61 / 85
第二章
第60話 6人の魔族がやってきた
しおりを挟む
キエティはあの事件の後、エルフの代表の座を返上した。
グリフォン国へ出かける前の演説でキエルの支持率が上がったことと、結果的にゼムドの妻(誤解)という立場からどうしても人族の代表でいて欲しいという意見が多かったが、キエティはこれを固辞した。
ゼムドは私が人族の代表だから、とかの理由ではなく、人族自体を護るだろう。
それに自分はせっかく重力の魔力コントロールがうまくなっているのだから、その研究に勤しみたい。
それに政治の世界はやはり向いていないと思った。
自分は物事を素直に見すぎる。
他人との駆け引きは向いていないことが、グリフォンとのやり取りの中で自覚できた。
父がエルフ代表になれば、エルフ秘蔵の知識書を見せてやってもいいというから、代表になってみたが、結果的に自分は政治に向いていないことがはっきり分かった。
もう、政治には関わらないつもりだ。
ちなみにカズマサは失脚した。
カズマサがグリフォン侵攻直前に、冒険者を雇って都市から逃げようとしていたことが発覚したからだ。
物凄いバッシングが起こった。
キエルとゼムドの結婚どころではないバッシングだった。
家族や子供がノイローゼになってしまい、現在は地方都市へ移り住んだということだ。
カズマサの一族は財閥だ。経済的に豊かではあったが、今後は不買運動が続く可能性が高く、財閥の維持が難しくなるかもしれない。
まぁ、自業自得だろう。人の代表であるのに土壇場で逃げようとしたのだから。
他にもゼムドとキエティが結婚したという情報を流したのもカズマサだと判明した。マスコミが一斉にそのようなことを、どうして報じたのか不思議だったが、カズマサがやったことらしい。
本人の言い訳としては、ゼムドによって、外敵から人族を護らせるために情報操作しようとしたという事だが、実際のところはどうだか分からない。自己の利益のためにゼムドを利用しようとしたのかもしれないし、もしかすると、グリフォンの密偵に操られて踊らされたのかもしれない。
ただ、いずれにせよ、カズマサが表舞台で活躍することはもうないだろう。
最近は、大学の研究室で研究に勤しんでいる。
ゼムドが龍種の下へ向かって2年近く経っていた。
数か月おきにこちらへ来るのかと思ったが、そんなことはなかった。
まぁ、ゼムド達と人族の時間軸では感覚が違うのだろう。
ただ、それでも帰ってきたら、聞きたいこともあるので話題だけは考えてある。
*****************
いつものように大学の研究室にいると、中央から通信があったようで呼び出された。
相手は人族の代表の一人だった。
通信板を握って相手に喋りかけた。
「はい、キエティです」
「ああ、キエティ様。ゼムド様がお見えになりました。キエティ様も謁見されますか?」
「え? ゼムド様が人の都市へ来たのですか?」
「ええ、ただ、ゼムド様だけでなく6人の魔族の方も同席されています」
「私たちで対応しても構わないのですが、一応キエティ様の意向も伺った方が良いかと思いまして」
キエティは少し考えてみる。
「分かりました。私もその魔族たちに会ってみようと思います。今、魔族達はどこにいますか?」
「議会建物の頂上階になります」
「では、私もすぐに向かいます」
そう言って、通信板を切って、すぐに出かける準備をする。
魔道車のタクシーを呼んで、議会建物まで直行した。
議会建物の頂上の部屋に入っていく。
ゼムドと6人の魔族、それに3人の人の代表がいた。
人とエルフの代表は以前と異なっている。
キエティはゼムドに話しかける。
「お久しぶりです。ゼムド様、この度はようこそお越しくださいました」
「別に様を付ける必要は無いと言っただろう」
「いえ、そういうわけにもいきません。人族を救って頂いたのですから」
そう答える。
答えた内容は事実だが、下手に名前で呼ぶとまた恋人関係がどうたらの話に巻き込まれてしまう。あれからキエティとゼムドの関係について報じるメディアは少なくなっていたが、何かあれば再び騒ぎ出すはずだ。
それは避けたい。
大勢がいるところでは、なるべく他人行儀、他人行儀っと。
******************
「全員座ってくれ」
そう言って、ゼムドは椅子へ座る。
ゼムドの隣には、以前キエティを睨んできた女性の魔族が座り、その反対隣りには鎧の魔族が立っている。この魔族が座れるような椅子は無い。立っているつもりのようだ。それに、この部屋にどうやって入ったのか不思議だ。
魔族の残り四人も座り、人族の代表三人とキエルが遅れて椅子に座る。それを確認してからゼムドが話し始めた。
「今日、ここに俺たちと人族が集まってくれたことに感謝したい。これから俺を除く六人の魔族には、人族の文化を学んでもらう。また、人族にはこの五人が人族の文化を覚えることに協力してもらえることになっている。ケリド、あとはお前から話を進めてくれ」
ケリドと呼ばれた男の子の魔族は喋り始めるが、右腕がなかった。厳密には以前、会った時よりは腕が再生しているが、それでもまだ肩から四十センチメートルといった感じか。
「初めまして。魔族のケリドと申します。私はゼムド様から、私たちが人族に馴染めるよう行動するよう申し付けられました。私が主にこの六人を代表してあなた方に協力を仰ぐことになると思います。不快に思われる点もあるでしょうが、是非ご協力お願いします」
この後、ケリドは魔族全員の名前を人族に紹介していった。
魔族にしては丁寧だ。子供に見えるが内面はかなり大人っぽい気がする。
ゼムドも見習え!
