお父さん、おしゃれでダンディな人だ。
「ターシャちゃんを長らくお借りしていて、ご迷惑ではありませんか?」
「お気になさらずに。ナスターシャは縁あって息子のところに嫁いできましたが、それは聖女様のためだったのだと思っております」
「私のため、ですか?」
「聖女様との橋渡しとなるべく神によってこの国へと導かれたのでしょう」
どうやらターシャちゃんは前世の記憶のことを話したようだ。子どものころに知らない世界についての知識を神から授けられたが、それは私たちの世界の事だったのだと聖女召喚があって分かった、ということになっているらしい。
前世ってことを伏せて辻褄を合わせるとそういう説明になったようだが、受け入れられているようでよかった。
「あの、だったら、ターシャさんにお願いしたいことがあるんですが」
「なんでしょうか。聖女様に関することを記録し公表するというのは聞いておりますが」
「それなんですが、できれば今後聖女召喚をしなくても大丈夫なようにできないか、一緒に考えてほしいんです」
理沙も私も、本当は聖女召喚を止めさせたい。
けれど、どういう仕組みで行われているのか分からない超常現象を止める方法は分からない。理沙が神に祈れば止められるかもしれないが、その結果が分かるのは次の聖女召喚が行われた時だ。
クインスの魔法陣の記録を全て消せば召喚そのものは止められるが、そんなこと実質的には無理だ。どれだけ資料があるのかも分からないし、隠されてしまえば見つけられないだろう。それに記憶している人の頭の中までは触れない。
だったら聖女召喚が不要になるように状況を変えるしかない。
理沙がターシャちゃんに記録をお願いした後、ふたりで話した結論がそれだった。
聖女召喚を禁止してもらうように周りの国や世論に呼び掛ける、という案も考えた。
けれど、魔物の被害に苦しむ人たちにとって、聖女は希望だ。その希望を取り上げるようなことをすれば、非難が理沙に向かうかもしれない。
かつてクインスで理沙に対して、もっと早く来てくれれば子どもは死なずに済んだのに、と言った住民がいた。そういう人たちに、聖女を召喚するなと言ってもきっと聞き入れてはもらえない。既得権益を奪えば必ず反発が生じる。
次に呼ばれてしまう聖女のことを考えるなら止めてほしいけど、それで今の理沙の生活が脅かされては困る。
私たちは言わば余所者なのだ。用が済んだからと排除されるのだけは何としても避けなければならない。
そう考えると、理沙が有力者と結婚するというのは、未来の保障ではある。
かといって、いろいろな自由を保障された国で育った理沙に、そこまで割り切った付き合いをさせたくない。
だからこそ浄化が終わった後のことを考えると、慎重にならざるを得ない。私は理沙の生涯を見守ってあげることはできないのだから。
この件は浄化が落ち着いたら提案してみようと思っていたけど、ちょうどいい機会だと思ったのか理沙が宰相さんに切り出した。
ターシャちゃんに少し聞いてみた感じだと、来るか来ないか分からない聖女を待つよりも、聖女がいなくても何とかできる手段を確立するほうがこの国にとっては利益は大きいはずだと言っていたので、邪険にはされないはずだ。
「それはトルゴードとしては大変有難いことです。ナスターシャは聖女様への協力を第一とするよう調整いたします」
「ありがとうございます」
今の聖女様のお世話係といったふわっとした役割ではなく、お仕事とするようお役目を考えてくれるそうだ。
ターシャちゃんは養成学校の学生のはずだけど、私たちに付き合っているため学校には行けていない。本人は行かなくてもいいと言っているけど、その辺りもちゃんとしてくれるらしい。
「ところでナスターシャから聞きましたが、マサコ殿がお望みでしたらパーティーを開きますよ?」
「あ、いえ、その話は忘れてください」
「残念ですね。私も独身でしたら立候補しましたのに」
ターシャちゃん、仕事早すぎ。こんなところで有能さを発揮しなくてもいいのに。宰相さんの横でにこにこしている表情が、いつものお澄ましではなくいたずらっ子のようだ。
そして宰相さんも本気じゃないと分かっていそうだ。でも理沙へお相手の売り込みができないから、上手くいけば儲けものと思っているのかもしれない。
リップサービスも忘れない宰相さんだけど、あのおしゃれで優雅で気品のある奥様を見ていると、どう考えても相手にされないでしょうに。
本当に大丈夫ですか、と念を押されても、理沙は行くとはっきりと答えた。なので、私から少し条件をつけさせてもらおう。
「あくまで浄化に行くので、王族や貴族との面会はすべて断ります。王都ではできれば私が始めた宿に泊まりたいですが、警備の問題で無理なら、以前使わせてもらっていたお城の部屋は避けてください」
「畏まりました」
「それから、私が始めた宿を引き継いでいるミュラに会いたいと思っています」
クインス脱出のバタバタに宿を巻き込んでしまったと理沙が気にしていたから、繁盛しているという宿を見れば安心するだろう。
