49 / 136
ハルアジスへの復讐 Ⅲ
しおりを挟む
「カッ――!?」
直後、射出された刀身がハルアジスの首を貫いた。
狙いど真ん中である。延髄も突き抜けたことは間違いない。
死霊術士は驚愕の表情を浮かべ、二人して時が凍り付いたように固まった。
そんな中、カドは間髪入れずに動く。
「サラちゃんには可能性を見出しているって言いましたよね?」
呟いたカドは手刀の形に手を固めると、ハルアジスの腹に突き立てた。
そんなことをしても、人間の手では貫けないのが普通だろう。
しかし、カドの身体能力は魔素の質のおかげで常人に比べてかなり高い。その上に、もう一つの種がある。言葉にした通り、サラマンダーが関することだ。
檻に入れる間際、撫でた手に付着した粘液は冷えたことにより樹脂のように硬質化していた。それが粗雑なナイフのように機能したのだ。
上位の脊髄が断たれたことで最早動けないハルアジスは怨嗟を込めた目で見つめてくる。
「こんなものではないですよ。確実に殺すなら、こうです」
カドはハルアジスの腹に突き刺さっている手を上半身側に突き上げた。
腸、胃、肝臓、横隔膜、肺と心臓を傷つけた上で掴むと、それを思い切り抜き出して払う。
体ごと振り回されたハルアジスは固まった表情のまま床を転がると、魔素となって霧散した。
その光景を目にしたカドはため息を吐く。
「うーん。やっぱり血筋がみんな同じ才能を持っているわけがないですもんね。代々同じ職を受け継いでいる五大祖となると、混成体で動いてますか」
想像しなかったわけではない。
復讐が微妙なところで終わったカドはため息一つを挟むと、スコットに目を向けた。
「ひっ……!?」
随分とスプラッタなことをした自覚はある。
けれど血みどろなことに耐性があるはずの死霊術士に引かれるとは心外だ。
希少な死霊術士である以上、彼も十中八九混成体だろう。容赦をする必要性は見当たらないので、カドは手早く済ませるべく彼に向き合う。
正直なところ、真っ向から戦闘をすればこちらが負けるのは間違いない。
だが、そんな事実は知る由もないようだ。クラスⅤの魔素とハルアジスへの復讐が良い感じの演出となったのか、スコットは足砕けのままに後ずさる。
一応、彼は抵抗も忘れていない。様々な骨の兵隊を集合させ、壁としながらも後ずさって距離を置こうとしていた。
魔法使い系である死霊術士の戦法としては正解だろう。
しかし、一つ失念している。後退する彼の背は端に行き着き、がしゃんと檻を鳴らした。
「サラちゃん、どうぞやっちゃって」
「……は?」
引きつった顔で振り返った彼が見たものは、しゃーっと威嚇の顔を浮かべたサラマンダーだ。
竜も警告をしていた。このサラマンダーに近づくことは非常に危険なのである。
直後、魔法が発動した。
効果はサラマンダーを中心とした周囲の熱を強制的に上昇させることだ。それは無機物、有機物を問わない。
「あっ、がっ。……ぎゃあぁぁぁーーっ!」
全身が沸騰した結果、先程のハルアジスとは比較にならないレベルで正視に耐えない状況となったスコットはすぐに魔素に還った。
ただの有尾類と舐めてはいけない。サラマンダーとは戦闘でもこれだけ活躍する生物である。
外していた装備を整えたカドは、消え失せたスコットが落とした鍵を使ってサラマンダーを檻から出した。
「――♪」
死霊術士二人に蔑まれた一方でカドが持ち上げていたことか。はたまた、鬱憤を綺麗に果たした結果なのかわからないが、随分と上機嫌に擦りついてくる。
ぬめぬめするからやめてくださいとは言うに言えないカドは、ひとまずサラマンダーをフードに入れ直した。
「さて、混成体ということは本体がすぐに起きてもおかしくないですよね。さっさと逃げますか」
部屋に施錠をしたスコットが消え失せた影響か、出入り口の結界は解けた様子だ。
カドはそちらに向かって歩き出すと共に、竜との交信を始める。
『ドラゴンさん、いろいろありましたがこちらは怪我もなくハルアジスと弟子一人を倒しました。今はあの人の屋敷の地下にいるので、これから脱出します』
『いや、逸るでない。我は今に街に飛び込むところだ。到着するまで今しばらくその場を離れるな』
確かに、このまま出ていってはいろいろと怪しまれ、すぐにことが露見するだろう。ハルアジス本体の号令で弟子が動き出すより、竜の到着が早そうだ。
ドアノブを回すところで思い直したカドは手を止めた。
だが不思議なことにドアノブはひとりでに回り、ドアが開く。
「おいおい。こりゃあ酷い状況じゃねえか」
聞いた覚えのある声と顔だ。
ドアを開いたのはハルアジスの弟子ではない。アルノルドの家で別れたはずのイーリアスである。
剣で肩を叩きながら部屋を見回した彼はこちらに目を向けた。
退くか、攻撃するか?