「つきましては、人族の方々には、まず魔道板の準備についてお願いします。あれなら私たちは直に触るだけで情報を吸収することができます。この五人ならそれで十分になります。」
すると人族が魔道板を五枚ほど取り出した。
ああ、なるほど、既にゼムド・ケリドと人族三人には話合いが出来ていて、それに沿って残りの五人に説明しているのだ、と思った。
それぞれに魔道板が渡される。
ケリドが話す。
「その板に魔力を少し流して下さい。本体が起動します。後はあなた方なら中の情報を吸収しようと思えば、簡単に情報が取り出せるはずです。ただ、急激に魔力を掛けると壊れます。注意してください。」
そう言うと五人が魔道板を起動させた。適当に中身を読み込んでいるようだ。
ケリドが続ける。
「あなた方なら、一ヵ月程度あれば、学ばなければいけないことは全て理解できるはずです。私の方で学んだ方がいいことを区分けしてありますので、できればそれから読み込んでみてください。ただ、人族が暇つぶしに楽しむような娯楽に関するソフトも入っています。それらから始めてもいいかもしれません」
ケリドがそう言うと、しばらく五人はそれを起動させていた。
誰も喋らない。
三十分ほどして、アザドムドが不満を言い始めた。
「つまらん。辞書とやらに書かれている内容を、何故この俺が、こんなことを学ばなければいけない? 俺が興味あることは、人族の連中のみが使う魔法だ。それだけ理解できれば、それ以外はどうでもいい」
ワダマルが窘める。
「これこれ、アザドムド殿、それは言わないという約束であろう。まだ、これを始めて幾何の時間も経っておらんでござる」
「いや、こんなにつまらんとは思わなかった。話が違い過ぎるぞ」
ミホがここで意外なことを言い出した。
「あー、これ、辞書はつまんないけど、ゲームは面白いかも。いくつかやってみたけど、結構面白いかも」
アザドムドがチラッとミホを見て、立ち上がってミホの方へ歩いて行った。
人族の代表達に、緊張が走るのが分かる。
アザドムドはしばらくミホの手元を見ていたが、それを確認してから自分の席へ戻った。そして、右足の先を左足の膝に乗せた姿勢で、また魔道板を起動させて弄り始めた。
また、しばらく時間が経つ。アザドムドが再び喋り出す。
「つまらんな。やってられん。全部簡単にクリアできるぞ」
アザドムドは不機嫌そうに、吐き捨てる。
ゼムドがここでアザドムドに話しかけた。
「アザドムド、おまえがそう言うだろうとは思っていた。ただ、俺としてはお前にも人族の文化を理解してもらいたいと思っている。悪いが、もう少し我慢してくれないか?」
キエティはゼムドが言っても駄目じゃないか、と思ったが、意外にもこの後アザドムドは表情を和らげて、黙りながらも魔力板を弄り続けた。
さらに一時間を過ぎた当たりだろうか、ゼムドが再び喋り出す。
「他の連中はどうだ?」
「拙者は、とりあえず辞書を読んでいるでござる。ただ、量が多いので、それなりに時間が掛かるでござるかな。ケリド殿が必要な部分を選んでくれているようではあるが、それでも二週間程度は理解するのに時間が掛かるであろう」
エスカがこれに続く。
「私も読んでいますが、ワダマルと同じ感じですが、理解に早くても三週間くらいは掛かるでしょうか? それに、私としましてはゼムド様に再確認したいことがあるのですが……約束の方は守って頂けるのでしょうか?」
キエティはゼムドの方を見る。
約束とは何だろう?
