巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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3.5章 平民騎士の困惑の日々

1. 訓練

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 俺はシーダ。平民出身の騎士だ。
 俺の住むトルゴード王国は騎士養成学校に通えば騎士になれる。貴族ではなくても騎士になれるために、他の国からは騎士じゃなくて兵士だろうって言われるらしいが、まあ名前なんてどうでもいい。
 俺の家は子だくさんの貧乏で、妹や弟たちのためにさっさと稼げる職に就きたくて、騎士養成学校に入った。養成学校の学費は幼馴染の親父さんに借りた。親父さんは宿が繁盛していて余裕があったので近所のよしみで貸してくれたが、騎士になれば余裕で返せる額だ。騎士は住むところも食事も用意されるので、遊びに行ったりしなければ給料をそのまま家に入れることもできるので、真面目に勉強と訓練をして騎士になりさえすれば、返済は確実だ。

 この国には魔物が出るので、騎士の中でも魔物退治を主な任務とする第二騎士団があり、そこには平民が多い。第一騎士団は街中や城の中の担当なので、貴族の相手をしたくない奴らは大体第二を希望する。俺も貴族とは関わりたくないので第二を希望した。
 それなりに剣の才能はあったらしく、同年代の中では中の上くらいの実力で、希望通り第二騎士団に配属され、ほどほどに活躍してきた。
 俺が生まれたころから、魔物が増えている。これはこの国だけでなく、他の国でも同じ傾向だ。この国は魔物の素材を売っているので、商売としてはいいことだが、住民や旅をする商人などに被害も出ているために、第二はあちこちの魔物討伐で遠征続きだ。

 そんな中、第二騎士団団長が引退することになった。次の団長は、公爵家出身の騎士だ。
 俺は一緒の隊になったことがないのでよく知らないが、次の団長は討伐中に顔に傷を負って王女様から振られたという噂を聞いたことがある。しかも最近遠い国のお姫様と結婚したが、そのお姫様は官吏と薬師の養成学校に史上初めて同時合格した才女らしい。同じ騎士でも、なんというか住む世界が違う。

「なあ、次の団長、宰相の息子だろう?宿舎の飯が旨くなったりするかな」
「コネだろ。いいよな。ただ貴族ってだけで出世できるって」
「次の団長は貴族出身にしろって、前の団長の命令らしいぞ」

 前の団長は平民出身だったから貴族にあれこれ言われて大変だったらしく、次は貴族にしろと言い残したそうだ。
 俺たちも討伐に行くと、そこの領のお偉いさんに来るのが遅いとかいろいろ言われたりもする。途中の領でこっちを優先しろとか、出かけるから警護しろとか、ふざけんなと思うようなことを言われることも多い。団長が宰相の息子だと、そういうのも突っぱねられるかもしれないってことか。
 それに宿舎の飯が旨くなると嬉しい。予算引っ張ってきてくれたら大歓迎だ。

 まあでも上が変わろうと、俺たちのすることは変わらない。
 王都の宿舎にいるときは訓練をして、たまに休みがあって、でもほとんどは国内のいろいろなところに魔物討伐の遠征だ。
 遠征続きのせいで、まとまった休みを取って家に戻るなんてこともできないので、地方出身者はその地方への遠征に優先的に割り当てられる。討伐が終わって王都に帰る前に、1日なら家に泊まってもいい。

「シー坊、おかえり。騎士団は休みか?」
「いや、この近くに遠征に来たから寄ったんだ。休みをとって帰ってくるとかは今できないんだ」
「魔物増えてるもんなあ。危険はないのか?」
「にいちゃん!」
「大丈夫だよ。ただいま。いい子にしてたか?ほら、王都のお土産だぞ」

 近所のおばちゃんと話していたら、俺が帰ったのに気が付いて家から出てきた一番小さい弟が飛びついてきた。可愛いなあ。身長が伸びたようだから、今度の冬の服を買ってやらないといけないな。
 俺の騎士養成学校の学費は既に返済済みだ。親父さんのところにも土産を持って行かないとな。
 勉強のできる妹は官吏養成学校を目指しているらしい。俺の給料があるから勉強に専念できると言っていたので、俺も嬉しい。

「シーダ、おかえり。今日は泊まれるのか?」
「母さん、ただいま。一晩だけ」
「やった!にいちゃん、まものたいじのはなしきかせて!」
「いいぞ」

 久しぶりに家族と過ごして英気を養い、王都へと戻ると、凄い噂が飛び交っていた。

「聞いたか?クインスで聖女様が召喚されたらしいぞ」
「まじか。来てくれたら魔物も減るよなあ」

 隣のクインス王国は、長い歴史を持つ国だ。北の森と大きな河、砂漠に囲まれて、独自の文化を発展させた。そしてその歴史の中で何度も聖女召喚を行ってきたと騎士養成学校の授業で習った。
 このあたりの国で魔物の被害が特に多いのは、クインスとこの国だ。どういう理由かは分からないが魔物が増える時期があり、そのときは被害が増大する。
 クインスは聖女召喚で、この国は平民も騎士に登用することでその時期を乗り切ってきた。
 その聖女様だが、過去にはこの国にも派遣されて瘴気を減らしてくれたことがある。今回は来てもらえるだろうか。

 まあ来てもらえるとしても、クインスの次だからずいぶん先になるだろう。
 それまでは俺たちが頑張るしかない。弟や妹が魔物の被害にあわないように、目の前の魔物を討伐する。俺にできるのはそれだけだ。


 次の遠征までは王都で訓練日々だ。
 訓練場で同僚と剣を合わせていると、飛び入り参加があった。

「団長、どうされたんですか?視察ですか?」
「いや、書類仕事ばかりでちょっと身体を動かしたくてな。相手をしてもらっていいか?」

 急に訓練場に現れた団長に、俺たちの隊の隊長が何かあったのかと恐る恐る話しかけたが、どうやら本当に身体を動かしたいだけのようだ。本当は現場にいたかったんだ、と言いながら素振りをしている。
 そして隊長と手合わせを始めたが、めちゃめちゃ強い。周りの同僚たちも自分の訓練を止めて、団長と隊長の手合わせを見ている。

「ぼんぼんが道楽で騎士になったんじゃなかったんだな」
「っていうかあれ、騎士団でもトップクラスじゃね?」
「知り合いが昔同じ隊だったけど、めっちゃ強いらしいぞ」

 隊長との手合わせを終えた団長がもうちょっとやりたいと言うので、結局隊の全員と一通り手合わせをした。簡単にいなされて全く歯が立たなかったけど、俺たちにはとてもいい訓練になった。団長の訓練になったのかどうかは分からない。

「民にとってはお前たちが頼りだ。この調子で訓練も討伐も頑張ってくれ」

 次の予定があると秘書官らしき人が呼びに来るまで手合わせをしていた団長は、そう言い残して去って行った。
 雲の上の人だ、もう二度と関わることはないだろう。
 今度家に帰ったら、団長と手合わせしてもらったって弟たちに自慢しよう。
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