ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

文字の大きさ
48 / 101
4章 2年目の中年レーサー

第48話 どうせならサラブレッドが良かったな

しおりを挟む
「おいおい、ギタリストだって? 落車で指を怪我したらどうするんだ? 演奏出来なくなるだろう?」

 興味を持ったのだろうか? 北見さんが佐々木さんに質問をする。

「心配ないさ。俺がファンに見せるのは演奏テクニックじゃあない。俺の人生そのものさ。最上位クラスで戦うレーシーな俺がクールなんだよ」
「うあっ、言ってる事が全く分からない」
「演奏が下手くそなだけじゃないのか? カッコイイって言ってるけど、レースだってボロ負けだろ?」

 佐々木さんの答えに対して、西野と北見さんがボロクソに言う。
 確かに彼の言っている事は私も分からないな。
 だが、彼はそんな私達の否定的な反応を気にも留めていない。

「分かってないなぁ。自分より強い相手と戦う姿がカッコイイんだよ。負け続けても立ち向かうのが俺の生き方だ」

 そんな私達に佐々木さんが自身を持って持論を展開した。
 何がカッコイイのかは分からない。
 だけど、『負け続けても立ち向かう』という所だけは共感出来る。
 何故なら、私も同じ気持ちでレースを始めたからだ。

「そうか、私は良いと思うよ」
「猛士は分かってるねぇ。同じソウルを感じるぜ」

 私が持論に同意したのが嬉しかったのだろう。
 佐々木さんが興奮した顔をしている。
 だが西野は、佐々木さんが私を同類と思っている事が面白くないようだ。

「一緒にしないでよ。猛士はこれでも真っ当な企業で部長職を務めてるんだから」
「フュゥーッ。そいつは凄げぇな」
「ありがとう佐々木さん」
「利男って呼んでくれよ。で、猛士は何でレースやってんの?」

 やはり聞かれるか。随分興味を持たれたものだ。

「ここには全力で戦ってくれる相手を探しに来てる。部長クラスになると全力で戦う相手がいなくなるんだよ。若い頃は上を目指すライバルと毎日衝突してたけどな」
「最高じゃないか! 俺も同じような戦う人生、目指してんだよね」
「それなら一緒に走るかい?」

 思わず佐々木さんを誘ってしまった。
『一緒に走るかい?』とだけ言ったが、私のチームに所属しないかとの意味でもある。

「OKだ! 今までは一匹狼を気取っていたけどな。猛士達となら歓迎だ」
「おいおい、本当にポニー君を誘っちまうのかよ」

 北見さんが呆れた声を出す。
 佐々木さんを誘うのを反対しているのか?

「ポニーか……可愛いから嫌いじゃないけど、どうせならサラブレッドが良かったな」
「速くなれたら考えておくさ」
「北見さんは反対なのかい?」
「反対じゃないけどな。レースチームなら、もっと速い奴を誘った方が良いんじゃないか?」

 速い奴か……レースチームとしては正しい選択だろうな。
 でも、そんな事を言ったら一番に私が去る事になってしまうな。
 レース参戦組で一番遅いのは私だからな。

「速い人より、志が近い人の方が良いよ。レースチームだけど、プロチームではないんだ。所属するのは選手ではなくて仲間だろ?」
「そういう事なら問題ないさ。俺は北見だ。宜しく、佐々木君だっけ?」
「佐々木で合ってるよ。宜しく北見さん。後、君は?」

 佐々木さんはサラッと北見さんに挨拶した後、木野さんの前に立った。
 どうやら木野さんに興味があるようだ。
 木野さんは殆ど会話に参加していなかったのに何故だろう。

「僕ですか? 木野ですけど」
「木野なんだって?」

 佐々木さんが木野さんに名前を聞き返した。

「木野ただしです」
「そうか、ただしか。宜しく頼むよ先輩」
「先輩?! 僕が?」

 突然佐々木さんに先輩と言われて木野さんも驚いたようだ。
 目が不自然に泳いでいる。

「そーだよ。チームの先輩だろう」
「でも、他にもメンバーいるけど……僕?」
「さっきのレース、最高の走りだったぜ。無難な戦いを避けて勝負に出たところが良かった」
「見てたんですか? 僕は無名の選手なのに?」
「俺のポニーテールが目立ってるって言ってるけど、ただしのキノコ頭だって目立ってるんだよ」

 そんな理由で木野さんに注目していたのか……でも、木野さんの勝利にかける情熱を感じてくれているのは嬉しいな。
 私と木野さんと佐々木さんの3人は、負け続けながらもレース参戦する仲間って事だ。

「それよりレース終わるわよ」

 突然の西野の声で思い出した。
 東尾師匠がレース中だった。
 エリートクラスは周回数が多いから油断していたな。
 良く師匠のレースを忘れるが、わざとではない……と思いたい。

「いっけねぇ! 東尾君のレース見てねぇよ」
「東尾さんは、どこにいますか?」

 北見さんと木野さんも慌て始める。私が佐々木さんと話始めたのが原因だから、早く師匠を見つけなければ。

「いたっ、先頭から遅れてる」

 バックストレートを走行している東尾師匠を見つけたので、指を差して仲間に居場所を伝える。
 先頭集団は既にホームストレートを走り、スプリント体勢に入っている。
 大分遅れているが、無事に完走は出来るようだ。
 安心した私達はゴール前に視線を移した。
 目の前のゴールラインを先頭の選手達が通過していく。1、2、3……先頭集団は8人か。
 その後、師匠と2人の選手がホームストレートに帰って来た。
 師匠が急加速を始めた、今日はスプリント勝負するようだ。
 そして、一気に残りの選手を置き去りにしてゴールした。
 今日は9位か、流石スプリントが得意な師匠だな。
 先頭集団に残れていれば優勝が狙えただろう。
 話込んでしまって色々見逃してしまったが、肝心なところは見れて良かった。
 見れなかったところは動画のダイジェストで確認するとしよう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...