マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第44話 復刻版ケーキ

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 呆れと怪訝の視線を向けるヴェロニカ。手にしていた号外新聞をアッシュに突きつけた。

「大騒ぎになっておるのじゃが?」とヴェロニカ。

「ん」

 本を読んでいるアッシュの適当な返事。

「しれっと本を読んでおるが、これ、お主の仕業じゃな?」

 どこかに確信があったヴェロニカが、再度アッシュに聞き直した。
 号外新聞。大見出しには、フレイア大氾濫と書いてあった。フレイア教会を起点とした魔物の大氾濫が起きたことを、資料付きで詳細に報道している。更に、過去の氾濫の洗い出しも、冒険者ギルドを中心に様々な機関や組織が調査を開始した、と報じていた。
 アッシュはカルミオから買った舶来物の植物図鑑を捲る。

「これでヴェロニカ教会設立の大義名分が出来上がるだろ」
「火をつけるというからてっきりリッパー教会に嫌がらせをするのかと思えば、世論に火をつけおって」
「種火がないと本丸が燃え上がらないからな」

 リッパー教会がヴェロニカ協会設立を阻む大義名分がなくなる。寧ろ、妨害すれば世論の反発は免れない。

「フレイア大氾濫はどうなっている?」
「冒険者ギルドが総力を挙げて対応しているそうなのじゃよ。発見が遅れたとはいえ、まだ周囲に被害が出る前なのじゃから、包囲殲滅は出来ると書いてあるの」
「そうかそうか。いやぁ、他人の策略を潰して回るのは実に気持ちがいいな」

「性格悪いのじゃ」と言いつつ、ヴェロニカも笑っている。
 
 ヴェロニカはアッシュの膝に座り、号外新聞を捲って広告欄を指差した。

「それで、この広告なのじゃが」
「どうかしたか?」
「これもお主じゃろ?」

 広告には『毒キノコの知識を身につけよう! 大丈夫、リッパー教会枢機卿の手記だよ』と書かれている。
 ヴェロニカもアッシュから聞いた事がある。キノコを愛し、毒キノコを調べ上げ、最後には食あたりで死亡したギリソン教会枢機卿スキーリン・ジョック氏の『こんな美しい女に棘なんてあるはずない』と題された手記の話。

「禁書じゃろ、これ」とヴェロニカ。

「リッパー教会は禁書扱いしていたな。だが、毒キノコの知識を得れ、ば食あたりでギリソン教会を頼る人々が減り、結果としてリッパー教会は無駄な魔力を使わなくて済む。これは、人助けだ」
「本当に性格の悪い奴なのじゃ」

 呆れながら新聞広告を眺めていたヴェロニカ。突然前のめりになると、食い入るように別の広告を見つめ始めた。
 妙な反応を示すヴェロニカに、アッシュは興味を引かれて広告を覗き込む。

「老舗菓子店の復刻ケーキ?」

 読みながら首を傾げるアッシュ。

「食べ損ねたケーキじゃよ」

 ヴェロニカがわなわなと震え出す。

「リッパー教会の襲撃でお預けを食らった、ってやつか?」
「そうじゃよ。この上に散らされている赤い香草が幻覚作用を持つなどと因縁をつけられて、食べられる最後の機会だったのに。それをリッパー教会の奴らが──」

 ヴェロニカの恨み節を聞き流す。アッシュは広告に載っているイラストを見た。白黒のそれでは、赤い香草の正体は分からない。しかし、アッシュは知識を動員して正体を探り当てにかかる。
 ヴェロニカの証言から、問題の香草は使用を禁止された期間がある。その始まりはヴェロニカが襲撃を受けた八十年前だろう。
 製菓材として使用される香りを持ち、幻覚作用が疑われた香草。

「あ、マラライか」とアッシュ。

「それじゃ!」とヴェロニカも声を張って言い放つ。

「十年位前に幻覚作用が否定されたんだ。正確には、灰を溶かした水に根を漬けて煮ないと幻覚作用が発現しない」

 広告にある復刻版は、代替素材を使っていない正真正銘の復刻版なのだろう。良くレシピを残していたものだと感心する。

「解毒の神『マララ・イーヌ』の神官が祈りの際に利用していたのが香草、マラライだ」
「まららいーぬ? 聞かぬ響きの神じゃな」
「異民族の神だからな。廃神になっている」
「解毒の神か。リッパーめ、性懲りもなくしでかしおったのじゃな」

 快癒の神の権能と被る所があれば、信者獲得競争を仕掛けられて潰される。解毒の神もそうして廃神になったのだ。というヴェロニカの予想は正しい。

「リッパー教会は潰してしまった方が良いのではないか?」

 怒りが収まらない様子のヴェロニカ。

「まぁ、落ち着け。社会の役に立っているのは事実なんだし」

 快癒の神の権能魔法の利用者が多いからこそ、魔力不足を改善するために他の教会を潰しにかかっている。必要とされる教会ではある。
 しかし、ヴェロニカはやはり納得いかない様子。不機嫌に新聞を畳んだ。

「我はあやつらがケーキを持って詫びに来ぬ限り、絶対に許さないのじゃ!」

 ケーキでいいのか。ホールケーキで。
 アッシュは来たるべきヴェロニカ教会所属禁書庫の為にも、ここで好感度を稼ぐことに決めた。ヴェロニカ声をかける。

「ひとまず、その復刻版のケーキを食べに行くか?」とアッシュ。

「お、気が利くではないか」

 畳んだ新聞を放り投げたヴェロニカ。アッシュの膝を降りて、腕を掴む。

「そうと決まれば早よ行くのじゃよ!」

 ここ暫くは聖典を読んでばかりいた為、ストレスも溜まっていたのだろう。せがむヴェロニカにアッシュは、内心苦笑して立ち上がった。
 
 宿を出る。
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