自殺しようとしているクラスメートを止めたら、「じゃあ私を抱けるんですか?」と迫られた

桜 偉村

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第18話 悪あがき

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「おいっ、田中たなか矢部やべ、他のやつらも! こんな陰キャに大きな顔させたままでいいのかっ、お前らからも何か言え!」

 光一こういちはあちこちから援護射撃が放たれるものだと思っていた。
 しかし、彼自身の怒鳴り声が虚しく響き渡っただけだった。

(はっ? な、なんで誰も何も言わねえんだよ⁉︎ 一条いちじょうなんぞにビビってんのか腰抜けどもがっ!)

「お、おいお前らっ、何か言えって!」

 光一が重ねて吠えると、矢部がやれやれと言わんばかりのため息を吐いて前に進み出た。

「おっ、矢部。やっぱりお前は——」
「光一、もう見苦しいことはやめろよ」
「……はっ?」

 光一は頬を引きつらせ、半笑いになった。

「矢部。お前、何言ってんだ?」
「そのままだよ。一条に完敗したくせにずっとみっともなく食い下がってさ。素直に負けを認めて謝れよ。彼氏持ちの女口説いただけじゃなくて手まで出すとか普通に最低だかんな。お前よりも一条のほうがよっぽど漢らしいわ」
「なっ、なっ……! 俺よりも一条のほうが漢らしいだと⁉︎ ふざけるなっ、こんな冴えない陰キャに俺が劣ってるわけがないだろう!」

 光一は必死に喚いた。
 この期に及んで、彼はまだ自分のほうが顔や身体能力のスペックが高いという事実にすがりついていた。

「第一、一条は偉そうに言いながらもかえでの心が弱ってたところにつけ込んだだけの詐欺師だろう⁉︎ 楓は騙されて——」

 ——バチン!
 光一の言葉をさえぎるように、乾いた音が響き渡った。
 いつの間にか悠真ゆうまの元を離れていた楓が、光一の頬に平手を喰らわせたのだ。

 光一も悠真も矢部も、その場にいる全員が呆気に取られた。
 静寂の中に、楓の叫び声がこだました。

「ふざけないでください!」

 光一を睨みつける楓の瞳には、怒りと涙が浮かんでいた。

「悠真君はそんな人じゃないし、私は騙されてなんかいません!」
「ち、違う! 俺ではなく一条を選ぶ時点で——」
「もうやめろよ」

 矢部は呆れたように光一の肩を叩いた。

「な、なんだと⁉︎ お前まで俺がこの根暗より劣ると言うのか⁉︎」
「だから、まずその見方が間違ってたんだよ。俺らは社交性が低いっていう一面だけで一条のことを陰キャだの根暗だの見下してたけど、さっきのお前にメンチ切ったの見てればすげえやつだってのはわかっただろ。お前だって何一つ反論できてなかったじゃねえか」
「なっ……! ちょ、調子に乗るな!」

 光一はわなわなと拳を震わせ、矢部に殴りかかった。

 反論ではなく拳を振り上げたことが、彼自身も内心では矢部の言うことが正しいと感じている証拠だった。
 しかし、それを認められるほど彼の器は大きくなかった。

「くそがっ、俺が一条なんかより劣ってるわけがないんだ!」

 光一はこれまでたくさんの友人と繋がっていると自負し、それをアイデンティティとしてきた。
 社交性の低い悠真に敗北するということは、自身の存在価値の否定に等しいように感じられていた。

 しかし、彼を取り巻く絆は決して強固なものではなかった。
 光一はたしかに多くの者たちと繋がっていたが、そのすべてが希薄なものだった。
 彼はさまざまなグループに所属しているように見せて、どこでも中心人物になることができていなかった。

 その証拠に、遊びの人数が揃っているときに光一を呼ぼうとする者はいなかった。
 周囲の者たちにとって、光一はただの人数合わせにすぎなかったのだ。

 それはそうだろう。
 常にマウントを取ろうとし、友達がたくさんいることをアピールしてくる者と積極的に遊びたがる人間などいない。

 そんな煙たい存在だった光一と、毅然きぜんとした態度で彼女を守った悠真。
 感情的にも打算的にも、どちらに多くの味方がつくのかは明白だった。

 光一は矢部や他の者たちによって一瞬にして取り押さえられた。
 援護しようとする者は、誰一人としていなかった。



◇   ◇   ◇



「悪かったな、一条、速水はやみ

 騒ぎを聞きつけてやってきた先生に事情を話して証拠動画を提出した後、矢部とその周囲の人間が俺と楓に頭を下げてきた。

「一条のことはよく知ろうともせずに下に見てたし、多分それで速水も嫌な思いをしてたと思う」
「俺は別にいいよ。宮村みやむらの言う通りスペックが低いのはそうだし、詰め寄られてるのが楓じゃなかったらビビって我関せずを貫いてたかも知れねえしな」
「いや、いくら彼女を守るためとはいえ、お前の立場で光一に突っ込んでいけるのはすげえよ。よく知らねえやつらからすれば、あいつってどのグループともつながってる陽キャに見えてただろ?」
「そうだな。実際にはなかなか煙たがられていたみてえだけど」
「当然のような顔してそこにいられたら、さすがにハブるわけにもいかねえからな」

 矢部が苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

「まあでも、あいつ元々は小心者だからな。退学とかにはならなくてもお前らに絡んでくることはなくなるだろうけど、何かあったら言えよ。これまで下に見ちゃってた分くらいは返すからよ」
「おう、サンキュー」
「速水も、悪かったな」
「いえ、私は直接は何もされてませんし……」

 矢部たちのグループはクラスも違ったし、楓のいじめの件にはそもそも関わっていなかった。

「悠真君がいいと言うなら私から言うことはありません」
「おぉ、マジで相思相愛なんだなお前ら」
「っ~!」

 楓の頬がポッと赤に染まった。
 口元が緩んでしまっているのがもう愛おしすぎて、俺は思わず楓の頭を撫でていた。
 彼女は一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、再びその頬をみるみる赤く染め上げた。

「ゆ、悠真君っ、みなさんの前で……!」
「あっ、わ、悪い!」

 俺の頬にも一気に熱が集まった。

「お前らみたいなのをバカップルって言うんだろうな」

 矢部たちに呆れを含んだ生暖かい視線を向けられた。
 居た堪れなくなった俺と楓は、逃げるようにその場を去った。
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