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第59話 墓地にて
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シェルドミルはグリフォン軍で殉死した者だけが入ることのできる墓地に来ていた。
今日はガルマハザードが死んでから一年と三ヵ月が過ぎた日だ。
ゼムドと龍種、それに自分たちグリフォンとの紛糾から一年以上、経ったということだ。
ガルマハザードの墓を見る。
それほど豪華な墓でもなかった。
まぁ、ガルマハザードは軍内部で、問題を起こしていた厄介者のイメージが強く、ガルマハザードの親族も派手な墓にはできなかったのだと思う。
ただ、ガルマハザードの最後の数日は、本当にグリフォン国のために行動してくれていた。
それを知っているのは自分と回収部隊の五十人を合わせた五十一体だけだと思う。
この一年間のことを思い出していた。
あの事件の後、グリフォン国では世論が二つに割れた。
一つの世論は、龍だけでなく魔族の配下に入って、自分たちの種の維持に努めるべきとすること。もう一つの世論は龍と魔族に対抗して戦争すること。前者はどうあがいても龍と魔族に自分たちは及ばない、このまま逆らうよりは共存を選ぶべきという意見。後者は、今すぐには無理でも長期的に龍と魔族に報復をせねばいけないという意見だった。
意見の割合としては前者が七割、後者が三割だった。
グリフォンの性質からして他者に従うというのは屈辱的なことだ。本来なら前者の主張が七割も通るのはありえない。
しかし、今回は自ら配下にならざるを得ないと考える者が多かった。
これは、あの場でゼムドが重力魔法を掛けた時、単に兵士だけではなくて、民間人も含めて全てのグリフォンの翼の骨が全て折られたことに由来する。
あの魔族は、単にあの場全体に力を掛けたわけではなく、個体ごとの位置を把握して骨を折っていた。
これは魔力の差が自分達とはあまりにも差があることを示していた。
しかも、龍種との会話からゼムドが龍を遥かに上回った存在であると確定したこともある。
また、あの現場にいたほぼ全兵士がアザドムドの攻撃の凄さを見たのもあった。
もう、どうにもならない程の魔法陣の展開をされて、皆死ぬと思ったが、それをゼムドによって屈辱的だが助けられてしまった。
この話は口伝えであったが、国民に伝播されることになる。
自分達は魔族程度に負けることはないと思っていたが、現実にはそれどころではなく、しかも一体だけの強い魔族どころかそれらが複数いることが確定した。
下手に戦えば種が滅ぶことがありえたのだ。
シェルドミルはこの時期、国内世論や議会での対応に追われたが、正直、結論など考えるまでもないと思っていた。
龍と魔族に従わざるを得ないに決まっていた。
今思うと、あのゼムドを、まだ魔力を纏っていない段階で殺害しようとしても、それが自分達に勝利をもたらしたとは思えない。
あの魔族があれ程のグリフォンの警戒網をかいくぐり、目の前にいきなり現れたことがそれを示している。
あの魔族は魔力を纏ってはいなかったが、おそらくあのままでも相当強いか、特殊な能力がある。それの隙をついて攻撃したところで殺せたとは思えない。
しかし、あの場にいたシェルドミルの判断ミスだと責める声も多かった。
自分が責任を取って情報局主任を辞職するしかないのは分かっていたが、それでもあの現場にいなかった者達に、愚かな判断を任せるわけにはいかなかった。
そこで職を辞する直前に王に会い、あの現場で起こった事象を正確に報告し、今後自分たちがどうすべきかを伝えた。王はシェルドミルを慰留しようとしたが、ただ、シェルドミルはこれを固辞した。
組織というのは、不祥事があればそれが事実であろうがなかろうが誰かが責任をとらなければいけない。その立場にいたのはどう考えても自分だった。
王は、自ら国民に対して正確な情報を発表し、今後、龍と魔族に手出しをすることを禁じた。
また、とりわけ人族への関与も許さないと発表した。あの魔族が、人族の一人のためにあれだけ動いたとなると、他の人族を殺害した場合でもそれなりの報復を受ける可能性があったからだ。
それにグリフォン国は既に人族への対応に時間を割いている場合でもなくなっていた。
あの事件後、他国からの暗殺部隊が急増した。
ゼムドよる魔法攻撃を受けた際に、建物も崩落した箇所があり、その修復にも時間が掛かる状態であったが、そこを突いて暗殺部隊が送り込まれてきた。
シェルドミルが情報局主任であれば、もっと被害者を減らせた可能性はあったが、自分は既に職を辞していた後だったので、手の出しようがなかった。
ただ、やがて自分に再び声が掛かるのは目に見えていた。
グリフォンは誇り高いが、これは自分達の弱点でもあった。
最も合理的な行動を取れない。
プライドのために命を無駄にすることもある。
シェルドミルはこのような判断をすることはなかったが、大半のグリフォンはそうではない。
