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3.5章 平民騎士の困惑の日々
2. 任務
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「次の遠征はクインスの国境近くの森だ。団長と、団長の奥様も同行される」
隊長の言葉に、どういうことだと戸惑いが広がる。
本来なら私語は許されないが、状況が状況だけに隊長も軽い注意で済ませ、気持ちは分かるが遠征の準備に取り掛かれ、と号令をかけた。隊長自身もあまり納得はできていないようだ。
「遠征に団長が新婚の奥さんを伴って参加って、どういう状況?」
「奥さんってあれだろ、めっちゃ優秀っていう」
「なんのために参加するんだ。お貴族様の考えることは分からんね」
全く持って意味が分からないが、命令は命令だし、やることはいつもと一緒だ。
考えたって下々の俺たちに詳細が知らされることはない。団長が身体を動かしたいから参加する、奥さんにいいところを見せたいから参加する、など予想に花を咲かせながら準備をして、出発した。
団長の奥さんが馬車に乗っているので、遠征の進む速さはゆっくりだ。しかもお忍び用だけど、めっちゃ高価そうな馬車に乗っている。さらに奥さんのために3人の女性の護衛騎士まで同行させている。
団長、奥さんのために気合入れすぎだろ。
団長の新婚ボケした行動に非難は出ているが、それ以上に多いのが、この機に是非とも女性騎士と知り合いになりたいという下心満載の発言だ。
城の中に入ることのない第二騎士団にとっては、護衛騎士団の女性騎士たちは高嶺の花だ。
休憩中は3人の誰が好みかで盛り上がっている。確かに彼女たちはカッコイイし美人だが、ちょっと意に沿わないことをしたらこっぴどく反撃されそうなので、俺はご遠慮したい。
「お前、今日護衛だったんだろう。どうだった?」
「どうって特に何も。あの奥さん、魔物の生態に興味があるとかで、魔物の倒し方や後始末の仕方が見たいだけらしいぞ。時々団長に確認してたし」
「なんでわざわざ見に来てんだか。俺たちの仕事は護衛じゃないっつーの」
移動中、魔物の出るところでは俺たちの討伐を奥さんが見学している。
奥さんのそばには団長がいて、周りを女性騎士が警戒しているが、そのさらに外から第二騎士団の10人くらいが護衛にあたっている。その護衛は持ち回りだが、今日から3日間は俺の番だ。
暴れたい奴らは後方でただ警戒するだけでつまらなさそうにしているが、俺は休めてラッキーだと思っている。いや、もちろん警戒はしてるけどな。危険もないのに給料もらえるんだから楽なもんだろ。
でも奥さん、貴族なのにこんな現場に来るなんて変わってる。
貴族のお嬢様って普通は魔物を見たら悲鳴を上げて逃げるもんなんじゃないのか?死んでるとはいえ、自分から魔物に近づいて行くなんて。なんなら素材の剥ぎ取りに参加したそうにしているのを団長が止めてたし。
団長が連れてきたかったというより、奥さんがついてきた感じだよなあ。
実は団長、奥さんの尻に敷かれているのか。雲の上の人だと思ってたけど、ちょっと親近感が湧いた。
そんなことを考えながら、護衛担当の3日間を過ごした。
クインスとの国境に一番近い街につき、街はずれの空き地に野営の準備をし終わったところで、集合の号令がかかった。
参加している隊全員が集められている。いったい何が始まるんだとざわざわしていると団長が現れ、整列している隊員の前に立った。
「今回の遠征の本当の目的を告げる。隣国クインスより、聖女様がいらっしゃる。皆の任務はその護衛だ」
突然の任務内容の変更にざわつく。
聖女様がこの国に来るってどういうことだ?しかもなんで護衛騎士じゃなくて俺たちなんだ。
そんなざわめきの中、名前を呼ばれたものは前に出てくるように言われ、俺の名前も呼ばれた。
え、俺何した?クビ?
