巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
40 / 89
3章 トルゴード編

12. 未来のために

 ターシャちゃん経由で、理沙がクインスとベイロールに浄化に行くという意思は伝えてもらったが、その最終確認に宰相さんが部屋までやってきた。
 本当に大丈夫ですか、と念を押されても、理沙は行くとはっきりと答えた。なので、私から少し条件をつけさせてもらおう。

「あくまで浄化に行くので、王族や貴族との面会はすべて断ります。王都ではできれば私が始めた宿に泊まりたいですが、警備の問題で無理なら、以前使わせてもらっていたお城の部屋は避けてください」
「畏まりました」
「それから、私が始めた宿を引き継いでいるミュラに会いたいと思っています」

 クインス脱出のバタバタに宿を巻き込んでしまったと理沙が気にしていたから、繁盛しているという宿を見れば安心するだろう。
 愉快な冒険者のみんなにも会いたいけど、理沙は彼らとは会ったことがないから、お願いするのはやめておこう。ローズとレイ君はどうせ会うだろうから言わなくていいだろう。

 それよりもひとつ謝っておきたいことがある。
 宰相さんはジェン君のお父さん、つまりターシャちゃんのお義父さんだ。さすがジェン君のお父さん、おしゃれでダンディな人だ。

「ターシャちゃんを長らくお借りしていて、ご迷惑ではありませんか?」
「お気になさらずに。ナスターシャは縁あって息子のところに嫁いできましたが、それは聖女様のためだったのだと思っております」
「私のため、ですか?」
「聖女様との橋渡しとなるべく神によってこの国へと導かれたのでしょう」

 どうやらターシャちゃんは前世の記憶のことを話したようだ。子どものころに知らない世界についての知識を神から授けられたが、それは私たちの世界の事だったのだと聖女召喚があって分かった、ということになっているらしい。
 前世ってことを伏せて辻褄を合わせるとそういう説明になったようだが、受け入れられているようでよかった。

「あの、だったら、ターシャさんにお願いしたいことがあるんですが」
「なんでしょうか。聖女様に関することを記録し公表するというのは聞いておりますが」
「それなんですが、できれば今後聖女召喚をしなくても大丈夫なようにできないか、一緒に考えてほしいんです」

 理沙も私も、本当は聖女召喚を止めさせたい。
 けれど、どういう仕組みで行われているのか分からない超常現象を止める方法は分からない。理沙が神に祈れば止められるかもしれないが、その結果が分かるのは次の聖女召喚が行われた時だ。
 クインスの魔法陣の記録を全て消せば召喚そのものは止められるが、そんなこと実質的には無理だ。どれだけ資料があるのかも分からないし、隠されてしまえば見つけられないだろう。それに記憶している人の頭の中までは触れない。
 だったら聖女召喚が不要になるように状況を変えるしかない。
 理沙がターシャちゃんに記録をお願いした後、ふたりで話した結論がそれだった。

 聖女召喚を禁止してもらうように周りの国や世論に呼び掛ける、という案も考えた。
 けれど、魔物の被害に苦しむ人たちにとって、聖女は希望だ。その希望を取り上げるようなことをすれば、非難が理沙に向かうかもしれない。
 かつてクインスで理沙に対して、もっと早く来てくれれば子どもは死なずに済んだのに、と言った住民がいた。そういう人たちに、聖女を召喚するなと言ってもきっと聞き入れてはもらえない。既得権益を奪えば必ず反発が生じる。

 次に呼ばれてしまう聖女のことを考えるなら止めてほしいけど、それで今の理沙の生活が脅かされては困る。
 私たちは言わば余所者なのだ。用が済んだからと排除されるのだけは何としても避けなければならない。

 そう考えると、理沙が有力者と結婚するというのは、未来の保障ではある。
 かといって、いろいろな自由を保障された国で育った理沙に、そこまで割り切った付き合いをさせたくない。
 だからこそ浄化が終わった後のことを考えると、慎重にならざるを得ない。私は理沙の生涯を見守ってあげることはできないのだから。

 この件は浄化が落ち着いたら提案してみようと思っていたけど、ちょうどいい機会だと思ったのか理沙が宰相さんに切り出した。
 ターシャちゃんに少し聞いてみた感じだと、来るか来ないか分からない聖女を待つよりも、聖女がいなくても何とかできる手段を確立するほうがこの国にとっては利益は大きいはずだと言っていたので、邪険にはされないはずだ。

「それはトルゴードとしては大変有難いことです。ナスターシャは聖女様への協力を第一とするよう調整いたします」
「ありがとうございます」

 今の聖女様のお世話係といったふわっとした役割ではなく、お仕事とするようお役目を考えてくれるそうだ。
 ターシャちゃんは養成学校の学生のはずだけど、私たちに付き合っているため学校には行けていない。本人は行かなくてもいいと言っているけど、その辺りもちゃんとしてくれるらしい。

「ところでナスターシャから聞きましたが、マサコ殿がお望みでしたらパーティーを開きますよ?」
「あ、いえ、その話は忘れてください」
「残念ですね。私も独身でしたら立候補しましたのに」

 ターシャちゃん、仕事早すぎ。こんなところで有能さを発揮しなくてもいいのに。宰相さんの横でにこにこしている表情が、いつものお澄ましではなくいたずらっ子のようだ。
 そして宰相さんも本気じゃないと分かっていそうだ。でも理沙へお相手の売り込みができないから、上手くいけば儲けものと思っているのかもしれない。
 リップサービスも忘れない宰相さんだけど、あのおしゃれで優雅で気品のある奥様を見ていると、どう考えても相手にされないでしょうに。
感想 93

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。