女神として召喚されましたが……

中村湊

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王妃様との茶会

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 2週間後ーー

 王妃様からの茶会の準備に2週間費やした。新しいドレスは、王妃様が是非着てきて欲しいと用意して下さったドレス。ブリューワー王国の貴族女性の間で流行っているデザイン。
 シャトルーズグリーンとリーフグリーンの黄緑色の生地が、胸元から裾まで綺麗なグラデーションのようになびいている。女神のショールが何枚にも重なりひとつのドレスのよう、そう思えた。
 歩くとふわりと風に乗るようになびくドレス。胸元は強調しすぎない程度にコルセットを締めていたが、メイがコルセットを着けると……外見とは裏腹な大きく柔らかな胸が現れる。無論、ドレスで隠れてはいるものの、アーノルドにはその胸をたやすく想像してしまい興奮を覚える。

 茶会の席へと護衛で同行する傍ら、侍女のマーリンがじとりとアーノルドを「この変態が」と大男に呟く。大男、アーノルドの下腹部は興奮し初めもう昂ぶり始めそうだった。必死に理性と興奮の中、長い離宮からの廊下を歩く。
 後ろから見るメイのドレス姿は、とても美しい。この国に召喚され長くなってきた黒髪は、マーリンのお陰で艶が出て陽の光を受けると流れるような艶が見える。敢えて下ろしている髪に、髪飾りの百合の花モチーフデザインがえる。

 別宮を過ぎ、王宮へと入る。それぞれの宮を渡る際には、騎士が立っており王妃からの招待状の封筒を見せた。王宮に招かれて入るだけでも、顔パスというのは上の貴族や王族のみに限られるようだ。 芽衣子は緊張した表情になり始める。顔の表情筋がぴくぴくとし始める。横に並んだマーリンが、「いつもの勢いでいいです」と言う。いつもの勢いって、と思わず笑みが零れ緊張が解れた。
 王妃様の用意した部屋の外には近衛騎士がいた。アーノルドが居るのを見ると、少々、侮蔑の瞳が受け取れた。芽衣子には、とても頼りになる騎士なのにと思った。第二騎士団の騎士達の方が、よっぽど礼儀などがなっていると。

 部屋に通されると、王妃付きの侍女が案内してくれテラスへと向かう。
 外の風は心地よく、王宮の庭園が見える部屋のテラス。外には百合の花が咲いている。

 「まぁ、あなたがメイさんね? 初めまして、エリザベスよ」
 「……初めまして王妃様」
 「堅い挨拶は抜きにしません? わたし個人のお茶だから、気兼ねしないで欲しいから」

 ちらりとマーリンを見やると、小さく頷いてくれた。どうやら王妃様は、本当に個人のお茶として招いてくれたようだ。部屋には、メイにマーリン、アーノルド。エリザベス王妃、王妃付きの侍女。それだけだった。
 座るよう招かれ、一礼してから席に向かおうとするとアルがエスコートしてくれ席に付かせてくれた。なんともさらりと……強面だが、紳士だ。という、芽衣子。本当は、毎晩、メイをオカズに……だが。

 王妃は、召喚された女神は本来なら王宮での部屋にメイを招いている筈だったが。召喚者のノルンが、「違う」と言ってしまった事もあり離宮から王宮へと移せないでいると話してくれた。
 当の召喚したノルンは、先代の召喚者と女神の件に関して話し合いの最中だ、と。それも怪しいところだが……。ノルンの動向に関して、把握しきれないのが王室でも現状だと。代々の召喚者に関しては、王室は圧力などを掛けることができない関係の上に成り立ってきていた。
 召喚者については、それ以上は聞けなかったが芽衣子が離宮の台所でロアンナと作った菓子などの話しをすると「ぜひ食べたい」と言ってくれた。
 エリザベスは気さくな柔らかい表情の女性で、マリーゴールド色の髪色と向日葵色の瞳があらわしているように太陽のような日だまりの温かい人柄を感じた。

 「そう言えば、メイさんは下町に興味があるの?」
 「えっと……はい。興味あります。この国のことを学んだんですけど……わたし、知らないことばかりだったなと」
 「たくさん勉強しても?」
 「何というか、勉強だけじゃ分からないこと。が、知らなかったんです」
 「勉強だけでは知らないこと……そうね、わたくしもそうね。メイさんとこうして会って話すまで、マーリンから聞いたメイさんしか知らなかったんですもの」
 「マーリンから……えっ?」
 「あら、マーリンたら言ってなかったの?」
 「ソウデスネ」

