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第一章 夜の逃避行
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――遠くから、鐘の音が聞こえました。
最初は夢の中の幻かと思いました。ですが、耳をつんざくような女の叫びで、その幻想はあっけなく引き裂かれたのです。
「王女様、お逃げください!」
聞き慣れた侍女リゼの声でした。
私は跳ね起き、寝台の天蓋を押しのけて立ち上がります。胸の鼓動がひどく早い。息を吸い込むたびに冷たい空気が肺を刺しました。
「まさか……戦、なの……?」
ずっと噂で聞かされていた隣国ヴェルファの侵攻。けれど戦など所詮は遠い話だと思っていたのです。夜の帳の下、城の石壁が揺れ、どこかで爆ぜる音がしました。まるで夢の続きのようで、足が動きませんでした。
「王女様! お早く!」
リゼに手を引かれ、私は寝間着のまま廊下へ飛び出しました。
冷えた床の感触が足裏に生々しく伝わり、現実が一気に押し寄せてきます。
廊下の奥では、炎が赤い舌を伸ばしてカーテンを呑み込んでいました。
兵士たちの怒号、剣がぶつかる音、悲鳴。
いつも穏やかな王城の夜が、知らない世界の地獄に変わっていました。
「お父様もお兄様も……無事なの?」
「地下の通路でお待ちです!」
リゼの声に背中を押され、私はスリッパを脱ぎ棄てて駆けだしました。
城の石段を下りるたび、煙の匂いが強くなります。
瞳が沁み、思わず涙がこぼれそうになったとき、重い鉄扉が軋みながら開きました。
そこにいたのは、鎧姿のお父様とお兄様。
ふたりとも、いつもの柔らかな笑みを浮かべてはいませんでした。
「ミルフィーユ。母上を連れて逃げるんだ。城の外の森まで行け」
お父様の声は低く、鋼のように冷たかった。
「で、でも……お父様は? 兄様は?」
「我らはここで残る。おまえたちは生き延びるのだ」
「嫌です、わたしも一緒に――!」
「命令だ、ミルフィーユ!」
その一喝に胸が締めつけられました。
泣きたい。けれど泣いたら、きっと足が止まってしまう。
唇を噛みしめ、私はうなずきました。
お母様の手を取ると、通路の奥の闇へ走り出します。
石壁が湿り、滴る水音が響いていました。
「王女様、こちらです!」
リゼが松明を掲げ、狭い通路を先導します。
炎の光が壁に揺らめき、影が踊りました。
その影のひとつひとつが、まるでお父様やお兄様の別れの顔のように見えて、胸が痛くなりました。
やがて――。
通路の先に、夜の風が吹き抜けてきました。
地上に出た瞬間、冷たい空気が頬を打ちます。
「……こんな夜なのに、星がきれい」
思わず呟くと、お母様の肩が小さく震えました。
戦の煙が立ちこめ、空の星が霞んでいるのに、それでも月だけは白く、静かに輝いていました。
「ミルフィーユ、足を止めてはなりません」
「わかっています。でも……」
振り返れば、城が燃えていました。
白亜の塔が炎に包まれ、煙が空を焦がしている。
あれが、私たちの“家”だったのに。
「お父様……兄様……!」
お母様は崩れ落ち、嗚咽を漏らしました。
私は必死にその体を支えます。
「行きましょう、お母様。立ってください。まだ――まだ間に合います!」
腕に力をこめ、半ば引きずるようにして森へ駆けていきます。
リゼともう一人の侍女、そして従者の少年。
護衛らしい護衛もいません。まさかこの小さな一行が、王家の最後の生き残りだなんて、信じられませんでした。
森の中は暗く、鳥の声さえしません。
ただ風が木々を鳴らし、時折、遠くで叫び声のような響きがします。
「こっちです、王女様!」
リゼの声が震えていました。
足元の枝に足を取られ、転びそうになります。
お母様の手を離したら、もう二度と掴めない気がして――私は必死に握りしめました。
その手は、少しずつ冷たくなっていました。
