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第45話 カップル割り
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宿を出て、大通りを歩く。
復刻版のケーキを出す店は本店がバヤジット王国にあるが、その弟子が開いた支店がサウスボンスにもあるという。都合が良い。
「経営危機の時にウルがちょっかいを出しての、結果として助かったと聞いたのじゃよ。その縁で、ウルが晩年を過ごしたこの港町に支店を出したのかもしれぬ」
「あり得るな」
単純に、海上交易で栄えるサウスボンスは砂糖やハーブなどの製菓材が安く手に入る。だからだろう、とアッシュは思っていた。だが、空気を読んだ。この蔵書狂が読むのは、本だけではないらしい。
件の店に着いた二人。白い漆喰塗りの壁。店の前に置かれた可憐な赤い花が、目を引く可愛らしい店だった。
「カップル割りがあるねぇ」とヴェロニカ。
看板に書かれたキャンペーンを見る。
「年齢差がえぐいことになってないか?」
「シニア割りはないの」
「あっても店員の視線は俺に向くんだろうなぁ」
店の中に入ったアッシュは嫌な予感がして周囲を見回した。客が少ない。広告を出した日の客入りには見えない。
ヴェロニカがカウンターに近付き、店員の女性に声をかける。
「復刻版、世間の毒に負けぬケーキを一つ。ホールで!」
「な、なぜ旧品名を──?」
驚愕している女性店員。ヴェロニカに目線の高さを合わせる。
「すみませんが、ご予約はおありですか?」と女性店員。
「予約はない。まさか、売り切れかの?」
ヴェロニカの表情が一変した。
「はい、申し訳ありませんが――、って泣いてる?」
ぽろぽろと涙を零したヴェロニカ。正確にはシニアだが、見た目はただの美少女だ。女性店員が狼狽えた直後、店に新たな客がやってきた。
助かった、と女性店員が来客を見る。一瞬の硬直の後、申し訳なさそうにヴェロニカをちらりと見てから口を開いた。
「ロット様、ご予約のケーキですか?」
「ああ、今朝予約したケーキを」
ロット、と呼ばれた人物を見て、アッシュはさりげなくヴェロニカの傍に寄った。
来店してきたのは聖人ロット。リッパー教会枢機卿だ。
ロットは予約のケーキが運ばれるまでの手持無沙汰を埋めようと、店内を見回す動き。半泣きのヴェロニカに気付いた。面食らった顔を浮かべる。
「お、お嬢ちゃん、どうしたのかね?」とロットが聞く。
「ゔゔ……」
涙を拭うヴェロニカ。言葉にならない。アッシュのお腹に抱き着き、顔をうずめた。
「縁がなかった、という事じゃの。そういう運命なのじゃよ」
「まぁ、いろいろと間が悪いのは確かだな」
予約して帰ろうと思ったアッシュ。予約表を探す。
「ロット様、お待たせしました。ご予約のケーキです。ご確認ください」
「あ、ああ、ありがとう」
ジロっと恨みがましい視線を向けられていることに気付いているのか、ロットは少し上ずった声で礼を言う。
アッシュはヴェロニカの頭を押さえ、ロットに会釈した。敵対関係ではあるが、私生活でこんな視線を向けられるのは流石に気の毒だと思う。それほど、ヴェロニカの視線は重く強い憎悪に満ちていた。
ロットが困ったように笑う。ヴェロニカに声をかけた。
「お、お嬢ちゃん、よかったら、少し分けようか?」とロット。
「ぬぐっ」
思わずぴくり、とヴェロニカの体が正直に反応。アッシュを抱きしめる力が強くなる。
だが数秒な沈黙の後、ヴェロニカが苦渋の決断を下すように、声を絞り出した。
「い、いらないのじゃよ」
ヴェロニカは顔をうずめたまま言った。
「いや、しかし――」
「我は謝罪でなければ受け取れないのじゃぁあああ」
叫んで店を飛び出したヴェロニカ。呆然と見送るロット。
アッシュは予約表に記入して前金を払い、迷惑をかけたお詫びも兼ねてクッキーの詰め合わせを買った。
我に返ったロットがアッシュを見る。
「何か失礼なことをしただろうか?」
ロットが問う。
「返答に窮する質問ですね」とアッシュ。
「いや、そうか。そうだな」
