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第8章 王妃の冷笑
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朝から城内がざわついていました。
使用人たちの話によれば、聖女リリアンヌ様が“姿を見せない”とか。
毎朝恒例の祈りパフォーマンスがなくなっただけでこの騒ぎ――本当に偶像って恐ろしいわ。
「王妃様、これは事件です!」
マルタが息を切らせて書簡を差し出しました。
「神殿からの告示です。あの……“神託の原本が紛失した”とか」
「神託、原本?」
「ええ、聖女様が降臨された証として王家が保管していた公式書簡だそうです」
私は紅茶を持ったまま肩をすくめました。
(やっぱりきたわね、暴露イベント)
この国の“神託制度”――王政を正当化するためのいわば宗教的証明書。
その中心を担っていた聖女が、神託の筆跡偽造を暴かれるとなれば……。
はい、信仰崩壊ENDまっしぐらです。
---
昼過ぎになると、さらにもうひとつの知らせが飛び込んできました。
「聖女様の奇跡、『日輪の祝福』が偽物だったとの告発が!」
「誰が暴いたの?」
「なんでも、神殿の若い神官様が内部資料を流出させたとか」
その神官の名に、私は目を細めました。
「ルーベン・クロウ……あの子、以前クラリス学院に見学に来ていたわね」
思わず、笑みがこぼれました。
「学びの力って、本当に恐ろしいわ」
---
王城会議室。
青ざめた王と王太子、泣きわめく側妃たち、責任を押し付け合う大臣たち。
そこに呼び出された私は、堂々と入室しました。
「王妃クラリス、説明しろ!」と王。
「陛下のご質問、具体的にどの件かしら。
“聖女の奇跡”か、“国庫の横領”か、“神殿の贈賄”か」
その一言で、空気が凍りつきました。
「王妃……貴様、すべて知っておったのか」
「いいえ、聞かれたのでお答えしただけですわ」
涼しい微笑――まさに悪女仕様です。
でもその笑みの下では、心が静かに燃えていました。
(この瞬間を、待っていたのよ)
---
その夜。
レオン団長が書庫で報告を持ってきました。
「王妃様、複数の貴族が資金を隠していた記録が出ました。
その中に……国王側近の名もあります」
「……そう。つまり陛下も“見て見ぬふり”をしていたのね」
二人の間に沈黙が流れました。
やがて私は、深く息を吐きます。
「世界が壊れる時って、意外と静かなのね」
「ですが、王妃様は冷静だ」
「冷静じゃなきゃ、泣いちゃいそうですもの」
微かに笑みを浮かべると、レオンが優しく言いました。
「泣く時は……僕が隣で支えます」
「ありがとう。でも、今は悪女の役目が先なの」
手を掲げ、机上の報告書に署名します。
“神殿改革提言書”――
神官階層の再編と、宗教権限を国政下に戻す計画書です。
「政教分離、悪女王妃バージョン……いい響きね」
レオンが吹き出しました。
「通常、その一言で部下は心臓ひやっとしますよ」
「笑ってくれる人がいるなら、幸いですわ」
---
夜明け。
王宮の鐘が鳴り響く頃、私は窓辺に立っていました。
そこでは市民たちが集まり、掲げられた旗に祈りを捧げています。
でもその旗に描かれているのは――もう聖女の顔ではありません。
赤い布に白い刺繍で描かれた“王妃の紋章”。
薔薇と羽ペンの印が、新しい信仰のように翻っていました。
マルタが息をのんで言います。
「……王妃様、これは……!」
「革命ではありません。教育の成果よ」
ふと笑いました。
窓の外、朝日に照らされる群衆の中で小さな少女が叫んでいます。
「クラリス王妃様、ばんざーい!」
それは幼い声だったけれど、涙が出そうなほど、響いたのです。
(ああ、そうね……)
(ようやく、報われたのかもしれない)
胸の奥で静かに呟きました。
使用人たちの話によれば、聖女リリアンヌ様が“姿を見せない”とか。
毎朝恒例の祈りパフォーマンスがなくなっただけでこの騒ぎ――本当に偶像って恐ろしいわ。
「王妃様、これは事件です!」
マルタが息を切らせて書簡を差し出しました。
「神殿からの告示です。あの……“神託の原本が紛失した”とか」
「神託、原本?」
「ええ、聖女様が降臨された証として王家が保管していた公式書簡だそうです」
私は紅茶を持ったまま肩をすくめました。
(やっぱりきたわね、暴露イベント)
この国の“神託制度”――王政を正当化するためのいわば宗教的証明書。
その中心を担っていた聖女が、神託の筆跡偽造を暴かれるとなれば……。
はい、信仰崩壊ENDまっしぐらです。
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昼過ぎになると、さらにもうひとつの知らせが飛び込んできました。
「聖女様の奇跡、『日輪の祝福』が偽物だったとの告発が!」
「誰が暴いたの?」
「なんでも、神殿の若い神官様が内部資料を流出させたとか」
その神官の名に、私は目を細めました。
「ルーベン・クロウ……あの子、以前クラリス学院に見学に来ていたわね」
思わず、笑みがこぼれました。
「学びの力って、本当に恐ろしいわ」
---
王城会議室。
青ざめた王と王太子、泣きわめく側妃たち、責任を押し付け合う大臣たち。
そこに呼び出された私は、堂々と入室しました。
「王妃クラリス、説明しろ!」と王。
「陛下のご質問、具体的にどの件かしら。
“聖女の奇跡”か、“国庫の横領”か、“神殿の贈賄”か」
その一言で、空気が凍りつきました。
「王妃……貴様、すべて知っておったのか」
「いいえ、聞かれたのでお答えしただけですわ」
涼しい微笑――まさに悪女仕様です。
でもその笑みの下では、心が静かに燃えていました。
(この瞬間を、待っていたのよ)
---
その夜。
レオン団長が書庫で報告を持ってきました。
「王妃様、複数の貴族が資金を隠していた記録が出ました。
その中に……国王側近の名もあります」
「……そう。つまり陛下も“見て見ぬふり”をしていたのね」
二人の間に沈黙が流れました。
やがて私は、深く息を吐きます。
「世界が壊れる時って、意外と静かなのね」
「ですが、王妃様は冷静だ」
「冷静じゃなきゃ、泣いちゃいそうですもの」
微かに笑みを浮かべると、レオンが優しく言いました。
「泣く時は……僕が隣で支えます」
「ありがとう。でも、今は悪女の役目が先なの」
手を掲げ、机上の報告書に署名します。
“神殿改革提言書”――
神官階層の再編と、宗教権限を国政下に戻す計画書です。
「政教分離、悪女王妃バージョン……いい響きね」
レオンが吹き出しました。
「通常、その一言で部下は心臓ひやっとしますよ」
「笑ってくれる人がいるなら、幸いですわ」
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夜明け。
王宮の鐘が鳴り響く頃、私は窓辺に立っていました。
そこでは市民たちが集まり、掲げられた旗に祈りを捧げています。
でもその旗に描かれているのは――もう聖女の顔ではありません。
赤い布に白い刺繍で描かれた“王妃の紋章”。
薔薇と羽ペンの印が、新しい信仰のように翻っていました。
マルタが息をのんで言います。
「……王妃様、これは……!」
「革命ではありません。教育の成果よ」
ふと笑いました。
窓の外、朝日に照らされる群衆の中で小さな少女が叫んでいます。
「クラリス王妃様、ばんざーい!」
それは幼い声だったけれど、涙が出そうなほど、響いたのです。
(ああ、そうね……)
(ようやく、報われたのかもしれない)
胸の奥で静かに呟きました。
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