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3章 レースチームを立ち上げる中年
第24話 ここから始めよう
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今日は西野ご希望の和田峠に来ていた。
今日の私の役目は西野が遠出する為の輸送係だ。
私がミニバンを購入して、ロードバイクを運び易いように改造していた事がバレていたのだ。
恐らく東尾師匠がばらしたのだろう。
探し当てた駐車場は、峠から距離があったので戻るのに時間がかかりそうだ。
駐車料金が怖いが勉強料として割り切るしかない。
西野の案内に従って走り、辿り着いた峠は非常に狭かった。
道幅は車一台分より少し広い程度だろうか。
でも、路面が荒れて無いから走りやすく感じる。
斜度が緩く、緩いカーブが続く道を走り続ける。
歩行者が多いなと周りを気にしていたら、急に10%のキツイ坂に突入した。
速く走れはしないが、今の私ならキツイと感じる程度で済む。
キツイ区間を乗り越え、左折して坂が緩み始める。
タイムアタックするような人は坂が緩い区間でも頑張るのだろうが、私は無理せず足を休める。
今日は自由に走る予定だった西野は、既に私の視界から消えている。
更に右折して斜度10%区間が現れる。
これくらい耐えられる……耐え……15%だと!
更にキツクなった坂にギブアップした。これは私には無理だ。
まだ1/3しか走っていないが潔く諦めよう。
私はロードバイクから降り、登山者に混ざって押し歩いたーー
*
「遅かったわね」
「景色が綺麗だったからな」
終点に辿り着くと、写真を撮っていた西野が私に気付いた。
半分冗談で言ったが、ロードバイクを押し歩いて上り続けた私より、西野の方が景色を堪能出来ていたと思うよな。
「少しは楽しめた?」
「楽しめたよ。登山という意味ではね。ノノは楽しめたのか?」
「楽しめたわよ。久しぶりだったからね。蓮が生きてた頃はたまに走りに来ていたの」
蓮さんか……今まで一切名前を出していなかったのにな。
先週、私が聞いたせいなのだろうか?
わざわざ名前を出したという事は、蓮さんについて話をしたいのだろう。
「蓮さんと仲が良かったのだな」
「そうよ。でも恋愛感情は無かったからね。北見にはいつ結婚するのかってからかわれていたけど」
「まぁ、年齢が近い男女が趣味を共有していたら、そういう風に見えるだろうな」
「本当に迷惑よね。あの当時の私はサイクリストになりたてで、峠を走る事に夢中なだけだったのに……」
西野が嫌そうな顔を見せる。二人は仲が良かったのでは?
「迷惑……師匠だったのだろう?」
「峠までの移動手段みたいなものよ。師匠っていっても、私はトレーニング理論とか興味なかったから。趣味まで理屈まみれにされたくないし」
移動手段か。照れ隠しかな? それが西野の本心でない事は分かる。
でもそれを追求したら重い話になるだろう。
蓮さんは3年前に亡くなられたのだから……だから、私もあまり重い話にならない様に気を遣う。
「それは同じ男として同情するよ。蓮さんは違う考えだったのでは?」
「それは分からないわね。私は蓮と一緒に全国の峠を制覇する事しか考えていなかったから……蓮の気持ちなんて考えた事もなかったわ。でも、蓮が生きていたら北見の言う通り、結婚する未来もあったかもね」
「そうか……私には分からないな」
「そうかな、猛士は何で私と走りに行くの?」
西野が不思議そうな顔をする。
何故、私に西野の気持ちが分かるのだ?
私が西野と走りに行く理由が、西野と蓮さんの関係とどの様な関わりがあるのだろう。
「峠とかロードレースとかロードバイクについて色々な事を教えてくれるからかな。サイクリストとしての楽しさを教えてくれるから」
「そこに恋愛感情はあった?」
「考える余地がなかったな。全てが初めてで、新鮮で……」
「同じじゃない! 蓮と走りに行ってた頃の私と!!」
西野に言われて何となく分かってきた。
西野が蓮さんと一緒に走りながら感じていた気持ちが……
「そうだ、そうだな……」
「なら分かるわよね?」
「あぁ、蓮さんが死んだ事は悲しい。だけど、それが原因で『ノノ』と呼ばれなくなった事は、サイクリストとしての自分まで否定されたような気分になるよな」
『ノノ』というあだ名は蓮さんと親しかった証ではない。
西野にとってサイクリストとしての存在の証だったのだから。
蓮さんと一緒にサイクリストとしての自分まで亡くなったら辛い事だ。
それならーー
「作ってみようか?」
私は西野の目を見つめ問いかけた。
「何を?」
「私とノノでレーシングチームを作ろう。西野がもう一度『ノノ』でいられるように。今度はホビーレーサーとして!」
「レーシングチームにするの? 普通のロードバイク同好会じゃなくて?」
「あぁ、私がレースをやりたいからな」
「ちゃっかり自分の為にやろうとしてるじゃないの」
「ノノの為にと言った方が好みかな?」
「そんなの気持ち悪いからお断り。猛士に手伝わされる方が良いわ」
いつもの様におどける西野。色々打ち明けられてスッキリしたようだな。
「それで良いのか?」
「良いわよ。蓮に返せなかった分の恩は、父親のシゲさんのお客さんに返すって決めてたから」
「そうか、改めて宜しく『ノノ』」
私は西野と握手を交わした。
ここから始めよう、今度は私と西野の二人でーー
今日の私の役目は西野が遠出する為の輸送係だ。
私がミニバンを購入して、ロードバイクを運び易いように改造していた事がバレていたのだ。
恐らく東尾師匠がばらしたのだろう。
探し当てた駐車場は、峠から距離があったので戻るのに時間がかかりそうだ。
駐車料金が怖いが勉強料として割り切るしかない。
西野の案内に従って走り、辿り着いた峠は非常に狭かった。
道幅は車一台分より少し広い程度だろうか。
でも、路面が荒れて無いから走りやすく感じる。
斜度が緩く、緩いカーブが続く道を走り続ける。
歩行者が多いなと周りを気にしていたら、急に10%のキツイ坂に突入した。
速く走れはしないが、今の私ならキツイと感じる程度で済む。
キツイ区間を乗り越え、左折して坂が緩み始める。
タイムアタックするような人は坂が緩い区間でも頑張るのだろうが、私は無理せず足を休める。
今日は自由に走る予定だった西野は、既に私の視界から消えている。
更に右折して斜度10%区間が現れる。
これくらい耐えられる……耐え……15%だと!
