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1章 最強中年は敗北を求める
第3話 最強中年はヒーロースーツを身に纏う
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ロードバイクを購入した翌日。
昨日教えてもらった自転車用品店の最寄り駅で待ち合わせをしたのだが、西野が一向に現れる気配がない。
待ち合わせ時間の10時から5分が過ぎ、一度スマホで連絡を取ろうとしたところーー
「ねぇ、いい加減声をかけてよ?」
突如、女性に声をかけられた。振り向くとカーキ色のふんわりしたワンピースを着た小柄な女性がいた。
ころんとした丸みのある特徴的なショートカット……確か部下の女性がマッシュショートって言っていたな。
私とは縁がないお洒落な女性で、心当たりが全くない。どうせ何かの勧誘なのだろう。
「待ち合わせがあるので失礼致します」
「相手は私でしょ! 話しかけたくないくらい恥ずかしいの!?」
「まさか……西野なのか?」
「西野じゃなくて『ノノ』でしょ!」
話しぶりから推測すると、本当に昨日出会った自転車乗りの先輩の西野で間違いないようだ。
気づいていたなら早く声をかけてくれれば良かったのに。
そういえば昨日出会った時は、ヘルメットとサングラスを着用したままだったから西野の素顔を知らなかったな。
私は顔も知らない相手と待ち合わせしていたのか……ロードバイクを購入した事で初歩的なミスに気付かないほどに舞い上がっていたのだな。
しかし、話しかけたくないくらい恥ずかしいというのは同意出来るな。
今日はサイクルジャージの試着をする予定だったから、私の恰好はTシャツに短パンだ。
どう見ても並んで歩ける恰好ではない。
かなり恥ずかしかったが、二人で自転車用品店に向かった。
入店して一番最初にサイクルジャージを選ぶ事にした。
いきなり本格的な装備はいらないと思っていたが、レースやるなら絶対買いなさいって西野に何度も聞かされたからな。
理由はサイクルジャージを着ていないとレースに出れないし、一番安価で速く走れるようになる最強の装備だからお勧めなんだそうだ。
ジャージで速く走れるってのが良く分からなかったが、後で教えてもらえるのかな?
店内には色々なデザインのサイクルジャージがあり、見ていると段々気持ちが盛り上がってくる。
折角着るならスポーティーでカッコイイのが良いな。
私は男の定番である赤黒のジャージを選んだ。
赤色がメインで黒のラインが入ったシャープなデザインが男心を絶妙にくすぐる。
「どうかな? サイズあってる?」
私は西野にサイクルジャージを試着した姿を見せた。
「くっ、ぷっ、サイクルジャージじゃなくてヒーロースーツを選んだの?」
西野が笑いを堪えているが、そんなに可笑しいのか?
普通にサイクルジャージとして売ってる製品なんだけど……ヒーロースーツを選んだって?
鏡の前に立って自分の姿を確認した。うん、レッドだな……
「子供たちに人気が出るわよ」
「子供の憧れになれるなら、ロードバイクの普及効果が期待出来るな」
「それならサイズも合わせないとね。ほらっ、ここダボついてるでしょ。ワンサイズ落としましょ」
西野に言われた通り、ワンサイズ落として試着するとピチピチ度が更に増した。
腹部に強いツッパリ感を感じるけど、こんな状態でロードバイクに乗れるのか?
ピチピチ感を嫌がっている私の前で西野が奇妙な前傾姿勢を取った。
「ちゃんと真似しなさいよ。サイクルジャージは乗車時の前傾姿勢でフィットする様に設計されているから」
「お、おう」
西野に言われた通り前傾姿勢を取ると、腹部の変なツッパリ感が取れた。
一人で選んでいたら、見当はずれな選び方をしていただろう。
西野が一緒に選んでくれて本当に良かった。
その後、ヘルメット、シューズ、グローブ等を次々購入していった。
色は当然ジャージと同じ赤だ!
