【完結】彼は皇帝なので、彼女は薬師として尽くすことにしました。

朝日みらい

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36. 試練の訪れ 

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改革の進行に合わせて、アラクシウスは日に日に自分の理想に固執していった。

あまりにも完璧を追い求める彼を見ていると、周囲の反発が強まるも無理はないと、私も思ってしまう。

でも、彼が目指しているのは、間違いなく帝国を良くするための道だと信じていたし、私自身もその手助けをしようと決めていた。

だけど、その理想を追い求めるあまり、アラクシウスはどんどん孤立していく。

彼は周囲と対立を深め、ついには帝国の中枢での圧力に耐えられなくなったように見えた。

「エリナ、もう少しだけ、我慢してくれ。」

アラクシウスが疲れきった顔をして、私に言った。

その目は、どこか遠くを見つめているようだった。

「無理よ、こんなに無理してるのを見てると、私だって心配になっちゃうわ。」

私は彼の顔を見つめ、少しだけ声を荒げて言った。

彼が無理をしすぎると、私まで息が詰まりそうになる。

「大丈夫だ。もう少しだけ…」

彼はいつもの強気な笑顔を見せようとしたけれど、その疲れ切った顔が隠せていなかった。

でも、彼は私がどうしても無理をしていることに気づいていなかった。

私はどんどん彼に近づいていくけれど、同時に彼は私との距離を少しずつ作っていってしまう。

お互いの心の距離が少しずつ広がっていくのを感じる。

ある晩、私はアラクシウスが一人で書類を眺めながら溜息をついているのを見て、心が痛んだ。

「ねえ、アラクシウス。」

私は静かに声をかけた。

彼は顔を上げ、少し疲れた笑顔を見せてくれた。

「君も遅くまで働いてるな。休んで、俺が全部やるから。」

「それが問題じゃないの。」

私はため息をつき、隣に座った。

「あなたが無理しすぎて、私が見ているのも辛いの。あなたを支えたいのに、どうすればいいか分からないわ。」

アラクシウスはしばらく黙っていたけれど、やがて手を伸ばして私の手を握った。

「俺が弱音を吐くのは嫌だと思うけど、正直、もう限界だ。帝国のことも、周りのことも、全部一人で背負おうとしてしまっていた。」

その言葉に、私の心がぐっと締めつけられた。

私はただ、彼を支えたかった。

それだけなのに、逆に彼を追い詰めてしまったのではないかと不安になる。

「アラクシウス…」

私は静かに、彼の手を握り返す。

「私も、もっとあなたのことを理解したい。辛い時、無理して笑わなくてもいいんだよ。私も、あなたと一緒に支え合いたい。」

アラクシウスは少し驚いたように私を見つめた。

「エリナ…」

その瞬間、彼は少し顔を緩めて、私の髪にそっと触れた。

「ありがとう、エリナ。お前がいてくれるから、俺もまだ頑張れる。」

その言葉に、私は心が温かくなった。

でも、その瞬間からも少しだけ距離を感じてしまう自分がいた。

彼が重い責任を背負い込んでいるからこそ、私はどうしても後ろから支えたいと思うんだけど、そんなに簡単にはいかない。


次の日も、アラクシウスは忙しくて、私もまた自分の仕事をしながら心の中で悩んでいた。

どんなに頑張っても、私たちの間に感じる微妙な距離が広がっている気がして、何か方法がないか考えてみるけれど…。

その夜、アラクシウスがまたひとりで作業しているところに、私は忍び寄って静かに声をかけた。

「アラクシウス、また頑張ってるの?」

「うん。」

彼は少し顔を上げ、私を見てにっこり笑った。

「お前がこうして来てくれると、すごく安心する。」

「ほんとうに?」

私は少しだけ照れながら、彼に近づいて手を差し出す。

「じゃあ、今日は少しだけ休んで。私と一緒に、ゆっくり過ごしましょう?」

アラクシウスは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに私の手を取って、「お前がそう言うなら、休むしかないな。」と言いながら、嬉しそうに微笑んだ。

その時、私はやっと少しだけ彼との距離を縮めたような気がした。

少しの笑顔でも、あの時の彼と私の距離が、少しだけ元に戻ったように感じた。
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