シンデレラの義姉は悪役のはずでしたよね?

梅乃なごみ

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私はヒロインになれない(6) ■エルバート視点

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「……さっきの怖がらせちゃったよなぁ。どうしよう、嫌われたりしたら生きていけないよ」
 
 ポールは推しのためだったから悔いはないだのとほざいていたけれど、これが原因で万が一があったら権力を駆使してアイツが一番嫌がる罪を与えてやろう。例えば、シンデレラと夫の王子がキス……は、むしろ喜びそうだから喧嘩しているところでも永遠と見せつけてやろう。どんな酷刑よりもそれが一番あのジジィを精神的に追い詰めるだろう。

 仕返しを考える皇帝は狭い石の通路を進み、最奥で足を止めた。
 重厚な鉄製の扉に手をかけ、錠前の音が虚空に響き渡る。扉の向こう側からは、薄暗い灯火の光が微かに漏れている。その光が暗い通路を照らし、壁面に差し込むと、その表面には不気味な影が生じ、ゆらゆらと幽霊のような姿を浮かび上がらせる。

「シンデレラ? シンデレラなのか?」

 その問いかけにエルバートは応えない。ただ、男の前に立ち、静かに呪文を唱えてまた男を眠りにつかせる。
 男の手にはガラスの靴。胸には地上の国の王族の紋章が刻まれたブローチ。
 馬鹿の一つ覚えのようにその二つを身につけて探し回っているのだろう。正しくは、あの馬鹿ポールが地上の城の地下室と帝国の地下室を繋げてしまったのだ。アイツを野放しにしていた自分に責任がある。
 この地下へのリンクを解くこと自体はエルバートにとって難しいことではない。けれど、それができないのには理由があった。

 滅多に使われることのないルールのため存在していることさえ忘れていた。
 一度、天空へ来た人間が地上に戻るためには地上の人間の迎えが必要なのだ。地上の人間はこの国の存在すら知らないのだからないに等しいルールであり、皇族だけはいつの時代も伴侶として地上から連れてくることが可能だったためその一人だけを戻すことができる。
 つまり、現状はエルバートがソフィーを地上へ戻すことができても、皇族でないポールがシンデレラを連れてきても戻すことはできない。だから自分の代わりに王子がこの国に足を踏み入れるようにしたのだ。

 ルールは契約でありこの帝国の要でもある。しかも地上関連のルールとなればエルバートであってもすぐに変更できるものではなかった。
 早急にポールの罪状を裁定し、この王子にシンデレラを連れて帰ってもらわなければならない。
 帝国について勉強し、市場に繰り出すことが趣味になっているソフィーが義姉としての顔を完全に取り戻してしまう前に。

「……とんだ嫌がらせだ」

 地上で一国の王太子妃が行方不明になり、それを探して王子は徘徊。考えただけで記憶に関する処理が多すぎる。
 エルバートは再度大きなため息をついて、愛しの婚約者に癒やされる妄想を糧に重い扉を閉めた。
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