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第43話 嵐の前の静けさ
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ヴェロニカが欠伸をしながら『灰銀の繭玉』をアッシュに突き出した。
「ほれ、読み終わったのじゃよ」
「魔力は引き出せるか?」
アッシュが問う。
「うむ、こんな感じかねぇ?」
他人には理解出来ない処理をしているらしく、ヴェロニカは右手で空中を掻き回した。
「お、出来たのじゃ」とヴェロニカ。
「それを自分の魔力に変換出来るか?」
「出来たのじゃよ。教会でないと大量に引き出すのは難しいようじゃがの」
「上出来だな」
「褒めるがよい」
胸を張るヴェロニカ。頭を撫でて、アッシュは収納魔法から次の聖典を取り出した。クラバウの聖典『人魚の歌声』である。
「次はこれだ」
「ちょっと休憩じゃの」
小難しい本をぶっ続けで読めるものか、とヴェロニカはベッドに身を投げた。仕方なくアッシュ『人魚の歌声』を収納魔法にしまう。
「のう、アッシュ」
ヴェロニカが聞く。
「なんだ?」
「新しい教会というのは、簡単に設立出来るものなのかい?」
「いや、俺が知る限り三千年は設立されたことがないな」
淡々と答えたアッシュ。
現存する教会の殆どは、どの王朝よりも古くから存在している。記録に残る最も新しく設立された教会は恋愛の神『キスナム』だ。だが、これは既に廃神となっている。ヴェロニカがベッドの上で体を起こした。
「三千年も新設されておらぬのなら、ヴェロニカ教会を作るのも難しいのではないのかの?」
「枢機卿会議が因縁つけてくるのは間違いないだろうな。だから、クラバウ教会も協力してくれるんだろう」
枢機卿会議を二分することになる。魔力収支が赤字の零細教会と、その他の教会で意見が分かれる。
リッパー教会は赤字だと思われるが、ヴェロニカや『神の在処』を狙って行動を起こすと考えられた。
「最終決戦じゃな」とヴェロニカ。
「ああ。今までの異端者狩りとは違って、枢機卿が出てくるかもな」
「精鋭、という奴じゃの」
自分が狙われているという話を聞いても、余裕の態度を崩さないヴェロニカ。アッシュの手元を見る。
「さっきから何をやっているんだい?」
「廃神の一覧と、その教会の位置を地図に書き込んでいる。カルミオさんに協力してもらって、教会が壊されていないかを調査するんだ」
「大氾濫の防止、じゃの」
「過去の大氾濫との関係もだ。まぁ防止の意味合いの方が強いけどな。なにせヴェロニカが全ての聖典を読むまで、何年かかるか分からない。そもそも、聖典が手に入らない」
クラバウ教会教主、レイドルが他の教会へと秘密裏に接触している。だがヴェロニカや『神の在処』の実在を疑う声があり、難航しているという話だ。廃神の聖典ともなれば、まずはいるかどうかも分からない所有者探しかとなる。
リッパー教会の動きを警戒している為、根回しをしておかなくてはヴェロニカ協会の設立前に潰されかねない。
「とことん、リッパー教会は邪魔じゃな」
「同感だが、今は準備期間だ」
仕掛けるにしても、世論を味方につける時間が必要になる。
そんな資料作成に勤しむアッシュの手を止めたのは、焦りを感じるノックの音だった。
「アッシュさん、いらっしゃいますか!?」と誰かの声が響く。
「カルミオ・キュベティの使いのモノです。例の調査に関して至急、ご確認いただきたいことがありまして」
アッシュは席を立ち、扉を開ける。
宿の廊下に立っていたのは、十五歳ほどの青年だった。カルミオの商船で働いている船員見習い兼、連絡係だ。
「どうした?」
アッシュが聞く。
「魔物の反乱の前兆を掴みました。かなり規模が大きく、早急な対処が必要とのことです」
青年が地図と数枚の紙を取り出す。
「アッシュさんから事前に調査を依頼された廃神、加熱の神『フレイア』の教会を起点としているようですが、魔物が多すぎて教会に近付けなくて」
「フレイアか」
険しい顔で地図を受け取ったアッシュ。眉間に皺を寄せながら場所を確認する。
廃鉱山の近くだ。元々、物の温度を上げる権能魔法による、金属の精錬で利用されていた神。しかし、金属需要の伸びに魔力量が追いつかず、木炭などに取って代わられ、廃れていった。
廃神になって久しいフレイアだが、今でも調理場や鍛冶場の新設に伴う願掛けに拝礼される。魔力だけが溜まった結果、魔物の氾濫の起点になったのだろう。
「それから、これは未確認情報ですが、傭兵が近くをうろついていた時期があったようです」
青年の報告に顔を上げるアッシュ。
「まさか、その傭兵がフレイアの教会を壊した、と?」
「断言は出来ません。しかしその傭兵集団は、聖人ロットが若い頃に世話をしたことがあるそうで」
「それは興味深い情報だな」
リッパー教会枢機卿、聖人ロット。
オークションにおける『フォイフォラフォンデーユ』の競り、クラバウ教会取り壊し、両方に関与しているリッパー教会の重鎮。
「世評は当てにならぬものじゃな」
ヴェロニカが呟いた。
「聖人ロットが大氾濫に絡んでいる、って予想も状況証拠しかないがな。それよりも、今はフレイア教会の件だ。まだ聖典を手に入れていないし、冒険者ギルドに協力を仰いで動かすしかないだろう」
「アッシュは出ないのか?」
「ちょっとやることがある」と、ニヤりと悪い笑みを浮かべたアッシュ。
ヴェロニカが怪しむような目を向ける。
「どんな悪事を働くつもりだい?」
「人聞き悪いな」
肩をすくめたアッシュ。先ほどまで作っていた資料を手に取った。