装備一式の購入を終えた私達は、お店を出て近くの公園のベンチに座って一度休憩する事にした。
帰る前に西野とロードバイクについて話したかったからだ。
「これで走りに行ける様になったのだろ? 最初はどこのサーキットがお勧めなんだ?」
「サーキット? いきなり何言ってるの? 確かにサーキット走るイベントもあるけど公道を走るのが普通よ」
西野があきれた顔を向ける。
ロードバイクはレース用の自転車なんだからサーキットを走る方が似合ってると思ったのだけどな。
「それならどこを走ればいいんだ?」
「はぁ、本当に何も知らないのね。分かったわ、来週の日曜日。ヤビツ峠に行きましょ。ヒルクライムなら安全に走れると思うから」
「なるほど、どこで待ち合せれば良いのだ?」
「6時にヤビツ峠の入口のながぬきって交差点で待ち合せしましょ」
そう言った西野がさっき購入したばかりのサイクルコンピューターに待ち合わせ場所までの経路を登録してくれた。
結構高価な製品だけど、ナビ付きなのは便利でいいな。
1時間程公園で話をした後、駅に向かい西野と別れた。
帰りの電車内で思わずにやけてしまう。
来週の土曜日の納車……そして日曜日のヒルクライム。
憧れていたロードレースに参加するのはだいぶ先になりそうだが、楽しみなイベントが目白押しだな。
昨日教えてもらった自転車用品店の最寄り駅で待ち合わせをしたのだが、西野が一向に現れる気配がない。
待ち合わせ時間の10時から5分が過ぎ、一度スマホで連絡を取ろうとしたところーー
「ねぇ、いい加減声をかけてよ?」
突如、女性に声をかけられた。振り向くとカーキ色のふんわりしたワンピースを着た小柄な女性がいた。
ころんとした丸みのある特徴的なショートカット……確か部下の女性がマッシュショートって言っていたな。
私とは縁がないお洒落な女性で、心当たりが全くない。どうせ何かの勧誘なのだろう。
「待ち合わせがあるので失礼致します」
「相手は私でしょ! 話しかけたくないくらい恥ずかしいの!?」
「まさか……西野なのか?」
「西野じゃなくて『ノノ』でしょ!」
話しぶりから推測すると、本当に昨日出会った自転車乗りの先輩の西野で間違いないようだ。
気づいていたなら早く声をかけてくれれば良かったのに。
そういえば昨日出会った時は、ヘルメットとサングラスを着用したままだったから西野の素顔を知らなかったな。
私は顔も知らない相手と待ち合わせしていたのか……ロードバイクを購入した事で初歩的なミスに気付かないほどに舞い上がっていたのだな。
しかし、話しかけたくないくらい恥ずかしいというのは同意出来るな。
今日はサイクルジャージの試着をする予定だったから、私の恰好はTシャツに短パンだ。
どう見ても並んで歩ける恰好ではない。
かなり恥ずかしかったが、二人で自転車用品店に向かった。
入店して一番最初にサイクルジャージを選ぶ事にした。
いきなり本格的な装備はいらないと思っていたが、レースやるなら絶対買いなさいって西野に何度も聞かされたからな。
理由はサイクルジャージを着ていないとレースに出れないし、一番安価で速く走れるようになる最強の装備だからお勧めなんだそうだ。
ジャージで速く走れるってのが良く分からなかったが、後で教えてもらえるのかな?
店内には色々なデザインのサイクルジャージがあり、見ていると段々気持ちが盛り上がってくる。
折角着るならスポーティーでカッコイイのが良いな。
私は男の定番である赤黒のジャージを選んだ。
赤色がメインで黒のラインが入ったシャープなデザインが男心を絶妙にくすぐる。
「どうかな? サイズあってる?」
私は西野にサイクルジャージを試着した姿を見せた。
「くっ、ぷっ、サイクルジャージじゃなくてヒーロースーツを選んだの?」
西野が笑いを堪えているが、そんなに可笑しいのか?
普通にサイクルジャージとして売ってる製品なんだけど……ヒーロースーツを選んだって?
鏡の前に立って自分の姿を確認した。うん、レッドだな……
「子供たちに人気が出るわよ」
「子供の憧れになれるなら、ロードバイクの普及効果が期待出来るな」
「それならサイズも合わせないとね。ほらっ、ここダボついてるでしょ。ワンサイズ落としましょ」
西野に言われた通り、ワンサイズ落として試着するとピチピチ度が更に増した。
腹部に強いツッパリ感を感じるけど、こんな状態でロードバイクに乗れるのか?
ピチピチ感を嫌がっている私の前で西野が奇妙な前傾姿勢を取った。
「ちゃんと真似しなさいよ。サイクルジャージは乗車時の前傾姿勢でフィットする様に設計されているから」
「お、おう」
西野に言われた通り前傾姿勢を取ると、腹部の変なツッパリ感が取れた。
一人で選んでいたら、見当はずれな選び方をしていただろう。
西野が一緒に選んでくれて本当に良かった。
その後、ヘルメット、シューズ、グローブ等を次々購入していった。
色は当然ジャージと同じ赤だ!
装備一式の購入を終えた私達は、お店を出て近くの公園のベンチに座って一度休憩する事にした。
帰る前に西野とロードバイクについて話したかったからだ。
「これで走りに行ける様になったのだろ? 最初はどこのサーキットがお勧めなんだ?」
「サーキット? いきなり何言ってるの? 確かにサーキット走るイベントもあるけど公道を走るのが普通よ」
西野があきれた顔を向ける。
ロードバイクはレース用の自転車なんだからサーキットを走る方が似合ってると思ったのだけどな。
「それならどこを走ればいいんだ?」
「はぁ、本当に何も知らないのね。分かったわ、来週の日曜日。ヤビツ峠に行きましょ。ヒルクライムなら安全に走れると思うから」
「なるほど、どこで待ち合せれば良いのだ?」
「6時にヤビツ峠の入口のながぬきって交差点で待ち合せしましょ」
そう言った西野がさっき購入したばかりのサイクルコンピューターに待ち合わせ場所までの経路を登録してくれた。
結構高価な製品だけど、ナビ付きなのは便利でいいな。
1時間程公園で話をした後、駅に向かい西野と別れた。
帰りの電車内で思わずにやけてしまう。
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