最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

文字の大きさ
60 / 85

第59話 墓地にて

しおりを挟む
 シェルドミルはグリフォン軍で殉死した者だけが入ることのできる墓地に来ていた。

 今日はガルマハザードが死んでから一年と三ヵ月が過ぎた日だ。
 ゼムドと龍種、それに自分たちグリフォンとの紛糾から一年以上、経ったということだ。

 ガルマハザードの墓を見る。
 それほど豪華な墓でもなかった。
 まぁ、ガルマハザードは軍内部で、問題を起こしていた厄介者のイメージが強く、ガルマハザードの親族も派手な墓にはできなかったのだと思う。
 ただ、ガルマハザードの最後の数日は、本当にグリフォン国のために行動してくれていた。
 それを知っているのは自分と回収部隊の五十人を合わせた五十一体だけだと思う。

 この一年間のことを思い出していた。

 あの事件の後、グリフォン国では世論が二つに割れた。

 一つの世論は、龍だけでなく魔族の配下に入って、自分たちの種の維持に努めるべきとすること。もう一つの世論は龍と魔族に対抗して戦争すること。前者はどうあがいても龍と魔族に自分たちは及ばない、このまま逆らうよりは共存を選ぶべきという意見。後者は、今すぐには無理でも長期的に龍と魔族に報復をせねばいけないという意見だった。
 意見の割合としては前者が七割、後者が三割だった。

 グリフォンの性質からして他者に従うというのは屈辱的なことだ。本来なら前者の主張が七割も通るのはありえない。

 しかし、今回は自ら配下にならざるを得ないと考える者が多かった。
 これは、あの場でゼムドが重力魔法を掛けた時、単に兵士だけではなくて、民間人も含めて全てのグリフォンの翼の骨が全て折られたことに由来する。
 あの魔族は、単にあの場全体に力を掛けたわけではなく、個体ごとの位置を把握して骨を折っていた。
 これは魔力の差が自分達とはあまりにも差があることを示していた。
 しかも、龍種との会話からゼムドが龍を遥かに上回った存在であると確定したこともある。
 また、あの現場にいたほぼ全兵士がアザドムドの攻撃の凄さを見たのもあった。
 もう、どうにもならない程の魔法陣の展開をされて、皆死ぬと思ったが、それをゼムドによって屈辱的だが助けられてしまった。
 この話は口伝えであったが、国民に伝播されることになる。

 自分達は魔族程度に負けることはないと思っていたが、現実にはそれどころではなく、しかも一体だけの強い魔族どころかそれらが複数いることが確定した。
下手に戦えば種が滅ぶことがありえたのだ。

 シェルドミルはこの時期、国内世論や議会での対応に追われたが、正直、結論など考えるまでもないと思っていた。
 龍と魔族に従わざるを得ないに決まっていた。

 今思うと、あのゼムドを、まだ魔力を纏っていない段階で殺害しようとしても、それが自分達に勝利をもたらしたとは思えない。

 あの魔族があれ程のグリフォンの警戒網をかいくぐり、目の前にいきなり現れたことがそれを示している。
 あの魔族は魔力を纏ってはいなかったが、おそらくあのままでも相当強いか、特殊な能力がある。それの隙をついて攻撃したところで殺せたとは思えない。

 しかし、あの場にいたシェルドミルの判断ミスだと責める声も多かった。

 自分が責任を取って情報局主任を辞職するしかないのは分かっていたが、それでもあの現場にいなかった者達に、愚かな判断を任せるわけにはいかなかった。
 そこで職を辞する直前に王に会い、あの現場で起こった事象を正確に報告し、今後自分たちがどうすべきかを伝えた。王はシェルドミルを慰留しようとしたが、ただ、シェルドミルはこれを固辞した。
 組織というのは、不祥事があればそれが事実であろうがなかろうが誰かが責任をとらなければいけない。その立場にいたのはどう考えても自分だった。

 王は、自ら国民に対して正確な情報を発表し、今後、龍と魔族に手出しをすることを禁じた。
 また、とりわけ人族への関与も許さないと発表した。あの魔族が、人族の一人のためにあれだけ動いたとなると、他の人族を殺害した場合でもそれなりの報復を受ける可能性があったからだ。

 それにグリフォン国は既に人族への対応に時間を割いている場合でもなくなっていた。

 あの事件後、他国からの暗殺部隊が急増した。

 ゼムドよる魔法攻撃を受けた際に、建物も崩落した箇所があり、その修復にも時間が掛かる状態であったが、そこを突いて暗殺部隊が送り込まれてきた。
 シェルドミルが情報局主任であれば、もっと被害者を減らせた可能性はあったが、自分は既に職を辞していた後だったので、手の出しようがなかった。

 ただ、やがて自分に再び声が掛かるのは目に見えていた。

 グリフォンは誇り高いが、これは自分達の弱点でもあった。
 最も合理的な行動を取れない。
 プライドのために命を無駄にすることもある。
 シェルドミルはこのような判断をすることはなかったが、大半のグリフォンはそうではない。
 だから既に十八体も殺されているわけだ。
 まぁ、放っておけば自分のところへ話が来る。
 そう思っていた。

 ガルマハザードの親族には、辞職後に会いに行ったが、ガルマハザードの妻は当人と違って、大人しい女性だった。
 シェルドミルは頭を下げて、自分のせいでガルマハザードを死なせてしまったと謝罪したが、未亡人は“そうではない”と言った。
 そして、ガルマハザードが首の回収部隊に入隊することになった経緯について、“シェルミドルのおかげだ。あいつに感謝せねばならない”とガルマハザードが話していたことを伝えられた。
 シェルドミルとしては、ガルマハザードを絶えず庇っていたのは、もし大戦に突入すればガルマハザードを特攻隊に使うつもりだったからだ。
 特攻したがる兵などいない。しかしガルマハザードならば武功をちらつかせれば、体よく使い潰せると思っていた。だから庇っていただけだ。

 今となっては、ガルマハザードが、何故あれほど首回収に固執したのかよく分からない。
 しかし、ガルマハザードの入隊後の働きぶりの良さは、シェルドミルにとってかなり意外だった。入隊時のシェルドミルとのいざこざは別としても、少なくとも、回収部隊に入ってからの仕事ぶりは文句の付け所がなかった。
 その動機が、単にエドワルドへの嫉妬からの行動だったのか、それとも武功を上げたかったのか、本人にも理由は分からないのかもしれない。

 未亡人のところへは、自分の退職金の半分を置いてきた。
 未亡人は要らないと言ったが、そのまま置いてきた。
 退職金の全額を置いてきてもよかったが、ただ、自分なりにあの場では最善の行動を取った自信はあったし、それを否定する気にはならなかった。

 ただ、ガルマハザードは死なずに済んだかもしれないとは思う。
 あの場で自分が最初に答えていれば、ガルマハザードは助かったかもしれない。
 ただ、それでもガルマハザードが死んだことに意味のある点が一つあった。

 ふー、っと息を吐いて墓を見ながら、ガルマハザードに喋りかけた。

「お前はよくやった。結果的にあの場で、あのアザドムドとかいう魔族がこちらへ魔力を放出したことで、あの場にいた兵士も、その後のグリフォン達も、自分より強者が複数いることが自覚できた。結果、自分たちの立ち位置を理解することができている。お前の功績だ」

 そう言って墓を見る。

 別に感傷に浸る気もないので、すぐにここから離れることにする。
 自分には何か所からも仕事のオファーがあったが、未だに断っている。
 どうせ自分はグリフォン軍に呼び戻されることが分かっているからだ。
 自分はグリフォン国のため以外に働く気はなかった。

 そう思って、シェルドミルは墓地を出て行った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

処理中です...