2 / 101
1章 最強中年は敗北を求める
第2話 最強中年はロードバイクを購入する
しおりを挟む
WEBで検索して知ったけど、ロードバイクを売っているスポーツ自転車店が県内に結構あったのだな。
その中で目に付いた『エンシェント・バレー』という名前の店舗……なんでファンタジー感満載の店名なんだ?
店主の名前が古谷茂雄だから『エンシェント・バレー』か?
店主が面白い人なのかな?
気軽に話しかけられそうだから次の休日に行ってみるか。
逸る気持ちを抑えながら一週間の仕事を乗り切り、お楽しみの土曜日を迎えた。
そして、目的の『エンシェント・バレー』に開店と同時に入店した。
入店直後、険しい表情の眼光が鋭い60代くらいの男性と目が合う。
「いらっしゃい」
こんなに重苦しい「いらっしゃい」を聞いたのは初めてだな。
気軽に話しかけられそうにもないな……ファンタジー風の店名を付けたお茶目な店主は何処に消えた?
周りを見渡しても自転車だらけで他に店員はいない。
いきなり立ち去るのも失礼だし困ったな……黙って立ち尽くしていると、背後の自動ドアが開き自転車競技用の装備を身に纏った女性が白いロードバイクを押しながら入ってきた。
「おはようシゲさん。予約してたチェーン交換宜しく!」
「おう。『ノノ』もチェーン交換くらい出来る様になったらどうだ?」
「必要ないですぅ。シゲさんに交換してもらった方が3Wくらい軽く走れるんだから」
「ちっさい差じゃないか」
「あれっ、珍しい。朝一でお客さんいるじゃない」
『ノノ』と呼ばれていた女性が私に気付いた。
「えぇっと……」
「私は西野綾乃。仲間からはノノって呼ばれてるわ」
『にしのあやの』だから『ノノ』か。
ロードバイク乗りはあだ名で呼び合うのが普通なのかな。
私にはあだ名がないから普通に名乗るか。
「宜しくノノ。私は中杉猛士です」
「初対面なのに、いきなりあだ名で呼ばないでよ」
サングラスで表情は分からないが怒っているのか?
あだ名で呼べって言ってる様な話の流れだったと思ったのだけどな。
「失礼しました。初めまして西野さん」
「ノノでいいわよ」
一体どっちなんだ?!
よく分からないが西野のお陰で緊張がほぐれたので、私は意を決して店主のシゲさんにロードバイク購入の意図を伝えた。
選び方を知らない事を伝えたところ、シゲさんが一台の青いロードバイクを指差した。
「それがお勧めだよ」
「あれぇ、シゲさんアルミで安いの勧めるんだ。しかもそんな硬い奴を初心者に勧めていいの?」
アルミ? 硬い? 西野の言った事の意味は何だろう?
「お客さん体格いいからコイツがお勧めだ。コイツは体格がいいスプリンターやTTスペシャリストにお勧めなんだ。廉価なアルミ製だけどスプリントに耐える剛性と、高速巡行する為のエアロ性能があるからね。カーボン製のハイエンド品には劣るけどお勧めだよ」
店主のシゲさんの言っている事は良く分からないけど、考えがあって選んでくれているのは理解出来たので購入を決めた。
「急に黙ってどうしたの?」
購入を決めた後に急に黙った私を西野が気に掛ける。
購入予定の青いロードバイクに名前を付けようと思って考え込んでいただけなのだが、急に黙った事で心配をかけたのだろう。
そうだ、折角だから西野にも協力してもらおう。
候補の名前は今のところ二つ。
「なぁノノ、空と海どちらがいいと思う?」
「ななななっ、いきなりデートに誘うとか……ありえないんですけど!!」
急に挙動不審になる西野。
しかもデートだと? 何の勘違いだ?!
「何を言っているのだ? 海はともかく空をデート先に選ぶ人はいないと思うけどな」
「なら、なんで聞いたのよ?」
「このロードバイク青いだろ。だから空と海どちらの名前を付けるか悩んでたんだ」
「名前えぇぇぇぇっ! ロードバイクに名前つけるの?!」
西野が叫んだ。
そんなに名前を付けるのが可笑しい事なのか?
狼狽えたり叫んだり西野が感情豊かなだけだと思うけどな。
良く分からないが、勘違いは解いておく必要があると思い、西野に名前の候補について説明する。
「空ならセレスタイト、海ならディープシーにしようと思ってる」
「ディープシーは分かるけど、セレスタイトってなによ?」
スマホで西野にセレスタイトの画像を見せる。
画面に映る、澄み切った青空の様な色の鉱石。
西野も気に入ってくれた様でうっとりしている。
「空色の綺麗な石ね……猛士みたいな男性の趣味ではないわね」
「それならディープシーにしよう」
「それが良いわ。空色が似合うロードバイクは他にあるから」
西野と話している間にシゲさんが購入手続きを進めてくれていた。
私はそのままロードバイクに乗って帰ろうと思っていたが、整備が終わっていないので受け取りは一週間後になるとの事だ。
どうやらロードバイクは購入時の整備に時間がかかるのが普通らしい。
大手店舗とかは整備済のロードバイクを置いているみたいだが、『エンシェント・バレー』では購入が決まった後に整備を行うのだ。
サービスでフィティングしてくれる事になり、シゲさんに腕や足の長さを測られた。
すこし恥ずかしかったが、サドルの高さとか色々調整してくれるとの事だ。
そして、手続きが終わり帰ろうとしたところ、装備品一式を選びに行こうと西野に誘われた。
私は西野と連絡先を交換した後、自転車乗りは親切な人が多いなと思いながら店を後にしたーー
その中で目に付いた『エンシェント・バレー』という名前の店舗……なんでファンタジー感満載の店名なんだ?
