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8章 ローズモス編
7. 親同士の会話
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お買い物を楽しんだ後は、お茶会だ。
理沙はお姫様主催の若い人たちのお茶会、私は王妃様主催のお茶会だ。
こういう行事に理沙と別々に参加するのは今回が初めてだ。理沙にはターシャちゃんが、私にはトルゴードのお妃様が付き添ってくれる。
理沙はお買い物で打ち解けたお姫様が一緒なのであまり緊張していないようだけど、私は緊張している。
「マサコ様はお国ではどのような暮らしをされていたのですか?」
「商会に勤めていました」
出席者は王妃様を筆頭に貴族の奥様方が多いので、労働者階級だと馬鹿にされないかと内心ヒヤヒヤしている。別に私は馬鹿にされてもいいんだけど、理沙の評判が悪くなるのは避けたい。
当たり障りなく詳細は適度にぼやかして答えているけど、これにはトルゴードでの聞き取り調査が役立っている。あれのおかげで普通だと思っていることの何が普通じゃないかがなんとなく分かった。聞き取り調査はまだ途中だけど、教育システムにかなり興味があるようで、小学校に入学したところからなかなか進まないでいる。
「マサコ様はクインス、トルゴード、ベイロール、そしてこのローズモスと多くの国を周られていますが、どちらの国がお気に召しましたか?」
「……」
「お食事はどちらの国の物がお好みですか?」
「そうですね、トルゴードの味付けが好きです。ローズモスは、街道沿いの景色に感動しました」
そういう答え方によっては角が立ちそうな質問は止めてほしい。ワザとなのかな。
私が返答に詰まると、トルゴードのお妃様がさりげなく助け舟を出してくれるので、場は白けずに済んでいる。こういうところでの話術が貴族や王族には求められるんだろう。
商談の合間の世間話程度ならなんとかなるけど、社交は全くもって無理ね。私には上流階級は似合わないわ。
結局、最初から最後まで曖昧に笑って終わらせた。ほうれい線が深く刻まれちゃったんじゃないかしら。
お妃様が上手く誘導してくれて私が答えられるような無難な話題を振ってくれるんだけど、中には理沙の恋愛事情を知りたい人がさりげなくそういう質問を挟んでくるので油断ができない。どちらかというと私と同年代の人たちが多かったから、自分の息子を売り込みたいのかもしれない。
そんな気の抜けないお茶会もあったけど、周りに助けてもらって予定された行事は全て順調にこなした。
そして理沙おススメの、ターシャちゃんとお姫様のお父さんであるボターニのグローリ公爵ともお茶会をした。
後はおふたりで、と言って若者たちが離れて行ったときは、公爵と顔を見合わせて苦笑してしまった。
「娘が余計なことを企んでいるようで、すみません」
「お気になさらずに。こうしてお話する機会をいただけただけで光栄です」
お互いに苦笑してしまったのは、ここで私と公爵の間に何かが起きるはずもないからだ。
理沙がトルゴードにいるのはターシャちゃんがいるというのが大きい。そして今、ローズモスでお姫様と仲良くしているけど、それもきっかけはターシャちゃんの姉だったからだ。
そこに加えてターシャちゃんの父親。さすがにそこまで公爵家と聖女のつながりを強くすることはできない。公爵家が聖女様を利用していると言われてしまう。
聡いターシャちゃんがそのことに気付いていないはずがないから、おそらくそんなことは気にもかけていない理沙が押し切ったのだろう。
「ナスターシャが聖女様のお役に立てているようで安心しました」
「ターシャちゃんがいてくれたから、私たちはトルゴードで生活できています」
「不思議な縁だと思っておりましたが、聖女様のために神のお導きがあったのでしょう」
お姫様の婚約破棄がなければ、ターシャちゃんがジェン君と結婚してトルゴードに来ることもなく、その結果クインスで私たちと出会うこともなかった。本当に不思議な縁だ。まあターシャちゃんがこの世界にいること自体が一番不思議だけど。
「あの子は昔から一歩引いて他人を観察しているようなところがありましたが、先日会った印象ではジェンシャン殿が上手く合わせて下さっているように感じました」
「そうですね。浄化のときも仲良さそうでしたよ」
今ターシャちゃんは理沙のお願いで、この世界の瘴気や魔物を減らすために動いていて忙しい。
ジェン君や第二騎士団と行動することが多いため、興味のあることに一直線になってしまうターシャちゃんにジェン君が振り回されているように見えるけど、ターシャちゃんが専念できるようにジェン君が裏で手を回しているのかもしれない。
ローズモスに来てからは外交が忙しそうだけど、ちゃんと二人の時間が取れているかしら。ミュラじゃないけど気になってしまう。
その後は、紙芝居の話になった。トルゴードの担当者から見せてもらったそうで、ボターニでも取り入れようと考えているそうだ。ボターニもローズモス同様魔物の影響はあまりないので、内容はローズモスと同じように日常の話を想定しているらしい。
「マサコ様はボターニの文字も読めるですか?」
「ええ。どの国の文字もなぜか読めます」
「神の御業ですね。でしたら古文書も読めるのではありませんか?」
古文書。なんて素敵な響き。
確かにこの世界の文字がなんでも読めるってことは、この世界の現在では解読不能な文字も読めるかもしれない。夢が広がるわ。
