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5章 浄化の旅編
5. 絵日記
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今回の旅には理沙が浄化しているところを絵に残すために画家が同行しているが、理沙も絵を描いている。
以前は浄化が終わったら食後すぐに眠ってしまっていたけれど、移動や馬車にも慣れてきたので、食後から寝るまでに時間を持て余すようになった。その時間を理沙は絵を描くことに当てている。
「理沙、それは今日の記録?」
「うん。シーダさんと地図を描いているところ」
理沙の絵は、画家がキャンパスにある場面を切り取って描くようなものではなく、漫画のようにいくつかの場面を繋げて状況を表している。
次に来る聖女のために、どんなことをしているのかを絵で残しているらしい。浄化の手順書はターシャちゃんと作るので、もう少しプライベートな日記のようなものだ。
「どうせなら日記も書いたら?」
「この世界の文字は書けないから」
「そうだったわね。ターシャちゃんに翻訳してもらう?」
私たちが文字は何故か読めたように、次の聖女もこの世界の文字であれば読めるはず。けれど私たちはこの世界の文字が書けない。
ターシャちゃんは忙しそうにしているし、とりあえず日本語で書いておいて、後でターシャちゃんに翻訳してもらうか、私たちが読んで誰かに代筆してもらうことにした。
「理沙は漫画家になれそうね」
「絵は描けても、ストーリーが作れないもん」
日本の漫画を焼き直したところでここまで著作権侵害で訴えては来ないでしょうけど、倫理的にダメよね。もし後々に日本から聖女が召喚されたら、昔の聖女が盗作したってバレちゃうし。
理沙が絵を描いている間に私は何をしているかというと、料理のレシピを書いている。
聖女様の世界の珍しい料理は他にないのかと聞かれたのだけど、冷蔵庫の中にあるものを見てその日何を作るか決めていたので、レシピと言われてもとっさに出てこない。それに家で作るときは分量なんて適当だ。
とりあえず私がよく作るものを書き出して、この世界にある食材で出来そうなものを判断してもらおうと思ったのだ。
クインスで宿を経営したように、聖女の世界の食べ物を出す料理屋さんを始めることもできるかもしれないけど、そんなに料理が好きなわけじゃないので、かなり後ろのほうに挙げられる候補の一つだ。祐也とふたりの食事を考えるのだって何を作ろうか毎日迷うくらいだったのに、料理屋さんなんてできる気がしない。
「ターシャちゃん、理沙の日記を翻訳するか、誰かに代筆を頼みたいんだけど」
「構いませんが、どうせならこの世界の文字を練習しませんか?話すことができるのですから、習得は早いでしょう」
「私は覚えられる気がしないんだけど」
「トルゴードの文字は、隣国ローズモスと同じです。書くことができればお仕事の幅が広がりますよ」
「お母さん、一緒に練習しようよ」
理沙、あなたの柔らかい頭と一緒にしないで。
でも、やる前から諦めちゃダメだと理沙に諭され、新しいことに挑戦ですよとターシャちゃんに背中を押され、私も一緒に練習することになった。
読めるのだから、先生はいらない。お手本を見て、書き写すだけだ。それなのに難しい。読めてしまうからこそ、難しい。
お手本の文字を模写するように書き写すのだけど、ちゃんと書ければ読めるものの、間違っていると読めない。でも何が間違っていて読めないのかは、見比べてみないと分からない。自分の書いた字で間違い探しをすることになるのだ。
これは文字ではなくてただの記号だと自分に言い聞かせながら書き写す。でなければ気づくと途中から日本語が混ざってしまって訳の分からない文字の羅列が出来上がる。中途半端に自動翻訳が入っているからこそのカオス。
なかなか慣れなくて苦戦したけれど、だんだんと書き写すだけなら間違えずにできるようになってきた。
そんなころには理沙は簡単な文章ならお手本なしで書けるようになっている。習得にかかる時間の差をこうも分かりやすく見せつけられると落ち込むわ。
「シーダ君、言葉遣いの練習はどう?」
「少しずつ考えなくても話せるようになっています」
「若いっていいわねえ。私はなかなか文字が書けるようにならなくて」
言葉遣いで苦戦しているらしい平民騎士のシーダ君に愚痴るけど、こちらも若いんだから上達は早いでしょうね。愚痴る相手を間違えたわ。
同年代の人と、私たちそういうお年頃だから仕方ないよねって話をしたい。次にお城に帰ったときは、私たちの離宮で働いている年齢の近い人を紹介してもらおう。それで愚痴って、次の日からまた頑張るのだ。
誰かが言っていたけれど、これからの人生で今日が一番若い。明日は今日よりも一日年齢を重ねる。