 マーリンのお陰でドレスや勉強の手筈やらなんやら……できてきている。メイは、マーリンに「ありがとう」と小さく言うと、「何のことでしょう」と彼女は返した。その表情は、小さく笑顔で嬉しそうだった。きちんと礼をしないと、と思った。
 エリザベス王妃との話しも楽しく、今度はヘンリー王子とその王子に嫁いだ妃も一緒に茶会をしようとなった。その時には、メイの用意した茶菓子を出す約束をした。

 王宮から別宮へと入って廊下を歩いていると、くろがね色のマントを着た男が部屋から出てきた。扉越しに、甘い声の女性が「お願いぃまたぁきてぇ」と言う。
 逢い引きの場面に出くわした、と思う。芽衣子は、一礼すると過ぎ去った。

 マントの男は、過ぎ去った淑女レディが珍しい黒髪で美しい女で惹かれた。
 横目で過ぎ去った女を見ていると、扉越しに女が出てきてノルンの腕を撫でる。

 「お前はアレでは足りないか?」
 「だってぇ、そうしたのは……ノルン様ぁでしょぅ?」
 「そうか? まぁいい、そのうち気が向いたらな」
 「本当よぉ? だって、そう言ってなかなか来て下さらなかったものぉ」
 「ほぉ、この俺に意見するのか?」
 「んぅんんっ!! んっあんっ!!」 
 「しばらく、この罰を与えたままにしておいてやる。有り難く思え」

 扉が自然と閉まるには不自然な締まりをし、中から、先ほどの女性なのか咽び啼く喘ぎが漏れている。扉の外に控えている護衛騎士にノルンは何やら囁く。
 護衛騎士は、虚ろな表情とけだもののように欲情した瞳に瞬時に変わり扉を開け、中へとするりと入った。
 中から、激しい喘ぎ啼く声と猛る男の声が入り交じる。
 先ほど入った騎士の後に残された、もう1人の護衛騎士が声に興奮を覚える。ノルンが囁くと、小さく頷いた。

 「コレくらいの睦みであぁなるとは、容易い」

 部屋を過ぎ去り、先ほどの淑女を思い出す。どこかで1度、観た気がするが……あれ程魅力的な女であれば、忘れず声をかけ一晩ならず何度も何度も抱いて、堕としているはずだと……。
 そう、自身の力をここまでにするまでに最初に抱いた師匠の様に堕とし尽くしている。師匠の堕ち狂っている姿を思い出すと、ノルンは先ほど抱いた女とは違う異様なまでの興奮を思い出し、その場から消える。
 その直後、護衛騎士たちからはノルンが貴族女性の部屋に入っていた、来たことの記憶すらなくなる。貴族女性の護衛をしている筈の騎士は部屋の中のはずで、外に激しく漏れ聞こえている筈の声や音は外には一切聞こえていない。廊下を通っている騎士や貴族たちには、ただ静かな夕の時間が過ぎていく。

 貴族女性は、その日から実際には姿を外に見せていない。護衛騎士も。しかし、誰も、気がつかない。その部屋の扉には、濃い緑色の魔方陣が描かれている。日に日に濃くなり、魔方陣から青緑の文字が増えていった。

 召喚者の間ーー

 「あぁ、良いね。また、力が増えていく。どうです? 師匠?」
 「っあぁ、ノルンさまぁ!! あっ、あっぁ、ノルンさまぁ!!」
 「って、もう、喘いでるしかできないですねぇ」
 「んぅ、あぁ、スゴイィ!! ノルンさまぁ!! もっと、欲しいですぅ!!」
 「ははっ、俺を次代として見つけて育ててこうなると思っていなかったでしょうがっ!!」
 「あぁ、あっ、あんっっ!! イクっっ!! あっぁぁぁぁぁ!!」

 師匠と呼ばれる女性は、ノルンを次代の召喚者として見つけて育てて来たが……彼の類い希なる力と日に日に異性としての強い魅力に抗えなくなった。それをも、彼の力とも知らず、禁忌の召喚者の力の使い方や術。全て、教えてしまった。
 ラナ。先代召喚者の女性で、彼女は若くしてノルンを迎え入れ姉弟きょうだいのように過ごしていくうちに、ラナはノルンの異性への男として意識し。彼を受け容れ、力を互いに高められることを身体を交えることで感じた。
 そのうち、ノルンに禁忌を教え自身が依り代として彼を主人として仕える術を受け容れた。