「なんてことない、火をつけてくるだけだ」
「ほれ、読み終わったのじゃよ」
「魔力は引き出せるか?」
アッシュが問う。
「うむ、こんな感じかねぇ?」
他人には理解出来ない処理をしているらしく、ヴェロニカは右手で空中を掻き回した。
「お、出来たのじゃ」とヴェロニカ。
「それを自分の魔力に変換出来るか?」
「出来たのじゃよ。教会でないと大量に引き出すのは難しいようじゃがの」
「上出来だな」
「褒めるがよい」
胸を張るヴェロニカ。頭を撫でて、アッシュは収納魔法から次の聖典を取り出した。クラバウの聖典『人魚の歌声』である。
「次はこれだ」
「ちょっと休憩じゃの」
小難しい本をぶっ続けで読めるものか、とヴェロニカはベッドに身を投げた。仕方なくアッシュ『人魚の歌声』を収納魔法にしまう。
「のう、アッシュ」
ヴェロニカが聞く。
「なんだ?」
「新しい教会というのは、簡単に設立出来るものなのかい?」
「いや、俺が知る限り三千年は設立されたことがないな」
淡々と答えたアッシュ。
現存する教会の殆どは、どの王朝よりも古くから存在している。記録に残る最も新しく設立された教会は恋愛の神『キスナム』だ。だが、これは既に廃神となっている。ヴェロニカがベッドの上で体を起こした。
「三千年も新設されておらぬのなら、ヴェロニカ教会を作るのも難しいのではないのかの?」
「枢機卿会議が因縁つけてくるのは間違いないだろうな。だから、クラバウ教会も協力してくれるんだろう」
枢機卿会議を二分することになる。魔力収支が赤字の零細教会と、その他の教会で意見が分かれる。
リッパー教会は赤字だと思われるが、ヴェロニカや『神の在処』を狙って行動を起こすと考えられた。
「最終決戦じゃな」とヴェロニカ。
「ああ。今までの異端者狩りとは違って、枢機卿が出てくるかもな」
「精鋭、という奴じゃの」
自分が狙われているという話を聞いても、余裕の態度を崩さないヴェロニカ。アッシュの手元を見る。
「さっきから何をやっているんだい?」
「廃神の一覧と、その教会の位置を地図に書き込んでいる。カルミオさんに協力してもらって、教会が壊されていないかを調査するんだ」
「大氾濫の防止、じゃの」
「過去の大氾濫との関係もだ。まぁ防止の意味合いの方が強いけどな。なにせヴェロニカが全ての聖典を読むまで、何年かかるか分からない。そもそも、聖典が手に入らない」
クラバウ教会教主、レイドルが他の教会へと秘密裏に接触している。だがヴェロニカや『神の在処』の実在を疑う声があり、難航しているという話だ。廃神の聖典ともなれば、まずはいるかどうかも分からない所有者探しかとなる。
リッパー教会の動きを警戒している為、根回しをしておかなくてはヴェロニカ協会の設立前に潰されかねない。
「とことん、リッパー教会は邪魔じゃな」
「同感だが、今は準備期間だ」
仕掛けるにしても、世論を味方につける時間が必要になる。
そんな資料作成に勤しむアッシュの手を止めたのは、焦りを感じるノックの音だった。
「アッシュさん、いらっしゃいますか!?」と誰かの声が響く。
「カルミオ・キュベティの使いのモノです。例の調査に関して至急、ご確認いただきたいことがありまして」
アッシュは席を立ち、扉を開ける。
宿の廊下に立っていたのは、十五歳ほどの青年だった。カルミオの商船で働いている船員見習い兼、連絡係だ。
「どうした?」
アッシュが聞く。
「魔物の反乱の前兆を掴みました。かなり規模が大きく、早急な対処が必要とのことです」
青年が地図と数枚の紙を取り出す。
「アッシュさんから事前に調査を依頼された廃神、加熱の神『フレイア』の教会を起点としているようですが、魔物が多すぎて教会に近付けなくて」
「フレイアか」
険しい顔で地図を受け取ったアッシュ。眉間に皺を寄せながら場所を確認する。
廃鉱山の近くだ。元々、物の温度を上げる権能魔法による、金属の精錬で利用されていた神。しかし、金属需要の伸びに魔力量が追いつかず、木炭などに取って代わられ、廃れていった。
廃神になって久しいフレイアだが、今でも調理場や鍛冶場の新設に伴う願掛けに拝礼される。魔力だけが溜まった結果、魔物の氾濫の起点になったのだろう。
「それから、これは未確認情報ですが、傭兵が近くをうろついていた時期があったようです」
青年の報告に顔を上げるアッシュ。
「まさか、その傭兵がフレイアの教会を壊した、と?」
「断言は出来ません。しかしその傭兵集団は、聖人ロットが若い頃に世話をしたことがあるそうで」
「それは興味深い情報だな」
リッパー教会枢機卿、聖人ロット。
オークションにおける『フォイフォラフォンデーユ』の競り、クラバウ教会取り壊し、両方に関与しているリッパー教会の重鎮。
「世評は当てにならぬものじゃな」
ヴェロニカが呟いた。
「聖人ロットが大氾濫に絡んでいる、って予想も状況証拠しかないがな。それよりも、今はフレイア教会の件だ。まだ聖典を手に入れていないし、冒険者ギルドに協力を仰いで動かすしかないだろう」
「アッシュは出ないのか?」
「ちょっとやることがある」と、ニヤりと悪い笑みを浮かべたアッシュ。
ヴェロニカが怪しむような目を向ける。
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「人聞き悪いな」
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「なんてことない、火をつけてくるだけだ」
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