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 やがて目の前まで来ると、彼はセーリーヌの手を取った。

 そして、優しく握りしめると真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

「ありがとう……嬉しいよ」

 彼の口から発せられた言葉に胸がキュンとなるのを感じた──。

 そして、自然と涙が溢れてくる……。

 自分でも何故泣いているのかわからないのだが、止めることができなかった。

 そんな様子を見て心配したのだろう──。

 アドニス侯爵は心配そうな表情で問いかけてくる。

「大丈夫か? どこか具合が悪いのか?」

 そう言いながらも、ハンカチを取り出して涙を拭ってくれた。

 その優しさが心に染み渡るような気がした。

 この人は本当に素晴らしい人だ……。

「いいえ、大丈夫ですわ……ただ──」

 セーリーヌはそこで言葉を区切ると、思い切って言ってみた──。

「ただ、アドニス様に愛されたいと思っているだけ……」

 その言葉に彼は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべると抱きしめてくれた。

 暖かく心地好い感触に包まれる──そして、耳元で囁く声が聞こえた。

「ありがとう……私も君のことが好きだ」

 それを聞いた瞬間、何とも言えない幸せな気分になった──。

 幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。

 自然と涙が溢れてくる……アドニス侯爵はそんなセーリーヌを優しく慰めてくれた。

 その優しさに触れる度に彼女の心はますます彼に惹かれていったのである……。

(この方と一緒なら何があっても乗り越えられるわ……)

「政務で忙しくなって、きみに寂しい想いをさせた……許してくれよ」

 アドニス侯爵が謝ってくるが、セーリーヌは首を横に振った。

「いいえ……王都から実家からも離れて……二人きりで、ずっと一緒にいられるし……」

「ああ、もちろんだとも……。気兼ねなく愛せるな」

 その言葉には強い決意が感じられた──。

 アドニス侯爵は本気でこの城に留まり、セーリーヌと共に生きていくつもりなのだわ。

 彼の覚悟を感じ取り、嬉しさのあまり胸が熱くなる思いだった。

 彼はセーリーヌの首筋に口づけをしてきた。

 突然のことに驚きつつも受け入れていると、そのまま唇を重ねてくる──。

 今度は舌を絡めてきたので、彼女もそれに応えるように自分の舌を差し出した。

 しばらくの間、お互いに貪るような口づけを交わし続けた後で、ようやく解放された時にはすっかり息が上がっていた……。

「ああっ……」

 思わず切なげな声を上げてしまったことに恥ずかしくなっていると、アドニス侯爵は再び顔を近づけてきた。

 そして、耳元で囁くように言う。

「愛しているよ……セーリーヌ」
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