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私はヒロインになれない(5) ■エルバート視点
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苛立ちながら地下通路を歩く。
宮殿の地下牢に古い知人をブチ込むのは気分が悪い。
皇帝という立場だからこそ贔屓することは許されない。
とはいえ、アイツは仮にも帝国一の魔法使いと呼ばれていたくらいだから過去の功績を踏まえれば記憶操作を一切していない人間を帝国に連れてきた罪自体を軽減することはできるだろう。
そもそも先帝である父の代までは地上から人間を連れてきて番いにする、ということ自体はそれなりの数が行われていた。と、言っても一方的に攫ってくるような真似をしていたのは何代も前の話で、地上の人間をまるで所有物のように扱うのは如何なものかと物議を醸した過去もある。
それからは大体が《神秘的な魔法使い》として人間の前に現れ、願いを叶えて対価と称してあたかも生まれた頃から天空で暮らしていたかのような記憶を与え、帝国へ連れて帰る流れだった。
一人の人間を地上から消すというのは簡単なことではなく、結局のところ膨大な魔力を有している皇族の力が必要不可欠のためなにか功績を上げた際の褒美となるパターンが殆どだった。
記憶の操作の際にある程度自分好みの性格を植え付けることが可能なため、それを目的とした悪趣味な輩もごく希に存在していたが、天空に連れてきたからと言って人間が魔法を使えるようになったり、寿命がが変わるわけではない。平均年齢が二百歳を超える魔法使いにとってその半分も生きられない人間は魔法使いにとって弱く儚く健気な生き物だ。
皇族だけは膨大すぎる魔力を押さえ込むため、定期的に人間を番いにし、皇族だけが使用できる心臓をリンクさせる魔法によって自分と同じ時の流れを生きてもらうことが可能だが、それはあくまで皇族だけの特権であり特例に過ぎない。
しかも、心臓をリンクさせた皇族ですら子供を授かるには高度な条件が必要になる。
それは、人間側から深い愛情を受けることだ。記憶の操作はそれに有効ではない。つまり、心の底から人間と魔法使いが愛し合った結果でしか異種族の間の子供は残せないのだ。
公にこそされていないが、エルバートの代まで殆どが事実上の失敗に終わっており、片手で数えられるほどの成功例は結局ギリギリのラインまで記憶を改ざんしていた。あと一滴でグラスの水がこぼれるような状態を魔法で作り上げ、残り一滴を育むことでなんとか子をもうけた記録が残っている。
それもあって、殆どの魔法使いは褒美の一部だからと番いにできる選択があったとしても、人間に対しては庇護欲以上の感情を持たない者が多かった。
その現状も踏まえ、エルバートの代から人間をこの国に連れてくることは原則禁止としているし、記憶を操作していないなど以ての外だ。
しかも、相手が悪かった。ソフィーの義妹のシンデレラ。
愛しのソフィーには悪いが、王子とくっつけてようやく終わったのと思ったのにまたあの顔を見ることになるだなんて思わなかった。
「ようやくソフィーが、ソフィーの人生を歩めると思っていたのに……」
大きなため息をついて頭を抱える。ソフィーをこの国に連れてくること自体が彼女の人生を奪っていると言われればそうなのだろう。
けれど、エルバートがソフィーを諦める選択肢は最初から存在していないし、する気もない。
彼女は覚えていないだろうが、十二年、待ったのだ。魔法使いのエルバートにとって一瞬のように思えるはずの時間が途方もなく長く感じられた。
幼い彼女を初めて見たときの衝撃は今でも鮮明に覚えている。あれが初恋だったのも、適当に選ぶはずだった伴侶
を絶対的にしたのも。
自分たちの魔力のために血を入れるなんてことはどうでもいい。ソフィーとの子供ができたらこの世のなにより愛しくなる自信があるが、ソフィーと血が繋がっているだなんて我が子ながら羨ましくて嫉妬してしまうくらいだ。
