竜と獣医は急がない

蒼空チョコ@モノカキ獣医

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ハルアジスへの復讐 Ⅲ

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「カッ――!?」

 直後、射出された刀身がハルアジスの首を貫いた。
 狙いど真ん中である。延髄も突き抜けたことは間違いない。
 死霊術士は驚愕の表情を浮かべ、二人して時が凍り付いたように固まった。

 そんな中、カドは間髪入れずに動く。

「サラちゃんには可能性を見出しているって言いましたよね?」

 呟いたカドは手刀の形に手を固めると、ハルアジスの腹に突き立てた。
 そんなことをしても、人間の手では貫けないのが普通だろう。
 しかし、カドの身体能力は魔素の質のおかげで常人に比べてかなり高い。その上に、もう一つの種がある。言葉にした通り、サラマンダーが関することだ。

 檻に入れる間際、撫でた手に付着した粘液は冷えたことにより樹脂のように硬質化していた。それが粗雑なナイフのように機能したのだ。
 上位の脊髄が断たれたことで最早動けないハルアジスは怨嗟を込めた目で見つめてくる。

「こんなものではないですよ。確実に殺すなら、こうです」

 カドはハルアジスの腹に突き刺さっている手を上半身側に突き上げた。
 腸、胃、肝臓、横隔膜、肺と心臓を傷つけた上で掴むと、それを思い切り抜き出して払う。
 体ごと振り回されたハルアジスは固まった表情のまま床を転がると、魔素となって霧散した。

 その光景を目にしたカドはため息を吐く。

「うーん。やっぱり血筋がみんな同じ才能を持っているわけがないですもんね。代々同じ職を受け継いでいる五大祖となると、混成体で動いてますか」

 想像しなかったわけではない。
 復讐が微妙なところで終わったカドはため息一つを挟むと、スコットに目を向けた。

「ひっ……!?」

 随分とスプラッタなことをした自覚はある。
 けれど血みどろなことに耐性があるはずの死霊術士に引かれるとは心外だ。
 希少な死霊術士である以上、彼も十中八九混成体だろう。容赦をする必要性は見当たらないので、カドは手早く済ませるべく彼に向き合う。

 正直なところ、真っ向から戦闘をすればこちらが負けるのは間違いない。
 だが、そんな事実は知る由もないようだ。クラスⅤの魔素とハルアジスへの復讐が良い感じの演出となったのか、スコットは足砕けのままに後ずさる。

 一応、彼は抵抗も忘れていない。様々な骨の兵隊を集合させ、壁としながらも後ずさって距離を置こうとしていた。
 魔法使い系である死霊術士の戦法としては正解だろう。

 しかし、一つ失念している。後退する彼の背は端に行き着き、がしゃんと檻を鳴らした。

「サラちゃん、どうぞやっちゃって」
「……は?」

 引きつった顔で振り返った彼が見たものは、しゃーっと威嚇の顔を浮かべたサラマンダーだ。
 竜も警告をしていた。このサラマンダーに近づくことは非常に危険なのである。

 直後、魔法が発動した。
 効果はサラマンダーを中心とした周囲の熱を強制的に上昇させることだ。それは無機物、有機物を問わない。

「あっ、がっ。……ぎゃあぁぁぁーーっ!」

 全身が沸騰した結果、先程のハルアジスとは比較にならないレベルで正視に耐えない状況となったスコットはすぐに魔素に還った。

 ただの有尾類と舐めてはいけない。サラマンダーとは戦闘でもこれだけ活躍する生物である。
 外していた装備を整えたカドは、消え失せたスコットが落とした鍵を使ってサラマンダーを檻から出した。

「――♪」

 死霊術士二人に蔑まれた一方でカドが持ち上げていたことか。はたまた、鬱憤を綺麗に果たした結果なのかわからないが、随分と上機嫌に擦りついてくる。
 ぬめぬめするからやめてくださいとは言うに言えないカドは、ひとまずサラマンダーをフードに入れ直した。

「さて、混成体ということは本体がすぐに起きてもおかしくないですよね。さっさと逃げますか」

 部屋に施錠をしたスコットが消え失せた影響か、出入り口の結界は解けた様子だ。
 カドはそちらに向かって歩き出すと共に、竜との交信を始める。

『ドラゴンさん、いろいろありましたがこちらは怪我もなくハルアジスと弟子一人を倒しました。今はあの人の屋敷の地下にいるので、これから脱出します』
『いや、逸るでない。我は今に街に飛び込むところだ。到着するまで今しばらくその場を離れるな』

 確かに、このまま出ていってはいろいろと怪しまれ、すぐにことが露見するだろう。ハルアジス本体の号令で弟子が動き出すより、竜の到着が早そうだ。
 ドアノブを回すところで思い直したカドは手を止めた。

 だが不思議なことにドアノブはひとりでに回り、ドアが開く。

「おいおい。こりゃあ酷い状況じゃねえか」

 聞いた覚えのある声と顔だ。
 ドアを開いたのはハルアジスの弟子ではない。アルノルドの家で別れたはずのイーリアスである。
 剣で肩を叩きながら部屋を見回した彼はこちらに目を向けた。

 退くか、攻撃するか?
 そんな一瞬の迷いを抱いている間に、イーリアスの剣がカドの首を貫いた。
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