【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい

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【第5章】 同居の幕開け

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 ルシアンさまとの“契約婚”が正式に決まってから、わたしは王宮の一角にある離れへと移ることになりました。  
 そこは、王族や高位貴族が滞在するための離宮のような場所で、広すぎず、しかし十分に優雅な造りをしています。

 そして――。

(……ここで、ルシアンさまと一緒に暮らすのですね)

 胸の奥が、またどくんと跳ねました。

 魔物と戦うときでさえ、こんなふうに心臓が忙しく動くことはありませんでした。  
 けれど、ルシアンさまのこととなると、どうしてこうも落ち着かないのでしょう。

 そんなことを考えていると、扉が静かにノックされました。

「アリアさま。ルシアン・クロードさまがお越しです」

 侍女の声に、わたしは思わず姿勢を正しました。

「お通しして」

 扉が開き、黒髪の青年が姿を現しました。

 深い夜の色を思わせる髪。  
 伏せられた睫毛の影。  
 そして、どこか影を帯びた瞳。

 そのすべてが、わたしの胸を締めつけます。

「……失礼します、アリアさま」

 ルシアンさまは丁寧に頭を下げられました。  
 その所作は洗練されているのに、どこかぎこちなくて――胸がきゅうっと痛みました。

(……どうして、そんなふうに自分を小さく見せるの)

 わたしが立ち上がると、ルシアンさまは少し驚いたように目を瞬かせました。

「今日から……よろしくお願いいたします、アリアさま」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 そう言いながらも、わたしの心臓はまた忙しなく跳ね始めました。

 ルシアンさまはしばらく部屋を見回し、やがて静かに口を開かれました。

「……本当に、俺と一緒に暮らしてもよろしいのですか」

「はい。契約婚ですし、当然のことですわ」

「……そう、ですね」

 ルシアンさまはわずかに視線を伏せ、どこか寂しげに微笑まれました。

 その笑みが、胸に刺さります。

(……どうして、そんな顔をするのよ)

 わたしが問いかけるより先に、ルシアンさまはゆっくりと歩み寄ってこられました。

 距離が縮まるたびに、胸がどきどきと騒ぎます。

「アリアさま」

「は、はい」

「俺は……あなたに甘い言葉をかけることしかできません」

「……?」

「それしか、取り柄がないので」

 その言葉は、まるで自分を嘲笑うようでした。

 わたしは思わず首を振りました。

「そんなこと、ありません。あなたは……とても優しい方です」

「優しい……?」

「はい。昨日も、わたしの手を取ってくださったとき……とても、優しかったです」

 ルシアンさまは驚いたように目を見開かれました。

 そして――。

 そっと、わたしの髪に触れられたのです。

「……アリアさま。そんなふうに言われたのは、初めてです」

 その指先は、驚くほど優しくて。  
 胸の奥がじんわりと熱くなり、息が詰まりました。

(……これは、ずるい……ですわ)

 こんなふうに触れられたら、惹かれてしまうに決まっています。

 わたしが固まっていると、ルシアンさまはふっと手を離し、少しだけ距離を取られました。

「……すみません。つい」

「い、いえ……」

 わたしの声は震えていました。

 ルシアンさまはそんなわたしを見て、どこか申し訳なさそうに微笑まれました。

「アリアさま。俺は……あなたに嫌われたくないのです」

「嫌うなんて、そんなこと……」

「でも、俺は……あなたが思っているより、ずっと悪い男ですよ」

 その言葉に、胸が痛みました。

(……どうして、そんなふうに自分を卑下するのですか)

 わたしはそっと、ルシアンさまの手を取りました。

「わたしは……あなたを嫌いになったりしません」

「…………」

「あなたのお顔が好きです。それは、変わりませんし」

 ルシアンさまは、しばらく言葉を失われたようでした。

 そして――。

 そっと、わたしの手を握り返されたのです。

「……アリアさま。あなたは……俺には、眩しすぎるから」

 その囁きは、胸の奥に深く染み込みました。
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