無垢なる密蕾は、愛しき腕にて咲き誇らん

古都助(幸織)

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~サージェスティン・フェイシア編~

魔竜の騎士は狼王の姫に翻弄される7~サージェスティン×幸希~

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 ――Side サージェスティン

「はぁ、……はぁ、はぁ、……痛っ」

 単純に対象を仕留める、ってだけの話だったら……、まだ、苦労は少なかったんだろうな。
 剣の先を抉れた地面へと突き立て、その柄に掴まって膝を着いた俺は、苦痛の声と共に自嘲の笑みを零す。囚われている術者達を守る為に発動させている結界の力と、禁呪に放ち続けた力……。
 
『グググ……ッ!! コロ、ス……、コロ、ス!! サージェス、ティン……!!』

「もう、……いい加減に、黙って、くれない、かな……。ぐっ、……そんなに、俺を憎んで、楽しい、のか、アンタは」

 互いに満身創痍……。まぁ、ルイちゃん十人前を相手にするよりは楽だった……、とは、あまり言えない、か。
魔術によって創られた槍を背中に受けて倒れ込んでいる禁呪は、生かさず殺さずの制約もあったせいか、それなりに手古摺る存在だった。

「はぁ、はぁ……。さて、どうする、かな」

 牢獄に囚われている術者達は皆(みな)、気を失って意識はない様子だ。
 あれだけの強さを有した禁呪の苗床となっていたんだ……、もう、とっくに限界なんか超えている。……この、俺達がいる空間も。
 救い処があったとすれば、前当主が転移の陣という脱出法を封じた事で、空間を破壊する速度を緩めている事くらいか。
 恐らく、逃げ場のない状況で俺が極限まで追い詰められ怯える様を見たかったんだろうが……、お生憎様だ。

「ユキちゃんやルイちゃんに任せっぱなしじゃ、……格好悪いからね」

 外側からの助けを待つだけの身でいる気はない。
 姿を人のものから巨大な魔竜の性(さが)へと変じさせ、前当主の力……、いや、これも他の魔術師達にやらせているんだろう。それに向かって体当たりでぶつかっていく。
 慎重に向こう側の力に対する暇はない。どこか一部でもいい……、アイツらが放っている術に綻びが出来れば、それを全力で押し開いて外との道を作る。
 俺だけじゃなく、あの疲弊しきった術者達も連れて行く。
 俺が前当主を早い内に消しておけば、彼らもこんな目には遭わなかった……。
 その償い、というほど大それたものでもないけど、出来る事なら……、彼らも救い出してやりたい。

『サージェス、……サージェス、ティン!! マ、テ……、マテェエエエッ!!』

 だから、お前の相手をしてる暇はないんだよ……!!
 タイムリミットまでにこの空間に助けが来るか、俺が術者達を連れて外に脱出するか、生き残るの可能性はその二つのどちらかだ。
 これ以上禁呪の相手をしていたら、せっかく残っている希望がひとつ、消えてしまう。
 
『コロス、コロス……!! ゼッタイニ、キサマノカラダモ、イノチモ、タマシイモ、スベテ!!』

『うるさい……、うるさいうるさいうるさい!! いつまでも未練たらしく俺に喰らい付いてくるなぁあああっ!!』

 槍の拘束から無理矢理に逃れた禁呪が、夥しい量の紅を垂れ流しながら竜体である俺に向かって跳躍し、その気色の悪い大口を開けて凶爪を突き立ててきた。
 背中にしがみついたその大きな体躯の化け物に噛み付かれ、苦痛を表す声が空間に大きく響き渡る。――これは、あのクソジジィの妄執。俺と、俺の母親、父親への、恨みの念。
 だが、こんな化け物を生み出すほど……、俺達は罪深い事をアンタにしたのか?
 ただ、他種族の相手を好きになっただけ。唯一の存在と愛し合い、子を授かった……、ただ、それだけの事。それなのに……、どうしてこんなにもおぞましい執念で憎む事が出来る?
 自分の娘だったんだろう? 生まれた時から傍にいて、その成長を見守っていたんだろう?

