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3.5章 平民騎士の困惑の日々
3. 聖女様
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クインスとの国境で、クインスの騎士が護衛する馬車から降りてきたのは、どこにでもいそうな女の子と、どこにでもいそうな女性だった。聖女様って、後光がさしていたりするのかと思ってたよ。
着ているドレスを脱いで、近所に引っ越してきましたって言われても、きっと聖女様だと分からない感じだ。
「聖女様って人間なんだな」
「お前、何当たり前のこと言ってんだ。えーっと」
「シーダ。俺平民だからできれば聖女様から一番遠いところにいたい。よろしく」
「俺はアッシュ。一応下っ端貴族。お前変わってんな。ここはぜひ聖女様とお近づきになりたいと前に行くところだろう」
「嫌だよ。クビになりたくないし。ヘマやらかしたらホントに首が飛びそうだろ」
そういうアッシュだって、前に行くような奴じゃないだろう。というか、護衛に選ばれたメンツを見ると、全員そんな感じだ。あわよくばと思いはしても、行動に移さないうちに終わってしまうような奴らばっかりだ。多分前に行くような奴は団長が外したんだろう。
今は国境から移動して領主の館に入ったので、護衛も一部を残すだけで、ほぼ一日休憩だ。
部屋の中は女性騎士がついているし、建物の入り口を護衛に選ばれなかった奴らが警戒しているので、俺たちは聖女様の泊っている階の警護だけだ。
護衛という慣れないことをしていたので、いつもより長めに休憩が取ってあるらしい。
聖女様もここで少しゆっくりしてから王都に向かうらしい。出発すれば俺たちは緊張を強いられるので、ここでゆっくりしておくようにとも言われている。
聖女様がトルゴードに来たというビッグニュースはあっという間に国中に広がるだろうから、帰りはきっと人が押し寄せる。王都に近くなれば護衛騎士が合流してくれるらしいが、そこまでは俺たちでやるしかない。
「これって特別手当出るかな」
「お前、小心者なのか図太いのかどっちだ?」
だって俺たち能力以上のことを求められてるんだから、特別手当があってもいいよな。
特別手当がなくても仕事はちゃんとする。ちゃんとするけど、やっぱり欲しいだろ。
「お前たちが納得する額が出せるかは分からんが、特別手当は考えておこう」
「団長!」
突然団長が控室に入ってきたので、まずいところを聞かれてしまったけど、弁明できない。
ところで団長と一緒に女性騎士のリリーさんも一緒だが、何かあったんだろうか。
「聖女様が、このまま王都に向かうのではなくこのあたりの浄化をしながら進みたいとおっしゃっている。お前たちの負担が増えるが頑張ってほしい。その分、特別手当は掛け合ってみよう」
団長は宰相の息子だから、これは期待できそうだ。弟たちに新しい冬服を買ってやろう。軽くて暖かい服は高いんだよ。
俺がまだ見ぬ手当てに想像を膨らませているうちに、話が進んでいた。
聖女様が浄化の祈りをささげている時に、少し離れたところにいる聖女様のお母さんと団長の奥さんの護衛をする人を募っている。
「シーダ、お前やったらいいんじゃないか?」
「アッシュも一緒にやろうぜ」
「いいけど」
聖女様から離れるってことだろう。いいねいいね。
「やります」
「私もやります」
「特別手当の割り増しはないぞ」
団長に笑われたけど、聖女様のそばにいるよりもクビの可能性は下がりそうだから、そっちのほうがいい。
俺は単純にそう思っていた。
聖女様の初めての浄化だ。どんなことが起きるのかワクワクする。
女性騎士は聖女様の近くにいるので、聖女様のお母さんと団長の奥さんのすぐ近くで警戒していたら、聖女様の浄化の準備が整ったようで、跪いて祈りの形に手を組んだ。
今日は聖女様はベールで顔を隠しているが、祈りをささげる姿はとても神秘的だ。
聖女様を目の端に捕らえながら周りを警戒していると、聖女様がふわっと光ったと思ったらその光が周りへと広がっていった。俺の身体も通り抜けて行った光は、遠くまで波紋のように広がって行っているのが見える。すごい。
やっぱり聖女様は人間じゃなくて神の御使いなんだろうか。ってことは、この聖女様のお母さんも御使い?