「ああ、約束は守ってやる。それは問題ない」
それを聞いて、エスカは笑顔になる。
ただ、ここでゼムドが真面目な表情をして続けた。
「ただ、キエティは俺の嫁だ」
次の瞬間、キエティの目の前に何かが飛んできた。
よく見ると、エスカが目の前にいて、キエティの顔を手で貫こうとしていた。
そして、ゼムドがそのエスカの腕を掴んでキエティを貫くのを静止していた。
エスカがギロっとゼムドを睨みながら質問した。
「どういうことですか?」
ゼムドが息をふーっと吐いてから答えた。
「それはこっちのセリフだ。お前は絶対に人族を傷つけないのではなかったのか?」
「私を試したのですか?」
「ああ、試した。二年掛けてお前たちを教育させたが、正直、お前は、本当に人族を理解しようとしているのか、それとも俺を捕まえたいだけなのかが分からなかった」
このセリフを聞いてエスカは、キエティの目の前から手を戻そうとする。それに合わせてゼムドも腕を放した。
「まさかとは思いますが、この人族とゼムド様に契りがあったのではないでしょうね?」
「ないな。キエティに会っていたのは二年前の二週間程度だ。それに俺が人族の地に来てやっていたことは、ただ魔道板を見て、各所を回っていただけだ。別にキエティとだけに時間を使っていたわけじゃない」
エスカは一度キエティの方を見てから、またゼムドを見る。
「いいでしょう。その点に関しては信じましょう。少なくともゼムド様が二週間程度で誰かに興味を持つような人でないことは、私が一番分かっていますので。それに、本当にこのエルフに好意を持っているなら、何もこのエルフで挑発実験する必要がないですからね。それよりも約束の内容をこの場でもう一度言ってもらって宜しいでしょうか?」
ゼムドは無表情のまま淡々と答えた。
「約束通り、俺が発情期になったら、お前と最初に交わることを約束しよう」
そう言うと、エスカが嬉しそうな顔をした。しかし、ゼムドはここで、言葉を区切って話を続けた。
「だが――行為中に関して、お前は完全に魔力を抑えろ。ただ、俺はかなりの魔力の放出をする。これは譲れない。俺は過去に、行為中、相手に食い殺された連中をそれなりに知っている。単に自己保身の問題になるが、ここだけは譲れない」
エスカは驚いたような顔をした。
「まさか、ゼムド様、それが理由で、これまで私を拒んでいたのですか?」
「――別にそうではない。一番の理由は、単に俺が発情期ではないのが理由だ」
エスカは満面の笑みを浮かべながら、話を続けた。
「いえいえ、私としてはどちらかと云うと、そのように無理矢理襲われる方が好みなので、全く問題ありませんことよ」
キエティはここまで話を聞いていたが、思わず呆れてしまった。
同じ女性として理解できない……。嫌悪を感じてしまう……。
「ただ、お前も俺に約束しろ、何があっても人族や他の他種族を殺すな。もし殺せばこの話はなくなるし、おまえの行動次第では俺がお前を殺す」
エスカは満足そうに返答した。
「ええ、構いませんよ。今後誰も傷つけないことを約束します。私としては最初にゼムド様が私と交わってくれるなら、別にその後ゼムド様が他の女性に子を孕ませようが、それほど重要ではありません」
ゼムドはその返答を聞いて、呆れたような顔をしたが、次にガルドロストの方を見て話を続けた。
「ガルドロスト、お前とは出会ってから四千年ほど経つが、お前の鎧の中身がどうなっているのか、未だに俺や他の者も知らない。今までの様に、大陸の端で俺達だけで住んでいるならそれでもよかったが、今後お前も人族の国の文化を学ぶというのであれば、そのままの姿では困る。おまえが今後、この人の地に留まるつもりがあるなら、その鎧を取ってくれ。もし、それができないなら、おまえは俺達のアジトに戻ってくれ」
その発言を聞いて、場の空気が変わっていく。
アザドムド、ワダマル、ケリドだけでなく、ミホですらゲームを止めてガルドロストに注目している。長年に渡って謎とされてきたことが解明されそうなわけで、魔族達も皆、興味があるのだろう。
ガルドロストは魔道板を持ったまま立っていたが、魔道板をテーブルに置いて、直立姿勢を保った。そして鎧の魔法を解いていった。
そして中から出てきたのは――。
グリフォン国へ出かける前の演説でキエルの支持率が上がったことと、結果的にゼムドの妻(誤解)という立場からどうしても人族の代表でいて欲しいという意見が多かったが、キエティはこれを固辞した。
ゼムドは私が人族の代表だから、とかの理由ではなく、人族自体を護るだろう。
それに自分はせっかく重力の魔力コントロールがうまくなっているのだから、その研究に勤しみたい。
それに政治の世界はやはり向いていないと思った。
自分は物事を素直に見すぎる。
他人との駆け引きは向いていないことが、グリフォンとのやり取りの中で自覚できた。