夜は長く、無慈悲でした。
何度も振り返り、そのたびに焼け落ちる城の塔が遠くなっていくのを見つめました。
あの塔で、お父様とお兄様はどうしているのだろう。
まだ剣を振るっていらっしゃるだろうか。
それとも、もう――。
考えた瞬間、胸の奥が痛み、息が詰まりました。
私は思わず声を上げました。
「お父様――っ!」
リゼが慌てて私の口を塞ぎます。
「いけません、音を立てては!」
「……ごめんなさい」
唇に冷たい手の感触が残りました。
その瞬間、かすかに涙の味がしました。
****
どれだけ走ったのか、わかりません。
明け方、木々の隙間から薄く光がさしこみました。
やっと見つけた小さな洞窟で、私たちは身を寄せました。
息をするのも苦しくて、喉が焼けるように痛かった。
お母様は壁に寄りかかりながら、静かに目を閉じています。
「……もう、疲れましたね」
「お母様……」
リゼは黙って私たちのそばに座りこんだまま、肩を震わせています。
私も同じでした。
逃げて、泣いて、いつの間にか呼吸すら浅くなっていました。
でも、沈黙が怖かった。
だから私は、少しの勇気をふりしぼって口を開きました。
「……歌を、歌いませんか?」
「ミルフィーユ?」
お母様が私を見る。その瞳には深い悲しみが宿っていました。
「こんな時に、歌うだなんて」
「でも、歌えば……心が少しだけ温かくなります」
自分でも震え声でした。
それでも、何かしなければ息が詰まりそうで。
私は乱れた金髪をほどき、静かに目を閉じました。
「――月よ、祈りを届けてください」
小さな声で、幼い頃から歌ってきた歌を口ずさみます。
♪やさしい光が 指先を揺らす
眠れぬ夜は 君を思い出す
愛しさも痛みも 月にゆだねて
明日へと歩きだせるように
この祈り 空へ届け
静かな闇に 願いを描く
声にはできない 涙の理由(わけ)も
寄り添う心で 包み込めたなら
孤独も迷いも そっと溶かすよ
君がくれた笑顔 今も胸に灯る
どんな運命でも 歌い続ける
きらめく夜空に 誓いを乗せて
離れていても 君に届くよう
愛しさも痛みも 月にゆだねて
歩きだす 未来へ
この祈り 空へ届け♪
音が洞窟の中をやわらかく回り、冷たい空気が少しだけ澄んだ気がしました。
お母様がゆっくりと顔を上げました。
侍女たちも、その歌に合わせて、震える唇を動かしています。
気づけば、私自身の胸の奥から涙がこぼれていました。
でも、それは悲しみだけの涙ではありません。
生きていることを確かめるような、そんな温かい涙でした。
****
「……素敵な声だね」
突然、洞窟の入り口から声が響きました。
驚いて振り向くと、光の中に数人の影が立っていました。
旅装束をまとった男女、背に楽器を背負った者もいます。
先頭にいた黒髪の青年が、にこりと笑いました。
「誰……ですか?」
「怪しい者じゃないよ」
青年は軽く手を上げ、ほんの少し冗談めかした声で言いました。
「僕はカルベ。旅芸人のギター弾きさ」
その目は澄んでいて、まるで夜明けの光のようでした。
「君たち、逃げてきたんだろう? どこへ行くの?」
私は迷いました。けれど、真っ直ぐなその瞳に嘘はつけませんでした。
「……隣国のシリウスまで行きたいんです。お願いです、助けてください」
カルベさんは少しだけ眉を寄せ、仲間の方を見ました。
彼らの顔が、一斉に曇ります。
「王族なんて連れてたら、俺たちまで首が飛ぶぞ」
「そうだ、関わるのはやめとけ」
冷たい声に、私は唇を噛みました。
そうですよね。誰も、巻き込まれたくなんてない――。
その時、カルベさんが静かに首を振りました。
「見捨てられない。歌を歌える人を、そんなふうに放っておくなんて、芸人として恥ずかしい」
場の空気が止まりました。
そして、親方らしき壮年の男がぼそりと呟きました。
「……まったく、お人よしだな。好きにしろ。ただし、足を引っ張ったら置いていくぞ」
「ありがとうございます!」
私は思わず頭を下げました。
その拍子に、カルベさんの笑顔がほんの少し柔らかくなったのが見えました。
最初は夢の中の幻かと思いました。ですが、耳をつんざくような女の叫びで、その幻想はあっけなく引き裂かれたのです。
「王女様、お逃げください!」
聞き慣れた侍女リゼの声でした。
私は跳ね起き、寝台の天蓋を押しのけて立ち上がります。胸の鼓動がひどく早い。息を吸い込むたびに冷たい空気が肺を刺しました。
「まさか……戦、なの……?」
ずっと噂で聞かされていた隣国ヴェルファの侵攻。けれど戦など所詮は遠い話だと思っていたのです。夜の帳の下、城の石壁が揺れ、どこかで爆ぜる音がしました。まるで夢の続きのようで、足が動きませんでした。
「王女様! お早く!」
リゼに手を引かれ、私は寝間着のまま廊下へ飛び出しました。
冷えた床の感触が足裏に生々しく伝わり、現実が一気に押し寄せてきます。
廊下の奥では、炎が赤い舌を伸ばしてカーテンを呑み込んでいました。
兵士たちの怒号、剣がぶつかる音、悲鳴。
いつも穏やかな王城の夜が、知らない世界の地獄に変わっていました。
「お父様もお兄様も……無事なの?」
「地下の通路でお待ちです!」
リゼの声に背中を押され、私はスリッパを脱ぎ棄てて駆けだしました。
城の石段を下りるたび、煙の匂いが強くなります。
瞳が沁み、思わず涙がこぼれそうになったとき、重い鉄扉が軋みながら開きました。
そこにいたのは、鎧姿のお父様とお兄様。
ふたりとも、いつもの柔らかな笑みを浮かべてはいませんでした。
「ミルフィーユ。母上を連れて逃げるんだ。城の外の森まで行け」
お父様の声は低く、鋼のように冷たかった。
「で、でも……お父様は? 兄様は?」
「我らはここで残る。おまえたちは生き延びるのだ」
「嫌です、わたしも一緒に――!」
「命令だ、ミルフィーユ!」
その一喝に胸が締めつけられました。
泣きたい。けれど泣いたら、きっと足が止まってしまう。
唇を噛みしめ、私はうなずきました。
お母様の手を取ると、通路の奥の闇へ走り出します。
石壁が湿り、滴る水音が響いていました。
「王女様、こちらです!」
リゼが松明を掲げ、狭い通路を先導します。
炎の光が壁に揺らめき、影が踊りました。
その影のひとつひとつが、まるでお父様やお兄様の別れの顔のように見えて、胸が痛くなりました。
やがて――。
通路の先に、夜の風が吹き抜けてきました。
地上に出た瞬間、冷たい空気が頬を打ちます。
「……こんな夜なのに、星がきれい」
思わず呟くと、お母様の肩が小さく震えました。
戦の煙が立ちこめ、空の星が霞んでいるのに、それでも月だけは白く、静かに輝いていました。
「ミルフィーユ、足を止めてはなりません」
「わかっています。でも……」
振り返れば、城が燃えていました。
白亜の塔が炎に包まれ、煙が空を焦がしている。
あれが、私たちの“家”だったのに。
「お父様……兄様……!」
お母様は崩れ落ち、嗚咽を漏らしました。
私は必死にその体を支えます。
「行きましょう、お母様。立ってください。まだ――まだ間に合います!」
腕に力をこめ、半ば引きずるようにして森へ駆けていきます。
リゼともう一人の侍女、そして従者の少年。
護衛らしい護衛もいません。まさかこの小さな一行が、王家の最後の生き残りだなんて、信じられませんでした。
森の中は暗く、鳥の声さえしません。
ただ風が木々を鳴らし、時折、遠くで叫び声のような響きがします。
「こっちです、王女様!」
リゼの声が震えていました。
足元の枝に足を取られ、転びそうになります。
お母様の手を離したら、もう二度と掴めない気がして――私は必死に握りしめました。
その手は、少しずつ冷たくなっていました。
夜は長く、無慈悲でした。
何度も振り返り、そのたびに焼け落ちる城の塔が遠くなっていくのを見つめました。
あの塔で、お父様とお兄様はどうしているのだろう。
まだ剣を振るっていらっしゃるだろうか。