『あの人はね……、家族を愛しすぎてるの。だから……、裏切られると、辛くて辛くて……、愛していた分だけ、それが憎しみに変わってしまうの。可哀想な人よね』

 禁呪を振り払いながら、俺の頭の中に甦ったある人の言葉。
 愛しているから……、愛しすぎてしまったから、離れていく家族が許せない。
 俺と酒を飲みながら苦笑気味に語って聞かせてくれたその人は、……かつて、血筋に拘る実の父親を捨て、愛する男と逃げた過去を持つ。
 そして、産んだ子供を守る為、フェイシア孤児院と呼ばれる施設に……、俺を預けた、実母。
 あの人と顔を合わせる事になったのは、エリュセードの表側に仕事で出かけた、ほんの数年前の事だ。何も言わなくても、互いに確かめ合う事をしなくても、会った瞬間に悟った。
 けれど、俺とあの人は再会の抱擁をするでもなく、ただ、偶然出会っただけの縁の許に、二人で酒を飲んだだけ。その時に聞いた、あの人の昔話。
 最後にあの人は言っていた。――ディヴェラーデ家の前当主は、愛故に壊れた哀れな人だと。
 だから、

『貴方の、いえ……、貴方達の邪魔になるその時が来たら』

 その時は、俺に全ての決断を任せる。そう、寂しげに言っていたあの人は……、それ以降、一度も会っていない。

『息子に全部押し付けるなんて……、最低の母親だよ。だけど……、きっとあの人に、アンタは殺せない。俺とは違って、アンタとあの人は、確かに親子として共に在ったのだから』

 ディヴェラーデ前当主を殺すも、生かすも、俺の自由。
 なら……、母さん、俺は。

『外に出たら……、俺は、アンタを殺すよ。それが、アンタを長年の苦しみから解き放つ、唯一の方法だから』

『グググググッ!! オノレ、ッ、オノレッ、キサマナド、キサマ、ナド……!!』

 そうすれば、もう苦しむ事もないだろう?
 たとえ他者を利用していたとしても、前当主は堕ちるところまで堕ちた。
 ユキちゃんに禁呪を使った事が明るみに出れば、どの道ディヴェラーデ家は終わりだ。
 なら、アンタが心底憎み続けてきた俺の手で、全てを終わらせよう。
 陛下じゃなく、アンタを裏切った最愛の娘の代わりに……。
 地面へと向かって叩き落した禁呪を一瞥し、再び外からの力に抵抗を始める。
 絶対に出る、絶対に……、俺は、彼女の許に帰る。
 全力を使い果たしても、死ななければいい。命さえ繋がっていれば、何日寝台に沈む事になっても構わない。
 咆哮と共に外部からの力に抗い続け、ようやく空間の一部に穴が開いた。
 よし……、これを頼りに穴を広げ、外とこの空間を繋ぐ。
 周囲の景色がどんどん闇に飲まれていく中、焦る思いを抑え込んで作業に集中する。
 
『大丈夫……、大丈夫、だから』

 それは、遠く離れた場所にいるユキちゃんに、というよりも、二度と彼女に会えないかもしれない自分自身の奥に潜んでいる不安を抑え込む為の言葉だった。
 
『帰る……、絶対に!!』

 そう自分自身を叱咤し、残っている魔力全てを使って牢獄の術者達を自分の周囲に集め、外への道を引き寄せていく。
 外からの圧力は……、さっきよりも少しだけ弱まったような気がするけど、まだ油断は出来ない。
 
『……よしっ、これで何とか』

 外へと向かって繋げた光の道。それに向かって術者達を一人ずつ送り出す。
 安全な場所……、ガデルフォーン皇宮の中庭の辺りに繋がるよう道を作ったから、間違ってもディヴェラーデの関係者に捕らえられる可能性は低いだろう。
 まぁ、陛下やシュディエーラ達に連行される可能性は絶対だけど。

『はぁ、はぁ……、これで、最後』

「うぅ……」

『大丈夫だよ。もうすぐ……、保護、して貰えるからね』

 これで、最後……。どうか、妨害を受けずに、外の世界へ。
 術者全員を送り出せた事で安堵した俺は、人の姿に戻った。
 後は……、あの禁呪を檻に入れて、一緒に、外へ……。

「……痛っ、はぁ、……はぁ、早く、しない、と」

 目の前が、頼りなく……、霞む。
 空間への侵食は進み、視線を下に向ければ……、もう、牢獄のあった場所は闇に塗り潰されてしまっていた。禁呪は……、あの、化け物は、どこに。

「あと、少し……、もうすぐ、……ユキちゃん、に、……会え」

 この光の向こうに辿り着ければ、もう一度愛する人の笑顔に出会う事が出来る。
 大好きな君の、……温もり、を、感じ、られ、る。

『――マザリモノ』

「――ッ!!」

 薄れゆく意識の中で彼女の笑顔に手を伸ばし、飛び込もうとした……、その時だった。
 肉を抉り貫かれる嫌な感触と……、すぐ耳元で聞こえた、執念の塊が発する憎悪の声。
 
「う、ぐぅっ……」

 光に反射して妖しく煌く、血塗られた剣身……。
 堪え切れずに咳が漏れ、口の端から新しい紅が溢れ出す。
 あぁ……、せっかく作った、彼女の許に通じている道が……、小さく、小さく、消えていく。

「ユ、キ……」

 このまま、……もう、あの子に会えない、のかな。
 背後から俺を刺し貫いたその剣身を禁呪が容赦なく抉りつけてから引き抜き、腹の立つ嘲笑を浮かべた気がした。そして、そのまま俺の身体を闇に飲まれゆく真下に向かって引き摺り落そうと重みをかけ、一気に叩き落とさ――

「れて堪る、かぁああっ!!」

『ナッ、――グァアアアアッ!!』

 最後の力を振り絞って禁呪の吐き気を催すようなその体躯、恐らくそこが首の部分だったのだろう。その場所を何の手加減もなく鷲掴み肉を抉り込んだ俺は、勢いのままに禁呪のそれを捻り潰して首を落としてやった。

「はぁ、……ぐぅっ、……俺の、邪魔を、……うっ!!」

 残った首から下、両腕らしきグロテスクな肉塊が剣を闇に投げ捨て、俺の首を掴んで報復に転じようとしてくる。――しかし。
 消えかけている光の道が突然渦を巻いたかと思うと強烈な閃光を放ち、外の世界から……、何か風を裂くような凄まじい勢いを伴って飛び込んできた。
 眩しすぎる光に目が眩みよろけた禁呪の胴体を、槍が狙いを定めていたように貫く。
 真下に広がる闇の奥深くから……、僅かに遅れて響き渡った絶叫。
 それが落ちていった禁呪の首からだと気付くが、俺の意識は光の道へと向いていた。

「ふむ……。我が国の騎士団長も、この程度で後(おく)れをとるとは、不甲斐ない事だな」

「へ、陛下……?」

 肩より少し上の位置で切り揃えられた薄紫の髪。
 愛らしい幼い少女の外見には不似合いな、波紋を抱く事のない静かな面差し。
 ――ガデルフォーン皇国、女帝陛下、ディアーネス。
 突然現れた自分の主の姿に目を丸くした俺は、保っていた力が抜けるのを感じながら危うく下に落ちそうになってしまった。あぁ、不味いね……、俺、落ちちゃう。
しかし、寸でのところで俺の腕を掴んで助けてくれる存在があった。

「ルイちゃん……?」

「ここまで頑張っておいて、禁呪と心中か?」

 ウォルヴァンシアの王宮医師で、今はユキちゃんの傍にいるはずのルイちゃんが微かな笑みの気配と共に俺の体内へと魔力を注ぎ込んでくれる気配がした。
 確かに、ユキちゃんを介して助けを求めたけれど、まさかこんなに早く来てくれるなんて……。
 それに、何で陛下がいるんだろうね……。いや、本気で間一髪助かったけど。
 今回の事は一切陛下に話を通してなかったし、えぇと……。