父がエルフ代表になれば、エルフ秘蔵の知識書を見せてやってもいいというから、代表になってみたが、結果的に自分は政治に向いていないことがはっきり分かった。
もう、政治には関わらないつもりだ。
ちなみにカズマサは失脚した。
カズマサがグリフォン侵攻直前に、冒険者を雇って都市から逃げようとしていたことが発覚したからだ。
物凄いバッシングが起こった。
キエルとゼムドの結婚どころではないバッシングだった。
家族や子供がノイローゼになってしまい、現在は地方都市へ移り住んだということだ。
カズマサの一族は財閥だ。経済的に豊かではあったが、今後は不買運動が続く可能性が高く、財閥の維持が難しくなるかもしれない。
まぁ、自業自得だろう。人の代表であるのに土壇場で逃げようとしたのだから。
他にもゼムドとキエティが結婚したという情報を流したのもカズマサだと判明した。マスコミが一斉にそのようなことを、どうして報じたのか不思議だったが、カズマサがやったことらしい。
本人の言い訳としては、ゼムドによって、外敵から人族を護らせるために情報操作しようとしたという事だが、実際のところはどうだか分からない。自己の利益のためにゼムドを利用しようとしたのかもしれないし、もしかすると、グリフォンの密偵に操られて踊らされたのかもしれない。
ただ、いずれにせよ、カズマサが表舞台で活躍することはもうないだろう。
最近は、大学の研究室で研究に勤しんでいる。
ゼムドが龍種の下へ向かって2年近く経っていた。
数か月おきにこちらへ来るのかと思ったが、そんなことはなかった。
まぁ、ゼムド達と人族の時間軸では感覚が違うのだろう。
ただ、それでも帰ってきたら、聞きたいこともあるので話題だけは考えてある。
*****************
いつものように大学の研究室にいると、中央から通信があったようで呼び出された。
相手は人族の代表の一人だった。
通信板を握って相手に喋りかけた。
「はい、キエティです」
「ああ、キエティ様。ゼムド様がお見えになりました。キエティ様も謁見されますか?」
「え? ゼムド様が人の都市へ来たのですか?」
「ええ、ただ、ゼムド様だけでなく6人の魔族の方も同席されています」
「私たちで対応しても構わないのですが、一応キエティ様の意向も伺った方が良いかと思いまして」
キエティは少し考えてみる。
「分かりました。私もその魔族たちに会ってみようと思います。今、魔族達はどこにいますか?」
「議会建物の頂上階になります」
「では、私もすぐに向かいます」
そう言って、通信板を切って、すぐに出かける準備をする。
魔道車のタクシーを呼んで、議会建物まで直行した。
議会建物の頂上の部屋に入っていく。
ゼムドと6人の魔族、それに3人の人の代表がいた。
人とエルフの代表は以前と異なっている。
キエティはゼムドに話しかける。
「お久しぶりです。ゼムド様、この度はようこそお越しくださいました」
「別に様を付ける必要は無いと言っただろう」
「いえ、そういうわけにもいきません。人族を救って頂いたのですから」
そう答える。
答えた内容は事実だが、下手に名前で呼ぶとまた恋人関係がどうたらの話に巻き込まれてしまう。あれからキエティとゼムドの関係について報じるメディアは少なくなっていたが、何かあれば再び騒ぎ出すはずだ。
それは避けたい。
大勢がいるところでは、なるべく他人行儀、他人行儀っと。
******************
「全員座ってくれ」
そう言って、ゼムドは椅子へ座る。
ゼムドの隣には、以前キエティを睨んできた女性の魔族が座り、その反対隣りには鎧の魔族が立っている。この魔族が座れるような椅子は無い。立っているつもりのようだ。それに、この部屋にどうやって入ったのか不思議だ。
魔族の残り四人も座り、人族の代表三人とキエルが遅れて椅子に座る。それを確認してからゼムドが話し始めた。
「今日、ここに俺たちと人族が集まってくれたことに感謝したい。これから俺を除く六人の魔族には、人族の文化を学んでもらう。また、人族にはこの五人が人族の文化を覚えることに協力してもらえることになっている。ケリド、あとはお前から話を進めてくれ」
ケリドと呼ばれた男の子の魔族は喋り始めるが、右腕がなかった。厳密には以前、会った時よりは腕が再生しているが、それでもまだ肩から四十センチメートルといった感じか。
「初めまして。魔族のケリドと申します。私はゼムド様から、私たちが人族に馴染めるよう行動するよう申し付けられました。私が主にこの六人を代表してあなた方に協力を仰ぐことになると思います。不快に思われる点もあるでしょうが、是非ご協力お願いします」
この後、ケリドは魔族全員の名前を人族に紹介していった。
魔族にしては丁寧だ。子供に見えるが内面はかなり大人っぽい気がする。
ゼムドも見習え!
