異世界騎士の忠誠恋

中村湊

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騎士は、受けた恩義を返します!!

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ハロルド・リヒタルト。
リヒテン王国の第2王子、フリード・バル・リヒテンの近衛このえ騎士だった。

フリードと剣の稽古をし、ひと息しようとした時。フリードの足元が光はじめ、ハロルドは騎士としての行動にでた。
つまり、主君をまもろうと……。

まばゆい光が薄れ太陽の光を感じ、開いた瞳に映ったのは。城の塔よりも、遥かに高い塔が乱立していた。整った道には、馬がなく走る箱が馬車よりも速く、大きな音を鳴らしていた。

プァーー!! プップーー!!

目の前の王子と道から逃れた。

「ここは……」
「申し訳ありません。オレにもわかりません」

周りの人々からは、奇怪な目で見られる。
服装が違う。帯剣していない? 
ハロルドたちも、剣がないことに気がついた。光にのまれた瞬間、無くしたのか? 王から授かった大事な剣を……。

「ここにいても仕方ない。場所を移そう、ハロルド」
「ハッ!!」

フリードは、王国図書館の中で読んだ禁書の、【光にのまれ戻らぬ王族あり】の文字が浮かんだ。
戻れないかも知れない……ハロルドには、まだ……彼の性格から、愚直ぐちょくなまでの任務遂行やフリードの冗談すら鵜呑うのみ。人を疑わぬ、真っ直ぐな心根。彼に、今、言うのは戸惑いを覚えた。

王室の中で、この真っ直ぐな近衛騎士。彼に幾たび心が救われたか……。

飛ばされた先のこの場所で、一番大事な事を、2人は後で気がついた。
食事が、食べ物が手に入らない事を。水は大丈夫だった。寝る場所も。
空腹だけは、我慢出来ない。

必死に街や路地裏を駆けずり回り食べ物を得られたのは、3回。
4日目には、やむを得ずゴミ箱を覗く。
そして、たまたまドアから出てきた男に、追いかけられ逃げた。

「待てーーー!!」
「すまない!!」

走る道に、女性が出てきてぶつかりそうになった。巻き込む気はなかった。
抱きかかえて走る。

追いかける男の声や気配がない場所に着き、女性を降ろした。

「申し訳ない……その……」

グゥーーーーー!!

「っ!!」
「お腹、空いてます?」
「いや……」

グゥーーーーー!!

会話が、腹の虫で返事になった。ハロルドは恥をしのぎ、女性に食べ物をう。

「事情があるんですね……一緒に来てください」

躊躇ためらったが、主君の食事のため。彼女の部屋へと付いて行った。
彼女は、藤井歌音ふじいかのんと名乗った。とても心地よい落ち着いた声。黒髪が肩より少し長めで、この国の者たちの特徴であろう、黒い瞳。
彼女の持っていた荷物を代わりに持ち、着いた部屋はこじんまりとしていた。

鼻腔びくうを刺激する、とても良い匂いに誘われ、我慢していた腹の虫が鳴る。
靴を脱いで彼女は部屋へと入った。

「どうぞ、あがってくださあい」
「・・・・・・助かる・・・・・・」

ブーツは脱いで上がる。
玄関を入ってすぐに、小さなテーブルがあった。椅子に腰かけることを促され待つと、温めた少しとろみのある野菜と肉が沢山入ったスープが、ごはんにかけられている。

「食べていいですよ?」
「し、しかし・・・・・・主に・・・・・・」

ハロルドは、腹を空かしているフリードを思い、先に自分が腹いっぱいになるのはと断る。
そこからは、2人の押し問答になり。結局は、歌音が食べ物を2人分。タッパーに入れて、スプーンと紙ナプキンも用意してバッグに入れて渡した。

「良いのか? このような・・・・・・」
「お腹空いているのでしょう? えっと、あるじさん? が」
「どうやって、礼をしたらよいか!!」
「食べた後に、洗って入れ物を返してくださればいいですよ。ハロルドさん」