更にキツクなった坂にギブアップした。これは私には無理だ。
まだ1/3しか走っていないが潔く諦めよう。
私はロードバイクから降り、登山者に混ざって押し歩いたーー
*
「遅かったわね」
「景色が綺麗だったからな」
終点に辿り着くと、写真を撮っていた西野が私に気付いた。
半分冗談で言ったが、ロードバイクを押し歩いて上り続けた私より、西野の方が景色を堪能出来ていたと思うよな。
「少しは楽しめた?」
「楽しめたよ。登山という意味ではね。ノノは楽しめたのか?」
「楽しめたわよ。久しぶりだったからね。蓮が生きてた頃はたまに走りに来ていたの」
蓮さんか……今まで一切名前を出していなかったのにな。
先週、私が聞いたせいなのだろうか?
わざわざ名前を出したという事は、蓮さんについて話をしたいのだろう。
「蓮さんと仲が良かったのだな」
「そうよ。でも恋愛感情は無かったからね。北見にはいつ結婚するのかってからかわれていたけど」
「まぁ、年齢が近い男女が趣味を共有していたら、そういう風に見えるだろうな」
「本当に迷惑よね。あの当時の私はサイクリストになりたてで、峠を走る事に夢中なだけだったのに……」
西野が嫌そうな顔を見せる。二人は仲が良かったのでは?
「迷惑……師匠だったのだろう?」
「峠までの移動手段みたいなものよ。師匠っていっても、私はトレーニング理論とか興味なかったから。趣味まで理屈まみれにされたくないし」
移動手段か。照れ隠しかな? それが西野の本心でない事は分かる。
でもそれを追求したら重い話になるだろう。
蓮さんは3年前に亡くなられたのだから……だから、私もあまり重い話にならない様に気を遣う。
「それは同じ男として同情するよ。蓮さんは違う考えだったのでは?」
「それは分からないわね。私は蓮と一緒に全国の峠を制覇する事しか考えていなかったから……蓮の気持ちなんて考えた事もなかったわ。でも、蓮が生きていたら北見の言う通り、結婚する未来もあったかもね」
「そうか……私には分からないな」
「そうかな、猛士は何で私と走りに行くの?」
西野が不思議そうな顔をする。
何故、私に西野の気持ちが分かるのだ?
私が西野と走りに行く理由が、西野と蓮さんの関係とどの様な関わりがあるのだろう。
「峠とかロードレースとかロードバイクについて色々な事を教えてくれるからかな。サイクリストとしての楽しさを教えてくれるから」
「そこに恋愛感情はあった?」
「考える余地がなかったな。全てが初めてで、新鮮で……」
「同じじゃない! 蓮と走りに行ってた頃の私と!!」
西野に言われて何となく分かってきた。
西野が蓮さんと一緒に走りながら感じていた気持ちが……
「そうだ、そうだな……」
「なら分かるわよね?」
「あぁ、蓮さんが死んだ事は悲しい。だけど、それが原因で『ノノ』と呼ばれなくなった事は、サイクリストとしての自分まで否定されたような気分になるよな」
『ノノ』というあだ名は蓮さんと親しかった証ではない。
西野にとってサイクリストとしての存在の証だったのだから。
蓮さんと一緒にサイクリストとしての自分まで亡くなったら辛い事だ。
それならーー
「作ってみようか?」
私は西野の目を見つめ問いかけた。
「何を?」
「私とノノでレーシングチームを作ろう。西野がもう一度『ノノ』でいられるように。今度はホビーレーサーとして!」
「レーシングチームにするの? 普通のロードバイク同好会じゃなくて?」
「あぁ、私がレースをやりたいからな」
「ちゃっかり自分の為にやろうとしてるじゃないの」
「ノノの為にと言った方が好みかな?」
「そんなの気持ち悪いからお断り。猛士に手伝わされる方が良いわ」
いつもの様におどける西野。色々打ち明けられてスッキリしたようだな。
「それで良いのか?」
「良いわよ。蓮に返せなかった分の恩は、父親のシゲさんのお客さんに返すって決めてたから」
「そうか、改めて宜しく『ノノ』」
私は西野と握手を交わした。
ここから始めよう、今度は私と西野の二人でーー
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