【完結】王妃は今日も離婚を決意する ~悪役令嬢に転生したけど、息子も夫もクズでした~

朝日みらい

文字の大きさ
2 / 11

第二章 聖女リリアンヌと“聖女ブーム”

しおりを挟む
 ――王都が、なんだかすごいことになっていました。

 白い花びらが空を舞い、鐘が鳴り響く大通り。  
 正門前には、聖女の絵を描いた旗が林立しており、人々が一心に祈りを捧げています。

「神よ、リリアンヌ様に祝福を……!」

 ええ、そう。リリアンヌ様です。  
 例の、ゲームに登場していた“金髪碧眼の完璧ヒロイン”――リリアンヌ・セラフィム。  
 しかも今世では、神殿直属の“聖女”として降臨していました。

「……想像以上に“降臨”してますね」  

 窓越しにその光景を眺めながら、私は思わず苦笑します。  
 街角には彼女の顔を描いたお守りグッズ。聖女ブロマイド。果ては“聖女キャンドル”まで。  
 宗教なのかアイドルなのか、もはや区別がつきません。  

「王妃様、最近は貴族の間でも『聖女様ブレスレット』が流行しているそうですよ」  
 と、マルタが言いました。  

「ほう。それをつけると、恋が叶うとか?」  
「ええ。身に着けた令嬢の婚約者が一晩で改心する、とか」  
「即日効果。怖い薬並みですね」  

 マルタが「ぷっ」と噴き出して、私も笑いました。  
 冗談じゃなく、まさにこの国の婚約者たちは聖女に夢中。  
 勉学も仕事も放棄して、彼女の説教を聞くために神殿へ通っている始末です。  

 ――授業が中止になった学園まであるとか。  

(いよいよやばいな、リヒト王国)  

 だってね。  
 乙女ゲームの“聖女ルート”って、本来は恋愛イベントの花形だったんですよ。  
 でも、現実(?)の彼女はどう見ても宗教のカリスマ。  
 王都じゅうが「リリアンヌ教」に入信しかけています。

---

「リリアンヌ様、今日もお美しい!」  
「リリアンヌ様の奇跡を、もっと見せてください!」  

 叫ぶ貴族青年たちの声が、城の中まで届きました。

(あの中に、うちの王太子も混ざってそうだな……)

 また息子ネタですか。もう母の胃がもちません。  

 案の定、昼の執務中にフィリップ殿下が駆け込んできました。

「母上っ! なんてことだ、リリアンヌ様が神託を授けてくださったんです!」  
「ほう。どんな神託かしら」  
「“皆で祈りましょう♡”です!」  

 語尾のハートが聞こえた気がしました。  
 私は書類から目を上げず、静かにペンを置きます。  

「殿下。神託とは通常、国政の方針を定める重大なお言葉を指します」  
「……はい」  
「“皆で祈りましょう♡”は……ただのスローガンです」  

 殿下の顔がカナリア色に固まりました。

「で、でも! リリアンヌ様の祈りで、花が咲いたんですよ!」  
「それは春です」  

 マルタが後ろで吹き出しそうになり、私は懸命に真顔を保ちました。  

(息子よ……本気でハートマークに洗脳されているのね)  

---

 午後、私は王立学園の状況報告を受け取って言葉を失いました。  

 授業は半分が“祈りの時間”に置き換えられ、  
 教授会では「科学より信仰を」という演説が飛び交っているそうです。

「ええと……ここ、中世ルネサンスどこ行った案件ですね」  

 マルタが「頭が痛いです」と言うのも無理ありません。  
 けれど私は、笑って受け流しました。  

「まあまあ、ブームにはピークと終焉があるものですわ」  
「王妃様、のんきに構えておられますけど……」  

心配しないで。前世、SNSの流行を見てきましたから。どうせ次のネタが出れば皆そっちへ流れます。 

 
 ――数日後。  
 城の広間にて、私が報告書をまとめていた時のことです。  

 扉が勢いよく開き、白と金の光が差し込みました。  
 まるで太陽が歩いてきたみたいに。  

「クラリス王妃様。お会いできて光栄ですわ」  

 金糸の髪。翡翠のような瞳。  
 まばゆい微笑――聖女リリアンヌがそこに立っていました。  

(あ、これが噂の“眼福詐欺スマイル”)  

「まあ、これはこれは。ご多忙の王都に、ようこそお越しくださいました」  
「陛下からのご用命を受けまして。聖なる慈善祭のお話を、と」  

 おっと来た、イベントフラグ。  
 慈善祭といえば、ゲームでも“偽善の象徴イベント”だったはず。  

「聖女様のご活動、見事なものですわね。市民の人気もうなぎのぼりとか」  
「ええ。神は皆を愛しておられますもの。私も、その愛をお伝えしているだけです」  

 表面は完璧。  
 でも、瞳の奥には僅かに計算が見えました。  

(やっぱりね。腹の中、真っ黒系だ)  