「どうしたの?若いけど、まだ騎士になりたて?護衛してくれてありがとね」
「自分は騎士になって6年であります」
「あら、ごめんなさいね。可愛い顔をしているから、養成学校を卒業したばかりかと思ったわ」
目があったら、聖女様のお母さんに話しかけられた。
確かに俺は母親似の童顔だけど、はっきり言われると傷つく。たぶん子供だと思って気を遣ってくれたんだよな。成人してだいぶ経つんだけど。
「政子さん、護衛に選ばれている騎士は実力も経験も十分ありますよ」
「ジェン君が選んだの?」
「各隊の隊長の推薦と、私の護衛をした時の態度で選んだと聞いています」
ジェン君ってだれだ?と思ったが、どうやら団長らしい。団長の名前って何だっけ。
でも聖女様のお母さんにかかると団長もジェン君になるのか。ジェン君、なんかいいな。俺が家に帰ったら近所のおばちゃん連中からシー坊って呼ばれてるようなもんだろ。
それよりも、俺が護衛に選抜されたのは、俺の隊の隊長の推薦もあったってことだ。隊長に認められていると分かって嬉しい。
そこに祈りを終えた聖女様が駆け寄ってきた。この親子は本当に仲が良い。
聖女様と一緒に女性騎士もこちらに来るのを確認して、俺たちは聖女様のお母さんから離れる。聖女様には近寄らないように言われているのだ。
聖女様は団長の奥さんに話しかけている。団長の奥さんは聖女様の接待係なんだろう。
「やっぱり、この国のほうがクインスより瘴気が薄い気がします」
「分かるのですか?」
「瘴気が濃いところはなんとなく空気が粘っこいような気がするような。上手く言えないんですけど」
分かる分かる。俺もなんとなく、空気がまとわりつく感じがする。でも同僚に言っても分かってもらえなかったんだよ。
俺、感覚だけは聖女様に近いってことだよな。
これは弟たちに自慢できるネタが増えたぞ。
着ているドレスを脱いで、近所に引っ越してきましたって言われても、きっと聖女様だと分からない感じだ。
「聖女様って人間なんだな」
「お前、何当たり前のこと言ってんだ。えーっと」
「シーダ。俺平民だからできれば聖女様から一番遠いところにいたい。よろしく」
「俺はアッシュ。一応下っ端貴族。お前変わってんな。ここはぜひ聖女様とお近づきになりたいと前に行くところだろう」
「嫌だよ。クビになりたくないし。ヘマやらかしたらホントに首が飛びそうだろ」
そういうアッシュだって、前に行くような奴じゃないだろう。というか、護衛に選ばれたメンツを見ると、全員そんな感じだ。あわよくばと思いはしても、行動に移さないうちに終わってしまうような奴らばっかりだ。多分前に行くような奴は団長が外したんだろう。
今は国境から移動して領主の館に入ったので、護衛も一部を残すだけで、ほぼ一日休憩だ。
部屋の中は女性騎士がついているし、建物の入り口を護衛に選ばれなかった奴らが警戒しているので、俺たちは聖女様の泊っている階の警護だけだ。
護衛という慣れないことをしていたので、いつもより長めに休憩が取ってあるらしい。
聖女様もここで少しゆっくりしてから王都に向かうらしい。出発すれば俺たちは緊張を強いられるので、ここでゆっくりしておくようにとも言われている。
聖女様がトルゴードに来たというビッグニュースはあっという間に国中に広がるだろうから、帰りはきっと人が押し寄せる。王都に近くなれば護衛騎士が合流してくれるらしいが、そこまでは俺たちでやるしかない。
「これって特別手当出るかな」
「お前、小心者なのか図太いのかどっちだ?」
だって俺たち能力以上のことを求められてるんだから、特別手当があってもいいよな。
特別手当がなくても仕事はちゃんとする。ちゃんとするけど、やっぱり欲しいだろ。
「お前たちが納得する額が出せるかは分からんが、特別手当は考えておこう」