店主の名前が古谷茂雄だから『エンシェント・バレー』か?
店主が面白い人なのかな?
気軽に話しかけられそうだから次の休日に行ってみるか。
逸る気持ちを抑えながら一週間の仕事を乗り切り、お楽しみの土曜日を迎えた。
そして、目的の『エンシェント・バレー』に開店と同時に入店した。
入店直後、険しい表情の眼光が鋭い60代くらいの男性と目が合う。
「いらっしゃい」
こんなに重苦しい「いらっしゃい」を聞いたのは初めてだな。
気軽に話しかけられそうにもないな……ファンタジー風の店名を付けたお茶目な店主は何処に消えた?
周りを見渡しても自転車だらけで他に店員はいない。
いきなり立ち去るのも失礼だし困ったな……黙って立ち尽くしていると、背後の自動ドアが開き自転車競技用の装備を身に纏った女性が白いロードバイクを押しながら入ってきた。
「おはようシゲさん。予約してたチェーン交換宜しく!」
「おう。『ノノ』もチェーン交換くらい出来る様になったらどうだ?」
「必要ないですぅ。シゲさんに交換してもらった方が3Wくらい軽く走れるんだから」
「ちっさい差じゃないか」
「あれっ、珍しい。朝一でお客さんいるじゃない」
『ノノ』と呼ばれていた女性が私に気付いた。
「えぇっと……」
「私は西野綾乃。仲間からはノノって呼ばれてるわ」
『にしのあやの』だから『ノノ』か。
ロードバイク乗りはあだ名で呼び合うのが普通なのかな。
私にはあだ名がないから普通に名乗るか。
「宜しくノノ。私は中杉猛士です」
「初対面なのに、いきなりあだ名で呼ばないでよ」
サングラスで表情は分からないが怒っているのか?
あだ名で呼べって言ってる様な話の流れだったと思ったのだけどな。
「失礼しました。初めまして西野さん」
「ノノでいいわよ」
一体どっちなんだ?!
よく分からないが西野のお陰で緊張がほぐれたので、私は意を決して店主のシゲさんにロードバイク購入の意図を伝えた。
選び方を知らない事を伝えたところ、シゲさんが一台の青いロードバイクを指差した。
「それがお勧めだよ」
「あれぇ、シゲさんアルミで安いの勧めるんだ。しかもそんな硬い奴を初心者に勧めていいの?」
アルミ? 硬い? 西野の言った事の意味は何だろう?
「お客さん体格いいからコイツがお勧めだ。コイツは体格がいいスプリンターやTTスペシャリストにお勧めなんだ。廉価なアルミ製だけどスプリントに耐える剛性と、高速巡行する為のエアロ性能があるからね。カーボン製のハイエンド品には劣るけどお勧めだよ」
店主のシゲさんの言っている事は良く分からないけど、考えがあって選んでくれているのは理解出来たので購入を決めた。
「急に黙ってどうしたの?」
購入を決めた後に急に黙った私を西野が気に掛ける。
購入予定の青いロードバイクに名前を付けようと思って考え込んでいただけなのだが、急に黙った事で心配をかけたのだろう。
そうだ、折角だから西野にも協力してもらおう。
候補の名前は今のところ二つ。
「なぁノノ、空と海どちらがいいと思う?」
「ななななっ、いきなりデートに誘うとか……ありえないんですけど!!」
急に挙動不審になる西野。
しかもデートだと? 何の勘違いだ?!
「何を言っているのだ? 海はともかく空をデート先に選ぶ人はいないと思うけどな」
「なら、なんで聞いたのよ?」
「このロードバイク青いだろ。だから空と海どちらの名前を付けるか悩んでたんだ」
「名前えぇぇぇぇっ! ロードバイクに名前つけるの?!」
西野が叫んだ。
そんなに名前を付けるのが可笑しい事なのか?
狼狽えたり叫んだり西野が感情豊かなだけだと思うけどな。
良く分からないが、勘違いは解いておく必要があると思い、西野に名前の候補について説明する。
「空ならセレスタイト、海ならディープシーにしようと思ってる」
「ディープシーは分かるけど、セレスタイトってなによ?」
スマホで西野にセレスタイトの画像を見せる。
画面に映る、澄み切った青空の様な色の鉱石。
西野も気に入ってくれた様でうっとりしている。
「空色の綺麗な石ね……猛士みたいな男性の趣味ではないわね」
「それならディープシーにしよう」
「それが良いわ。空色が似合うロードバイクは他にあるから」
西野と話している間にシゲさんが購入手続きを進めてくれていた。
私はそのままロードバイクに乗って帰ろうと思っていたが、整備が終わっていないので受け取りは一週間後になるとの事だ。
どうやらロードバイクは購入時の整備に時間がかかるのが普通らしい。
大手店舗とかは整備済のロードバイクを置いているみたいだが、『エンシェント・バレー』では購入が決まった後に整備を行うのだ。
サービスでフィティングしてくれる事になり、シゲさんに腕や足の長さを測られた。
すこし恥ずかしかったが、サドルの高さとか色々調整してくれるとの事だ。
そして、手続きが終わり帰ろうとしたところ、装備品一式を選びに行こうと西野に誘われた。
私は西野と連絡先を交換した後、自転車乗りは親切な人が多いなと思いながら店を後にしたーー
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる