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悪役を愛するのは(7) ※

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「んっ……んんっ、は、んっ!」

 彼の声が少し緩む。キスで口を塞がれ、舌が絡み合う。グッグッ、と膝が擦れる度、ソフィーの腰が跳ね上がる。

 舌先が痺れ、無意識につま先に力が入るソフィーは一定のリズムで弱いところを刺激されついに一人で立っていられなくなってしまった。力が抜けて崩れた身体がエルバートの膝の上に落ちた瞬間、ソフィーは今までで一番身体を震わせた。

「ぁっ……あ……っ、え……?」

 じわじわと波が引いていく感覚に膝と腰の震えが止まらない。ベッドでエルバートに触れられたときに寸前で止めてくれていたなにかが一気に超えてしまった気がする。困惑する頭と痺れる身体が言うことを聞かない。

「ソフィー……?」
「っ、デート中に申し訳ありませんでした……ポールのことは……エルバート様が思っているような……」

 慌てた様子のエルバートに抱き上げられ、力が入らないのでそのまま身体を預ける。
 謝罪して安心したら、ようやく羞恥心が湧きじわっと涙が滲んできた。外でなんて醜態をさらしているのだろう。
 途中から余裕がなくて力任せに握ってしまった一部のお菓子は袋の中で潰れてしまっている。

「ごめんね。意地悪し過ぎた」

 彼の声色にもう怒りは感じられない。

「ソフィーが僕のことが好きだって分かってるはずなのに」
「……好きだなんて言ってません」

 よかった、いつもの彼だ。抱いた菓子に視線を落としたエルバートは再度小さく「ごめんね」と零して遠慮がちな笑みを向ける。
「一旦帰ろうか。菓子も新しいのを用意するよ」
 頷くべき提案だったのだろう。

「……パンのいい香りがします。どこかで昼食にしませんか」

 ソフィーは漂うバターの香りに顔を向けた。
 仲直りしたい。こんな気持ちのまま宮殿に戻るのは嫌だった。エルバートに触れられたのが恥ずかしいけど、嫌悪感は全くない。

(今、宮殿に戻ったら……変なことを言いそうになる)

 もっと、触れて欲しい。そんな戯言を口にする前に正気に戻りたい。
 ソフィーの心の内を知ってか知らずか、エルバートはソフィーを抱いたまま路地裏からぴょん、と飛び出た。

「じゃぁ、僕のとっておきの場所に案内させて」

一先ず昼食を、とエルバートが絶賛していたワッフルは目の前で売り切れてしまい、代わりに焼きたてふわふわのパンを買って、またエルバートはふわりと飛んだ。

 市場に来た時と違い、地に足が着いていないことに安心したのは腰が砕けて上手く歩けないソフィーを嬉しそうに横抱きしたまま歩かれるのはあまりに恥ずかしいからだ。

 ここだ、と地上に着いてから鬱蒼とした石垣のトンネルを抜けた先、現れたのは――白い花が咲き誇り、一面に広がる花畑だった。
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