彼女からかけられた、あたたかい眼差しと見返りを求めようとしない瞳。柔らかな笑顔。
ハロルドは、貰った食事のバッグを大事に抱えて王子のもとへと急いだ。

ーーいた!! いたんだ!! 慈悲の女神は、彼女だ!! ーー

彼の中で、何かが違う方向へと向かっていった。
この国には、この場所には、リヒテン王国で伝説とされている【慈悲の女神】が存在したと。彼女、歌音こそが、その女神だと。

「フリード様!! 女神さまが、慈悲の女神さまが!!」
「はっ? ハロルド?! 女神?」

フリードは、この小さな森の付近を探索し改めて分かったがリヒテン王国すら、その名前すらも存在しない世界なのだろうと。
その世界に、慈悲の女神が存在するわけがない。と。

「女神さまが、我々に・・・・・・あの方は、本当に・・・・・・」
「ハロルド・・・・・・落ち着こう? その抱えている袋は?」
「あぁ、そうです!! これは女神様が授けてくださった食事です!!」

食事を分けてくれた女性=慈悲の女神。この状態は、当分、続くな・・・・・・とフリードはあるじながら頭を抱えた。

「さっ、毒味は済ませております」

容器を開けると、程よいスパイスと果実の甘い匂い。

「カレーライス、というモノです」
「いただこう」

口に一口、運ぶ。野菜が程よい硬さと柔らかさ。肉も柔らかい。

「んっ、うまい!!」

グゥゥゥーーー!!

「お前も、食え」

フリードに促され、もう一つの容器を開けて食べる。カレーライスを食べながら、慈悲の女神=歌音が浮かぶ。彼女に礼を尽くしたい。このような、至福の食事があるとは!! 彼の中では、どんどんと歯車が噛み合わない。
恍惚こうこつな表情を浮かべ、涙しながら、味わって食べている。

「ハロルド・・・・・・うまいのは、俺もわかるけどさ・・・・・・」
「はひ? はんふぇひょう?」
「・・・・・・味わえ・・・・・・」

カレーライスを堪能し、容器を洗ってバッグに入れた。彼女は、洗った容器を返してくれればいいとは言っていたが。このような状況を救ってくれた礼は尽くしたい。

「じゃぁ、ハロルド。その、慈悲の女神さま? の場所にお礼に行こう」
「ハッ!!」
「なに? どうかした?」
「礼、と申しましても・・・・・・我々は、何で返せば・・・・・・」

剣も金もない。着ている服は、剣の練習着。

「あるでしょ? 僕らの、カラダが。」
「ハッ? か、から・・・・・・だ?」
「女性を悦ばすことは、できるだろうし」
「じょ、じょせい・・・・・・よろ・・・・・・」

気が付くと、歌音の部屋に着いていて、玄関扉を叩いていた。

「はーい」と言って、出てきた彼女の笑顔。まさに、ハロルドには女神にしか見えていない。

「君が食事をくれた女性ですね。助かりました。私は、フリード・バル・リヒテン。以後、お見知りおきを」
「えっと、ハロルドさんの主さん?」

横で棒立ちのまま何かブツブツ言っていたかと思った近衛騎士は、「オレが代わりに、オレが、オレがーーー!!」と言い歌音を抱きかかえて奥へと行った。

「うん。春が来て良かったよ」
「誰に、誰の春が来た? ですって?」
「ッ?! あぁ・・・・・・。彼に、春? かなぁ・・・・・・」
「そう」

背筋がゾクリとした。後ろに立たれたのを声がするまで気が付かなかった。ゾクリとした後は、心臓を高鳴らせ始めた。

「俺にも、春、きたなぁ・・・・・・ごめんね、ハロルド」

その女性が奥の部屋へと向かったあと、フリードはひらひらと手を振っている。

奥の部屋からは、声にならない声。恐怖の声を、ハロルドが上げていた。
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