「へ、陛下……、何でここに?」

「禁呪を回収する。お前はルイヴェルに従って外に出よ」

「あれー……、俺の質問、スルー? 痛たたっ」

「ディヴェラーデの前当主、そして、今回の件に関わった者達の許へは騎士達を派遣してある。行くぞ」

 流石に背後から串刺しにされた部分が痛むと顔を顰めた俺を、ルイちゃんが問答無用で光の道へと飛び込んで連行していく。
 もしかして……、俺がフェリデロード家の屋敷を出た段階で、ルイちゃん達、動いてた、のかな?
 そうでなければ、陛下がここにいるはずもないし、ルイちゃんだってこんなに早く駆けつけてくれるはずがない。
 
「――って、ちょっ、痛っ、痛いっ!! ルイちゃん、肩に担ぐのやめて!! 本気で痛いからぁああっ!!」

「黙っていろ。……外で、ユキが待っている」

「え」

 自分の身体に戻ったはずの彼女が、外に……、いる?
 禁呪によって身動きを取れなくされている身体を動かせるはずがないし、じゃあ、まだ精神体で……。そう呟いた俺に、ルイちゃんが呆れまじりの溜息を零して言った。

「ユキには……、『もうひとつの肉体』があるだろう?」

「それって……、まさか」

 行き着いた答えを口にする前に光の道が終わると、俺とルイちゃんはガデルフォーン皇宮内の庭へと降り立った。禁呪の行使によって疲弊した術者達の治療に当たっている魔術師団の子達や、騎士団の皆。――そして。

「サージェスさん!!」

「ユキ……、ちゃん?」

 整えられた芝生に下された俺は、自分の傍に駆け寄って来て膝を着いた女の子の姿にきょとんと首を傾げた。……生身の身体、みたいだけど、やっぱりこれは。

「ユキちゃん、……『神の肉体』に、戻ったの?」

「はいっ。だって、あの時の私は身体に戻っても上手く喋る事が出来ませんし、精神体でも他の人に見えなかった場合を考えたら、この身体を使った方が確実だと思って!!」

 蒼く長いふわふわとした髪も、その顔も、俺の知ってるユキちゃんと同じ。
 だけど、今の彼女は同じであって、同じじゃない。
 地上の民とは違う、天上の神々が纏う少し古風な衣装と、本当なら優しいブラウンの色をしているはずのその双眸が、陛下とはまた違った意味で綺麗なアメジストの色彩を抱いている。
 ウォルヴァンシア王国の王兄姫殿下であり、この世界と別の世界の血を受け継ぐ少女。
 だけど本当は、このエリュセードにおける天上の神々の一人である存在が転生した姿、それが、ウォルヴァンシアのユキちゃんだ。神の器と、人の器。なるほどね……、この手があったか。
 ちょっと脱力気味に笑って見せた後、俺は抱き着いて来ようとするユキちゃんを制した。

「だーめ……。今俺に抱き着いたら……、ユキちゃんが、汚れちゃうよ」

「構いませんっ!! 貴方に何かあったら、本当にどうしたらいいのかって、今の今まで、私はっ」

「うわっ」

 血だらけの、しかも背中の中心をグサッとやられちゃってる俺に構わず、ユキちゃんはしがみついてきた。あぁ……、せっかくの神様バージョンの服が、真っ赤っかになっちゃうよ。
 でも……、あぁ、……何か、泣きたくなるぐらいに、あったかいなぁ。
 駄目だってわかってるのに、俺も彼女の温もりを両腕に抱き締め返してしまう。

「お帰り、なさい……っ。サージェスさんっ」

「……うん、ただいま」

 あんなにも面倒だと感じていた痛みが、徐々に薄れていくのを感じる。
 苦しかった呼吸が楽になり、気が付けば……、俺の身体に嫌な風穴を開けていた傷口が塞がっていた。きっとユキちゃんが神様の力で治してくれたんだろう。
 彼女の首筋に顔を埋め、その甘い花の香りに笑みを浮かべる。
 ずっと、ずっと……、この温もりを求めていた。
 