ロットはもっともだ、と頷いた。
「蔵書卿にする質問ではなかった」
復刻版のケーキを出す店は本店がバヤジット王国にあるが、その弟子が開いた支店がサウスボンスにもあるという。都合が良い。
「経営危機の時にウルがちょっかいを出しての、結果として助かったと聞いたのじゃよ。その縁で、ウルが晩年を過ごしたこの港町に支店を出したのかもしれぬ」
「あり得るな」
単純に、海上交易で栄えるサウスボンスは砂糖やハーブなどの製菓材が安く手に入る。だからだろう、とアッシュは思っていた。だが、空気を読んだ。この蔵書狂が読むのは、本だけではないらしい。
件の店に着いた二人。白い漆喰塗りの壁。店の前に置かれた可憐な赤い花が、目を引く可愛らしい店だった。
「カップル割りがあるねぇ」とヴェロニカ。
看板に書かれたキャンペーンを見る。
「年齢差がえぐいことになってないか?」
「シニア割りはないの」
「あっても店員の視線は俺に向くんだろうなぁ」
店の中に入ったアッシュは嫌な予感がして周囲を見回した。客が少ない。広告を出した日の客入りには見えない。
ヴェロニカがカウンターに近付き、店員の女性に声をかける。
「復刻版、世間の毒に負けぬケーキを一つ。ホールで!」
「な、なぜ旧品名を──?」
驚愕している女性店員。ヴェロニカに目線の高さを合わせる。
「すみませんが、ご予約はおありですか?」と女性店員。
「予約はない。まさか、売り切れかの?」
ヴェロニカの表情が一変した。
「はい、申し訳ありませんが――、って泣いてる?」
ぽろぽろと涙を零したヴェロニカ。正確にはシニアだが、見た目はただの美少女だ。女性店員が狼狽えた直後、店に新たな客がやってきた。
助かった、と女性店員が来客を見る。一瞬の硬直の後、申し訳なさそうにヴェロニカをちらりと見てから口を開いた。
「ロット様、ご予約のケーキですか?」
「ああ、今朝予約したケーキを」
ロット、と呼ばれた人物を見て、アッシュはさりげなくヴェロニカの傍に寄った。
来店してきたのは聖人ロット。リッパー教会枢機卿だ。
ロットは予約のケーキが運ばれるまでの手持無沙汰を埋めようと、店内を見回す動き。半泣きのヴェロニカに気付いた。面食らった顔を浮かべる。
「お、お嬢ちゃん、どうしたのかね?」とロットが聞く。
「ゔゔ……」
涙を拭うヴェロニカ。言葉にならない。アッシュのお腹に抱き着き、顔をうずめた。
「縁がなかった、という事じゃの。そういう運命なのじゃよ」
「まぁ、いろいろと間が悪いのは確かだな」
予約して帰ろうと思ったアッシュ。予約表を探す。
「ロット様、お待たせしました。ご予約のケーキです。ご確認ください」
「あ、ああ、ありがとう」
ジロっと恨みがましい視線を向けられていることに気付いているのか、ロットは少し上ずった声で礼を言う。
アッシュはヴェロニカの頭を押さえ、ロットに会釈した。敵対関係ではあるが、私生活でこんな視線を向けられるのは流石に気の毒だと思う。それほど、ヴェロニカの視線は重く強い憎悪に満ちていた。
ロットが困ったように笑う。ヴェロニカに声をかけた。
「お、お嬢ちゃん、よかったら、少し分けようか?」とロット。
「ぬぐっ」
思わずぴくり、とヴェロニカの体が正直に反応。アッシュを抱きしめる力が強くなる。
だが数秒な沈黙の後、ヴェロニカが苦渋の決断を下すように、声を絞り出した。
「い、いらないのじゃよ」
ヴェロニカは顔をうずめたまま言った。
「いや、しかし――」
「我は謝罪でなければ受け取れないのじゃぁあああ」
叫んで店を飛び出したヴェロニカ。呆然と見送るロット。
アッシュは予約表に記入して前金を払い、迷惑をかけたお詫びも兼ねてクッキーの詰め合わせを買った。
我に返ったロットがアッシュを見る。
「何か失礼なことをしただろうか?」
ロットが問う。
「返答に窮する質問ですね」とアッシュ。
「いや、そうか。そうだな」
ロットはもっともだ、と頷いた。
「蔵書卿にする質問ではなかった」
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