それとも、もう――。
考えた瞬間、胸の奥が痛み、息が詰まりました。
私は思わず声を上げました。
「お父様――っ!」
リゼが慌てて私の口を塞ぎます。
「いけません、音を立てては!」
「……ごめんなさい」
唇に冷たい手の感触が残りました。
その瞬間、かすかに涙の味がしました。
****
どれだけ走ったのか、わかりません。
明け方、木々の隙間から薄く光がさしこみました。
やっと見つけた小さな洞窟で、私たちは身を寄せました。
息をするのも苦しくて、喉が焼けるように痛かった。
お母様は壁に寄りかかりながら、静かに目を閉じています。
「……もう、疲れましたね」
「お母様……」
リゼは黙って私たちのそばに座りこんだまま、肩を震わせています。
私も同じでした。
逃げて、泣いて、いつの間にか呼吸すら浅くなっていました。
でも、沈黙が怖かった。
だから私は、少しの勇気をふりしぼって口を開きました。
「……歌を、歌いませんか?」
「ミルフィーユ?」
お母様が私を見る。その瞳には深い悲しみが宿っていました。
「こんな時に、歌うだなんて」
「でも、歌えば……心が少しだけ温かくなります」
自分でも震え声でした。
それでも、何かしなければ息が詰まりそうで。
私は乱れた金髪をほどき、静かに目を閉じました。
「――月よ、祈りを届けてください」
小さな声で、幼い頃から歌ってきた歌を口ずさみます。
♪やさしい光が 指先を揺らす
眠れぬ夜は 君を思い出す
愛しさも痛みも 月にゆだねて
明日へと歩きだせるように
この祈り 空へ届け
静かな闇に 願いを描く
声にはできない 涙の理由(わけ)も
寄り添う心で 包み込めたなら
孤独も迷いも そっと溶かすよ
君がくれた笑顔 今も胸に灯る
どんな運命でも 歌い続ける
きらめく夜空に 誓いを乗せて
離れていても 君に届くよう
愛しさも痛みも 月にゆだねて
歩きだす 未来へ
この祈り 空へ届け♪
音が洞窟の中をやわらかく回り、冷たい空気が少しだけ澄んだ気がしました。
お母様がゆっくりと顔を上げました。
侍女たちも、その歌に合わせて、震える唇を動かしています。
気づけば、私自身の胸の奥から涙がこぼれていました。
でも、それは悲しみだけの涙ではありません。
生きていることを確かめるような、そんな温かい涙でした。
****
「……素敵な声だね」
突然、洞窟の入り口から声が響きました。
驚いて振り向くと、光の中に数人の影が立っていました。
旅装束をまとった男女、背に楽器を背負った者もいます。
先頭にいた黒髪の青年が、にこりと笑いました。
「誰……ですか?」
「怪しい者じゃないよ」
青年は軽く手を上げ、ほんの少し冗談めかした声で言いました。
「僕はカルベ。旅芸人のギター弾きさ」
その目は澄んでいて、まるで夜明けの光のようでした。
「君たち、逃げてきたんだろう? どこへ行くの?」
私は迷いました。けれど、真っ直ぐなその瞳に嘘はつけませんでした。
「……隣国のシリウスまで行きたいんです。お願いです、助けてください」
カルベさんは少しだけ眉を寄せ、仲間の方を見ました。
彼らの顔が、一斉に曇ります。
「王族なんて連れてたら、俺たちまで首が飛ぶぞ」
「そうだ、関わるのはやめとけ」
冷たい声に、私は唇を噛みました。
そうですよね。誰も、巻き込まれたくなんてない――。
その時、カルベさんが静かに首を振りました。
「見捨てられない。歌を歌える人を、そんなふうに放っておくなんて、芸人として恥ずかしい」
場の空気が止まりました。
そして、親方らしき壮年の男がぼそりと呟きました。
「……まったく、お人よしだな。好きにしろ。ただし、足を引っ張ったら置いていくぞ」
「ありがとうございます!」
私は思わず頭を下げました。
その拍子に、カルベさんの笑顔がほんの少し柔らかくなったのが見えました。
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