「つきましては、人族の方々には、まず魔道板の準備についてお願いします。あれなら私たちは直に触るだけで情報を吸収することができます。この五人ならそれで十分になります。」
すると人族が魔道板を五枚ほど取り出した。
ああ、なるほど、既にゼムド・ケリドと人族三人には話合いが出来ていて、それに沿って残りの五人に説明しているのだ、と思った。
それぞれに魔道板が渡される。
ケリドが話す。
「その板に魔力を少し流して下さい。本体が起動します。後はあなた方なら中の情報を吸収しようと思えば、簡単に情報が取り出せるはずです。ただ、急激に魔力を掛けると壊れます。注意してください。」
そう言うと五人が魔道板を起動させた。適当に中身を読み込んでいるようだ。
ケリドが続ける。
「あなた方なら、一ヵ月程度あれば、学ばなければいけないことは全て理解できるはずです。私の方で学んだ方がいいことを区分けしてありますので、できればそれから読み込んでみてください。ただ、人族が暇つぶしに楽しむような娯楽に関するソフトも入っています。それらから始めてもいいかもしれません」
ケリドがそう言うと、しばらく五人はそれを起動させていた。
誰も喋らない。
三十分ほどして、アザドムドが不満を言い始めた。
「つまらん。辞書とやらに書かれている内容を、何故この俺が、こんなことを学ばなければいけない? 俺が興味あることは、人族の連中のみが使う魔法だ。それだけ理解できれば、それ以外はどうでもいい」
ワダマルが窘める。
「これこれ、アザドムド殿、それは言わないという約束であろう。まだ、これを始めて幾何の時間も経っておらんでござる」
「いや、こんなにつまらんとは思わなかった。話が違い過ぎるぞ」
ミホがここで意外なことを言い出した。
「あー、これ、辞書はつまんないけど、ゲームは面白いかも。いくつかやってみたけど、結構面白いかも」
アザドムドがチラッとミホを見て、立ち上がってミホの方へ歩いて行った。
人族の代表達に、緊張が走るのが分かる。
アザドムドはしばらくミホの手元を見ていたが、それを確認してから自分の席へ戻った。そして、右足の先を左足の膝に乗せた姿勢で、また魔道板を起動させて弄り始めた。
また、しばらく時間が経つ。アザドムドが再び喋り出す。
「つまらんな。やってられん。全部簡単にクリアできるぞ」
アザドムドは不機嫌そうに、吐き捨てる。
ゼムドがここでアザドムドに話しかけた。
「アザドムド、おまえがそう言うだろうとは思っていた。ただ、俺としてはお前にも人族の文化を理解してもらいたいと思っている。悪いが、もう少し我慢してくれないか?」
キエティはゼムドが言っても駄目じゃないか、と思ったが、意外にもこの後アザドムドは表情を和らげて、黙りながらも魔力板を弄り続けた。
さらに一時間を過ぎた当たりだろうか、ゼムドが再び喋り出す。
「他の連中はどうだ?」
「拙者は、とりあえず辞書を読んでいるでござる。ただ、量が多いので、それなりに時間が掛かるでござるかな。ケリド殿が必要な部分を選んでくれているようではあるが、それでも二週間程度は理解するのに時間が掛かるであろう」
エスカがこれに続く。
「私も読んでいますが、ワダマルと同じ感じですが、理解に早くても三週間くらいは掛かるでしょうか? それに、私としましてはゼムド様に再確認したいことがあるのですが……約束の方は守って頂けるのでしょうか?」
キエティはゼムドの方を見る。
約束とは何だろう?
「ああ、約束は守ってやる。それは問題ない」
それを聞いて、エスカは笑顔になる。
ただ、ここでゼムドが真面目な表情をして続けた。
「ただ、キエティは俺の嫁だ」
次の瞬間、キエティの目の前に何かが飛んできた。
よく見ると、エスカが目の前にいて、キエティの顔を手で貫こうとしていた。
そして、ゼムドがそのエスカの腕を掴んでキエティを貫くのを静止していた。
エスカがギロっとゼムドを睨みながら質問した。
「どういうことですか?」
ゼムドが息をふーっと吐いてから答えた。
「それはこっちのセリフだ。お前は絶対に人族を傷つけないのではなかったのか?」
「私を試したのですか?」
「ああ、試した。二年掛けてお前たちを教育させたが、正直、お前は、本当に人族を理解しようとしているのか、それとも俺を捕まえたいだけなのかが分からなかった」
このセリフを聞いてエスカは、キエティの目の前から手を戻そうとする。それに合わせてゼムドも腕を放した。
「まさかとは思いますが、この人族とゼムド様に契りがあったのではないでしょうね?」
「ないな。キエティに会っていたのは二年前の二週間程度だ。それに俺が人族の地に来てやっていたことは、ただ魔道板を見て、各所を回っていただけだ。別にキエティとだけに時間を使っていたわけじゃない」
エスカは一度キエティの方を見てから、またゼムドを見る。
「いいでしょう。その点に関しては信じましょう。少なくともゼムド様が二週間程度で誰かに興味を持つような人でないことは、私が一番分かっていますので。それに、本当にこのエルフに好意を持っているなら、何もこのエルフで挑発実験する必要がないですからね。それよりも約束の内容をこの場でもう一度言ってもらって宜しいでしょうか?」
ゼムドは無表情のまま淡々と答えた。
「約束通り、俺が発情期になったら、お前と最初に交わることを約束しよう」
そう言うと、エスカが嬉しそうな顔をした。しかし、ゼムドはここで、言葉を区切って話を続けた。
「だが――行為中に関して、お前は完全に魔力を抑えろ。ただ、俺はかなりの魔力の放出をする。これは譲れない。俺は過去に、行為中、相手に食い殺された連中をそれなりに知っている。単に自己保身の問題になるが、ここだけは譲れない」
エスカは驚いたような顔をした。
「まさか、ゼムド様、それが理由で、これまで私を拒んでいたのですか?」
「――別にそうではない。一番の理由は、単に俺が発情期ではないのが理由だ」
エスカは満面の笑みを浮かべながら、話を続けた。
「いえいえ、私としてはどちらかと云うと、そのように無理矢理襲われる方が好みなので、全く問題ありませんことよ」
キエティはここまで話を聞いていたが、思わず呆れてしまった。
同じ女性として理解できない……。嫌悪を感じてしまう……。
「ただ、お前も俺に約束しろ、何があっても人族や他の他種族を殺すな。もし殺せばこの話はなくなるし、おまえの行動次第では俺がお前を殺す」
エスカは満足そうに返答した。
「ええ、構いませんよ。今後誰も傷つけないことを約束します。私としては最初にゼムド様が私と交わってくれるなら、別にその後ゼムド様が他の女性に子を孕ませようが、それほど重要ではありません」
ゼムドはその返答を聞いて、呆れたような顔をしたが、次にガルドロストの方を見て話を続けた。
「ガルドロスト、お前とは出会ってから四千年ほど経つが、お前の鎧の中身がどうなっているのか、未だに俺や他の者も知らない。今までの様に、大陸の端で俺達だけで住んでいるならそれでもよかったが、今後お前も人族の国の文化を学ぶというのであれば、そのままの姿では困る。おまえが今後、この人の地に留まるつもりがあるなら、その鎧を取ってくれ。もし、それができないなら、おまえは俺達のアジトに戻ってくれ」
その発言を聞いて、場の空気が変わっていく。
アザドムド、ワダマル、ケリドだけでなく、ミホですらゲームを止めてガルドロストに注目している。長年に渡って謎とされてきたことが解明されそうなわけで、魔族達も皆、興味があるのだろう。
ガルドロストは魔道板を持ったまま立っていたが、魔道板をテーブルに置いて、直立姿勢を保った。そして鎧の魔法を解いていった。
そして中から出てきたのは――。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる