【完結】透明令嬢だったけれど、素敵な愛を知ることができました。

(5)迷い

アリシアは、レオネルと一緒に過ごす時間が増えるにつれて、自分の心の中で何かが変わっていくのを感じていた。

彼と話しているときは楽しいし、庭園で花を眺めたり、午後のお茶を一緒にしたりする時間はかけがえのないものになりつつあった。

だが、それでもアリシアの胸には、小さな疑問がずっと引っかかっていた。  

「レオネル…あの、ちょっと聞いてもいいですか？」  

ある日の夕暮れ時、ふとした勇気が湧き、彼女は声を絞り出した。

レオネルは、彼女の言葉に興味を引かれたように顔を上げる。  

「もちろん。何でも聞いて。」  

アリシアは少しだけ唇を噛みしめ、思い切って尋ねた。  

「あなた、私のこと…気になりますか？」  

その瞬間、自分で言った言葉に驚いて、アリシアの顔は真っ赤になった。

何という直球の質問だろう！ 

けれど、もう言ってしまったものは仕方がない。  

レオネルはそんな彼女をじっと見つめた後、思わず吹き出すように笑い出した。

「それを今聞くの！？」  

「だって…」

アリシアはうつむき、手元のカップをじっと見つめた。

「あなたみたいに完璧な人が、私を相手におしゃべりしてくれる理由が分からなくて…」  

「ほう、完璧？」

レオネルは驚いたように大げさに目を丸くする。

「君は目が悪いのかもしれないな。俺が完璧なんて、どこをどう見てそう思うの？」  

「だって、あなたは優しいし、素敵だし…」

アリシアはモジモジしながら言葉を紡ぐ。  

「いやいや、僕は不器用な男さ。」

レオネルは肩をすくめ、冗談めかして言った。

「特に君の前では、ぎこちなくなりすぎてどうしようもないくらいだ。」  

「不器用…？」

アリシアは思わず顔を上げる。

その意外な自己評価に、つい笑いがこぼれた。

「私には十分器用に見えますけど？」  

「本当に？ いや、君の前に立つと、心臓がバクバクして何を言っているのか分からなくなるんだ。ああ、今だって、ちゃんと話せている自信がないよ。」  

アリシアは思わず笑い出した。

「バクバクしているなんて、まるで少年みたいですね。」  

「それがどうした？」

レオネルは軽い口調で返す。

「少年のように心が高鳴るほど、君は魅力的だってことだ。」  

その言葉に、アリシアの胸がドキッと跳ねる。

彼の言葉は冗談のように聞こえるが、どこか本気の響きがあった。  

「そんな…」  

「おや、照れてるのか？」

レオネルは彼女の顔をじっと見て、いたずらっぽく微笑んだ。

「君のその顔を見ていると、僕までおかしくなりそうだ。」  

「やめてください！」

アリシアは顔を覆い隠し、声を上げる。  

「なんで？ 君が照れる顔もまた可愛いじゃないか。」  

その言葉に、アリシアは思わず肩を震わせて笑った。

「あなた、本当に困った人ですね。」  

「困った人でもいいさ。」

レオネルは冗談めかして肩をすくめた。

「でも、僕は君を笑わせるのが好きだ。それだけは確かだよ。」  

アリシアは彼の目をじっと見つめた。

その瞳には嘘のない輝きがあり、彼女の心を静かに暖めていく。  

「笑わせるのが好き、なんて…それで私がいつも笑ってしまうのを知っているんですね。」  

「もちろんだとも。」

レオネルは満足げに頷く。

「君が笑うと、まるで世界が明るくなる気がする。だから、僕はもっと君を笑顔にさせたいんだ。」  

その言葉を聞いた瞬間、アリシアの胸の奥がじんわりと温かくなった。

レオネルの声は穏やかで、彼の微笑みはどこか安心感を与えてくれる。

それはアリシアにとって、これまで感じたことのない特別な感覚だった。  

彼の言葉に、本当に彼が彼女を好きなのかどうかを尋ねる必要すらないと、アリシアは気づいた。

彼が彼女のそばにいてくれること自体が、その答えなのだから。