「あんたみたいな雑魚が彼氏で恥ずかしい」と振られましたが、才色兼備な彼女ができて魔法師としても覚醒したので生活は順調です〜ヨリ?戻せないよ〜

桜 偉村

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第一章

第7話 寄生? いいえ、私が付き合わせているんです

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 ——翌日の朝。

「はあー……どうしましょう……」

 鏡の前で、お姉ちゃんは盛大なため息を吐いていた。
 エリアはその肩を叩いた。

「大丈夫だって。すぐに元通りになれるよ。私も手伝うから」

 昨日の昼休み以降、ほとんどノアと口を聞いていないらしい。
 お互いに恥ずかしがってうまく話せなかったようだ。

 自己嫌悪におちいっているわけではないようなので良かったが、朝からこう何度もため息を吐かれると、そろそろうるさいと思ってしまう。

「じゃ、私は先に車乗ってるから、早くセットしてきてよ」
「はーい……」

 家の前に停めてある黒い車の後部座席に乗り込む。
 運転席に座っているのは使用人のイーサン。
 いつも口元に穏やかな笑みをたたえているイケおじだ。

「今日もよろしく、イーサン」
「はい、よろしくお願いいたします。最近はエリア様の方がお早いことが多いですね」
「やっとオシャレに気を遣うようになったからね、お姉ちゃんも」

 ノアとの関わりが深くなってからだ。
 最近意識し始めたというよりは、フリーになったから遠慮なくアピールするようになったのだとエリアは思っている。
 好意がなければ、あのお姉ちゃんが他人と二人きりになどなろうとするはずがない。

「シャーロット様の意中の方は、エリア様からご覧になっていかがですか?」
「あっ、イーサンも気づいてたんだ」
「もちろんでございます。お嬢様方のお年頃で急にオシャレを始めるなど、意中の方へのアピール以外あり得ませんから」
「それもそっか」
「それで、どうなのでしょう?」

 イーサンが再び尋ねてくる。
 好奇心からの問いでないことは、彼の表情を見ればわかった。

 口元は引き締まり、視線は鋭い。
 心配しているのだ。お姉ちゃんのことを。

「うーん、まだ出会ったばっかだからわかんないけど、多分誠実で真っ直ぐな人だと思う。少なくとも、お姉ちゃんがあそこまで気を許している人は、私たち以外では初めて見た」
「左様ですか」

 イーサンが安心したように微笑んだ。

「その出会いが、シャーロット様が一歩踏み出されるきっかけになれば良いのですが」
「そうだね」

 ノアならなれるかもしれないな。
 ふと、エリアはそう思った。



◇   ◇   ◇



 四時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

「っはあー……」

 僕は長い息を吐き、机に突っ伏した。

「まともに喋れなかった……」

 朝からここまで——正確には昨日の昼休み以降からここまで——僕と会長の会話はずっとぎこちない。
 原因は明白。
 昨日の昼休み、僕が彼女の胸で号泣してしまったからだ。

 昨日の今日でそのことを意識するなというのは不可能だし、胸の柔らかさや女の子特有の甘い匂いもしっかり覚えてしまっている。
 そんな状態で、まともに会話ができるはずもなかった。

 会長からのアクションもいつもより極端に少ない。
 僕が目線すらも合わせないからだろうか。
 嫌われていないといいのだが……。

 その会長は、授業が終わるなり教室を出て行った。
 弁当箱を持っていなかったから、トイレにでも行ったのだろう。

 昨日までは彼女を待って一緒に生徒会室に向かっていたが、先に行ってしまおう。
 生徒会室でエリアも交えながら話せば、きっと元に戻れるはずだ。

「ねぇ、ノア」

 教室を出る時、数人の男女が入り混じった集団に絡まれた。
 ジェームズとアローラの取り巻きのレヴィとイザベラの、さらに取り巻きの連中だ。
 十中八九、ロクな要件ではないだろう。

「何?」
「あんたさ、アローラに振られてすぐシャーロットに寄生するって、普通に考えてやばくない?」

 なるほど。僕と会長が離れた瞬間を狙ってきたわけか。

「寄生はしてないよ」
「はあ? じゃあ何、言い寄られているとでも言いたいわけ?」
「いや、別に」

 極端だな。もっと中間があるだろう。

「へえ、じゃあ何だってんだよ?」

 ここで、仲良くしてもらっているだけだと答えるのは簡単だ。
 しかし、僕はどう答えるべきか悩んだ。
 下手なことを言ってしまえば、会長の評判を下げることにもつながる。
 恩を仇で返したくはない。

「はっ、答えられないの? じゃあやっぱり、寄生してんじゃん!」
「誰が誰に寄生しているのですか?」
「そりゃもちろん、ノアがシャーロットに……って、シャーロット⁉︎」

 男子も女子も、僕に絡んできた者たち全員が数歩後ずさった。
 会長が弁当箱を持って、僕の隣に立った。

「彼が私に寄生している? 違います。私が彼に付き合わせているんです。憶測で他人を傷つける行為はつつんだ方が良いと思いますが」
「で、でも、付きまとわれて迷惑してるってのは事実だろ?」
「はっ?」

 しつこく食い下がる男子に、会長が睨みを効かせた。
 その男子の顔に恐怖が浮かぶ。
 隣で見ている僕も、正直ちょっと怖い。

「話を聞いてなかったのですか? 私が付き合わせているんです。そもそも、私が迷惑しているという話はどこで入手したのですか?」
「そ、そりゃ、ハイスペックなシャーロットがノアみたいな雑魚に——」
「——あっ?」

 会長から、地の底に響くような声が漏れた。
 無言でその男子に近づこうとする。
 男子がひっ、と喉を鳴らした。

 僕の脳内で警報が鳴った。
 まずい。多分、会長をこのままにしちゃいけない。

「会長っ」

 その手を強く握る。
 会長がゆっくりと振り返った。

「何ですか」
「僕は大丈夫だから、落ち着いて」

 その目を見てはっきり告げる。
 会長がふう、と息を吐いた。

 プレッシャーから解放された男子は、その場にヘナヘナと倒れ込んだ。

「……行きましょう」

 僕の手を握ったまま、絡んできた連中とは反対方向に歩き出す。
 彼女に引っ張られる形で、僕もその場を離れた。
 何だか、初めて生徒会室に連行された時に似ているな、と思った。
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