 ノルンが何度か達し、ラナも激しい絶頂で依り代として力を彼に与える。何人もの女性をラナを通じて、彼に禁忌の力を与えている。何度も激しく穿ち、昂ぶる雄を受け容れ、さらに召喚者をノルンを主人としての忠誠を深くしていく。すでに、堕ち尽くしているラナには、忠誠を断つのは出来ない。


 茶会から数日後ーー

 いつもの離宮の庭園での散歩。アルが後ろから数歩離れて、しっかりと付いてきている。今日も、やっぱり難しいだろうと思った。ビルと会って話すのが……マーリンには、アルが本当は気がついていると言われている。
 うしろをちらりと見ると、何か言いたそうにしている表情をアルがしている。視線が合うと、ふいっと顔を背ける。それを、何度か繰り返していた。この数日。
 ガサッと小さく垣根が音を立て、大男の騎士が反応し剣を抜き素早く彼女の前に出て護りの体勢に付くと……。

 「っ!!」
 「うわっ!! スッゲー!! ほんもんのきしだっ!!」
 「ビル?」
 「あっ、メイねぇちゃん。ひさしぶり!!」
 「……メイさ、ま?」
 「あー、えっと……積極的で、恥ずかしがり屋さん?」
 「ねぇ、メイねぇちゃん。このオッサンほんもんのきしだよね?」
 「「おっ、おっさん?!」」

 思わず、最後はアルとメイの声が重なった。第二騎士団長を、大男で眼光鋭く、今まさに剣を目の前に突きつけられた状態でいる少年は……アーノルドを、オッサンと言った。瞳を輝かせて。

 アーノルドはメイが下町に出入りしているのは知っていた。ひっそり、後ろをつけて……護衛兼ねて騎士服の下にダイに頼んで見繕って貰った下町に溶け込めて動きやすい服を着て、彼女が庭園を出て暫くしてから様子を見ていたから。
 この少年の後ろ姿も、何度かは見ていた。しかし、彼女にキスをしていたのは別の、男だと思い込んでいた。見たことない笑顔をして「キスされた」と言われた時の衝撃と、「キスは挨拶?」と聞いて自分にキスをしてきたメイの表情。
 同じキスの話なのに、自分とのキスとの後の表情は女の表情をしていた。自分を男として見ている、女の……。

 「なぁ、オッサン。メイねぇちゃんのきしやってるって、本当?」
 「本当だが。俺はおっさんではなく、アーノルドという名前がある」
 「じゃ、アーノルドおじさん」
 「……どちらでも構わない……ビル」
 「じゃあじゃあ、アーノルドおじさんはさぁ。メイねぇちゃんとどこまでしたの?」
 「どこまでって、なっなっなななっ?!」
 「べんきょうのことだよ!! なにかんがえてんの?」

 子どもに、「なにかんがえてんの?」と突っ込まれて先ほどまでメイとのキスを延々と考え想いだしていたとは、言えない。ふーんと言いつつ、ごそごそと垣根の下で身体を動かすビル。どうやら、同じ体勢が辛いようだ。
 メイがアルに尋ねようとすると、彼がひょいとビルを庭園の中へといれた。ビルは少し驚きつつ、いつものようにメイに抱き付いた。 うらやまし……と、思わず声にでそうになり呑み込むアーノルド。彼女の胸の中に顔を埋めて、「メイねぇちゃん、だいすき!!」とか言いつつアーノルドを横目で見て「へぇ、そうなんだ」みたいな表情のビル。

 「ちょっ、ビル? くすぐった……んっ!!」
 「えーだって、メイねぇちゃんとずぅっと会えなかったんだよ?」
 「この、オマセ!!」
 「へへっ。あっ、オッサンうらやましいんだ? メイねぇちゃんの胸、おっきくてやぁらかいし」
 「ち、ちがっ!! 大きいのは見て分かる!!」
 「「……わかってるんだ……」」
 「……っっ!!……」

 墓穴を掘った。その後、静かに座ってビルとメイがおしゃべりしているのを見守った。2人は、王妃様との茶会の話しで盛り上がった。
 ビルが、今度は下町に行こうと言い帰った。

 視線が痛い。彼女の、視線が……。確かに、ドレスを着るようになって、胸が。いや、その前から、彼女と初めて会った時に胸がとは何となく感じた。
 毎晩、彼女に興奮を覚えている熱をおさめようと必死になってシテいるのは……やめよう。