公爵とのお茶会は終始穏やかに進んだ。
理沙には悪いけど、色っぽい雰囲気はもちろん一切なかった。
けれど、利害のほとんど絡まない人と話が出来たのはよかったわ。
理沙はお姫様主催の若い人たちのお茶会、私は王妃様主催のお茶会だ。
こういう行事に理沙と別々に参加するのは今回が初めてだ。理沙にはターシャちゃんが、私にはトルゴードのお妃様が付き添ってくれる。
理沙はお買い物で打ち解けたお姫様が一緒なのであまり緊張していないようだけど、私は緊張している。
「マサコ様はお国ではどのような暮らしをされていたのですか?」
「商会に勤めていました」
出席者は王妃様を筆頭に貴族の奥様方が多いので、労働者階級だと馬鹿にされないかと内心ヒヤヒヤしている。別に私は馬鹿にされてもいいんだけど、理沙の評判が悪くなるのは避けたい。
当たり障りなく詳細は適度にぼやかして答えているけど、これにはトルゴードでの聞き取り調査が役立っている。あれのおかげで普通だと思っていることの何が普通じゃないかがなんとなく分かった。聞き取り調査はまだ途中だけど、教育システムにかなり興味があるようで、小学校に入学したところからなかなか進まないでいる。
「マサコ様はクインス、トルゴード、ベイロール、そしてこのローズモスと多くの国を周られていますが、どちらの国がお気に召しましたか?」
「……」
「お食事はどちらの国の物がお好みですか?」
「そうですね、トルゴードの味付けが好きです。ローズモスは、街道沿いの景色に感動しました」
そういう答え方によっては角が立ちそうな質問は止めてほしい。ワザとなのかな。
私が返答に詰まると、トルゴードのお妃様がさりげなく助け舟を出してくれるので、場は白けずに済んでいる。こういうところでの話術が貴族や王族には求められるんだろう。
商談の合間の世間話程度ならなんとかなるけど、社交は全くもって無理ね。私には上流階級は似合わないわ。
結局、最初から最後まで曖昧に笑って終わらせた。ほうれい線が深く刻まれちゃったんじゃないかしら。
お妃様が上手く誘導してくれて私が答えられるような無難な話題を振ってくれるんだけど、中には理沙の恋愛事情を知りたい人がさりげなくそういう質問を挟んでくるので油断ができない。どちらかというと私と同年代の人たちが多かったから、自分の息子を売り込みたいのかもしれない。
そんな気の抜けないお茶会もあったけど、周りに助けてもらって予定された行事は全て順調にこなした。
そして理沙おススメの、ターシャちゃんとお姫様のお父さんであるボターニのグローリ公爵ともお茶会をした。
後はおふたりで、と言って若者たちが離れて行ったときは、公爵と顔を見合わせて苦笑してしまった。
「娘が余計なことを企んでいるようで、すみません」
「お気になさらずに。こうしてお話する機会をいただけただけで光栄です」
お互いに苦笑してしまったのは、ここで私と公爵の間に何かが起きるはずもないからだ。
理沙がトルゴードにいるのはターシャちゃんがいるというのが大きい。そして今、ローズモスでお姫様と仲良くしているけど、それもきっかけはターシャちゃんの姉だったからだ。
そこに加えてターシャちゃんの父親。さすがにそこまで公爵家と聖女のつながりを強くすることはできない。公爵家が聖女様を利用していると言われてしまう。
聡いターシャちゃんがそのことに気付いていないはずがないから、おそらくそんなことは気にもかけていない理沙が押し切ったのだろう。
「ナスターシャが聖女様のお役に立てているようで安心しました」
「ターシャちゃんがいてくれたから、私たちはトルゴードで生活できています」
「不思議な縁だと思っておりましたが、聖女様のために神のお導きがあったのでしょう」
お姫様の婚約破棄がなければ、ターシャちゃんがジェン君と結婚してトルゴードに来ることもなく、その結果クインスで私たちと出会うこともなかった。本当に不思議な縁だ。まあターシャちゃんがこの世界にいること自体が一番不思議だけど。
「あの子は昔から一歩引いて他人を観察しているようなところがありましたが、先日会った印象ではジェンシャン殿が上手く合わせて下さっているように感じました」
「そうですね。浄化のときも仲良さそうでしたよ」
今ターシャちゃんは理沙のお願いで、この世界の瘴気や魔物を減らすために動いていて忙しい。
ジェン君や第二騎士団と行動することが多いため、興味のあることに一直線になってしまうターシャちゃんにジェン君が振り回されているように見えるけど、ターシャちゃんが専念できるようにジェン君が裏で手を回しているのかもしれない。
ローズモスに来てからは外交が忙しそうだけど、ちゃんと二人の時間が取れているかしら。ミュラじゃないけど気になってしまう。
その後は、紙芝居の話になった。トルゴードの担当者から見せてもらったそうで、ボターニでも取り入れようと考えているそうだ。ボターニもローズモス同様魔物の影響はあまりないので、内容はローズモスと同じように日常の話を想定しているらしい。
「マサコ様はボターニの文字も読めるですか?」
「ええ。どの国の文字もなぜか読めます」
「神の御業ですね。でしたら古文書も読めるのではありませんか?」
古文書。なんて素敵な響き。
確かにこの世界の文字がなんでも読めるってことは、この世界の現在では解読不能な文字も読めるかもしれない。夢が広がるわ。
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