ああ、でもきっと可愛いだろうな、と妄想が先走る。子供どころか、彼女から好意を向けられている気がしないのは一先ず置いておいて。
宮殿の地下牢に古い知人をブチ込むのは気分が悪い。
皇帝という立場だからこそ贔屓することは許されない。
とはいえ、アイツは仮にも帝国一の魔法使いと呼ばれていたくらいだから過去の功績を踏まえれば記憶操作を一切していない人間を帝国に連れてきた罪自体を軽減することはできるだろう。
そもそも先帝である父の代までは地上から人間を連れてきて番いにする、ということ自体はそれなりの数が行われていた。と、言っても一方的に攫ってくるような真似をしていたのは何代も前の話で、地上の人間をまるで所有物のように扱うのは如何なものかと物議を醸した過去もある。
それからは大体が《神秘的な魔法使い》として人間の前に現れ、願いを叶えて対価と称してあたかも生まれた頃から天空で暮らしていたかのような記憶を与え、帝国へ連れて帰る流れだった。
一人の人間を地上から消すというのは簡単なことではなく、結局のところ膨大な魔力を有している皇族の力が必要不可欠のためなにか功績を上げた際の褒美となるパターンが殆どだった。
記憶の操作の際にある程度自分好みの性格を植え付けることが可能なため、それを目的とした悪趣味な輩もごく希に存在していたが、天空に連れてきたからと言って人間が魔法を使えるようになったり、寿命がが変わるわけではない。平均年齢が二百歳を超える魔法使いにとってその半分も生きられない人間は魔法使いにとって弱く儚く健気な生き物だ。
皇族だけは膨大すぎる魔力を押さえ込むため、定期的に人間を番いにし、皇族だけが使用できる心臓をリンクさせる魔法によって自分と同じ時の流れを生きてもらうことが可能だが、それはあくまで皇族だけの特権であり特例に過ぎない。
しかも、心臓をリンクさせた皇族ですら子供を授かるには高度な条件が必要になる。
それは、人間側から深い愛情を受けることだ。記憶の操作はそれに有効ではない。つまり、心の底から人間と魔法使いが愛し合った結果でしか異種族の間の子供は残せないのだ。
公にこそされていないが、エルバートの代まで殆どが事実上の失敗に終わっており、片手で数えられるほどの成功例は結局ギリギリのラインまで記憶を改ざんしていた。あと一滴でグラスの水がこぼれるような状態を魔法で作り上げ、残り一滴を育むことでなんとか子をもうけた記録が残っている。
それもあって、殆どの魔法使いは褒美の一部だからと番いにできる選択があったとしても、人間に対しては庇護欲以上の感情を持たない者が多かった。
その現状も踏まえ、エルバートの代から人間をこの国に連れてくることは原則禁止としているし、記憶を操作していないなど以ての外だ。
しかも、相手が悪かった。ソフィーの義妹のシンデレラ。
愛しのソフィーには悪いが、王子とくっつけてようやく終わったのと思ったのにまたあの顔を見ることになるだなんて思わなかった。
「ようやくソフィーが、ソフィーの人生を歩めると思っていたのに……」
大きなため息をついて頭を抱える。ソフィーをこの国に連れてくること自体が彼女の人生を奪っていると言われればそうなのだろう。
けれど、エルバートがソフィーを諦める選択肢は最初から存在していないし、する気もない。
彼女は覚えていないだろうが、十二年、待ったのだ。魔法使いのエルバートにとって一瞬のように思えるはずの時間が途方もなく長く感じられた。
幼い彼女を初めて見たときの衝撃は今でも鮮明に覚えている。あれが初恋だったのも、適当に選ぶはずだった伴侶
を絶対的にしたのも。
自分たちの魔力のために血を入れるなんてことはどうでもいい。ソフィーとの子供ができたらこの世のなにより愛しくなる自信があるが、ソフィーと血が繋がっているだなんて我が子ながら羨ましくて嫉妬してしまうくらいだ。
ああ、でもきっと可愛いだろうな、と妄想が先走る。子供どころか、彼女から好意を向けられている気がしないのは一先ず置いておいて。
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