「本当に……、間に合って、良かったっ」

「ユキちゃん……」

 彼女からの治療を受けながら話を聞いてみれば、ユキちゃんはウォルヴァンシアには帰らず、まず先に天上の肉体に戻ってガデルフォーン皇国に向かい、陛下に話を通したのだそうだ。
 そして、俺の動向を気にしていたルイちゃんが丁度良くウチの陛下の許を訪れていて、話を聞いてすぐに騎士団や魔術師団の子達がディヴェラーデ侯爵領に向かい、今頃は一網打尽になっている、と。残った陛下とルイちゃんはユキちゃんが繋げてくれた道から俺と術者達のいた空間に駆け付け、本当に間一髪のところで事なきを得た、と。
 うん……、本当に、本当に、危機一髪!! だったんだなぁ。

「ユキちゃん」

「はい? ――んぅうううっ!?」

 ごめんね、ユキちゃん。俺、もう一度君と会えた事が嬉しすぎて、我慢できなかったよ。
 というか、神様バージョンのユキちゃんとは滅多に触れ合えないし、機会がある時に愛でておかなきゃ勿体ない。という事で、俺は遠慮なくユキちゃんの唇を奪ってキスに夢中になった。
 騎士団や魔術師団、ルイちゃんや宰相のシュディエーラ達もいるし、グサグサと咎める視線が突き刺さってくるけど、気にしなーい。だって、無事に生還出来たんだからね……。
 けれど、調子に乗った俺がユキちゃんの可愛い声に興奮していると、頭上に鉄拳……、じゃなくて、容赦のない踵落としが見事に決まった。

「痛ぃぃっ、ルイちゃーん、酷いよぉ」

「場と、状況を弁えろ……。ユキ、その変態から離れろ。今すぐに」

「え? あ、あぁ、は、はいっ」

「いや、はいじゃないでしょ!! ユキちゃん!! 俺変態じゃないよ!! ユキちゃん大好きなだけの、溺愛系なのは認めるけど!!」

 ルイちゃんの言葉に従って俺から離れてしまった愛しい温もり。
 両手が、ユキちゃんを抱き締めたい、キスしたい、イチャつきたいって叫んでるよー!
 でも、ユキちゃんはルイちゃんの背に庇われちゃって、こっそりと窺う様に俺を見ている。
 あぁ、寂しい……。空気を読んでいるのかいないのか、庭に吹いた冷たい風が、俺の心情を表しているかのようだった。

「サージェスよ……、お前という男は懲りぬ奴だな」

「あ、陛下、お帰りー。ごめんね、面倒事押し付けちゃって」

「構わぬ。お前は我が国の民であり、大事な臣下だ。……だが、此度の件は、我にも責任がある。サージェス相手にだけなら目こぼしもしてやったところだが、あ奴は……、ディヴェラーデ前侯爵は、我の気に入りの娘に手を出した。その詫びはさせて貰うつもりだ」

「陛下ー……、それって、俺だけがターゲットなら放置って事じゃないのかなぁ? 今までみたいに」

「さぁ、どうであろうな……。それよりもサージェス、今宵はゆっくりと休むが良い。ディヴェラーデ前侯爵の事は、我が国の長として然るべき沙汰を下そう」

「陛下、その事なんだけど……。前当主の事は、俺に任せて貰えないかな?」

 皇宮内にある牢獄に入れられれば、後は一応の体裁で尋問や弁明の機会を設ける事になるけれど、俺はあまり、あの男に時間を与えたくはない。
 牢獄の中でまた悪足掻きをする可能性や、どこかに取り逃がされているかもしれない手駒の可能性も考えれば、早い内に片を着けるのが最善だ。
 決意の気配を纏う俺に、陛下は瞼を閉じて何かを逡巡した後に言った。

「ならぬ。……言ったであろう? これは、我の責任でもある。ディヴェラーデ侯爵家は、我が皇家にとっては縁深き家柄。だが、それを切り捨てる覚悟を抱く以上、お前だけには任せてはおけん」

「じゃあ、俺には何もしないで見てるだけでいろって言うの……?」

 俯いて小さく尋ねた俺に、陛下が返してくれた答えは一言だけだった。

「今宵はもう、休め」
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