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第二章
第68話 戦いという名の戯れ
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世界で、一番目と二番目に強い者が対峙している。
ゼムドとベゼルが空中に浮かんでいた。
二人の距離は一キロメートルほどだ。
ベゼルがこの距離で始めたい、と言い出したのが理由だった。
二人が見つめ合っている。
どちらから仕掛けるべきなのかは当然両者分かっていた。
格下であるベゼルからだ。
次の瞬間、ベゼルは自分と刀に重力魔法を使い、強烈な加速から、ゼムドへ向かって強力な一閃を放った。
しかし、ゼムドも重力魔法でこの一撃を避けた。
ゼムドは避けると同時に、ベゼルの周囲に向かって結界魔法を張る。
結界内部にベゼルを閉じ込めてしまった。
『踊る者と見る者』
ゼムドが得意とする戦闘手段だった。
魔力の勝負は、主に二つの要素によって勝敗が決まることが多かった。一つは、その当人同士の魔力の大きさに依存するところが大きく、もう一つには、短時間でどれだけ魔法を起動させられるか、という点にあった。
ゼムドの魔力量はそもそもかなり大きい。加えて、短時間で術式をコントロール、書き換えながら相手と戦うのを得意とするだけの頭脳を持ち合わせていた。だから、ゼムドは以前から相手の動きを見て観察し、細かく相手の魔法に対抗、撃破していくのを得意としていた。
しかし、ゼムドはある日気づく。
何も相手の攻撃を避けながら、相手を観察する必要などないのだ。
最初から、結界内に相手を閉じ込めて、その内部で大量に自分の魔法術式を起動させる。
様々な種類の魔法を起動させれば、相手は結界内で術式に対抗するために自らの魔法技術を見せることになる。
それを観察しながら、相手の弱点をあぶり出せばいい。
しかし、この方法には制約もあった。
最初に相手を閉じ込める際に、一緒に自らの術式を起動準備しておく必要がある。
一度相手を結界内に閉じ込めてしまうと、当然、自分も外部から内部に干渉することができない。
だから、相手を閉じ込める前に、どれだけ術式を書きこんで、相手と一緒に結界に放り込めるかが、勝敗を分けることになっていた。
そして、ゼムドの頭脳はこれを可能としていた。
結界内部で、自分の魔法が全て使われたら結界は解除されるようになっている。けれども、大抵の相手はこの段階で弱り切っている上に、手の内をほぼ全て晒してしまっている。ここで解析し終えた術式を、再び相手と一緒に結界内に閉じ込めて術式を発動すれば勝負は簡単に決まる。
結果、相手は結界内で、踊り狂うだけになる。
この方法はゼムドにとってほぼ必勝法であった。
ただ、ある時から、つまらなくなったのでそれほど使うことが無かったが、強い相手に初見で挑むときには、この方法をいつも使っていた。アザドムドと初めて戦った時も、この戦術で闘った。アザドムドは当時、血気盛んであったが、内部で永遠と踊らされて、死ななかったものの壊れてしまっていた。
ゼムドは思う。
――踊れ――
ベゼルに向かって、内部で五百ほどの術式が起動し始めた。一つ一つが時間差でベゼルに向かっていく。ベゼルは刀を持っていない左手で二百ほどの術式を書いて対抗し始めた。
そして、残り三百について、どう対抗するのかと見ていると、右手の刀を振ってそれらに対抗し始める。あの刀は術式を無効化できるようだ。接近戦は危険な相手だ。
ゼムドはそれらを全て見ていた。集中していた。
ジッと見据えながら、同時にベゼルの処理能力と術式技術を観察する。
……。
見事だ、と思う。流石に龍が格下と言うだけはある。いくつかの術式は回避しきれず直撃しているが、致命傷になるような術式を優先的に見つけてその対処を優先している。しかも、書いた術式の癖から、次にくるであろう術式の解析を推測しているように見える。
刀だけでなくて、術式も他者に類を見ない程、超越した水準だ。
今まで戦ってきた者でこれほど対抗できるものはいなかった。
油断していると、余でも足元を救われ得る、か。
一回目の結界が解除された時点で、もう一度ベゼルの思考を読んで、一歩先の術式を大量に構築せねばいけない。あまり過剰に記すと、結界が解かれる前にベゼルの魔力が切れて、元に戻って死ぬ可能性がある。その辺も考慮しながら術式を記していく――。
******************
ベゼルは結界内部で術式に対抗していた。
〝チィ〟
最初の一撃が外れた時に、思わず舌打ちをしてしまった。
ゼムドはそれほど接近戦が得意なわけではない。
自分の間合いなら一キロメートルが一番いいと思って申し出たが、想定できない程にゼムドの重力での移動速度は早かった。以前、ゼムドに喰らった重力魔法は、もう一人の俺ではうまく習得できなかったが、今の自分なら完璧に使えるはずだった。
それを使って一瞬で自分の一撃を振りぬけば勝負が決まるはずだった。仮に一撃目を避けられても、今の自分なら、二撃目の追撃で確実に勝負が決まると思ったが、まさかあれほどゼムドが早いとは思わなかった。
ゼムドを獲るなら、術式ではなく自分の得手分野の速度で上回るしかないと思っていた。
早さだけなら誰にも負けないはずだったが、結果、遥かにゼムドの方が早かった。
おまけに、この結界に閉じ込められて、あの一瞬でこれほどの術式と一緒に放り込まれる羽目になるとは……。
もう少し勝負になると思ったが、全然、相手にならないことに今になって気づいた。
ただ、何か一撃は入れたい。
おそらく、ゼムドは外部から俺の様子を観察して、この結界が切れた時点でもう一度、俺を閉じ込めて同じように、袋叩きにするつもりだろう。
どうするべきか。
*****************
二度目のゼムドの結界が発動されて、ベゼルは結界内で踊り続けていた。
ゼムドは一度目に自分の術式を見て、それに対して完璧に対処してきたのが分かる。
どうにもならなかった。
もう何発、体に直撃したか覚えていない。既に鎧がボロボロになっていたが、それでも術式に対抗し続けなけば即死する。自分の手の内を永遠と明かし続けながら、それを観察されるのは屈辱的なものだ。
――だが、と思う。ゼムドはこの四千年、このやり方で闘うことはなかった。おそらくそれほど、自分を強者だと認識しているのだろうと思う。その点では嬉しいのだが、それでもこのまま負けるのは納得がいかない。
……。
やるしかないか、と思う
一時間ほど経って、術式が残り僅かになってきたのを感じた。
そしてここで、腹を括る。
残りの術式が全て自分に直撃した。
かなりのダメージが出るのを感じる。しかし、〝腕一本〟は無傷で残せた。
同時に結界が解除された。
自分が力なく、地面に向かって落ちていく。
ゼムドが近づいてくるのが分かる。
ここで、致命傷のフリをする。
おそらく〝今のゼムド〟なら通じるだろう。
予想通り、ゼムドが近づいて、自分を支えようとした。
そして、その瞬間に、ゼムドの首に刀を突きつけた。
ゼムドが驚いたような顔をしている。
「私の負けです。完敗でした。己の未熟さを知るいい機会を与えて戴き、感謝しております。
また、これは余計なことかもしれませんが、今のあなた様は情を得たことで、以前より確実に弱くなっております。どうか、このような敗北だけはしないようにお願い致します」
そう言うと、自分の意識が消えていくのを感じる。
〝もう一人の俺〟に入れ替わるのだろう。
*******************
「大丈夫か?ワダマル」
「嗚呼、ゼムド殿、肩を貸してもらって申し訳ないでござる。ここは魔素濃度が高い故、しばらくすればある程度動けるはずでござる。ただ、かなり損傷が激しいので、当分は護衛の役割は果たせないかもしれぬでござる」
「いや、いい。大丈夫だ。当面、強敵が現れることはないだろうし、まぁ、最悪、アザドムドは俺の味方をするだろう。あいつは三千年前にお前と何かを話し合ってその後、俺のところに話に来たが、その後の言動を見てもアザドムドは問題ないだろう」
「その時のアザドムド殿との会話は、別に話しても構わないとは思うでござるが、ゼムド殿は知りたいでござるか?」
「いや、いい。おそらく俺のところへ来て話した内容と同じだろう。俺はあいつを信用している」
ゼムドはそう言って、少し首を傾げた。
「それより、何故もう一人のお前は今頃出てきた? 何故だ?」
「それは、ベゼルが言っていた通りでござる。ミツルギ殿がゼムド殿の領域を侵犯したのを問題視したでござる」
「いや、よく分からないぞ。他の魔族もあそこで魔素を吸っていたはずだ。何故ミツルギに対してだけ、それほど怒る?」
「我らが種は士道を重んじまする。以前、拙者とミツルギ殿は会っているでござるが、我が種族において、ゼムド殿に仕えているのはワダマルというのは、誰でも知っている話でござった。