だから既に十八体も殺されているわけだ。
まぁ、放っておけば自分のところへ話が来る。
そう思っていた。
ガルマハザードの親族には、辞職後に会いに行ったが、ガルマハザードの妻は当人と違って、大人しい女性だった。
シェルドミルは頭を下げて、自分のせいでガルマハザードを死なせてしまったと謝罪したが、未亡人は“そうではない”と言った。
そして、ガルマハザードが首の回収部隊に入隊することになった経緯について、“シェルミドルのおかげだ。あいつに感謝せねばならない”とガルマハザードが話していたことを伝えられた。
シェルドミルとしては、ガルマハザードを絶えず庇っていたのは、もし大戦に突入すればガルマハザードを特攻隊に使うつもりだったからだ。
特攻したがる兵などいない。しかしガルマハザードならば武功をちらつかせれば、体よく使い潰せると思っていた。だから庇っていただけだ。
今となっては、ガルマハザードが、何故あれほど首回収に固執したのかよく分からない。
しかし、ガルマハザードの入隊後の働きぶりの良さは、シェルドミルにとってかなり意外だった。入隊時のシェルドミルとのいざこざは別としても、少なくとも、回収部隊に入ってからの仕事ぶりは文句の付け所がなかった。
その動機が、単にエドワルドへの嫉妬からの行動だったのか、それとも武功を上げたかったのか、本人にも理由は分からないのかもしれない。
未亡人のところへは、自分の退職金の半分を置いてきた。
未亡人は要らないと言ったが、そのまま置いてきた。
退職金の全額を置いてきてもよかったが、ただ、自分なりにあの場では最善の行動を取った自信はあったし、それを否定する気にはならなかった。
ただ、ガルマハザードは死なずに済んだかもしれないとは思う。
あの場で自分が最初に答えていれば、ガルマハザードは助かったかもしれない。
ただ、それでもガルマハザードが死んだことに意味のある点が一つあった。
ふー、っと息を吐いて墓を見ながら、ガルマハザードに喋りかけた。
「お前はよくやった。結果的にあの場で、あのアザドムドとかいう魔族がこちらへ魔力を放出したことで、あの場にいた兵士も、その後のグリフォン達も、自分より強者が複数いることが自覚できた。結果、自分たちの立ち位置を理解することができている。お前の功績だ」
そう言って墓を見る。
別に感傷に浸る気もないので、すぐにここから離れることにする。
自分には何か所からも仕事のオファーがあったが、未だに断っている。
どうせ自分はグリフォン軍に呼び戻されることが分かっているからだ。
自分はグリフォン国のため以外に働く気はなかった。
そう思って、シェルドミルは墓地を出て行った。
今日はガルマハザードが死んでから一年と三ヵ月が過ぎた日だ。
ゼムドと龍種、それに自分たちグリフォンとの紛糾から一年以上、経ったということだ。
ガルマハザードの墓を見る。
それほど豪華な墓でもなかった。
まぁ、ガルマハザードは軍内部で、問題を起こしていた厄介者のイメージが強く、ガルマハザードの親族も派手な墓にはできなかったのだと思う。
ただ、ガルマハザードの最後の数日は、本当にグリフォン国のために行動してくれていた。
それを知っているのは自分と回収部隊の五十人を合わせた五十一体だけだと思う。
この一年間のことを思い出していた。
あの事件の後、グリフォン国では世論が二つに割れた。
一つの世論は、龍だけでなく魔族の配下に入って、自分たちの種の維持に努めるべきとすること。もう一つの世論は龍と魔族に対抗して戦争すること。前者はどうあがいても龍と魔族に自分たちは及ばない、このまま逆らうよりは共存を選ぶべきという意見。後者は、今すぐには無理でも長期的に龍と魔族に報復をせねばいけないという意見だった。
意見の割合としては前者が七割、後者が三割だった。
グリフォンの性質からして他者に従うというのは屈辱的なことだ。本来なら前者の主張が七割も通るのはありえない。
しかし、今回は自ら配下にならざるを得ないと考える者が多かった。
これは、あの場でゼムドが重力魔法を掛けた時、単に兵士だけではなくて、民間人も含めて全てのグリフォンの翼の骨が全て折られたことに由来する。
あの魔族は、単にあの場全体に力を掛けたわけではなく、個体ごとの位置を把握して骨を折っていた。
これは魔力の差が自分達とはあまりにも差があることを示していた。
しかも、龍種との会話からゼムドが龍を遥かに上回った存在であると確定したこともある。
また、あの現場にいたほぼ全兵士がアザドムドの攻撃の凄さを見たのもあった。
もう、どうにもならない程の魔法陣の展開をされて、皆死ぬと思ったが、それをゼムドによって屈辱的だが助けられてしまった。
この話は口伝えであったが、国民に伝播されることになる。
自分達は魔族程度に負けることはないと思っていたが、現実にはそれどころではなく、しかも一体だけの強い魔族どころかそれらが複数いることが確定した。