愉快な冒険者のみんなにも会いたいけど、理沙は彼らとは会ったことがないから、お願いするのはやめておこう。ローズとレイ君はどうせ会うだろうから言わなくていいだろう。
それよりもひとつ謝っておきたいことがある。
宰相さんはジェン君のお父さん、つまりターシャちゃんのお義父さんだ。さすがジェン君のお父さん、おしゃれでダンディな人だ。
「ターシャちゃんを長らくお借りしていて、ご迷惑ではありませんか?」
「お気になさらずに。ナスターシャは縁あって息子のところに嫁いできましたが、それは聖女様のためだったのだと思っております」
「私のため、ですか?」
「聖女様との橋渡しとなるべく神によってこの国へと導かれたのでしょう」
どうやらターシャちゃんは前世の記憶のことを話したようだ。子どものころに知らない世界についての知識を神から授けられたが、それは私たちの世界の事だったのだと聖女召喚があって分かった、ということになっているらしい。
前世ってことを伏せて辻褄を合わせるとそういう説明になったようだが、受け入れられているようでよかった。
「あの、だったら、ターシャさんにお願いしたいことがあるんですが」
「なんでしょうか。聖女様に関することを記録し公表するというのは聞いておりますが」
「それなんですが、できれば今後聖女召喚をしなくても大丈夫なようにできないか、一緒に考えてほしいんです」
理沙も私も、本当は聖女召喚を止めさせたい。
けれど、どういう仕組みで行われているのか分からない超常現象を止める方法は分からない。理沙が神に祈れば止められるかもしれないが、その結果が分かるのは次の聖女召喚が行われた時だ。
クインスの魔法陣の記録を全て消せば召喚そのものは止められるが、そんなこと実質的には無理だ。どれだけ資料があるのかも分からないし、隠されてしまえば見つけられないだろう。それに記憶している人の頭の中までは触れない。
だったら聖女召喚が不要になるように状況を変えるしかない。
理沙がターシャちゃんに記録をお願いした後、ふたりで話した結論がそれだった。
聖女召喚を禁止してもらうように周りの国や世論に呼び掛ける、という案も考えた。
けれど、魔物の被害に苦しむ人たちにとって、聖女は希望だ。その希望を取り上げるようなことをすれば、非難が理沙に向かうかもしれない。
かつてクインスで理沙に対して、もっと早く来てくれれば子どもは死なずに済んだのに、と言った住民がいた。そういう人たちに、聖女を召喚するなと言ってもきっと聞き入れてはもらえない。既得権益を奪えば必ず反発が生じる。
次に呼ばれてしまう聖女のことを考えるなら止めてほしいけど、それで今の理沙の生活が脅かされては困る。
私たちは言わば余所者なのだ。用が済んだからと排除されるのだけは何としても避けなければならない。
そう考えると、理沙が有力者と結婚するというのは、未来の保障ではある。
かといって、いろいろな自由を保障された国で育った理沙に、そこまで割り切った付き合いをさせたくない。
だからこそ浄化が終わった後のことを考えると、慎重にならざるを得ない。私は理沙の生涯を見守ってあげることはできないのだから。
この件は浄化が落ち着いたら提案してみようと思っていたけど、ちょうどいい機会だと思ったのか理沙が宰相さんに切り出した。
ターシャちゃんに少し聞いてみた感じだと、来るか来ないか分からない聖女を待つよりも、聖女がいなくても何とかできる手段を確立するほうがこの国にとっては利益は大きいはずだと言っていたので、邪険にはされないはずだ。
「それはトルゴードとしては大変有難いことです。ナスターシャは聖女様への協力を第一とするよう調整いたします」
「ありがとうございます」
今の聖女様のお世話係といったふわっとした役割ではなく、お仕事とするようお役目を考えてくれるそうだ。
ターシャちゃんは養成学校の学生のはずだけど、私たちに付き合っているため学校には行けていない。本人は行かなくてもいいと言っているけど、その辺りもちゃんとしてくれるらしい。
「ところでナスターシャから聞きましたが、マサコ殿がお望みでしたらパーティーを開きますよ?」
「あ、いえ、その話は忘れてください」
「残念ですね。私も独身でしたら立候補しましたのに」
ターシャちゃん、仕事早すぎ。こんなところで有能さを発揮しなくてもいいのに。宰相さんの横でにこにこしている表情が、いつものお澄ましではなくいたずらっ子のようだ。
そして宰相さんも本気じゃないと分かっていそうだ。でも理沙へお相手の売り込みができないから、上手くいけば儲けものと思っているのかもしれない。
リップサービスも忘れない宰相さんだけど、あのおしゃれで優雅で気品のある奥様を見ていると、どう考えても相手にされないでしょうに。
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