状況がよく分からないけど、でも呼ばれたからには出て行かなければならない。隊の友人たちの心配そうな顔に見送られながら俺より前に呼ばれた人の横に並ぶ。
「お前たちは王都に着くまでは隊から離れ、私の下で聖女様の近くで護衛を担当してもらう。このまま護衛騎士の制服を合わせろ」
は?護衛?俺、平民なんだけど。
一緒に並んでる奴らも戸惑っている。並んでいるメンツを見ると、あんまり強そうじゃない、どっちかって言うと可もなく不可もなくって感じの奴らばかりだ。
追い立てられるようにテントの中に入れられて、護衛騎士の制服のサイズを選ばされる。
「あの、俺平民なんですけど、間違いじゃないですか」
「俺に聞かれても分からない。団長に聞いてくれ」
いや、平民が団長に話しかけるのもだいぶハードルが高いんだけど。でも聞かないわけにもいかないし。
勇気を出して恐る恐る団長の近くにいた人に話しかけると、団長から直接返事が返ってきた。
「第六小隊のシーダだろう。間違ってない」
「ですが自分は平民であります」
団長に話かける敬語なんて分からないよ。騎士養成学校で習ったけど、貴族と関わるところに行く気はなかったから適当に済ませたのを、こんなところで悔やむとは。
「身分は関係ない。君は淡々と護衛の仕事をこなしていた。だから任命した」
奥さんの護衛当番は選抜試験だったらしい。それで俺は合格したと。
休憩時間の感じだと、みんな奥さんそっちのけで女性騎士とどうやって仲良くなるかを考えてたっぽいもんなあ。
護衛騎士の制服を持って来ているってことは、この任務は出発前から決まっていたんだ。
団長ははっきりとは言わなかったが、聖女様はクインス王国から逃げ出すようにトルゴードに来るようで、護衛騎士を動かすことが出来なくて俺たちが来ることになったっぽい。
そんな状況だから、聖女様に威圧感を与えないように厳つい奴ははじいたみたいだ。俺の母親似の女顔がここにきて重宝されるとはな。
あの女性騎士たちは奥さんの護衛ではなくて聖女様のため、奥さんは本当の任務の目くらましと試験官だったということだ。
その割には魔物の観察を楽しんでいたようだけど。
次に家に帰ったら、聖女様を近くで見たって自慢できるぞ。弟たちに話をめっちゃせがまれるだろうな。
でもその前に、無礼なことをしたってクビにならないよう、なるべく他の奴らの後ろにいるようにしよう。
隊長の言葉に、どういうことだと戸惑いが広がる。
本来なら私語は許されないが、状況が状況だけに隊長も軽い注意で済ませ、気持ちは分かるが遠征の準備に取り掛かれ、と号令をかけた。隊長自身もあまり納得はできていないようだ。
「遠征に団長が新婚の奥さんを伴って参加って、どういう状況?」
「奥さんってあれだろ、めっちゃ優秀っていう」
「なんのために参加するんだ。お貴族様の考えることは分からんね」
全く持って意味が分からないが、命令は命令だし、やることはいつもと一緒だ。
考えたって下々の俺たちに詳細が知らされることはない。団長が身体を動かしたいから参加する、奥さんにいいところを見せたいから参加する、など予想に花を咲かせながら準備をして、出発した。
団長の奥さんが馬車に乗っているので、遠征の進む速さはゆっくりだ。しかもお忍び用だけど、めっちゃ高価そうな馬車に乗っている。さらに奥さんのために3人の女性の護衛騎士まで同行させている。
団長、奥さんのために気合入れすぎだろ。
団長の新婚ボケした行動に非難は出ているが、それ以上に多いのが、この機に是非とも女性騎士と知り合いになりたいという下心満載の発言だ。
城の中に入ることのない第二騎士団にとっては、護衛騎士団の女性騎士たちは高嶺の花だ。
休憩中は3人の誰が好みかで盛り上がっている。確かに彼女たちはカッコイイし美人だが、ちょっと意に沿わないことをしたらこっぴどく反撃されそうなので、俺はご遠慮したい。
「お前、今日護衛だったんだろう。どうだった?」
「どうって特に何も。あの奥さん、魔物の生態に興味があるとかで、魔物の倒し方や後始末の仕方が見たいだけらしいぞ。時々団長に確認してたし」
「なんでわざわざ見に来てんだか。俺たちの仕事は護衛じゃないっつーの」
