最強の魔族がやってきた ~人の世界に興味があるらしい~

夏樹高志

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第二章

第69話 キウェーン街へ行く

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 キエティは自宅の前でゼムドを待っていた。
 ダンジョンへ行くために、キリのいるキウェーン街までゼムドと一緒に行くつもりだ。

 キリの所属するギルドの都合で、出発日時は、当初ゼムドが指定した日時より一週間ほど先延ばしになっていた。
 キエティとしては今日も仕事をしなければいけないが、ただ、今回は人類史上、踏破されていないダンジョン探索に協力するという名目で、仕事をサボった。まぁ、それくらいはいいだろう。

 ゼムドは大学での待ち合わせと言ったが、仕事をサボるなら、自宅まで来てもらった方が良いと思ったので、ゼムドにその旨を伝えると、自宅まで迎えに行く、とのメールがきた。そして、今、自宅の前で待っている。

 時間は午前九時五十五分で、約束の時間まであと五分ほどだった。
 ゼムドは時間に遅れるタイプだろうか?それとも早く来るタイプだろうか?

 今日はゼムドの高速移動で、キウェーン街まで行くことになっていたが、ただ、個人的にはゆっくり空を飛んでもらおうと思っていた。どうせなら景色を見てみたい。

 高いところから見下ろす風景はどんなものだろう? と思ってしまう。
 今日中に、キウェーン街に行けばいいことになっていたが、待ち合わせの時間をやや早くしたのはそれが理由だった。それに時間があるなら、キウェーン街を観光してもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、目の前に音もなくゼムドが現れた。

 ゼムドの恰好は、そこら辺にいるような若者の姿だ。皮膚の色もより人族へ近いものに変えており、もう見ただけでは人か魔族か分からないレベルになっていた。
 キエティは時間を見る。午前十時ちょうどだった。

「おはよう。キエティ。準備はいいな?」

「おはようございます。ゼムド様。わざわざすみません。助かります」

 ゼムドが近づいてきて、荷物とキエティを抱きかかえようとしたが、ここでキエティは提案をしてみた。

「待ってください。一つお願いがあるのですが」

 ゼムドが立ち止まって、不思議そうな顔をする。

「なんだ? 事前に連絡しないとは、お前にしては変だな」

「いえ、大したことはないのですが、できれば、ゆっくりと飛行しながらキウェーン街まで行って頂けないでしょうか?」

「……それは構わないが、ただ、お前たちの法律では、空を飛ぶのは禁止されているのではなかったか?」

「はい。人族の魔力ではそれほど上昇することができないのと、長時間飛ぶことができないため、返って混乱を招くことが多かったので、原則として住宅街等での飛行は禁止されています。ただ、ゼムド様に関してはその点に問題がないのと、私自身が空からの風景を見たいので……」

 ゼムドが笑いながら返答してきた。

「おまえは教育者ではなかったのか? お前がきちんと法律を守らねばいけない立場ではないのか?」

 キエティはプクッと頬を膨らませて反論してみる。

「大丈夫ですよ。今回は、ダンジョン攻略という重大な使命を帯びた一大プロジェクトです。多少のことは問題ありません」

 ゼムドはまだ笑っている。

「いいだろう。ゆっくりと飛行してやる。それに人族が勝手に飛んでいると勘違いされると面倒だ。下からは見えないように結界を張って飛んでやろう。それなら問題もないだろう」

 キエティも笑って返事をする。

「ええ、お願いします」

「荷物とお前の両方か。とすると、抱きかかえるよりは、それぞれ重力魔法で浮かして運んだ方がいいか」

「いいえ、違います」

「何がだ?」

「荷物は重力魔法で、私は抱っこでお願いします」

「……それは意味があるのか?」

「はい。とても大事なことです。一大プロジェクトです」

 ゼムドは苦笑いしている。

「いいだろう。今日はお前の好きにさせてやる」

 そう言うと、ゼムドはキエティのアタッシュケースを宙に浮かし、キエティを抱きかかえた。
 キエティはここでゼムドの首に手をまわした。

「――別に、俺の首に手を回したりしなくても、俺はお前を落としたりはしないぞ」

「いえ、これも一連のプロジェクトの一環です。譲ることはできるません」

 ゼムドは意味不明といった顔をしている。
 ただ、キエティの機嫌がいいのを察してか、二人はその直後、空へと上昇した。

***********

 キエティは初めて上空から景色を見た。
 人族において、飛行機の技術自体は確立されていたが、軍事戦略上の問題からグリフォン達によって飛行機の製造は禁止されていた。遠くまで移動物資を大量に運べる技術は、大戦時には他国にとっても有利に働く可能性があったからだ。そのため、飛行機の開発自体が禁止されていた。
 今後、飛行技術が認められることになると、もしかすると他の大陸と人の国を結ぶような経済活動において重要な意味を持ってくるかもしれない。そんなことがふと頭をよぎる。

 あのグリフォン達に運ばれている時にも上から下の景色を見ることはできたが、あの時はそれどころではなかった。ただ、今回は普段自分たちが住んでいる街を上から見下ろすことが出来る。不思議な気分だ。

 ゼムドはあえて、あまり高く上昇せずに、ビルの隙間を縫って飛んだりもしてくれている。もちろん結界を張ってあるので外部からは飛んでいる事すら分からないはずだ。

 ただ、ちょっと酔ってきた。左右に動いたり、上昇したりされると少し気持ちが悪い……。

「ゼムド様、ちょっとすみません。できれば、もう少し揺らさないで飛んでもらえないでしょうか?」

 ゼムドがキエティの様子に気づいたようだ。

「そうか。お前達は酔うんだったな。なるべく景色を見せてやろうと思ったのだが、すまない」

「あ、いえいえ。その点については感謝しています。ちょっと気持ち悪いと思っただけで、吐くほどでもありませんし」

 ゼムドはゆっくりと上昇して、そこで動きを安定させた。

「何時もゼムド様達はこのような景色を見ているのですか?」

「まぁ、見ていると言えば見ているが、それほど興味があるわけじゃないな。何度も見ていれば飽きる。それに俺達にとって移動は手段だからな。飛ぶことよりは、到着した先で何をするかを、考え続けている感じか」

「魔族の住んでいる大陸にも行ってみたいな~」

「いや、それは難しいな。前にも話したが、お前達では魔素濃度が高いから、一瞬で溶けてしまうだろう。まぁ、俺が結界魔法を使ってやれば問題はないが、お前が期待するような場所じゃないぞ」

「どうしてですか?」

「俺たちの住んでいるところはただの岩山だ。本当に石しかない。ただ、この辺ではありえないくらい異常に大きい石ではあるが。あれは長年に渡って大気中に魔素が噴出して、それによって石も形状を変えていったからだろうな。物質としてその形態を維持することが目的になっている、異常に硬く大きい鉱石、といった感じか。見てもつまらないぞ」

「そうなんですか。世界の他の大陸はどうなっているか、ご存知ですか?」

「俺は以前、強い者を求めて世界各地を回ったが、例えば、龍の様に強いものが住む所も、俺達と同じように荒れ果てた土地だ。俺達、上位の魔族は、自らの縄張りを勝ち取って、その土地から発生する魔素を吸収して生きていく。龍族も同じなのだろう。過去において、より強い魔素の発生する土地を勝ち取り住み着いたわけだ。しかし、その代わり、石しかないようなつまらない土地に住むしかないことになるわけだ。逆にあまり強くない者が生息している地域は生態系が多様だな。例えば、魔族や獣族の中位種がいるような土地は面白い生き物がいたりする」

「どんなものがいるのですか?」

「お前たちの地域では木は動かないが、長年魔素の影響を適度に受けると、木であるのに自分で動くようになったりする。森の密林では、光合成のために、光がより強く当たる場所を植物は求めるが、最初から自分で動けるならその方が効率がいい。だから、その日の天気等に応じて自ら場所を変える植物がいたりする」

「あ、それ知っています。トレントですね」

「知っているのか?お前たちの知識では見たことなかったが」

「実は、エルフの古文書にそのような記述があるのです。大半の人族は知らないでしょうが、私はエルフの当代であったのでその書物を読む権利があったので」

「なるほど。お前たちも三千年以前は世界を放浪していたのだったな。正直、俺は強い者にしか興味がないから、弱い者が住む土地へはあまり行ったことがない。お前が興味のあるような綺麗な場所・変わった生き物についてはケリドの方が詳しいだろう」

「じゃあ、今度一緒にそういう場所を旅行してみませんか?」

「お前は行きたいのか?」

「はい。ゼムド様はダメですか?」

「……いや、ダメじゃない。俺も行ってみたい。そのうち時間を作って、世界を回ってみてもいいかもしれない」

 その言葉を聞いて、キエティは腕に少し力を入れて、ゼムドに顔を近づけた。

「約束ですよ」

 ゼムドはその言葉には返事をしなかったが、キエティの方を一瞥して、それから一気に加速した。今の速度では、今日中にキウェーン街まで到着することができない。ゼムドは約束の確認とばかりに速度を上げたのだった。

***************

 ゼムドがキウェーン街上空で、飛行速度を落とした。
 そして、ギルドを確認すると、そこへ一瞬で着地して、姿を隠す結界を解除した。
 ギルド内部へゼムドとキエティで入ってみることにする。
 内部へ入って、受付へ歩いていく。
 ゼムドはキエティの後ろに待機して、キエティが受付嬢に話しかけた。