 別宮の夜ーー

 部屋の外扉に青緑の紋様と文字が渦巻く。扉の外に、女が喘ぎ咽び啼く声。悦び啼く声が廊下に響いてこだまする。しかし、他の貴族たちには聞こえてこない。
 扉の外の護衛騎士の1人は、昂ぶる熱を抑えることができず、隆起した雄をその状態のままで息を荒げ護衛の姿勢のままになっている。
 ただしくは、護衛の姿勢にさせられている。夕刻近くまで、自身が、女と狂うようになっていた記憶はない。ただ、魔方陣へと自身達の荒れ狂う熱がエネルギーとなって流すようにと狂い交わっていた。
 貴族女性は、ノルンにあの日以来、抱かれていない。主人のためにと、護衛騎士とエネルギーを作り出し続けている。ノルンが来るのを待ちわび、護衛騎士達が醒めない熱を隆起させられたことにより、彼らに欲するままに狂われされて堕とされている。

 「あっ、あぁあ!! ひあぁっ!!」
 「はぁはあ!! こっ、これが……焦がれ続けたお嬢様のっ!! くっ、はぁはっはっはっ!! いいぞっ、はっはっっはっ!!」
 「ノルン様ぁ!! もっと罰をぉ!! あっ、はぁ、ぁっぁあああっぁ!!」
 「啼け、喘げ!! そうだ!! お前は淑女の仮面を被った、淫乱な女だ!! ノルン様が俺たちのために仮面を剥いでくださったんだ!!」

 互いにノルン様がと喜ぶ。時間が経ち、扉の外にふらりと中にいた騎士が出ると、外に待機していた騎士が入る。交代でやってきた護衛騎士が付くと、同じ状態へと陥る。
 この扉の中の貴族女性は、ノルンをひと目見た瞬間に魅了され彼との一夜により始まってしまった。それまでは、護衛騎士たちから憧れの淑女として焦がれられていた程だったのが……『仮面を剥いで我々に差し出してくださった』と、騎士達は喜んでいる。

 ノルンはあの日、別宮ですれ違った女を離宮の庭園で見かけた。やはりあの流れるような艶のある黒髪に、白い透き通った肌。紅い唇。
 張りがあり柔らかそうな胸。ドレスでより強調されているが、脱いでも柔らかな肌を堪能できそうだと、召喚者は思った。その直後、耳と目を疑った。
 あの日、召喚の間で喚んだ女だ。それも、アノ、第二騎士団長が……。

 「メイ様、戻りましょう」
 「ねぇ、アル? ごめんなさい。あと、ありがとう……っ……」
 「……っ!!……」
 「こ、これは、ありがとうと、ごめんなさいのキス……だか、ら……んっんんっ!!」
 「っ、んぅ……め、いさま……んぅ、はぁ……」
 「……アル……」

 ふたりが交わした言葉の後に、メイがキスを唇に軽くした後。深いキスをアーノルドからしたのを、ノルンは見た。
 胸の奥から酷く乾いた渦巻く感情が沸いた。初めて、感じた。コレが何という感情なのか、知らずに育ったのだから。

 嫉妬。

 彼が、ノルンが初めて抱いたのは、嫉妬だった。自分が手に入れた事がないモノが今までになかった。手に入れたいと、欲しいと、手に入ると思っていたモノが……手放した後に、すでに、違う者の手に入り始めていた。
 手放したメイに対して、手に入れなくてはと。手放したのは、唯一の間違いだと。彼女に、気がつかせなくてはならない。自分が喚んだのだから、自分のモノだと。

 そう、なら……手に入れなおせばいいだけだ……。

 アルに深いキスをされぼんやりとした瞳の端に、青緑の瞳が入りこんで……芽衣子は、青緑の瞳に少しずつ引きつけられた。自分の目の前のセシリアンブルーの瞳が留まらせながらも……。
 ふわふわとした感覚で、アルが抱き締めもう一度キスをした。黒い瞳には、アルの顔が映り込んで彼をしっかりと見つめている。

 ノルンは、その場から立ち去った。それ以上は耐えられなくなってきた。嫉妬以上に、何かを感じ始めたからだろうか? 彼女があの男とキスをした直後の、柔らかい甘い顔。あの表情を、自分に向けて欲しい。
 もう一度、自分を見て欲しい……その直後、あの男が、彼女にキスをして自分を見ていなかった。彼女へのキスも、あの甘い顔も、潤んだ瞳も、柔らかそうな唇も……全て、俺のモノだ!!
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