先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第一章

第34話 美少女後輩マネージャーに頭を撫でろと言われた

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 お互いにシャワーなどを済ませるため、巧と香奈は一度別れた。
 巧の家で再集合しても、香奈のハイテンションは継続中だった。

「いやはや、先輩もついにおめでたですね!」
「それだと僕が妊娠してることになるけど」
「どれどれ……あっ、今蹴りましたよ!」

 巧のお腹に耳を寄せ、香奈がはしゃいだ。

(一回家に帰ったら落ち着くかと思ったけど、むしろさっきまでよりもさらにハイになってる気がする……)

 香奈のテンションが絶賛爆上がり中なため、本来なら二軍昇格で興奮していたはずの巧は、一周回って冷静になっていた。
 それに、はしゃいでばかりいられないのも事実だ。

 巧のプレースタイルは周囲の影響を大きく受ける。
 具体的には、味方の癖や性格を知らなければ、効果的なプレーをするのは難しいのだ。

 それに川畑かわばたの言った通り、周囲のレベルが上がるのも単純にきつい。
 これまで以上に上手く立ち回らなければ、元々の身体能力や多くのスキル面で劣っている巧は、お荷物にしかならないだろう。

(これからはより一層気合を入れていかないと——)

「た~くみ先輩っ」

 香奈が巧の頬を引っ張った。

「……何?」
「怖い顔してましたよ」
「えっ、本当?」
「はい。赤点取っちゃったって報告したときのお母さんくらい険しかったです」
「あんまり想像できないね」

 巧は蘭の怒っている表情を見たことはない。
 まだのべ一時間も会っていないのだから、当然と言えば当然だが。

「大丈夫ですよ、巧先輩なら絶対に二軍でも活躍できます。ずっと二軍を見ている私が言うんだから間違いなしです!」

 香奈がウインクをして親指を突き出してくる。

「ウインクうまいね」
「そこ⁉︎」

 愕然がくぜんとする香奈に笑みを浮かべてから、巧は真剣な表情で彼女を見た。

「ありがとう。白雪さんがそう言ってくれるのは本当に心強いよ」
「……そうでしょう? 今から悩んでも疲れるだけですし、できると思えば案外どうにかなりますって。私も全然みんなの特徴とか教えますし」
「本当? それは助かる。白雪さんの分析は正確だからね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど……先輩?」

 香奈が巧の部分をやたらと強調した。
 巧は彼女の言いたいことを理解した。

「ごめん、香奈・・。つい、いつもの癖で」
「本当ですよ。罰として、ん」

 香奈が頭を寄せてくる。

「えっとー……撫でろってこと?」
「そうです。でも、私は許可していませんから」
「……なるほどね」

 香奈の許可なしに彼女の頭を撫でてしまったら、その倍の時間だけ好き放題イタズラされる、というルールがある。
 許可はしないけど撫でろ、というのは、要は後でイタズラさせろ、ということだ。

「……拒否権を発動する条件は?」
「巧先輩は非常任理事国ですらありません」

 国連のことだろう。拒否権を持っているのは常任理事国のみだ。

「社会苦手じゃなかった?」
「文明開花したあたりからはまあまあ得意です。それに、今やってるのは地理ですから……って、そんなことはいいんですよ。ほらほら、先輩」

 香奈が満面の笑みで頭をフリフリする。
 どうやら、巧をイタズラできるのが楽しみで堪らないらしい。

(甘えん坊だけど、意外とSなところもあるんだなぁ)

 若干の現実逃避をしたのちに、巧は香奈の頭に手を伸ばした。
 彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
 すぐにやめようとすると、巧の手を掴んで止める。

「これ以上イタズラの時間は増やさないので」
「ならいいけど」

 巧はすぐに腕の動きを再開した。

(口に出したら変態チックだけど、香奈の髪って触り心地いいんだよね……)

 ケアを欠かしてないからだろう。
 今もリンスかヘアオイルかの香りが、髪を揺らすたびにほのかに香ってくる。

「先輩、手触りどうですか?」

 香奈が目をつむったまま尋ねてきた。
 まさか、巧の思考を読んだわけではないだろう。

「すごくサラサラだよ。僕がクシだったら泣いてるね」
「僕のとかすところがないよーって?」
「そう」

 クスクスと香奈が笑った。

「良かった。ちゃんと毎日手入れしてる甲斐がありました」
「結構時間かかるよね、そういうのって」
「そうですね。肌も含めて色々やるんで、お風呂入ってから何だかんだ一時間くらいは経っちゃいますね」
「女の子ってそういう努力できるのがすごいよね。最近では男性でもしっかり手入れする人が増えてるみたいだけど、僕なんて水で顔洗ってクシで髪とかすだけだし」
「それでその髪と肌は羨ましい限りです」

 香奈が巧の頬をつつき、「ほら、もちもちです」と笑う。

「香奈には負けるよ」
「ふっふっふ、これぞ抜けるような白肌ってやつです」
「否定できないのが悔しい」
「異性に魅力を感じるときに、男の人のほうが相手の肌が綺麗かどうかって重要らしいですよ」
「そうなんだ。あっ、でもなんかわかるかも」
「えっ、巧先輩。今それを言うっていうことは私のことがす——」
「そういうことを言わない子が好きかなぁ」
「もう一生言いません。言ったら肉なりヤるなり好きにしてください」
「煮るなり焼くなりね。肉なりって何さ」
「あれれ、ヤるなりのほうは言及しないんですかぁ?」

 香奈が巧を振り返る。ニヤニヤと笑っている。

「香奈、そういうのはダメって言わなかった? この後のイタズラタイムはなしにしよっか」
「待って待って! 注意っ、注意ってことで!」
「……まあ、いいけど。次はカード出すからね」
「いやぁ、いい審判だ」
「調子乗らない」

 巧は軽く香奈の頭を叩き、再び撫でる動作を再開した。

「今日はこの後どうするの?」
「お母さんは七時くらいに帰ってくるので、それくらいまでいてもいいですか? 全然夕食作りも手伝いますし」
「えっ、食べないのに悪いよ」
「全然構いませんよ。お邪魔している身ですし……味見さえさせてくれれば」

 香奈がイタズラっぽく付け足した。

「ならお願いしようかな」

 味見程度の報酬で手伝ってくれるなら、巧としては御の字だ。

「任せんしゃい」
「お父さんは結構忙しいんだ?」
「そうですね。いつも十一時とかです」
「大変だね。土日は?」
「ちょいちょいいないですね。お母さんは基本的にはいます」
「じゃあ、明日は丸一日お母さんいるんだ?」
「はい」

 香奈が嬉しそうにうなずいた。明日は土曜日だ。
 ほとんどの夏休みの学生にとっては曜日など関係ないだろうが、巧はゴミ出しなどを必ず自分で行わなければならない関係上、しっかりと曜日を把握していた。

 夏だし生ゴミ捨て忘れないようにしないとな、などとぼんやり考えながら香奈の頭を撫でていた巧は、間もなくしてゴミよりも差し迫った問題が発生していることに気がついた。
 もしかしたら一分にも満たない程度の沈黙の間に、香奈がこっくりこっくり船を漕ぎ始めていたのだ。
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