シンデレラの義姉は悪役のはずでしたよね?

梅乃なごみ

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キスはルールに含まれます(6)

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「あっ、違うのです。驚いてしまっただけで……」

 思わず口をついた言葉に自分でも驚いた。自分の反応が彼を傷つけてしまったという罪悪感もあるのかもしれないが、好きでもない男性に抱きつかれ閨を連想させるような行動を取られたら気色が悪いと思って当然だろう。

 けれど、ソフィーは自分でも不思議なほど嫌悪感はなかった。本当にただ突然のことに驚いただけ。
 なぜなのか再度自分に問いかけても分からないので、もうすでに三ヶ月間の婚約者であるという決意がそうさせているのだろうと結論づけることにした。

 しんっと静まり返る寝室。妙な雰囲気になってしまった。
 抱きしめられている腕にはさほど力が入っておらず、手や足を自由に動かすことができる。
 気まずくて肩に触れている手に指先を重ね、ベッドに入ってから初めてエルバートの顔を仰いだ。

「エルバート様……?」

 けれど予想に反してアメジストの瞳が切なげに伏せられ、形の良い唇はきゅっと結ばれていた。
 てっきり『やっちゃった☆』みたいなふざけた笑顔をしてくると思っていたから困惑する。

「ソフィーを失いたくない」

 そんなに強く拒否してしまったのだろうか。

「ここにおりますよ」

 三ヶ月だけだけれど。まるで子供のようだと白銀の髪に触れ、そっと撫でる。
 なにをやっているんだろうと自分でもおかしくなったけれど、彼の瞳がさらに切なく光って、緩く幼い笑みを浮かべると安心した。

「……ソフィーは優しすぎるよ。意味が分かってたなら力が抜けた瞬間に逃げればいいのに。この態度だって演技かもしれないだろ」
「なに拗ねているんですか」
「嫌だったなら……逃げてくれないと、期待しそうになるじゃん」

 頭を撫でていた指を絡め取られ手首にちゅっと唇が触れる。
 ほら、怖いでしょ。と視線がこちらを伺ってきた。突拍子もない行動にでる人かと思えば子供みたいな態度で自分に嫌われることを恐れたり、こんなふうに熱の籠もった瞳で見つめてきたりする。

(……なんだか変な人)

 でもそれを嫌だと思わない自分も変なのかもしれない。
 異性から真っ直ぐ見つめられること慣れていないソフィーは気恥ずかしさから目をそらした。

「ソフィー大好き」

 手首にまた柔らかなものが触れる。それは啄むように繰り返され、指先へと辿り着いた。
 ぴりぴり痺れるような感覚に眉が下がってしまう。

「くすぐったいですよ」
「わあっ……なに今の顔、最高に可愛い」
 
 困った顔を喜ぶようにずいっと顔を近づけられる。
 綺麗な瞳を爛々と輝かせて、穴が空くほど見つめられて視線を逸らす隙も与えられずに唇が重ねられる。
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