「団長!」
突然団長が控室に入ってきたので、まずいところを聞かれてしまったけど、弁明できない。
ところで団長と一緒に女性騎士のリリーさんも一緒だが、何かあったんだろうか。
「聖女様が、このまま王都に向かうのではなくこのあたりの浄化をしながら進みたいとおっしゃっている。お前たちの負担が増えるが頑張ってほしい。その分、特別手当は掛け合ってみよう」
団長は宰相の息子だから、これは期待できそうだ。弟たちに新しい冬服を買ってやろう。軽くて暖かい服は高いんだよ。
俺がまだ見ぬ手当てに想像を膨らませているうちに、話が進んでいた。
聖女様が浄化の祈りをささげている時に、少し離れたところにいる聖女様のお母さんと団長の奥さんの護衛をする人を募っている。
「シーダ、お前やったらいいんじゃないか?」
「アッシュも一緒にやろうぜ」
「いいけど」
聖女様から離れるってことだろう。いいねいいね。
「やります」
「私もやります」
「特別手当の割り増しはないぞ」
団長に笑われたけど、聖女様のそばにいるよりもクビの可能性は下がりそうだから、そっちのほうがいい。
俺は単純にそう思っていた。
聖女様の初めての浄化だ。どんなことが起きるのかワクワクする。
女性騎士は聖女様の近くにいるので、聖女様のお母さんと団長の奥さんのすぐ近くで警戒していたら、聖女様の浄化の準備が整ったようで、跪いて祈りの形に手を組んだ。
今日は聖女様はベールで顔を隠しているが、祈りをささげる姿はとても神秘的だ。
聖女様を目の端に捕らえながら周りを警戒していると、聖女様がふわっと光ったと思ったらその光が周りへと広がっていった。俺の身体も通り抜けて行った光は、遠くまで波紋のように広がって行っているのが見える。すごい。
やっぱり聖女様は人間じゃなくて神の御使いなんだろうか。ってことは、この聖女様のお母さんも御使い?
「どうしたの?若いけど、まだ騎士になりたて?護衛してくれてありがとね」
「自分は騎士になって6年であります」
「あら、ごめんなさいね。可愛い顔をしているから、養成学校を卒業したばかりかと思ったわ」
目があったら、聖女様のお母さんに話しかけられた。
確かに俺は母親似の童顔だけど、はっきり言われると傷つく。たぶん子供だと思って気を遣ってくれたんだよな。成人してだいぶ経つんだけど。
「政子さん、護衛に選ばれている騎士は実力も経験も十分ありますよ」
「ジェン君が選んだの?」
「各隊の隊長の推薦と、私の護衛をした時の態度で選んだと聞いています」
ジェン君ってだれだ?と思ったが、どうやら団長らしい。団長の名前って何だっけ。
でも聖女様のお母さんにかかると団長もジェン君になるのか。ジェン君、なんかいいな。俺が家に帰ったら近所のおばちゃん連中からシー坊って呼ばれてるようなもんだろ。
それよりも、俺が護衛に選抜されたのは、俺の隊の隊長の推薦もあったってことだ。隊長に認められていると分かって嬉しい。
そこに祈りを終えた聖女様が駆け寄ってきた。この親子は本当に仲が良い。
聖女様と一緒に女性騎士もこちらに来るのを確認して、俺たちは聖女様のお母さんから離れる。聖女様には近寄らないように言われているのだ。
聖女様は団長の奥さんに話しかけている。団長の奥さんは聖女様の接待係なんだろう。
「やっぱり、この国のほうがクインスより瘴気が薄い気がします」
「分かるのですか?」
「瘴気が濃いところはなんとなく空気が粘っこいような気がするような。上手く言えないんですけど」
分かる分かる。俺もなんとなく、空気がまとわりつく感じがする。でも同僚に言っても分かってもらえなかったんだよ。
俺、感覚だけは聖女様に近いってことだよな。
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