移動中、魔物の出るところでは俺たちの討伐を奥さんが見学している。
奥さんのそばには団長がいて、周りを女性騎士が警戒しているが、そのさらに外から第二騎士団の10人くらいが護衛にあたっている。その護衛は持ち回りだが、今日から3日間は俺の番だ。
暴れたい奴らは後方でただ警戒するだけでつまらなさそうにしているが、俺は休めてラッキーだと思っている。いや、もちろん警戒はしてるけどな。危険もないのに給料もらえるんだから楽なもんだろ。
でも奥さん、貴族なのにこんな現場に来るなんて変わってる。
貴族のお嬢様って普通は魔物を見たら悲鳴を上げて逃げるもんなんじゃないのか?死んでるとはいえ、自分から魔物に近づいて行くなんて。なんなら素材の剥ぎ取りに参加したそうにしているのを団長が止めてたし。
団長が連れてきたかったというより、奥さんがついてきた感じだよなあ。
実は団長、奥さんの尻に敷かれているのか。雲の上の人だと思ってたけど、ちょっと親近感が湧いた。
そんなことを考えながら、護衛担当の3日間を過ごした。
クインスとの国境に一番近い街につき、街はずれの空き地に野営の準備をし終わったところで、集合の号令がかかった。
参加している隊全員が集められている。いったい何が始まるんだとざわざわしていると団長が現れ、整列している隊員の前に立った。
「今回の遠征の本当の目的を告げる。隣国クインスより、聖女様がいらっしゃる。皆の任務はその護衛だ」
突然の任務内容の変更にざわつく。
聖女様がこの国に来るってどういうことだ?しかもなんで護衛騎士じゃなくて俺たちなんだ。
そんなざわめきの中、名前を呼ばれたものは前に出てくるように言われ、俺の名前も呼ばれた。
え、俺何した?クビ?
状況がよく分からないけど、でも呼ばれたからには出て行かなければならない。隊の友人たちの心配そうな顔に見送られながら俺より前に呼ばれた人の横に並ぶ。
「お前たちは王都に着くまでは隊から離れ、私の下で聖女様の近くで護衛を担当してもらう。このまま護衛騎士の制服を合わせろ」
は?護衛?俺、平民なんだけど。
一緒に並んでる奴らも戸惑っている。並んでいるメンツを見ると、あんまり強そうじゃない、どっちかって言うと可もなく不可もなくって感じの奴らばかりだ。
追い立てられるようにテントの中に入れられて、護衛騎士の制服のサイズを選ばされる。
「あの、俺平民なんですけど、間違いじゃないですか」
「俺に聞かれても分からない。団長に聞いてくれ」
いや、平民が団長に話しかけるのもだいぶハードルが高いんだけど。でも聞かないわけにもいかないし。
勇気を出して恐る恐る団長の近くにいた人に話しかけると、団長から直接返事が返ってきた。
「第六小隊のシーダだろう。間違ってない」
「ですが自分は平民であります」
団長に話かける敬語なんて分からないよ。騎士養成学校で習ったけど、貴族と関わるところに行く気はなかったから適当に済ませたのを、こんなところで悔やむとは。
「身分は関係ない。君は淡々と護衛の仕事をこなしていた。だから任命した」
奥さんの護衛当番は選抜試験だったらしい。それで俺は合格したと。
休憩時間の感じだと、みんな奥さんそっちのけで女性騎士とどうやって仲良くなるかを考えてたっぽいもんなあ。
護衛騎士の制服を持って来ているってことは、この任務は出発前から決まっていたんだ。
団長ははっきりとは言わなかったが、聖女様はクインス王国から逃げ出すようにトルゴードに来るようで、護衛騎士を動かすことが出来なくて俺たちが来ることになったっぽい。
そんな状況だから、聖女様に威圧感を与えないように厳つい奴ははじいたみたいだ。俺の母親似の女顔がここにきて重宝されるとはな。
あの女性騎士たちは奥さんの護衛ではなくて聖女様のため、奥さんは本当の任務の目くらましと試験官だったということだ。
その割には魔物の観察を楽しんでいたようだけど。
次に家に帰ったら、聖女様を近くで見たって自慢できるぞ。弟たちに話をめっちゃせがまれるだろうな。
でもその前に、無礼なことをしたってクビにならないよう、なるべく他の奴らの後ろにいるようにしよう。
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