【完結】王妃は今日も離婚を決意する ~悪役令嬢に転生したけど、息子も夫もクズでした~

朝日みらい

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第7章 広がる波紋、王妃への中傷

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 “婚約者逃亡計画”が動き出してから、二ヶ月が経ちました。  
 広まったのは、希望か混乱か――まあ、半分ずつですね。  

 地方では留学令嬢たちの成功談が話題になり、  
 王都では若い娘たちがそろって「クラリス様のように生きたい!」なんて言っています。  
 でも同時に、これが王宮をざわつかせていました。  

 側妃や保守派貴族にとっては、“教養を持つ女”ほど扱いづらい存在はないのです。  

「王妃が女たちを反乱に導いている」  
「国外に出すのは王国の恥を隠すためだ」  
「聖女を妬む悪女の策略だ!」  

 あらまぁ。聞けば聞くほど“褒め言葉”みたいで、笑っちゃいます。  

---

 そんな噂の渦の中でも、私はいつも通りの業務をこなしていました。  
 書類整理、教育院の進捗確認、農村振興計画……そして、“悪女評”のニュース収集。  

「王妃様、今日の最新の中傷まとめです」  
 マルタが困った顔で書簡の束を持ってきました。  

「ありがとう、どれどれ……」  
 目を通すと、見事にバリエーション豊か。  
 “冷血王妃”“魔女王妃”“家庭崩壊の元凶”“女狐”――ああ、もう、いっそ肩書にしたいくらい。  

「……どう思います?」とマルタ。  
「悪評も広報の一種よ。人気商売だもの、話題がない方が痛いの」  

 笑い飛ばすと、マルタは苦笑いで書簡束を片付けました。  

---

 けれど、さすがに面白くなくなったのが陛下のほうでした。  

 その日の夕方、謁見の間に呼び出され、王の怒声が響きました。  

「クラリス! 王妃の立場を忘れたか!」  
「どうかなさいました、陛下?」  
「余計な制度を作りおって! 街では“王より王妃のほうが頼りになる”とまで言われておる!」  

(それ、褒め言葉ですよ?)と内心で突っ込みつつ、顔には冷静な笑み。  
「民の声は止められませんわ。  
 私の行いが“頼りになる”と見られているなら、光栄なことです」  

「黙れっ!」  
「では、善処いたします」  

 そのやり取りに、侍従たちはひそひそと視線を交わしていました。  
 国王の顔が赤くなり、私の声が静かになる――  
 それだけで力関係の図が一目瞭然というのが、なんとも皮肉です。  

---

 謁見が終わった後。  
 私は城の廊下で、聖女リリアンヌとすれ違いました。  

「まぁ、王妃様。お顔の色が優れませんわね?」  
「お気遣いありがとう。ええ、少し“悪評疲れ”かしら」  
「ご安心なさいませ。神がお守りくださっていますもの」  

 やわらかな笑顔の裏で、鋭い棘が見え隠れしました。  
 そして耳元で、囁くように言われます。  

「どれほど悪女を演じても、皆が信じるのは神の奇跡ですわ」  
「奇跡の維持費が高くつかなければ、ね?」  

 ピクリ、と聖女の眉が動きました。  
 その沈黙を満足げに見届け、私は通り過ぎます。  

(さて、そろそろ“奇跡”のカラクリも暴く頃合いね)  

---

 その夜。  
 書庫にて、レオン団長と密会――いえ、情報交換をしておりました。  

「王妃様のご命令通り、神殿の資金流れを調べました」  
「それで?」  
 彼は封蝋を切り、書状を広げました。  

「神殿の一部収支に、“贈賄”と思しき記録が多数。  
 しかも、それを裏で握っているのは……王宮会計局長です」  

「ふふ……つまり、聖女の奇跡は“金の力”で叶うわけね」  
「証拠が揃えば、王も黙っていられません」  
「問題は、その“証拠”がどこまで踏み込めるか、ね」  

 レオンが重々しく頷いたその瞬間、私は冗談めかして言いました。  

「ところで、あなた。夜の密会ばかりしていると誤解されるわよ?」  
「……誤解していいですよ。僕は嬉しいですから」  

 一瞬、笑ってしまいました。  
 ほんのり頬が熱くて、ペンを持つ手が止まります。  

「……おだてても追加予算は出せませんよ」  
「やっぱり容赦ないですね」  

 彼が肩をすくめ、ふたりで微笑み合う。  
 こんな夜があるからこそ、戦う気力も湧くんです。  

---

 翌朝。  
 中庭では、侍女や市井の娘たちが小さな声で話し合っていました。  

「王妃様は本当は悪くないのよ。  
 だって勉強会を開いてくれたじゃない」  
「うちの弟なんか、字が読めるようになったの!」  

 その噂は庶民へと広がり、“クラリス派”なる言葉まで生まれました。  

 一方で、王宮の上層部はますます混乱しています。  
 “悪女”と罵れば罵るほど、民の人気は上がる。  
 ――負ける構図、見えてますよね。  

---

 やがて王宮会議で、国王は再び叫びました。  

「クラリス! お前のやり方は混乱を呼ぶ!」  
「いいえ、陛下。混乱を鎮めているだけですわ」  
「……何だと?」  
「“祈り”でなく“行動”を教えた結果、人々は考え始めました。  
 考える民ほど、王の支えになります」  

 国王の返答はなかった。  
 沈黙が闇のように広がり、そして彼はただ背を向けた。  

(あら、少し寂しそう……)  

 でも、情けをかけてはいけません。  
 情けをかけ続けた結果、この国はこのざまなのですから。  

---

 翌夜の政庁街では、民たちがローソクを掲げて“悪女王妃賛歌”を歌っていました。  
 “頭で恋する王妃様、バンザイ!”という妙なコールまで。  

「王妃様、これ……何の集会なんです?」とマルタ。  
「さあ? でも……嬉しいじゃない」  

 笑いながら窓を開け、夜風に当たりました。  
 蝋燭の光が星のようにきらめく。  
 その光景に胸の奥がじんと熱くなります。  

(悪女でいい。誤解されても、嫌われても。  
 この国に“考える女”が増えるなら、それでいい)  

 静かに目を閉じ、つぶやきました。  

「……ええ、私は悪女です。  
 でも、少しくらい世界を変えてもいいでしょう?」  

 風が頬をなでて通り抜ける。  
 それがまるで“この道を進め”と励ますように感じられました。   
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