「王妃様もどうぞ。“共に祈る”お仲間として」  
「ご遠慮させていただきます。悪女なので、神に嫌われますの」  

 ふっと沈黙が落ち、リリアンヌの笑みが一瞬だけ揺れました。  

「……そういう皮肉は、お控えになった方がよろしいかと」  
「ご忠告、感謝します。でも、皮肉を捨てると私が死ぬんです」  

 彼女の睫毛がほんの僅かに震えたのを見て、私はひそかに満足。  

(さて、このゲーム、シナリオ全部バグらせてやりますか)  

---

 夜、部屋に戻るとマルタが駆け込んできました。  

「王妃様っ! 聖女様が、近衛騎士たちに“神聖な踊りの練習”を命じられたとか!」  
「神聖な……? どんな踊り?」  
「えっと……こう、ぐるぐる回って、ハートを手で作るような……」  

 わあ、完全に宗教じゃなくてダンスユニットですね。

 頭を抱える私。  
 けれど、笑いがこみあげて止まりませんでした。  

「……面白くなってきましたね、マルタ」  
「王妃様、まさか楽しんでおられます?」  

だって、混沌ほど改革のチャンスがあるんですもの。 

 窓の向こうで満月が輝いていました。  
 過剰な信仰、暴走する恋愛、沈黙する政治。  
 その全部を、皮肉と知性で塗り替える――。  

 次の策を考えると、胸の奥が熱くなりました。  

(いいわ。この国、教育から立て直しましょう)  

「マルタ、明日の予定を。学園長との面会を入れて」  
「はいっ、王妃様!」  

 彼女の返事を聞きながら、私は静かに笑いました。  

「恋愛バカを救うには、経済と教育。  
 ふふ、ようやく“仕事モード”の出番ね」  

 机の上に、新しい帳簿と青い羽ペンが置かれています。  
 月明かりの下、それを手に取って書き出した一行。  

『王妃改革計画・第一章 理性教育の再構築』    

 やれやれ。これだから、前世OLは忙しいんです。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、自由に生きたら王太子が失脚しましたあ

鍛高譚
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢 ロザリー・フォン・アーデン は、王太子 エドワード・カミル・レグノード の婚約者として誰もが認める完璧な貴族令嬢だった。 しかしある日、王太子は突如 “聖女” を名乗る平民の少女 セシリア・ブランシュ に夢中になり、ロザリーに無情な婚約破棄を言い渡す。 「これは神の導きだ! 私の本当の運命の相手はセシリアなんだ!」 「ロザリー様、あなたは王太子妃にふさわしくありませんわ」 ──ふたりの言葉を前に、ロザリーは静かに微笑んだ。 「……そうですか。では、私も自由に生きさせていただきますわね?」 だが、これがロザリーの “ざまぁ” 逆転劇の幕開けだった! 神託と称して王太子を操る “聖女” の正体は、なんと偽者!? さらに王室財政を私物化する 汚職貴族との黒い繋がり も発覚!? 次々と暴かれる陰謀の数々に、王宮は大混乱。 そして、すべての証拠が王の手に渡ったとき──王太子 エドワードは王太子の地位を剥奪され、偽の聖女と共に国外追放 となる! 「ロザリー様を捨てた王太子は大馬鹿者だ!」 「やっぱり王妃にふさわしかったのはロザリー様だったのよ!」 社交界ではロザリーへの称賛が止まらない。 そしてそんな彼女のもとに、なんと隣国の 若き王クラウス・アレクサンドル から正式な求婚が──!? 「私はあなたの聡明さと誇り高き心に惹かれました。私の王妃になっていただけませんか?」 かつての婚約破棄が嘘のように、今度は 本物の愛と自由を手にするチャンス が巡ってくる。 しかし、ロザリーはすぐに頷かない。 「私はもう、誰かに振り回されるだけの人生は選びません」 王妃となる道を選ぶのか、それとも公爵家の令嬢として新たな未来を切り開くのか──?

呪いのせいで太ったら離婚宣告されました!どうしましょう!

ルーシャオ
恋愛
若きグレーゼ侯爵ベレンガリオが半年間の遠征から帰ると、愛するグレーゼ侯爵夫人ジョヴァンナがまるまると太って出迎え、あまりの出来事にベレンガリオは「お前とは離婚する」と言い放ちました。 しかし、ジョヴァンナが太ったのはあくまでベレンガリオへ向けられた『呪い』を代わりに受けた影響であり、決して不摂生ではない……と弁解しようとしますが、ベレンガリオは呪いを信じていません。それもそのはず、おとぎ話に出てくるような魔法や呪いは、とっくの昔に失われてしまっているからです。 仕方なく、ジョヴァンナは痩せようとしますが——。 愛している妻がいつの間にか二倍の体重になる程太ったための離婚の危機、グレーゼ侯爵家はどうなってしまうのか。

【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。

まりぃべる
恋愛
 私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。  十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。  私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。  伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。 ☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

【完結】職業王妃にはなりません!~今世と前世の夢を叶えるために冒険者と食堂始めました~

Na20
恋愛
セントミル国の王家には変わった習わしがある。それは初代国王夫妻を習い、国王の妻である王妃は生涯国王を護る護衛になるということ。公務も跡継ぎも求められないそんな王妃が国の象徴とされている。 そして私ルナリア・オーガストは次期王太子である第一王子の婚約者=未来の王妃に選ばれてしまうのだった。 ※設定甘い、ご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...