何を始めるのにも遅すぎるってことはないはず。ぐずぐず言っている間に年を取るのだから前向きに、年齢だけでなく努力も重ねていこう。
以前は浄化が終わったら食後すぐに眠ってしまっていたけれど、移動や馬車にも慣れてきたので、食後から寝るまでに時間を持て余すようになった。その時間を理沙は絵を描くことに当てている。
「理沙、それは今日の記録?」
「うん。シーダさんと地図を描いているところ」
理沙の絵は、画家がキャンパスにある場面を切り取って描くようなものではなく、漫画のようにいくつかの場面を繋げて状況を表している。
次に来る聖女のために、どんなことをしているのかを絵で残しているらしい。浄化の手順書はターシャちゃんと作るので、もう少しプライベートな日記のようなものだ。
「どうせなら日記も書いたら?」
「この世界の文字は書けないから」
「そうだったわね。ターシャちゃんに翻訳してもらう?」
私たちが文字は何故か読めたように、次の聖女もこの世界の文字であれば読めるはず。けれど私たちはこの世界の文字が書けない。
ターシャちゃんは忙しそうにしているし、とりあえず日本語で書いておいて、後でターシャちゃんに翻訳してもらうか、私たちが読んで誰かに代筆してもらうことにした。
「理沙は漫画家になれそうね」
「絵は描けても、ストーリーが作れないもん」
日本の漫画を焼き直したところでここまで著作権侵害で訴えては来ないでしょうけど、倫理的にダメよね。もし後々に日本から聖女が召喚されたら、昔の聖女が盗作したってバレちゃうし。
理沙が絵を描いている間に私は何をしているかというと、料理のレシピを書いている。
聖女様の世界の珍しい料理は他にないのかと聞かれたのだけど、冷蔵庫の中にあるものを見てその日何を作るか決めていたので、レシピと言われてもとっさに出てこない。それに家で作るときは分量なんて適当だ。
とりあえず私がよく作るものを書き出して、この世界にある食材で出来そうなものを判断してもらおうと思ったのだ。
クインスで宿を経営したように、聖女の世界の食べ物を出す料理屋さんを始めることもできるかもしれないけど、そんなに料理が好きなわけじゃないので、かなり後ろのほうに挙げられる候補の一つだ。祐也とふたりの食事を考えるのだって何を作ろうか毎日迷うくらいだったのに、料理屋さんなんてできる気がしない。
「ターシャちゃん、理沙の日記を翻訳するか、誰かに代筆を頼みたいんだけど」
「構いませんが、どうせならこの世界の文字を練習しませんか?話すことができるのですから、習得は早いでしょう」
「私は覚えられる気がしないんだけど」
「トルゴードの文字は、隣国ローズモスと同じです。書くことができればお仕事の幅が広がりますよ」
「お母さん、一緒に練習しようよ」
理沙、あなたの柔らかい頭と一緒にしないで。
でも、やる前から諦めちゃダメだと理沙に諭され、新しいことに挑戦ですよとターシャちゃんに背中を押され、私も一緒に練習することになった。
読めるのだから、先生はいらない。お手本を見て、書き写すだけだ。それなのに難しい。読めてしまうからこそ、難しい。
お手本の文字を模写するように書き写すのだけど、ちゃんと書ければ読めるものの、間違っていると読めない。でも何が間違っていて読めないのかは、見比べてみないと分からない。自分の書いた字で間違い探しをすることになるのだ。
これは文字ではなくてただの記号だと自分に言い聞かせながら書き写す。でなければ気づくと途中から日本語が混ざってしまって訳の分からない文字の羅列が出来上がる。中途半端に自動翻訳が入っているからこそのカオス。
なかなか慣れなくて苦戦したけれど、だんだんと書き写すだけなら間違えずにできるようになってきた。
そんなころには理沙は簡単な文章ならお手本なしで書けるようになっている。習得にかかる時間の差をこうも分かりやすく見せつけられると落ち込むわ。
「シーダ君、言葉遣いの練習はどう?」
「少しずつ考えなくても話せるようになっています」
「若いっていいわねえ。私はなかなか文字が書けるようにならなくて」
言葉遣いで苦戦しているらしい平民騎士のシーダ君に愚痴るけど、こちらも若いんだから上達は早いでしょうね。愚痴る相手を間違えたわ。
同年代の人と、私たちそういうお年頃だから仕方ないよねって話をしたい。次にお城に帰ったときは、私たちの離宮で働いている年齢の近い人を紹介してもらおう。それで愚痴って、次の日からまた頑張るのだ。
誰かが言っていたけれど、これからの人生で今日が一番若い。明日は今日よりも一日年齢を重ねる。
何を始めるのにも遅すぎるってことはないはず。ぐずぐず言っている間に年を取るのだから前向きに、年齢だけでなく努力も重ねていこう。
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