武臣種においては、一人の主には一人の武臣種が付き従うのが原則でござる。それにも関わらず、あの領域を侵犯するというのは、不敬の理由以外に考えられぬことになります。同種の無礼であるが故に、ベゼルが怒ったのでござろう。ただ、結果的には誤解であったでござるが」
「そういうことか」
「拙者が止めるのが間に合わねば、それなりに良くない状況でござった。それにもう一人は、拙者よりも、やや厄介な性格をしているかもしれぬでござる。今後ゼムド殿が行動する際には申し訳ないでござるが、少々気にかけて戴きたい」
「それは、最初に会った時に気づいていた。正直、別に武臣種に護ってもらうつもりはなく、強くなるならそれと闘いたいだけだったが……。まぁ、それでも今日はそれなりに楽しめた。奴に礼を言っておいてくれ」
「了解したでござる。現在は、ベゼルも流石に眠ってしまっておりますが、しばらくすれば、また意識が戻るはずでござる」
「それより、おまえは人族の国はどうだ?」
「面白いでござる。ガルドマド殿に色々と案内してもらったが、正直、もうこの荒れた土地で暮らす気にはならないでござるな。できればあちらで住みたいでござる」
「何が一番面白い?」
「風景が――いやそれよりも、人々の行動が面白いでござる。我らもこの三千年間、一緒に生活することで、それまでではありえない楽しみを拙者は感じていたが、今はもっと面白いでござる」
「そうか。それはよかった」
「ゼムド殿には感謝しているでござる」
そう言って、ワダマルは目を閉じて眠ってしまった。
魔族の上位種は眠らない。にもかかわらず、眠るという事は、かなりダメージが深いのだろう。
このまま放置するわけにはいかないので、しばらくここに居てやることにする。
また、同時に自分も大量に魔素を吸って、魔核に補給していく。
一度の戦闘でこれほど、魔力を使ったことはこれまでになかった。
コメドロファルと戦った時は一年以上戦ったが、それでもここまでの魔力を消費しなかった。
ワダマルのもう一人が如何に強いかを感じる。
同時に、将来的に自分たちに敵対するものがいて、それに武臣種が味方したとすると、相当脅威になることが予想された。
……。
ミツルギがこちらへ歩いてくる。
可能なら、ミツルギを鍛えて、俺たちの誰かと契約させるのがいいのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
ゼムドとベゼルが空中に浮かんでいた。
二人の距離は一キロメートルほどだ。
ベゼルがこの距離で始めたい、と言い出したのが理由だった。
二人が見つめ合っている。
どちらから仕掛けるべきなのかは当然両者分かっていた。
格下であるベゼルからだ。
次の瞬間、ベゼルは自分と刀に重力魔法を使い、強烈な加速から、ゼムドへ向かって強力な一閃を放った。
しかし、ゼムドも重力魔法でこの一撃を避けた。
ゼムドは避けると同時に、ベゼルの周囲に向かって結界魔法を張る。
結界内部にベゼルを閉じ込めてしまった。
『踊る者と見る者』
ゼムドが得意とする戦闘手段だった。
魔力の勝負は、主に二つの要素によって勝敗が決まることが多かった。一つは、その当人同士の魔力の大きさに依存するところが大きく、もう一つには、短時間でどれだけ魔法を起動させられるか、という点にあった。
ゼムドの魔力量はそもそもかなり大きい。加えて、短時間で術式をコントロール、書き換えながら相手と戦うのを得意とするだけの頭脳を持ち合わせていた。だから、ゼムドは以前から相手の動きを見て観察し、細かく相手の魔法に対抗、撃破していくのを得意としていた。
しかし、ゼムドはある日気づく。
何も相手の攻撃を避けながら、相手を観察する必要などないのだ。
最初から、結界内に相手を閉じ込めて、その内部で大量に自分の魔法術式を起動させる。
様々な種類の魔法を起動させれば、相手は結界内で術式に対抗するために自らの魔法技術を見せることになる。
それを観察しながら、相手の弱点をあぶり出せばいい。
しかし、この方法には制約もあった。
最初に相手を閉じ込める際に、一緒に自らの術式を起動準備しておく必要がある。
一度相手を結界内に閉じ込めてしまうと、当然、自分も外部から内部に干渉することができない。
だから、相手を閉じ込める前に、どれだけ術式を書きこんで、相手と一緒に結界に放り込めるかが、勝敗を分けることになっていた。
そして、ゼムドの頭脳はこれを可能としていた。
結界内部で、自分の魔法が全て使われたら結界は解除されるようになっている。けれども、大抵の相手はこの段階で弱り切っている上に、手の内をほぼ全て晒してしまっている。ここで解析し終えた術式を、再び相手と一緒に結界内に閉じ込めて術式を発動すれば勝負は簡単に決まる。
