[完結]ゆり子と不思議なコピー機

8

｢お父さん、高校を卒業して電気メーカーの工場で働いてたの。立派なエンジニアだったのよ。でも、不況でリストラ｣
｢へえー。たいへんだったんだね｣
｢うん。だけど、コピー機の開発ばかりしてたせいでね。就職口もなくて、今の店を始めたの。仕事の合間に、コピー機の設計も続けてた｣
｢そうだったのね｣
｢わたし、お父さんが大好きよ。今回のコピー機だって、工場で一緒だった友達とつくったの｣
｢素敵ね。もしも、ボールペンじゃなくて。にんげんがコピーできたらな｣

　サエコはため息まじりに言った。

｢キライででめんどうなことは、ぜんぶコピーにんげんにやらせればいいんだもの｣
｢まさか。できっこないよ｣　

　とっさに言うと、サエコもクスクス笑い出した。
　
｢だよね。ありえないよね。じゃあ、明日学校でね｣

　サエコの家は、大きなガレージの上にある。そのわきにある階段を上がっていく。大きな二階建ての家と、その隣に小さなプレハブ小屋が見えた。
　暗い路地を歩きながら、ゆり子はサエコがかわいそうになってきた。そして、自分までそうなるのかと思うと、ゾッとした。
　サエコの言う通りに、ためしにコピーにんげんをつくってみたらどうだろう。でも、にんげんは物じゃないから、ムリにきまっている。だけど、ためしてみなきゃ、始まらないし。よーし、みんなが寝静まったら、店にしのびこもう。