下手に戦えば種が滅ぶことがありえたのだ。
シェルドミルはこの時期、国内世論や議会での対応に追われたが、正直、結論など考えるまでもないと思っていた。
龍と魔族に従わざるを得ないに決まっていた。
今思うと、あのゼムドを、まだ魔力を纏っていない段階で殺害しようとしても、それが自分達に勝利をもたらしたとは思えない。
あの魔族があれ程のグリフォンの警戒網をかいくぐり、目の前にいきなり現れたことがそれを示している。
あの魔族は魔力を纏ってはいなかったが、おそらくあのままでも相当強いか、特殊な能力がある。それの隙をついて攻撃したところで殺せたとは思えない。
しかし、あの場にいたシェルドミルの判断ミスだと責める声も多かった。
自分が責任を取って情報局主任を辞職するしかないのは分かっていたが、それでもあの現場にいなかった者達に、愚かな判断を任せるわけにはいかなかった。
そこで職を辞する直前に王に会い、あの現場で起こった事象を正確に報告し、今後自分たちがどうすべきかを伝えた。王はシェルドミルを慰留しようとしたが、ただ、シェルドミルはこれを固辞した。
組織というのは、不祥事があればそれが事実であろうがなかろうが誰かが責任をとらなければいけない。その立場にいたのはどう考えても自分だった。
王は、自ら国民に対して正確な情報を発表し、今後、龍と魔族に手出しをすることを禁じた。
また、とりわけ人族への関与も許さないと発表した。あの魔族が、人族の一人のためにあれだけ動いたとなると、他の人族を殺害した場合でもそれなりの報復を受ける可能性があったからだ。
それにグリフォン国は既に人族への対応に時間を割いている場合でもなくなっていた。
あの事件後、他国からの暗殺部隊が急増した。
ゼムドよる魔法攻撃を受けた際に、建物も崩落した箇所があり、その修復にも時間が掛かる状態であったが、そこを突いて暗殺部隊が送り込まれてきた。
シェルドミルが情報局主任であれば、もっと被害者を減らせた可能性はあったが、自分は既に職を辞していた後だったので、手の出しようがなかった。
ただ、やがて自分に再び声が掛かるのは目に見えていた。
グリフォンは誇り高いが、これは自分達の弱点でもあった。
最も合理的な行動を取れない。
プライドのために命を無駄にすることもある。
シェルドミルはこのような判断をすることはなかったが、大半のグリフォンはそうではない。
だから既に十八体も殺されているわけだ。
まぁ、放っておけば自分のところへ話が来る。
そう思っていた。
ガルマハザードの親族には、辞職後に会いに行ったが、ガルマハザードの妻は当人と違って、大人しい女性だった。
シェルドミルは頭を下げて、自分のせいでガルマハザードを死なせてしまったと謝罪したが、未亡人は“そうではない”と言った。
そして、ガルマハザードが首の回収部隊に入隊することになった経緯について、“シェルミドルのおかげだ。あいつに感謝せねばならない”とガルマハザードが話していたことを伝えられた。
シェルドミルとしては、ガルマハザードを絶えず庇っていたのは、もし大戦に突入すればガルマハザードを特攻隊に使うつもりだったからだ。
特攻したがる兵などいない。しかしガルマハザードならば武功をちらつかせれば、体よく使い潰せると思っていた。だから庇っていただけだ。
今となっては、ガルマハザードが、何故あれほど首回収に固執したのかよく分からない。
しかし、ガルマハザードの入隊後の働きぶりの良さは、シェルドミルにとってかなり意外だった。入隊時のシェルドミルとのいざこざは別としても、少なくとも、回収部隊に入ってからの仕事ぶりは文句の付け所がなかった。
その動機が、単にエドワルドへの嫉妬からの行動だったのか、それとも武功を上げたかったのか、本人にも理由は分からないのかもしれない。
未亡人のところへは、自分の退職金の半分を置いてきた。
未亡人は要らないと言ったが、そのまま置いてきた。
退職金の全額を置いてきてもよかったが、ただ、自分なりにあの場では最善の行動を取った自信はあったし、それを否定する気にはならなかった。
ただ、ガルマハザードは死なずに済んだかもしれないとは思う。
あの場で自分が最初に答えていれば、ガルマハザードは助かったかもしれない。
ただ、それでもガルマハザードが死んだことに意味のある点が一つあった。
ふー、っと息を吐いて墓を見ながら、ガルマハザードに喋りかけた。
「お前はよくやった。結果的にあの場で、あのアザドムドとかいう魔族がこちらへ魔力を放出したことで、あの場にいた兵士も、その後のグリフォン達も、自分より強者が複数いることが自覚できた。結果、自分たちの立ち位置を理解することができている。お前の功績だ」
そう言って墓を見る。
別に感傷に浸る気もないので、すぐにここから離れることにする。
自分には何か所からも仕事のオファーがあったが、未だに断っている。
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