結果、相手は結界内で、踊り狂うだけになる。
この方法はゼムドにとってほぼ必勝法であった。
ただ、ある時から、つまらなくなったのでそれほど使うことが無かったが、強い相手に初見で挑むときには、この方法をいつも使っていた。アザドムドと初めて戦った時も、この戦術で闘った。アザドムドは当時、血気盛んであったが、内部で永遠と踊らされて、死ななかったものの壊れてしまっていた。
ゼムドは思う。
――踊れ――
ベゼルに向かって、内部で五百ほどの術式が起動し始めた。一つ一つが時間差でベゼルに向かっていく。ベゼルは刀を持っていない左手で二百ほどの術式を書いて対抗し始めた。
そして、残り三百について、どう対抗するのかと見ていると、右手の刀を振ってそれらに対抗し始める。あの刀は術式を無効化できるようだ。接近戦は危険な相手だ。
ゼムドはそれらを全て見ていた。集中していた。
ジッと見据えながら、同時にベゼルの処理能力と術式技術を観察する。
……。
見事だ、と思う。流石に龍が格下と言うだけはある。いくつかの術式は回避しきれず直撃しているが、致命傷になるような術式を優先的に見つけてその対処を優先している。しかも、書いた術式の癖から、次にくるであろう術式の解析を推測しているように見える。
刀だけでなくて、術式も他者に類を見ない程、超越した水準だ。
今まで戦ってきた者でこれほど対抗できるものはいなかった。
油断していると、余でも足元を救われ得る、か。
一回目の結界が解除された時点で、もう一度ベゼルの思考を読んで、一歩先の術式を大量に構築せねばいけない。あまり過剰に記すと、結界が解かれる前にベゼルの魔力が切れて、元に戻って死ぬ可能性がある。その辺も考慮しながら術式を記していく――。
******************
ベゼルは結界内部で術式に対抗していた。
〝チィ〟
最初の一撃が外れた時に、思わず舌打ちをしてしまった。
ゼムドはそれほど接近戦が得意なわけではない。
自分の間合いなら一キロメートルが一番いいと思って申し出たが、想定できない程にゼムドの重力での移動速度は早かった。以前、ゼムドに喰らった重力魔法は、もう一人の俺ではうまく習得できなかったが、今の自分なら完璧に使えるはずだった。
それを使って一瞬で自分の一撃を振りぬけば勝負が決まるはずだった。仮に一撃目を避けられても、今の自分なら、二撃目の追撃で確実に勝負が決まると思ったが、まさかあれほどゼムドが早いとは思わなかった。
ゼムドを獲るなら、術式ではなく自分の得手分野の速度で上回るしかないと思っていた。
早さだけなら誰にも負けないはずだったが、結果、遥かにゼムドの方が早かった。
おまけに、この結界に閉じ込められて、あの一瞬でこれほどの術式と一緒に放り込まれる羽目になるとは……。
もう少し勝負になると思ったが、全然、相手にならないことに今になって気づいた。
ただ、何か一撃は入れたい。
おそらく、ゼムドは外部から俺の様子を観察して、この結界が切れた時点でもう一度、俺を閉じ込めて同じように、袋叩きにするつもりだろう。
どうするべきか。
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二度目のゼムドの結界が発動されて、ベゼルは結界内で踊り続けていた。
ゼムドは一度目に自分の術式を見て、それに対して完璧に対処してきたのが分かる。
どうにもならなかった。
もう何発、体に直撃したか覚えていない。既に鎧がボロボロになっていたが、それでも術式に対抗し続けなけば即死する。自分の手の内を永遠と明かし続けながら、それを観察されるのは屈辱的なものだ。
――だが、と思う。ゼムドはこの四千年、このやり方で闘うことはなかった。おそらくそれほど、自分を強者だと認識しているのだろうと思う。その点では嬉しいのだが、それでもこのまま負けるのは納得がいかない。
……。
やるしかないか、と思う
一時間ほど経って、術式が残り僅かになってきたのを感じた。
そしてここで、腹を括る。
残りの術式が全て自分に直撃した。
かなりのダメージが出るのを感じる。しかし、〝腕一本〟は無傷で残せた。
同時に結界が解除された。
自分が力なく、地面に向かって落ちていく。
ゼムドが近づいてくるのが分かる。
ここで、致命傷のフリをする。
おそらく〝今のゼムド〟なら通じるだろう。
予想通り、ゼムドが近づいて、自分を支えようとした。
そして、その瞬間に、ゼムドの首に刀を突きつけた。
ゼムドが驚いたような顔をしている。
「私の負けです。完敗でした。己の未熟さを知るいい機会を与えて戴き、感謝しております。
また、これは余計なことかもしれませんが、今のあなた様は情を得たことで、以前より確実に弱くなっております。どうか、このような敗北だけはしないようにお願い致します」
そう言うと、自分の意識が消えていくのを感じる。
〝もう一人の俺〟に入れ替わるのだろう。
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「大丈夫か?ワダマル」
「嗚呼、ゼムド殿、肩を貸してもらって申し訳ないでござる。ここは魔素濃度が高い故、しばらくすればある程度動けるはずでござる。ただ、かなり損傷が激しいので、当分は護衛の役割は果たせないかもしれぬでござる」
「いや、いい。大丈夫だ。当面、強敵が現れることはないだろうし、まぁ、最悪、アザドムドは俺の味方をするだろう。あいつは三千年前にお前と何かを話し合ってその後、俺のところに話に来たが、その後の言動を見てもアザドムドは問題ないだろう」
「その時のアザドムド殿との会話は、別に話しても構わないとは思うでござるが、ゼムド殿は知りたいでござるか?」
「いや、いい。おそらく俺のところへ来て話した内容と同じだろう。俺はあいつを信用している」
ゼムドはそう言って、少し首を傾げた。
「それより、何故もう一人のお前は今頃出てきた? 何故だ?」
「それは、ベゼルが言っていた通りでござる。ミツルギ殿がゼムド殿の領域を侵犯したのを問題視したでござる」
「いや、よく分からないぞ。他の魔族もあそこで魔素を吸っていたはずだ。何故ミツルギに対してだけ、それほど怒る?」
「我らが種は士道を重んじまする。以前、拙者とミツルギ殿は会っているでござるが、我が種族において、ゼムド殿に仕えているのはワダマルというのは、誰でも知っている話でござった。
武臣種においては、一人の主には一人の武臣種が付き従うのが原則でござる。それにも関わらず、あの領域を侵犯するというのは、不敬の理由以外に考えられぬことになります。同種の無礼であるが故に、ベゼルが怒ったのでござろう。ただ、結果的には誤解であったでござるが」
「そういうことか」
「拙者が止めるのが間に合わねば、それなりに良くない状況でござった。それにもう一人は、拙者よりも、やや厄介な性格をしているかもしれぬでござる。今後ゼムド殿が行動する際には申し訳ないでござるが、少々気にかけて戴きたい」
「それは、最初に会った時に気づいていた。正直、別に武臣種に護ってもらうつもりはなく、強くなるならそれと闘いたいだけだったが……。まぁ、それでも今日はそれなりに楽しめた。奴に礼を言っておいてくれ」
「了解したでござる。現在は、ベゼルも流石に眠ってしまっておりますが、しばらくすれば、また意識が戻るはずでござる」
「それより、おまえは人族の国はどうだ?」
「面白いでござる。ガルドマド殿に色々と案内してもらったが、正直、もうこの荒れた土地で暮らす気にはならないでござるな。できればあちらで住みたいでござる」
「何が一番面白い?」
「風景が――いやそれよりも、人々の行動が面白いでござる。我らもこの三千年間、一緒に生活することで、それまでではありえない楽しみを拙者は感じていたが、今はもっと面白いでござる」
「そうか。それはよかった」
「ゼムド殿には感謝しているでござる」
そう言って、ワダマルは目を閉じて眠ってしまった。
魔族の上位種は眠らない。にもかかわらず、眠るという事は、かなりダメージが深いのだろう。
このまま放置するわけにはいかないので、しばらくここに居てやることにする。
また、同時に自分も大量に魔素を吸って、魔核に補給していく。
一度の戦闘でこれほど、魔力を使ったことはこれまでになかった。
コメドロファルと戦った時は一年以上戦ったが、それでもここまでの魔力を消費しなかった。
ワダマルのもう一人が如何に強いかを感じる。
同時に、将来的に自分たちに敵対するものがいて、それに武臣種が味方したとすると、相当脅威になることが予想された。
……。
ミツルギがこちらへ歩いてくる。
可能なら、ミツルギを鍛えて、俺たちの誰かと契約させるのがいいのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
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