「すみません。私はキエティ=サメワイドフルという者なのですが、本日、ギルドの要請でダンジョン探索を行える人物を連れて参りました。キリ=カスタロス様にお取次ぎお願いしたいのですが」

「ああ、キエティ様ですね。お話については窺っております。すぐにキリを呼んで参りますので、ここでお待ちください」

 そう言って、受付嬢は通信板を使って、連絡を取り始めた。
 しばらくして、キリが階段を使って上昇階から降りてきた。

「キエティ、久しぶり。それに、ゼムド様もこの度はありがとうございます」

「キリ、久しぶりね。こっちも会えるのを楽しみにしていたわ」

「久しぶりだな、キリ。お前と最後に会った時は、別れも言わずに飛んで行ってしまった。世話になっていたのに悪かったな」

 キリが驚いたような顔をした。

「いえいえ、とんでもない。それより……いえ、どうでもいいことですね」

 ゼムドが質問した。

「オリバとギルマスはどうだ? 元気にしているか? この街もあの後、随分大変だったみたいだな。俺が早い段階で対処していれば問題なかったはずだが、あのグリフォンが来た日の翌日の住民避難で、えらい迷惑をかけたらしいじゃないか」

「ええ、あれは大変でした。ギルマスの指示で、住民を少しでもダンジョンへ逃がすという作業をしていたのですが、何せ時間もありませんでしたし、パニックでしたね。オリバさんもその時、寝ずに作業をしていて大変だったようです。何せもう高齢ですから」

「オリバは調子が悪いのか?」

「ええ、悪いことは悪いです」

 ゼムドの顔が曇った。

「……俺のせいか。それは申し訳ないことをしたな」

 ここでキリがバツの悪そうな顔をした。

「いえ、今年の正月に餅の食べ過ぎで、のどを詰まらせ、それが原因で今も調子が悪い感じです」

「……」

 ゼムドはオリバの話を無視して次の言葉を発した。

「ギルマスはどうだ?」

「今は明日の準備に追われています。一応あれでもギルドマスターなので。それなりにやらなければいけないことがありますね。夕方にはこちらへ来るので、その時に会って、明日の予定等について打ち合わせをして頂きたいと思うのですが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。問題ない。じゃあ、それまでは時間が空いているということでいいのか?」

「はい。そうなりますね。私としては、てっきり夕方にいらっしゃると思っていたのですが、こんなに早くに来ていただけるとは思っていませんでした。せっかくですから、何か観光でもしていきますか?」

「可能なら、あの時、世話になった人々に会ってみたいな。宿に泊まって世話になった連中にも礼を言いたい」

「いえいえ、皆、感謝していますよ。あれくらいのことは大したことではありません。結果だけみれば、人族には誰も被害者が出ることなく、グリフォンからの支配も無くなったわけですし、今回お忍びでのご来訪でなければ、街を上げてゼムド様の歓迎をしたいくらいですよ。公にしたくないというご意向でしたので、遠慮させていただきましたが」

「そうなのか。そんなに俺は感謝されているのか」

「それはそうですよ。数千年に渡って、行われていた理不尽が解消されたのですから。今後は財政的な面でもいろいろな分野に資金を回せるようにもなるので、人々の生活も変わると思います」

「まぁ、それならよかった。何か問題があるなら言ってくれ。俺にも色々事情があって、極端な優遇はできないが、人命等が関わる話ではあれば、それなりの対処はするつもりだ」

「ありがとうございます」

そう言って、キリはキエティの方を見た。

「キエティはこの後、どうするつもり?」

「私としてはゼムド様と一緒にこの街を見学でもしてみようかなぁ、と思っているのだけれど」

「そっか。じゃあ、適当に観光スポットを、と言いたいところなんだけど、実はここはあまり面白い場所はないのよねぇ……」

「ああ、いいよ、いいよ。適当に自分で歩いて回るから。大丈夫よ」

「そう? 私も時間があれば一緒に回ってあげたいけど、仕事中だし……ああ、そうじゃないのか。私はお邪魔か」

 キリはそう言って少し笑った。
 キエティは少し恥ずかしそうにしている。
 キリはその表情を見ながら続けた。

「とりあえず、荷物を預かっておくわ。宿のチェックインが出来る時間まではまだ少しあるから、そのアタッシュケースは邪魔でしょう?」

「そうね。荷物については預かってもらえると助かるわ」

 その後、キリに必要な荷物を預かってもらい、キエティはゼムドと一緒に街へ繰り出すことにした。
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