92 / 140
第十二章 幻想と現実の狭間で
(1)
しおりを挟む第十二章 幻想と現実の狭間で
「力を使えないのはオレの心が弱いから、か」
やるせない声で囁きながら、亜樹は屋敷の遅くの森で散策していた。
エルシアたちは一樹と一緒に亜樹の訓練について打ち合わせをしている。
余りにも進展がないので、なにか手段を読じる必要があると判断したからだった。
そのせいでアレスは杏樹や翔と一緒に今頃は部屋で遊んでいるはずだった。
やっぱり生まれてから一年しか経っていないと、まだまだ遊びたい盛りなのか、そういう誘惑には弱かった。
ひとりになりたかったから、ちょうどいいと言えばちょうどいいのだが。
「思考は堂々巡り。オレ本当に森を全焼きせるほどの力を発揮したのか?」
記憶にはない。
だが、アレスとやり合ったときに、亜掛は確かにそれだけの力を発揮したのだと、誰もが口を揃えて言う。
だけど、森はなにも変わっていない。行けるところには全部行った。
呼び出された森だけじゃなく、知っている場所はすべて調べた。
なのにどこも全焼してはいなかった。
どういうことだろう?
なにかおかしい。腑に落ちない。
確かに亜樹には力があるのだるう。
それは無意識に発てきたから、それを目の当たりにしてきたから、威力も自覚しているし制街できないことも自覚している。
あの水柱に飲まれながら助かったということは、みんなが言っているように、亜様が水を蒸発させたということ。
でも、、だったら何故森に異常がない?
わからない。
「オレ、なにか重要なことを知らないんじゃないか? よくわからないけど、そんな気がする。なにか隠されてる。そんな気がして仕方ない」
イラッとして唇を噛んだ。
「あら。あなただけなの? お久しぶりね」
突然、快活な声がして振り向けば、炎の精霊が立っていた。
確かレダの元に帰っていたはずじゃあ?
「マル、一樹さまは?」
「一樹ならエルシアたちと屋敷で話し合いをしてるけど」
「そうなの。まあちょうどいいかもしれないわね。あの方がいるとあなたとご兄弟を引き合わせないでしょうから」
「一樹の兄弟って翔となら小さい頃から逢ってるけど?」
首を傾げてそう言えば精霊はすこし憐れむような顔をした。
「仮の兄弟のことではないわ。あの方の本当のご兄弟のことよ」
「?」
眉をひそめた瞬間、精霊の背後に大勢の人の姿を見た。
総勢、五人。
物凄い美男美女だが、なんかみんな特徴的すぎて形容のしようがない。
ある特定の要素をイメージして人の形にすればこうなる。
そんな印象を与える人々だっ
た。
一目ではっきりと名前を訊かなくても、わかるような気がする人がいたけど、まさと思う。
創始の神々が亜樹の前に現れるなんて。
その楽観的な予想はことごとく打ち破られた。
「わたしはエルダ」
「私ははレオニス」
「わたしはラフィン」
「わたしがシャナ」
「わたしはレダよ」
見事に揃っている。絶句する以外、どんな反応を見せろと?
「この子があの方が守護されている問題のアキという子です」
なんだか凄くまずい事態になっている気がする。
あの方というのは一樹のことだろうか? 確かに一樹はなにかあったら亜樹を護ってくれるし彼も亜樹を護るのが役目だなどと、自らと言ってくれるが。
しかしそれが創始の神々とどう繋がるんだ?
「どうやら本人には自覚も記憶もないらしいな」
「エルダさま。あの方の説明ではまだ覚醒前だとか。おそらく本人は今の事態を理解することもできていないはずですわ」
「なるほど」
やっぱりあの銀髪の人が風神エルダ。
アレスが言ったように、どことなくリオネスに似ている。
「言ってわかるのかどうか知らないが、もうそろそろマルスを返してくれないか?」
「? マルス? 誰それ?」
神々だとわかっていたけど、アレスで耐性ができていたのか、エルシアたちの印象が強烈すぎたのか、敬意を払うつもりにはなれなかった。
対等な口を利いたことで、エルダはちょっと驚いたような顔をした。
「マルスはわたしたちの長子。神々を統べる長」
「え。ても、そんなすごい人。っていうか神様、オレは知らないけど? 返せって言われても」
「いいえ。あなたはよく知っているわ、アキ」
「知らないって。誰のことを言ってるのかもわからないのに」
ムッとして精霊に言い返すと、赤毛の美女が割り込んできた。
「あなたは忘れているだけよ。伝説の大賢者」
「はあ? 神々の長の次ぎは伝説のなんだって? 話が全然見えないんだけど?」
困惑していると不意にエルダが近づいてきた。
後ずさろうととするが、できない。
まるで金縛りにあったみたいに。
声も出ない。
冷や汗が流れたけどこの窮地を誰かに知らせる術がなかった。
「すこし意識を探らせてもらう。そうすれば思い出せるはずだから」
そんなことするなと言いたかったけど、やっぱり声は出なかった。
睨むことすらできない。
まるで動けない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる