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第二章 ~仲間~

35 レイside②

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魔法を発動するレイ―。
何やら手を地面に向けている。

「出てこぉぉ……いッ!」

地面に向けられた手が次第に上に上がっていき、それと共にレイと男達のちょうど中間あたりの地面からニョロっと黒い芋虫みたいなものが現れた。
それを見た男達も、一体何だこれはとでも言いたそうな顔をしている。

地面から出た黒い芋虫に更にレイは魔力を集中させる。
すると次の瞬間……三メートル程の大きさをしたドラゴンの尻尾が生まれた。
先の騎士団の男達の戦いで見せた技だ。

さっきは怒りで無意識のうちに出たが今回は違う。ダンジョンの時と同様レイが自らコントロールして繰り出された魔法だ。
やはり魔力の強さは劣るものの、こういった地道な積み重ねが少しづつ自信へと変わっていく―。

レイは出現させたドラゴンの尻尾を操り撓らせると、その尻尾は鞭の如く男達を払いのけた。

「――ぐはッ……⁉⁉」

狭い路地で繰り出すような技ではなかったが、良くも悪くも直ぐ近くの建物の壁と尻尾に勢いよく挟まれ、男達はダウンした。

<もっと考えて技を出すんだな>

「しまった。“技名”言うの忘れた!」

ドーランの魔力を扱っていると言えど、レイは着実に力を身につけていた。
倒れている男達を見ていたレイ。そこへ女の子が声を掛けてきた。

「あ、あの!ありがとうございました!」

深々とお辞儀をする彼女。レイは気にしないでと優しく言葉を返し、逆に「大丈夫?」と女の子に聞いていた。
少し気持ちが落ち着いてきた彼女は何度言っても足りないのか再度お礼を言ってくる。

「危ないところを助けて頂き本当にありがとうございました。何とお礼を申していいか……」

「別にいいよお礼なんて。それより何でコイツらに捕まってたの?」

レイは倒れている男達を指差しながら女の子に聞いた。
深々と頭を下げていた女の子が顔を上げレイの質問にこう答えた。

「はい……理由は明確ではありませんが、恐らく“身代金”目的かと……」

「身代金⁉ お前有名人か何かなの?」

「いえ。有名人とかではないのですが、一応家が“リルガーデン”でして……」

「リルガーデンって……王家の“リルガーデン家”?お嬢様が何してるんだこんな所で。
(……って、俺も人の事言えないんだけどね……)」


リルガーデン家とは、ソウルエンドに存在する由緒ある王家の一つである。
レイの家でもあったロックロス家も当然同じ王家ではあるが、王家も所詮は人―。
金や権力を持ちキャバルの様になる者もいれば、全く争いを好まない平和主義の者まで多岐に渡る。

キャバル程ではないが、二、三そういう王家がいるのを知っているレイ。
だが、レイの記憶上ではこのリルガーデン家は全くそう言った悪い噂を聞いたことがない。
仮に何かあったとしても、目の前にいるこの女の子を見ればそんな風には思えなかった。

初めて会い、同じ王家でも面識はないが、その人が良さそうな人かそうでないかは対面すればなんとなく分かる。
この女の子は王家でもロックロス家とは違う良い王家だとレイは自然に思えた。

「今日は水の王国の王家の方々との食事会でしたの」

「(そうか。リルガーデン家もそもそも火の王国だっけ……。)
そっか食事会かぁ。あのつまんない王家の交流会みたいなやつな」

「――え……⁉ 食事会をご存じで……⁉ あの、失礼ですがお名前をお伺いしても?」

レイはつい口に出してしまった事を後悔したが最早手遅れ。
バツが悪そうに女の子に答えた。

「あ、あー……まぁそうなるよな。俺の名前はレイ! 訳あって“元”ロックロス家なんだ」

それを聞いた女の子は大きな青い瞳を更に見開き驚いている。
この反応に慣れているレイは,、自分の人生で後何回これを体験するんだろうとふと頭を過った。

「なんとロックロス家の御方だったのですね……あ、申し遅れました……私は“リエンナ”。リエンナ・リルガーデンと申します。あの……ロックロス様……」

「様なんてやめてくれよ。それにもう俺はロックロスの人間じゃないんだ。そんな堅苦しい話し方もしないで気軽に
レイって呼んでくれよ。な!」

「で、でも……」

「むしろ嫌なんだ、その名前……。もしコイツら倒して少しでも感謝してくれてるんなら普通に名前で呼んでくれ。それが最高のお返しだ!」

レイはニコッと笑いながらリエンナに手を差し出した。
その表情を見たリエンナは今までの緊張の糸が切れ、どっと疲れが押し寄せて来た様だ。
リエンナも笑いながら出された手を握り二人はギュっと握手を交わした。

「ご令嬢のくせにえらい無防備だな。家来とか護衛付いてないのか?」

レイの言う通り、王家の人間ともなるといつどこで何が起こるか分からない。身に覚えのない事や理不尽な事で狙われることも珍しくない。

火の王国も水の王国も人が多くとても治安は良い。
だからと言って確率がゼロではない為、よりによって一人の時程こういう事は起こりやすいものである。

王家の……それもご子息やご令嬢はどこも皆家来や護衛が付いているのが当たり前だ。

「言いにくいのですが……たまに一人になりたくてこっそり抜け出してしまうんです」

レイにはこの気持ちがとてもよく理解出来た。
当然、王家の人間が全員そうではないが、そもそも王家とかは何も関係なく誰でも一人になりたい時なんてあるに決まっている。

リエンナが言っている事は否定するどころか皆が共感できるものだ。
それに加え同じ王家という事もあり、レイはどこか他人事とは思えなかった。

「そっか……王家の集まりとか食事会なんて息苦しいもんな!俺もすっごい苦手だったぜ」

ハハハと笑いながらレイは言い、また狙われたら危ないから近くまで送っていこうかとリエンナに言葉を掛けたが、
何か言いたそうな難しい表情をしていた。

少し口ごもりながらも、リエンナはレイに言った。

「あの……出会ったばかりで図々しいのですが――」

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