【完結】もう手を離さない ―失われた王国の王女と、ギターの青年―

 夜の静寂を破るように、王城に悲鳴がこだました。
 ヴェルファ国軍の急襲によって、王国は一夜にして炎に包まれる。
 寝台から飛び起きた王女ミルフィーユは、侍女リゼに手を引かれながら必死に廊下を駆け抜け、燃え上がる城を後にする。

 地下の通路で出会った父王と兄は鎧姿で立ち塞がり、彼女に命じた。
 「母を連れて逃げろ」
 その命に涙をこらえ、ミルフィーユは最後の抱擁すら交わせぬまま城を後にする。

 夜風は冷たく、森には闇と炎の匂い。
 母を伴って逃げるその足取りは徐々に鈍り、追手の影が迫る。
 燃える塔を振り返るたび、胸の奥に“もう帰れない”という確信が痛みを残した。

 森を抜け、逃げ延びた先は、夜明け前の小さな洞窟。
 誰もが疲れ果て、言葉も忘れる中――
 ミルフィーユは亡国の歌“月の祈り”を口ずさむ。
 涙をこらえながら響かせたその声が、やがて暗闇を照らし出す。

 そして運命の朝。
 洞窟の入り口に、音もなく現れた一団――旅芸人の一座。
 その中の黒髪の青年、ギター弾きカルベとの出会いが、彼女の新しい人生の幕を開けていく――。
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