そんな一瞬の迷いを抱いている間に、イーリアスの剣がカドの首を貫いた。
直後、射出された刀身がハルアジスの首を貫いた。
狙いど真ん中である。延髄も突き抜けたことは間違いない。
死霊術士は驚愕の表情を浮かべ、二人して時が凍り付いたように固まった。
そんな中、カドは間髪入れずに動く。
「サラちゃんには可能性を見出しているって言いましたよね?」
呟いたカドは手刀の形に手を固めると、ハルアジスの腹に突き立てた。
そんなことをしても、人間の手では貫けないのが普通だろう。
しかし、カドの身体能力は魔素の質のおかげで常人に比べてかなり高い。その上に、もう一つの種がある。言葉にした通り、サラマンダーが関することだ。
檻に入れる間際、撫でた手に付着した粘液は冷えたことにより樹脂のように硬質化していた。それが粗雑なナイフのように機能したのだ。
上位の脊髄が断たれたことで最早動けないハルアジスは怨嗟を込めた目で見つめてくる。
「こんなものではないですよ。確実に殺すなら、こうです」
カドはハルアジスの腹に突き刺さっている手を上半身側に突き上げた。
腸、胃、肝臓、横隔膜、肺と心臓を傷つけた上で掴むと、それを思い切り抜き出して払う。
体ごと振り回されたハルアジスは固まった表情のまま床を転がると、魔素となって霧散した。
その光景を目にしたカドはため息を吐く。
「うーん。やっぱり血筋がみんな同じ才能を持っているわけがないですもんね。代々同じ職を受け継いでいる五大祖となると、混成体で動いてますか」
想像しなかったわけではない。
復讐が微妙なところで終わったカドはため息一つを挟むと、スコットに目を向けた。
「ひっ……!?」
随分とスプラッタなことをした自覚はある。
けれど血みどろなことに耐性があるはずの死霊術士に引かれるとは心外だ。
希少な死霊術士である以上、彼も十中八九混成体だろう。容赦をする必要性は見当たらないので、カドは手早く済ませるべく彼に向き合う。
正直なところ、真っ向から戦闘をすればこちらが負けるのは間違いない。
だが、そんな事実は知る由もないようだ。クラスⅤの魔素とハルアジスへの復讐が良い感じの演出となったのか、スコットは足砕けのままに後ずさる。
一応、彼は抵抗も忘れていない。様々な骨の兵隊を集合させ、壁としながらも後ずさって距離を置こうとしていた。
魔法使い系である死霊術士の戦法としては正解だろう。
しかし、一つ失念している。後退する彼の背は端に行き着き、がしゃんと檻を鳴らした。
「サラちゃん、どうぞやっちゃって」
「……は?」
引きつった顔で振り返った彼が見たものは、しゃーっと威嚇の顔を浮かべたサラマンダーだ。
竜も警告をしていた。このサラマンダーに近づくことは非常に危険なのである。
直後、魔法が発動した。
効果はサラマンダーを中心とした周囲の熱を強制的に上昇させることだ。それは無機物、有機物を問わない。
「あっ、がっ。……ぎゃあぁぁぁーーっ!」
全身が沸騰した結果、先程のハルアジスとは比較にならないレベルで正視に耐えない状況となったスコットはすぐに魔素に還った。
ただの有尾類と舐めてはいけない。サラマンダーとは戦闘でもこれだけ活躍する生物である。
外していた装備を整えたカドは、消え失せたスコットが落とした鍵を使ってサラマンダーを檻から出した。
「――♪」
死霊術士二人に蔑まれた一方でカドが持ち上げていたことか。はたまた、鬱憤を綺麗に果たした結果なのかわからないが、随分と上機嫌に擦りついてくる。
ぬめぬめするからやめてくださいとは言うに言えないカドは、ひとまずサラマンダーをフードに入れ直した。
「さて、混成体ということは本体がすぐに起きてもおかしくないですよね。さっさと逃げますか」
部屋に施錠をしたスコットが消え失せた影響か、出入り口の結界は解けた様子だ。
カドはそちらに向かって歩き出すと共に、竜との交信を始める。
『ドラゴンさん、いろいろありましたがこちらは怪我もなくハルアジスと弟子一人を倒しました。今はあの人の屋敷の地下にいるので、これから脱出します』
『いや、逸るでない。我は今に街に飛び込むところだ。到着するまで今しばらくその場を離れるな』
確かに、このまま出ていってはいろいろと怪しまれ、すぐにことが露見するだろう。ハルアジス本体の号令で弟子が動き出すより、竜の到着が早そうだ。
ドアノブを回すところで思い直したカドは手を止めた。
だが不思議なことにドアノブはひとりでに回り、ドアが開く。
「おいおい。こりゃあ酷い状況じゃねえか」
聞いた覚えのある声と顔だ。
ドアを開いたのはハルアジスの弟子ではない。アルノルドの家で別れたはずのイーリアスである。
剣で肩を叩きながら部屋を見回した彼はこちらに目を向けた。
退くか、攻撃するか?
そんな一瞬の迷いを抱いている間に、イーリアスの剣がカドの首を貫いた。
0
あなたにおすすめの小説
魔法学校の落ちこぼれ
梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる