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第五話・わんこ天使との約束
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「う~ん、……シグルド君め、全然来ないじゃないか」
しつこい程に付き纏っていた男の気配が消えて、二ヶ月……。
実はこっそり、君付けで呼んでいる男の名を口にしながら、シャルロットは冒険者ギルドの受け付にある休憩スペースでぶすっと不機嫌顔になっていた。
会えない日々が二人の想いを育てた、……なわけもなく、シャルロットの狙いは、約束したケーキだ。
次に会ったら奢ると言っていたくせに、全然来ない。
「ケーキ~、ケーキ~」
最近、金欠状態が続いており、甘味への禁断症状が酷い。
なんだかイライラする事が多いし、エリィも姿を見せない。
冒険者の依頼に付き添い加勢をしたり、一人でダンジョンに潜ったり、一人でお茶をしたり……。
「さ、寂しくなんかないぞっ。私はぼっちでも強い子だ!」
などと、周囲から生温かい目で見られる光景を繰り広げる事も多くなった。
そんなシャルロットを見かねたのか、テーブルの上に差し出されたのは、美味しそうなプリン!!
シャルロットが顔を上げると、受付嬢のプリシラが優しい笑みを浮かべてこう言ってくれた。
「いつも助かっちゃってるから、サービスよ」
「おお!! ありがとう!! プリシラちゃん!! もぐっ、……んまぁああっ!!」
「ふふ、また依頼があったらよろしくね」
「あぁ、勿論だ!!」
天使、いや、女神の如き慈愛の受付嬢が差し入れてくれたプリンは、シャルロットの頭の中から全ての事を追い出してくれた。勿論、姿を見せないシグルドの事も。
とある場所で、シグルドがシャルロットの事ばかり考えているとは、まったく気付かずに。
「シャルロット嬢、すみませんが……、依頼の手伝いをお願いしたいのですが」
「ん? あぁ、アルバート君か。いいよ、いいよ! なんでも手伝おう」
「ふふ、ありがとうございます」
この町に来て一ヶ月。顔見知りとなった冒険者の青年からの協力要請を受けたシャルロットは、彼と二人だけで洞窟ダンジョンに向かう事になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アルバート君、聞いてもいいだろうか?」
「ん? 何ですか?」
「……何故」
ダンジョンの奥深く、モンスターの屍を築いた山の横で……、壁ドン・イベントが起きているのだろうか?
シャルロットの背にはゴツゴツとした岩肌が当たっており、ぶっちゃけ痛い。
彼女の頭から斜め上にはアルバートの右手が突かれている。あと、彼の顔が物凄く近くにある。
女性受けする綺麗な顔には甘い雰囲気が漂っており、左手の指先でシャルロットの顎を持ち上げていたりするのだが……、もうほんと、何これ?
「一目惚れなんです、シャルロットさん。私と楽しい家庭を築きましょう」
「いやいや。唐突過ぎるし、段階飛ばしまくってるし、とりあえず落ち着いてくれないか?」
「好きなんです」
「気持ちは有難いが、私にそういう気はない。他を当たってくれ」
「ふふ、大丈夫です。既成事実を作れば好きになってくれますよ」
「お綺麗な顔して怖いな!! 君は!!」
こういう状況が初めて、とは言わないが……、あぁ、面倒だ。
相手は人間で、手加減して扱わなくてはならない存在なのだ。
ここはひとつ、いつもの眠りの術で落とすか。
一人恋愛モードのアルバートの顔を押し返しながら、シャルロットは術を使おうとした、が。
「シャ~ル、ロォ~ットぉ~!」
ん? 何だ? この鼻歌でも奏でていそうな上機嫌の声は。
アルバートの陰から顔を覗かせたシャルロットは、見てしまった。
ほ、本当に……、スキップと嬉しそうな笑顔で近づいてくる……、某わんこの姿を。
しかも、その表情がはっきりしてくるにつれ、だんだんと……、凶悪な程に歪んで……。
「――殺す」
「ちょおおおおおおおおっ!! や、やめるんだ!! シグルド君!! これは、これはっ、誤解だ!!」
……って、何故必死に言い訳をしているんだ、自分はっ。
いやいや、人間のアルバートが天界の猛者に瞬殺されない為だ!!
シャルロットの健気なフォローもむなしく、何故かここに来てしまったシグルドに顔を振り向かせたアルバートが、挑戦的に微笑む。なんという自殺行為!!
「邪魔しないで頂けませんか? 今、私はシャルロットさんに結婚を申し込んでいるんです」
「いつそんな話になった!? 告白すっ飛ばして何爽やかにっ」
「よし、八つ裂き決定だ」
「シグルドくぅうううううん!! 君も思い切りがいいにも程があるぞ!! 駄目っ、駄目だからなっ!!」
だが、シグルドの目は本気で殺る気満々の恐ろしさに満ちていた。
その姿を見てみれば、いつも着ている上腕部剥き出しの黒服ではなく、……血塗れの軍服っぽい何かを纏っているようで、抜身の剣身にも赤がびっしり。
間違いない。どこかで大量殺戮をやって来た帰りだ!!
ついでに、その興奮の延長で箍が外れやすくなっている!!
「アルバート君逃げろ!! ……って、退路にシグルド君がいるから無理だぁああああっ!!」
「大丈夫です。私も上級ランクの冒険者ですからね。決闘、謹んでお受けいたします」
「いやいやいや!! 決闘違う!! 一方的な殺戮決定打から!! ああもうっ!!」
シャルロットはアルバートの隙を潜り抜けてシグルドに駆け寄ると、その体躯にがばりと飛びついた。
「遊びに行こう!! シグルド君!! 夕方まで付き合ってやるから、ほらっ、洞窟の外にGO!! GO!!」
「……遊び、に?」
「そうだ!! じゃあな!! アルバート君!! 命を大事してくれ!!」
「あっ、シャルロットさん!!」
「さらばだああああああああああっ!!」
シャルロットからの提案でみるみる家に表情を和らげたシグルドが彼女を抱え、一度だけアルバードを睨み付けてから走り出す。
心残りはあるが、シャルロットとの時間を約束された事の喜びが勝っているらしい。
マッハで洞窟を抜けてゆく彼にしがみつき、シャルロットはやれやれと息を吐いた。
無意味な殺人事件を起こさずに済んで良かった~。
だが、面倒なのはこれからだった……。
しつこい程に付き纏っていた男の気配が消えて、二ヶ月……。
実はこっそり、君付けで呼んでいる男の名を口にしながら、シャルロットは冒険者ギルドの受け付にある休憩スペースでぶすっと不機嫌顔になっていた。
会えない日々が二人の想いを育てた、……なわけもなく、シャルロットの狙いは、約束したケーキだ。
次に会ったら奢ると言っていたくせに、全然来ない。
「ケーキ~、ケーキ~」
最近、金欠状態が続いており、甘味への禁断症状が酷い。
なんだかイライラする事が多いし、エリィも姿を見せない。
冒険者の依頼に付き添い加勢をしたり、一人でダンジョンに潜ったり、一人でお茶をしたり……。
「さ、寂しくなんかないぞっ。私はぼっちでも強い子だ!」
などと、周囲から生温かい目で見られる光景を繰り広げる事も多くなった。
そんなシャルロットを見かねたのか、テーブルの上に差し出されたのは、美味しそうなプリン!!
シャルロットが顔を上げると、受付嬢のプリシラが優しい笑みを浮かべてこう言ってくれた。
「いつも助かっちゃってるから、サービスよ」
「おお!! ありがとう!! プリシラちゃん!! もぐっ、……んまぁああっ!!」
「ふふ、また依頼があったらよろしくね」
「あぁ、勿論だ!!」
天使、いや、女神の如き慈愛の受付嬢が差し入れてくれたプリンは、シャルロットの頭の中から全ての事を追い出してくれた。勿論、姿を見せないシグルドの事も。
とある場所で、シグルドがシャルロットの事ばかり考えているとは、まったく気付かずに。
「シャルロット嬢、すみませんが……、依頼の手伝いをお願いしたいのですが」
「ん? あぁ、アルバート君か。いいよ、いいよ! なんでも手伝おう」
「ふふ、ありがとうございます」
この町に来て一ヶ月。顔見知りとなった冒険者の青年からの協力要請を受けたシャルロットは、彼と二人だけで洞窟ダンジョンに向かう事になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アルバート君、聞いてもいいだろうか?」
「ん? 何ですか?」
「……何故」
ダンジョンの奥深く、モンスターの屍を築いた山の横で……、壁ドン・イベントが起きているのだろうか?
シャルロットの背にはゴツゴツとした岩肌が当たっており、ぶっちゃけ痛い。
彼女の頭から斜め上にはアルバートの右手が突かれている。あと、彼の顔が物凄く近くにある。
女性受けする綺麗な顔には甘い雰囲気が漂っており、左手の指先でシャルロットの顎を持ち上げていたりするのだが……、もうほんと、何これ?
「一目惚れなんです、シャルロットさん。私と楽しい家庭を築きましょう」
「いやいや。唐突過ぎるし、段階飛ばしまくってるし、とりあえず落ち着いてくれないか?」
「好きなんです」
「気持ちは有難いが、私にそういう気はない。他を当たってくれ」
「ふふ、大丈夫です。既成事実を作れば好きになってくれますよ」
「お綺麗な顔して怖いな!! 君は!!」
こういう状況が初めて、とは言わないが……、あぁ、面倒だ。
相手は人間で、手加減して扱わなくてはならない存在なのだ。
ここはひとつ、いつもの眠りの術で落とすか。
一人恋愛モードのアルバートの顔を押し返しながら、シャルロットは術を使おうとした、が。
「シャ~ル、ロォ~ットぉ~!」
ん? 何だ? この鼻歌でも奏でていそうな上機嫌の声は。
アルバートの陰から顔を覗かせたシャルロットは、見てしまった。
ほ、本当に……、スキップと嬉しそうな笑顔で近づいてくる……、某わんこの姿を。
しかも、その表情がはっきりしてくるにつれ、だんだんと……、凶悪な程に歪んで……。
「――殺す」
「ちょおおおおおおおおっ!! や、やめるんだ!! シグルド君!! これは、これはっ、誤解だ!!」
……って、何故必死に言い訳をしているんだ、自分はっ。
いやいや、人間のアルバートが天界の猛者に瞬殺されない為だ!!
シャルロットの健気なフォローもむなしく、何故かここに来てしまったシグルドに顔を振り向かせたアルバートが、挑戦的に微笑む。なんという自殺行為!!
「邪魔しないで頂けませんか? 今、私はシャルロットさんに結婚を申し込んでいるんです」
「いつそんな話になった!? 告白すっ飛ばして何爽やかにっ」
「よし、八つ裂き決定だ」
「シグルドくぅうううううん!! 君も思い切りがいいにも程があるぞ!! 駄目っ、駄目だからなっ!!」
だが、シグルドの目は本気で殺る気満々の恐ろしさに満ちていた。
その姿を見てみれば、いつも着ている上腕部剥き出しの黒服ではなく、……血塗れの軍服っぽい何かを纏っているようで、抜身の剣身にも赤がびっしり。
間違いない。どこかで大量殺戮をやって来た帰りだ!!
ついでに、その興奮の延長で箍が外れやすくなっている!!
「アルバート君逃げろ!! ……って、退路にシグルド君がいるから無理だぁああああっ!!」
「大丈夫です。私も上級ランクの冒険者ですからね。決闘、謹んでお受けいたします」
「いやいやいや!! 決闘違う!! 一方的な殺戮決定打から!! ああもうっ!!」
シャルロットはアルバートの隙を潜り抜けてシグルドに駆け寄ると、その体躯にがばりと飛びついた。
「遊びに行こう!! シグルド君!! 夕方まで付き合ってやるから、ほらっ、洞窟の外にGO!! GO!!」
「……遊び、に?」
「そうだ!! じゃあな!! アルバート君!! 命を大事してくれ!!」
「あっ、シャルロットさん!!」
「さらばだああああああああああっ!!」
シャルロットからの提案でみるみる家に表情を和らげたシグルドが彼女を抱え、一度だけアルバードを睨み付けてから走り出す。
心残りはあるが、シャルロットとの時間を約束された事の喜びが勝っているらしい。
マッハで洞窟を抜けてゆく彼にしがみつき、シャルロットはやれやれと息を吐いた。
無意味な殺人事件を起こさずに済んで良かった~。
だが、面倒なのはこれからだった……。
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